ハッピーツリーフレンズ(後編)


翌日の早朝
フリッピーは物音をたてないよう荷造りをしていた

幸い、覚醒は自分より起きるのが遅い
逃げるのなら、今しかない
フリッピーは手際よく荷物を詰め、足音を潜めて部屋を出る
続いて、覚醒が眠っているリビングを、息をひそめて通り抜ける
そして、決して音をたてないよう、慎重に玄関の扉を開けて外に出た



静かな早朝の空は、とても清々しかった
これで、恐怖から逃れられる
家に残された覚醒は、好き放題暴れるかもしれない
けれど、申し訳なくも今は自分の身を守ることで精一杯だった

そんな後ろめたい気持ちがある一方で、気分は晴れやかなものになっている
一瞬、丁寧に巻かれた包帯と、額に触れられたときのことを思い出したけれど
フリッピーはそれを消すように頭を振った
もう、覚醒のことを気にするのはやめよう
覚醒と自分は、もはや別のものなのだから



フリッピーは意気揚々と、街への道を歩いてゆく
開放感で気分がよくなる

だから、気付けなかった
自分の背後に、車が迫ってきていることなんて


何か音が迫ってきていることに気付き、振り返ったときはもう遅かった
目の前に、大型車が迫り
一瞬で、世界が回った




走り去る車の音
撥ねられたと、そう思った
けれど、妙なことに痛みを感じない

その代わりに感じたのは、誰かの温もり
目を開くと、自分が支えられているのがわかった
残酷なはずの、あの相手に

「あ・・・」
フリッピーは、唖然として覚醒を見上げる
また、助けられた
相手は、慈悲のかけらなんて持っていないはずなのに

「ほらな。俺がいなけりゃ、お前は死んでた。
お前の中で、俺はそういう存在なんだよ」
覚醒は、フリッピーを腕の中におさめたまま言う

危険を感知する力
分離したことで、フリッピーからはそれがなくなってしまっていた


「さて・・・と、せっかく街の近くまで来たんだ。何人か切り刻んで・・・」
そう言いかけたところで、フリッピーは勢いよく覚醒の肩を掴んだ

「やめてくれ!頼む、頼むから・・・殺戮だけは・・・・・・」
フリッピーは、必死に懇願する

望みなんてないかもしれない
それでも、懇願せずにはいられなかった
覚醒を街へ行かせないためなら、どんなことでもする
フリッピーは、そんな覚悟で告げていた

「・・・そうだな、お前の態度次第で、やめてやってもいい」
「ほ、本当に?」
まさか、聞き入れられるとは思わず、フリッピーは目を丸くする
覚醒はにやりと笑い、抱き留めている相手の腕を引いて立ち上がらせる
そして、そのまま、家への帰路を辿って行った






家に着くなり、覚醒はフリッピーを寝室へ連れ込む
ベッドの前へ来ると、腕を強く引っ張り、すぐに押し倒した

「俺の殺戮衝動を止めたいなら、代わりの欲求を満たしてみな。お前の身を持って・・・」
「ひ・・・っ」
身を切り刻まれるかと思い、フリッピーの表情がひきつる
覚醒はそれを見て、高揚した笑みを浮かべる

「なあに、今度は痛くて苦しいだけのことじゃない。
まあ、それでもせいぜい怯えてな。その方が、興奮する」
嘲笑と共にそう言い放ち、覚醒はフリッピーに体を重ねる
顎に手をかけ、顔を逸らせないようにする
そして、目を細めてフリッピーを見詰めた後、呼気を吹きこんだときのように唇を重ねた

「っ・・・」
覚醒の顔が間近に迫り、フリッピーは強く目を閉じる
今度は、唇は閉じていた
けれど、そこは覚醒の舌によってすぐにこじ開けられた

柔らかい感触のものが、口内に入ってくる
それは一時も躊躇うことなく動き、フリッピーを蹂躙していった

「ん、うぅ・・・っ」
お互いが絡まり、液が混じる
口を開き、酸素を欲しようとしても、それは許されない
空間を開けてしまえば、それだけ覚醒は自由に動き
さらに激しく相手の口内を犯し、交じり合う
執拗に絡みついてくる相手に、フリッピーは自分に熱が上るのを感じていた
唇が離れると、覚醒は早々に下肢に手をやる


「か、覚醒、一体、どこまでする気・・・」
「どこまでだと?そんなもの、俺が満足するまでに決まってるだろ」
会話の合間に、ベルトが取られる
覚醒はとても手早くて、フリッピーが抵抗する間もなく衣服も下ろされていた

「ひっ・・・」
瞬く間に下肢が露わにされ、緊張と恐怖がよみがえる
けれど、すぐにその二つは掻き消されてしまうことになった
覚醒の手が、体の最も敏感な個所に触れたことで

