ご近所さん現パロ設定
ぐだ男:本名は「リツ」、高校三年生で塾通い。のほほんとした純情少年で三兄弟からかわいがられている。
両親は法律事務所で多忙な日々を送り、泊まり込みで仕事をすることもよくある。
ランサー:20歳の大学生。リツとは兄貴分のような同級生のような気の置けない関係。
オルタ:22歳の大学生。本編のオルタから狂化を取って静かになった。たいていフードを被っているガタイのいいお兄さん。
キャスター:23歳の大学生。長男ともあり大人びて落ち着いている、兄弟のいさめ役。
エミヤ:リツとオルタがよく行く喫茶店のマスター、最も常識人。
最初はまんべんなく接していきますが、後半はルート分岐でそれぞれと密接になる話になります。
クー・フーリン三兄弟のご近所さん1
今日も爽やかで清々しい朝、高校生のリツは学校へ行く前に、必ず通りかかる家がある。
まだ早い時間帯だけれど、そこの住民はちょうどこの時間に出てくるのだ。
「おはよーさん!坊主、今日も早えな」
「おはよう、ランサー。朝から元気だね」
ご近所さんの三兄弟の、一番下。
ランサーはいつも元気で明るくて、太陽みたいな相手だ。
「なあ、帰りにゲーセン行かね?新しいヤツ出たみてえなんだよ」
ランサーはリツと肩を組み、ぐっと距離を詰めて誘う。
やけに距離が近いけれど、ランサーはこういうノリなのだ。
「うーん、行きたいのはやまやまなんだけど、今日は塾があって・・・」
「えー、一回くらいサボっちまえよ」
真面目とは言えないけれど、悪気なく誘われると首を縦に振りたくなってしまう。
「おいコラ、ランサーお前試験前だろうが」
「ゲッ、キャスター・・・」
何をしているのかと、家からもう一人の兄弟が出てくる。
三兄弟の長男で、一番落ち着いていて常識人。
年は他のクー・フーリンとそんなに変わらないのに大人びて見えて、お調子者のランサーの抑止力でもあった。
「い、息抜きだよ息抜き、坊主も塾ばっかで気が滅入っちまうかと・・・」
「お前前回の試験何点だった?留年なんざ許されると思うなよ」
「わ、わかったよ・・・」
諦めたようで、ランサーはしぶしぶ腕を解く。
「悪ぃな、うちのバカが」
「いえ、誘ってくれるのは嬉しいです。ランサーと居ると楽しいし」
ランサーは、ぱっと顔を明るくしたが
「でも、お互いテスト終わってからね」
真面目なことを言われてしまい、ため息をついた。
こんな感じで、朝から賑やかに一日が始まる。
引っ越してきたばかりのときは、クラスメイトやご近所とうまくやっていけるか不安だったけれど
気のいい人達がいて、年は違えども一緒に遊びに行く仲にもなっていた。
もう一人、真ん中に兄弟がいるけれど、夜型なのか朝に出てきたことはない。
たまに、帰宅時に家を出て行くのを見かけたことはあっても、声をかけるには至らなかった。
他の二人とはまた雰囲気が違うような感じがして、機会があれば話してみたいとも思っていた。
テスト前ともあり、塾の時間が長くなる。
帰る頃にはとっくに日が暮れていて、いつもと同じ大通りを通って帰ろうとした。
けれど、早く帰って寝たくなって、近道を通ったのが悪かった。
薄暗い裏道には不穏な影があって、はっとして引き返そうとしたときには壁に肩を押さえつけられていた。
「なぁ、金貸してくれよ」
「利息つけて返すからよー」
完全になめられているようで、へらへらと大の男二人が言う。
金を渡して満足するんなら、暴力沙汰になるよりいい。
「・・・わかりました」
素直に、鞄から財布を取り出そうとする。
そのとき、もう一人、不穏な気配を漂わせる人がやって来た。
