KOBAN1


非番の日、武田と仙波は今日も食堂で向かい合って食事をしていた。
ハマチョー交番の凸凹コンビは、こうして見ると仲が良さそうに見える。
食事の最中、仙波は武田の服をじっと見ていた。

「何だ仙波、お前もこの服が欲しいのか」
武田は、自慢するように服の中央にでかでかと描かれているDYNAMITE MELONを見せる。

「違いますよ!・・・先輩、服買いに行きましょう!。
この前も、その前もそのメロン着てたじゃないですか」
武田の私服は、正直に言うととてもダサかった。
よく言えばシンプルイズベスト、悪く言えばとてもダサい。

「それの何が問題なんだ、お前と違って毎回洗濯しているぞ」
ファッションセンスが皆無な武田は、不思議そうに問いかける。

「そういう問題じゃないんですってば、それだから独身寮から出られな・・・」
言いかけたとたん、武田の眼鏡の奥から鋭い眼差しが光り、仙波はとっさに口をつぐんだ。


「そ、その服、もう襟足が黄ばんでるじゃないですか、買い換える良い機会だと思うんです」
「ふむ・・・確かに、もう古くなってきているな」
珍しく最もなことを言われ、武田は黄ばんでよれよれになった襟足を見る。

「先輩、かっこいい服着れば絶対見違えますって!食べ終わったら行きませんか?」
「・・・そうだな、たまにはいいだろう」
純粋な褒め言葉に、武田は少し気分を良くしたようだ。
「じゃあ、俺準備してきますんで、また後で」
仙波は食器を戻し、一旦自室へ戻った。




その後、仙波は寮の出口で武田を待っていた。
仕事では何もかも世話をかけっぱなしでも、ファッションに関しては確実に自分の方がセンスはある。
武田の役にたてるかもしれないと思うと、仙波はわくわくしていた。

「待たせたな」
「あ、いえ、俺も今来まし・・・」

武田の姿を見たとたん、仙波は思わず言葉を失っていた。
DYNAMITE MELONは寝巻だと言っていたので、流石にそれは着ていなかったが。
その代わりに、中央にはまだでかでかとヒーポ君が描かれていた。

「服屋へ行くというからとっておきのやつを着てきたのだが、どうやら言葉も出んらしいな」
武田は、自分のセンスのよさに見惚れているのだろうと鼻高々だったが。
仙波が思っていることは、真逆だった。
頭脳明晰、スポーツ万能で容姿も悪くない武田が独身寮から出られない理由が、はっきりと明確になった瞬間だった。

「・・・さ、さー行きましょう!サイズも種類も豊富に揃ってる行きつけの店があるんですよ!」
仙波はHI~PO!から視線を逸らし、何も見なかったかのように振る舞った。




仙波が行きつけの服屋は、種類が豊富なだけでなく値段もお手軽な人気店だった。
一般的な店のはずなのだが、武田は服の多さに圧倒されているようだった。

「この中から選ぶのか・・・!?」
「そうですよー。あ、でも半分はレディースですし、俺も先輩に似合いそうな服探すの手伝いますから!」
意気揚々に言うと、仙波は早速キッズコーナーへ足を進めようとする。

「おい、貴様・・・非番だからと言って、無礼講を許すほど俺は甘くはないからな・・・」
背後からただならぬ殺気を感じ、仙波はとっさにUターンする。
「や、やだなぁ、冗談ですってば。ほ、ほら、ここがメンズコーナーですよ」
仙波は慌てて青年向けの服を探す。
武田も近場の服を手に取り、柄やサイズをチェックしていた。


「む、これはいいのではないか」
「え、どれです?」
手にした服を仙波に見せる。
その服の中央には、でかでかとDYNAMITE BANANAと書かれていた。

「さっき着てたやつがバナナになっただけじゃないですか!」
「ふん、貴様はシンプルイズベストという言葉を知らんのか」
武田は本気で気に入っているのか、得意げに言った。

「部屋着はそういうやつでもいいと思いますけど・・・。
外出するときはせめて違う雰囲気のやつ着てみませんか?」
「ふむ、違う雰囲気か」
武田はDYNAMITE BANANAを一旦戻し、再び服を探す。
仙波はほっとし、武田に似合う服はないかと探す。


「おい、仙波、お前の行きつけの服屋はこんな不良品を売っているのか」
「え、そんなもんありました?」
武田が持っていたのは、穴の空いたダメージジーンズだった。

「全く、こんなぼろぼろになったズボンを何着も売っているとは、けしからん店だ」
いたって真面目な表情で言われ、仙波は憐みの視線を投げかけていた。

「先輩・・・それ、不良品じゃないです、立派なファッションです」
「何!?こんなものでは、暴漢に襲われたときに防護できんだろう。。
どこかに引っ掛ける危険性もある」
「それを言われれば、そうなんですけど・・・そ、それなら、このズボンはどうですか?」
仙波は近くにあったズボンをとっさに差し出す。