「ひぁっ・・・!」
とたんに、フリッピーは高い声を上げる
痛みから発されるものではない
そんな、熱っぽい声が発される

覚醒はその反応にますます高揚したのか、にやりと笑った
最初は、緩やかな手つきでそこを愛撫してゆく

「あ、ぁ・・・ぅ」
珍しく優しい愛撫に、フリッピーは戸惑いつつも熱を感じる
下肢に熱いものが集まり、だんだんと自身が変化してゆく
そこまで来ると、手の動きは早いものになっていった

「や、っ・・・あぁっ」
荒々しく自身を刺激され、声が上ずったものになる
もう、その箇所には熱が上りきっていて
溢れてきた液が、覚醒の手を濡らした


「言っただろ?痛いことだけじゃないって」
諭すように、語りかける
フリッピーは荒い息のさなか、頷いた

「・・・痛くなるのは、これからだけどな」
「えっ・・・」
フリッピーが何かを言う前に、覚醒は熱を帯びたものを離し、さらに下の方へと手をやる
そして、窪まった箇所へ辿り着くと、濡れたままの指を、そこへ埋めて行った

「あっ・・・!ぁ・・・っ」
思ってもいなかった箇所に刺激を受け、声を抑える暇なんてなかった
液を絡ませた指先は奥へと差し入れられ、その中で動かされる
少しでも早く解すように、一時も休まることなく

「かなり固いな。こういうことしたことないのか?・・・って、聞くまでもないか」
自分のことは、自分が一番良くわかっている
今、触れている箇所は、誰かを受け入れたことなんてない
次に味わう痛みは壮絶なものになるだろうと、覚醒はわかっていた

だからこそ、高揚した
痛みと快楽が混じり、耐えられなくなるような感覚が身を襲ったとき
目の前の相手は、一体どんな顔をして喘ぐのだろうか
それを早く見たくて仕方がなくて、覚醒は慣らすのもほどほどに指を引き抜いた


「は・・・っ、は、ぁ・・・」
指が抜かれた今でもその感触が残っているのか、フリッピーは肩で息をしている
覚醒は、自分のベルトも外し、待ち望んだ行為に及ぼうとする
それを止める術がないのは明らかだった
そして、覚醒は高揚している自身のものをフリッピーにあてがい、押し進めた

「いっ・・・!う、うぅっ、痛・・・!」
信じられないほどの圧迫感
さらに、身を割かれるような痛みが、下肢に走る
フリッピーは顔を歪ませたが、それはまだ、先端をわずかに埋めているにすぎない

それでも、これほどの痛みを伴っているのに
この先、そんなものが入ってきてしまったら、自分はどうなってしまうのだろう
フリッピーは強い恐怖に襲われ、それを拒むように全身を強張らせた

覚醒は思うように行為が進まず、もどかしさを感じていた
やはり、もっと解しておけばよかったと思ったが、今更そうするのは時間がかかる
そこで、覚醒は一旦身を引き、怯えるフリッピーに顔を近付けた

「ひっ・・・」
目と鼻の先まで近付いてきた覚醒に、フリッピーはさらに怯える

けれど、次の瞬間に感じたのは痛みではなく
静かに重ねられた唇の、柔らかな感触だった

それは、己をぶつけるような、荒々しいものではなくて
相手と重なり合うことを望み、純粋に欲しているような
優しげで、温かいものだった


「んっ・・・」
さっき感じた痛みとの落差に驚いたけれど
それだけ、その口付けは優しく感じられて
強張っていた体から、徐々に力が抜けて行った

フリッピーの体が弛緩した、そのとき
覚醒は口付けたまま、さきほどの窪まりへ、自信を埋めていった

「―――っ!」
声にならない声が、喉の奥で行き場をなくす

再び、全身が強張る
けれど、口付けのせいでわずかに弛緩しているのか、下肢は覚醒のものを受け入れ始めていた


自身の先が入ったところで、覚醒は唇を離す
フリッピーは、とたんに熱い息を吐く
もう、引き抜くことはしない
覚醒は、熱く狭いその中へ、じわりじわりと自身の熱を埋めて行った

「あ、あぁ・・・っ!」
蘇って来た痛みに、声が抑えきれない
その声は痛みのせいで発せられているものかと思ったが、少し違った
そこに含まれているのは、痛みともう一つ、強い悦楽の感情だった
覚醒はそんな声を聞き、高揚を抑えきれないように口端を上げた

「いい声出すもんだな?・・・もっと喘げ、そして聞かせろ。俺を、満足させるために・・・」
囁きながらも、覚醒は己を進め、強張る箇所を押し広げてゆく
最初は、断固として覚醒を阻んでいたが
奥まで犯されつつあるその箇所は、だんだんと解されてゆき
とうとう、フリッピーは覚醒の全てを受け入れていた

「ああっ・・・!ん、うぅ・・・っ!」
最奥まで、覚醒の熱が伝わる
もはや、そこに痛みはほとんど感じていなかった
今、感じているものは、それよりも強い感覚
溺れてしまいそうな悦楽が痛みを麻痺させ、全身を火照らせていた