「テメェら、何してやがる」
「あ?邪魔すんじゃ・・・」
男は、相手を見てぎょっと目を見開き言葉を止める。
黒いフードに見を包んだ大柄の相手は、闇夜に紛れるアサシンのような、はたまたヤのつく職業の人のような
とにかく威圧感があって只者ではない雰囲気があって、男達は瞬時に察したようだった。
もっとヤバイ人が来たのかと、リツも固唾を飲む。
「い、いやー、ちょっと同級生にヤボ用で・・・」
相手が言葉を言いかけると、ぎろりと睨みをきかせる。
「ヒェッ・・・」
本物の眼圧に、男達は身をすくませて急ぎ足で去って行った。
取り残されたリツは、こわごわと男性を見上げる。
暗がりに目が慣れてきたようで、顔がわかってきた。
「・・・オルタさん?」
その顔は、他の兄弟とうり二つ。
だが、目の下のタトゥーで次男だとすぐにわかる。
「裏道なんぞ通んじゃねえ、さっさと帰れ」
オルタは背を向け、そのまま去ろうとする。
けれど、帰り道が同じなので隣へ着いていた。
「あ、ありがとうございます、助かりました」
「相手が勝手に逃げただけだ」
こんな夜道で、ドスのきいた声で、上から睨まれ、すくみ上らない相手はそうそういないだろう。
それでも、無視せず結果的に助けてくれて、畏怖ではなく感謝の念を抱いていた。
あまり会話という会話が思いつかず、沈黙のまま進む。
近道ということもあり、あっという間に近所に出てしまった。
滅多に出会えないからか、今の一瞬で頼りがいのある相手だと認識したのか、家に着いてしまうことが惜しくなる。
何か話したいのだけれど、いかんせん話題がなくて沈黙していた。
まごまごしている内に、クーフーリン家に着いてしまう。
誰か来たとわかったのか、玄関からランサーが出て来る。
「オルタ!お前またこんな遅くまで・・・って、坊主もか?」
「あ、あの、カツアゲされそうになったところを助けてもらったんだ」
オルタが露骨に鬱陶しそうな表情をしたので、リツは慌てて取り繕う。
「塾の帰りに近道しようと思ったら、変な人達に絡まれちゃって・・・」
「あー、まあ、コイツはそういうとこでは活用できるな」
二人の会話をよそに、オルタはランサーを無視して家に戻ろうとする。
「オイ、待てよ!お前だって試験期間中なのは同じなのに、フラフラ出歩きやがって」
「俺がどこ行こうが勝手だろうが」
「これだから朝起きれなくて大学も休んでんだろ、日数足りてなかったら留年だかんな!」
「うるせぇ、赤点まっしぐらの脳足りんが」
言い争いを止める力はなく、リツはおろおろするしかない。
そんなとき、助け舟のようにキャスターがつかつかと歩いて来る。
「てめぇら煩え!何時だと思ってやがんだ、さっさと寝ろ!」
二人は睨み合っていたが、舌打ちして引き下がる。
さすが長男と言うべきか、キャスターの言うことは聞くようだ。
「巻き込んで悪いな。ま、いつものことだ」
「いえ・・・あ、あの、オルタさんが遅くなったのはオレのこと助けてくれたからで」
「ああ、途中から聞いてた。アイツは夜型で見た目は強面だけど、進んでサツの世話になるようなことはしねえからな」
わかってくれていて、リツはほっとする。
確かに、次男は強面で三男とは相反するような存在感があるけれど、本質は悪ではないとそう思いたかった。
「お前も、危ない道を通るのは控えろよ?」
キャスターは、リツの頭をくしゃくしゃと撫でる。
子供扱いされているようだけれど、兄の風格があるからだろうか、嫌な気はしていなかった。
「そうします。じゃあ、お休みなさい」
リツは軽く会釈して、帰路に着く。
その背を、キャスターはしばらく見守っていた。