「何だこれは、何故やたらとチャックがついているんだ」
「それもファッションなんです!とにかく一度試着してみて下さい!」
武田は、ズボンに無意味なジッパーがついていることが不思議でたまらない様子だったが、仙波の勢いに押されて試着室へ入った。


その間に、仙波はズボンに合わせる服を探していた。
サイズ重視で探していたので、ベストな組み合わせというものは見つからなかったが。
少なくとも、HI~PO!よりは格好良い服を手にして、試着室の扉を叩いた。

「先輩、どうですかー」
声をかけると、ゆっくりと扉が開く。
武田はジッパー付きのスボンに着替えていたが、その表情は冴えなかった。

「あれ、気に入りませんでしたか?」
ぱっと見た感じ、似合っていないことはない。
だが、視線を下に向けたとき、はっと気がついた。
仙波の様子を察知し、武田は勢いよく扉を閉めた。

「せ、先輩、裾直しなんて当たり前ですから!この店は無料でやってくれますから!」
「うるさい、大きな声で言うな・・・!」
どうやら、思った以上にズボンの丈が余ったことにショックを隠せないようだった。

「あ、あの、そのズボンに合いそうな服見つけたんです、折角ここまで来たんですし、着てみて下さい!」
少の間の後、わずかに扉が開く。
その隙間へ服を差し出すと、一瞬で試着室の中へ引き込まれていった。
仙波はハラハラしつつ、直立不動で再び扉が開くのを待つ。


「・・・いいか、視線を下に向けるんじゃないぞ」
「ハ、ハイッ!」
威圧感たっぷりの声と共に、扉が開く。
そこにいた武田は、見違えていた。
余計な物は描かれていないシンプルな黒いTシャツに、深緑色のアウター。
MELONの印象が強すぎたからか、シンプルな服装でも随分と違って見えた。

「せ・・・先輩かっこいいです!ヒーポ君より断然アリです!。
これなら合コン行ってもうけること間違いなしですって!」
自分の選んだ服が思いのほか似合っていたことが嬉しいのか、仙波のテンションは上がっていた。

「ふ、ふん、本音は胸にしまっておけと前にも言っただろう」
そうは言いつつ、武田はまんざらでもなさそうだ。
「だってほんとに見違えましたもん、次の非番はそれ着てくださいね!」
「まあ、ヒーポ君の洗濯中にでも使ってやろう」
仙波の言葉が恥ずかしいのか、武田は扉を閉め、すぐ元の服に着替えた。
さっきまでの服装との落差に仙波は溜息をつきそうになったが、ぐっとこらえる。
それよりも、自分の選んだ服を武田がレジへ持って行ってくれることが嬉しかった。


「む、ついでに帽子も買って行くか。最近は日差しが強いからな」
途中で、武田は帽子コーナーに注目する。
そこで、涼しさだけを追求した麦わら帽子を取ろうとしたとき、仙波が慌てて止めた。

「ま、待って下さい、先輩に帽子はいらないと思います!」
「何故だ、日除けには丁度良いだろうが」
武田は、真面目な表情で麦わら帽子を取ろうとする。
ここでそんな組み合わせをされては、全てが台無しになってしまう。

「だ、だって・・・先輩のつやつやした髪を帽子で隠すなんて勿体ないです!」
声を大にして告げられた言葉に、武田はあっけにとられて仙波を見上げる。
「先輩、いつも髪つやつやでさらさらできれいで、俺なんてボサボサだから羨ましく思ってるんです!。
だから帽子なんて被らないで下さい、俺に見せていて下さい!」
「な・・・」
矢継ぎ早に言われ、武田は呆然とする。
だが、すぐにはっとして視線を逸らした。

「わ、わかった、わかったから少し黙れ、迷惑になるだろうが」
「あ、す、すみません」
武田は帽子を諦め、足早にレジへ向かう。
率直な言葉に、つい赤らんでしまった自分の頬を見られたくなかった。




「今日は付き合わせてしまったな。飯でもおごってやろう」
帰り際にとても珍しく嬉しい言葉をかけられ、仙波は目を丸くした。
「いいんですか!?それじゃあステーキでも」
「調子に乗るな!いつもの定食屋にでも行くぞ」
「はーい。ゴチになります!」

自分の休みは一日潰れてしまったけれど、酒を飲んでだらけているより、ずいぶんと楽しかった。
何より、憧れている先輩の役にたてたことが嬉しかった。
普段は恐ろしい事をさらりと言う怖い先輩でも、なんやかんやで世話を焼いてくれる。


定食屋へ向かう道中で、仙波はひそかに思っていた。
かっこよくなることは良いことだけど、相手を見つけて独身寮から出て行ってほしくはないな、と。




―後書き―
読んでくださりありがとうございました!。
この二人妄想するのはとても楽しいです。。
仙波はまわりくどい言い回しなんてできなくて、思った事を率直に言うタイプだから。
武田さんを思いっきり誉めさせて、そんでもって武田を照れさせてみたくて書いたものです。
あと、武田さんのオシャレ着用の服に目も当てられなくて、何とかしたくなった(笑)。