「あぁ、熱い・・・そうだ、血を被ったときに似てる。
お前の熱が、俺の欲望を昇華させるんだ。ほら、もっと顔を歪ませてみな・・・」
熱を帯びた息、上ずった声、快楽に反応する表情
その全てが狂気を満たし、殺戮願望の代わりとなる

覚醒は、己を満たすべく、わずかに身を引く
そして、熱いその中で自身を動かし、掻き乱した

「や・・・っ、あぁっ!ひ、あ、あぁ・・・!」
襲ってくる感覚に耐えきれず、フリッピーは強く目を閉じる
自分の中でそれが少し動くだけで、声を抑えきれなくなるのに
まるで、欲望をぶつけるように中を乱され、抑制することなんて忘れてしまう
どんなに高い声が出ても、表情を乱しても、そんな羞恥になど構っていられなくなる
ただ、覚醒の欲を感じ、望み通りに反応を示すしかなかった


血か、それとも別の液体か
ぬるぬるとしたものが中に溢れ、覚醒の動きはいっそう流暢なものになり、さらにフリッピーを攻め立て
る 身を引いたかと思えば、すぐに深くまで自身を埋めてゆく
そして、何度も、何度も、最奥まで進め、限界に達するよう煽る

そんな激しい欲に突き動かされ、覚醒の思惑通り、とうとう限界に達したのは
自分の最奥が犯され、熱が急激に上って来た瞬間だった


「は、あっ、あ、あ・・・!っ、ぁ、ああぁっ!」
これ以上にない、強い衝撃が全身を襲う
白濁が散り、そして、自分が覚醒を締め付けるのがわかる

「っ・・・!」
中にある身の全てを圧迫され、覚醒は初めて呻きを漏らす

一回では収まらず、数回にわたる収縮
強まった欲望を、抑えきれなくなる
覚醒は、最奥に自身を留めたまま、その中へと発した
呼気を吹き入れたときと同じく、自分の一部を相手へ注ぐように

「んん、うぅ・・・っ」
自分の中に覚醒が流れ込んできたのを感じ、思わず身震いする
その熱は、お互いを完全に満たしていった






気が落ち着いた頃、フリッピーは倦怠感を覚えていた
自分の中にはまだ、覚醒を感じている
けれど、それを抜こうと体をよじることができない
もはや、目を開けることさえ億劫だった

「フリッピー」

初めて覚醒から名前を呼ばれ、フリッピーは薄らと目を開ける

そうしたとたん、そっと、唇を塞がれた
気付けば、目の前にある覚醒の目からは、狂気が消えていた

優しい重なり合いに、フリッピーは自然と目を閉じる
そして、その意識は、覚醒の温度を感じたまま消えていった






体が冷え、目が覚める
どこへ行ったのか、覚醒はベッドからいなくなっていた
服は元通りになっており、少しも乱れていない
あれは夢だったのだろうかと、そう思うくらいだった

だが、だるさが残る体を起した瞬間
腰と、下肢のとある箇所に鈍い痛みが走った


「っ・・・」
痛みから、とたんにあの出来事を思い出す
それだけで、顔がかっと熱くなった

フリッピーは、痛む腰元を抑え、ベッドから下りて部屋を出る
そのとき、リビングの方からいい匂いが漂ってきた
その匂いにつられて、リビングへ向かう
すると、テーブルの上に食事が並んでいるのが見えた

もしかして、覚醒が作ったのだろうか
その覚醒はというと、ソファーで横になって眠っていた
だとすれば、この料理は、自分のために作られたのだろうか

その意図を確かめようと、膝をついて覚醒の顔を覗き込む
けれど、起こすと不機嫌になるかもしれないと、声をかけることはできなかった

そこで立ち上がり、料理を食べてしまってもよかったが
フリッピーは、じっと覚醒を見ていた
そして、ふいに手を伸ばし、起こさないようそっと、覚醒の頬に触れた


温かい、自分の体温
覚醒は、この温度を求めていた
その証拠に、行為の後、覚醒から狂気は消えていた
血が好きなのも、その温かなものを求めていたのだ

狂気は、打ち消すことができる
自分の温度と、一体になることで

共存できるかもしれない
先の行為は、辛くないものではなかったけれど
そこに感じたのは、痛みだけではなかったから
フリッピーは、覚醒の穏やかな寝顔を見て、そう思った




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ピクシブで、軍人と覚醒のすばらしい擬人化を見て
衝動的にはまっちゃって書きあげた品です
前編、後編に初めてのチューから初めてのアーッ!まで詰め込んでみました
ヤンデレって、こんな感じでしょうか?
デレデレ優しくもなく、鬼畜すぎることもない感じをイメージしてみました
とにもかくにも、久々に書いたアーッ!のシーンに苦戦しすぎて完全燃焼