KOBAN7。


よく晴れた日の午後、澄み切った冬の空気が気持ちよい日和。
それが曇りがちでも、湿気が多く不快なときでも、武田の休日の過ごし方は変わらなかった。
晴れていれば、ランニングがてらホームセンターへ赴き。
帰宅したら、酒を飲みつつ新聞を読んだり、読書をしたりする。
毎回、変わりのない非番を過ごしていたが、今日は日常が崩されようとしていた。


「先輩、お願いします!今日1日だけでいいんで、この部屋一緒に使わせて下さい!」
仙波は、武田の部屋に上がり込むなりすぐに土下座して言った。

「何なんだいきなり、事情を説明しろ」
「それが・・・ゾノがホムンクルス作るの失敗して、部屋中に薬品の臭いが充満してるんです。。
ゾノは慣れてるから平気みたいなんですけど、俺にはきつかったんで、こうして非難してきたんです」
「花園君の趣味にも困ったものだな・・・」
本当に、それさえなければ優秀な警察官であるのに勿体ない。

「だからお願いします!1日だけ、今日だけここで過ごさせて下さいー!」
「ふざけるな、誰が貴様と・・・」
言いかけたが、以前風邪をひいたときに世話をかけたことを思い出す。
無下に断るのは気が引けて、武田は溜息を吐いた。


「・・・今日だけだぞ。ただし、俺の日課を邪魔することは許さんからな」
まさかの了承の言葉に、仙波はぱっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!大丈夫です、俺は合コンに備えてファッション紙でも見てますから」
合コン、という言葉に反応し、武田は仙波を睨む。

「貴様、まさかこんな晴れ晴れとした日に、室内でぐうたらと過ごすつもりか。。
今日は特別にトレーニングに付き会わせてやろう」
「え、ええ〜」
武田の日課と言えばもっぱら運動なので、仙波は露骨に嫌な顔をした。

「さっさと運動しやすい服に着替えてこい。まずはランニングだ」
「わ、わかりました」
部屋を借りている以上、口答えするわけにはいかない。
仙波はしぶしぶラフな服装に着替え、武田と共に外へ出た。


「よし、ここからホームセンターまでランニングだ」
「また飽きもせずにゴムチューブ探すんですか」
「うるさい、体も鍛えられて一石二鳥だろうが。行くぞ」

武田が走り出すと、仙波は少し後ろをついて走った。
ペースは結構早く、10分もしないうちに仙波の息があがってくる。

「せ、先輩、ペース、早いです・・・」
「情けない声を出すな。まだ半分も来てないぞ」
「マジですか・・・」
武田はほんの少しだけペースを緩めたが、露骨に甘やかすような事はしない。
仙波がついてこれるぎりぎりの速度を保ちつつ、休憩もせずに目的地へと走った。




ホームセンターに着いた頃、仙波はぜいぜいと肩で息をしていて、全く余裕がなくなっていた。
「何だ、これくらいでだらしない。非番の日をだらだらと過ごしているからそうなるんだ」
「は、はいぃ・・・お、俺、近くの、コンビニ、寄ってきます」
途切れ途切れの言葉で何とか会話し、仙波はふらふらとコンビニへ向かった。

「ふん・・・たまには鍛え直してやる必要があるようだな」
武田はひとりごちると、いつものようにゴムチューブを探し始めた。


ホームセンターから出ると、丁度仙波と合流した。
何か買ってきたのか、ビニール袋を持っている。
「あれ、今日はいい商品なかったんですか?」
「まあな。お前は何を買ったんだ」
「これ見てください!コンビニ限定発売の、カルシウム2倍牛乳っていうのがあったんで、部屋借りるお礼に買ってきました!」
これが目に入らぬかというように、武田の目の前に牛乳を差し出す。

「なにっ、よくやった。なら、すぐに走って帰るぞ」
「え、ええ〜、また走るんですか・・・」
こんなことですぐ誉められて複雑な気持ちになりつつ、仙波は武田の後をついて行った。




「や、やっと、着いた・・・牛乳、途中で投げ出しそうになりましたよ・・・」
「ご苦労だったな。冷蔵庫で冷やしておこう」
良さげな牛乳が手に入って気分がよくなっている様子が、とてもわかりやすかった。
その後は、いつもように向かい合って夕食を食べる。
走って腹が減ったのか、仙波は白飯を3杯もおかわりをして武田を唖然とさせた。
後は寝るだけとなったが、そのときに最大の問題に遭遇することになった。


「おい、まだ部屋には入れないのか」
「はい、部屋の何もかもに臭いがうつってるみたいで・・・。
今、ゾノが消臭してくれてるんですけど、まだ難しいみたいです」
せめて、布団だけでも難を逃れてくれればどれだけよかっただろうか。
武田の部屋には、来客用の布団などない。

「あ、布団は俺が敷きますね。・・・って、先輩の布団、やけにでかくないですか?」
「べ、別に、普通だろう」
背が伸びたときのために大きいサイズにしたとは、馬鹿にされそうで言えなかった。

「えーっと・・・どう、しましょうか」
布団を敷き終わると、仙波は困った表情をする。
布団が一つしかないということは、どちらかが床で寝るか、一緒に寝るしかない。
今が夏場なら、迷わず仙波を床に放置していたが。
冬にそれは酷なことだし、風邪をひかせてしまう。
武田は、この前の借りを返すためだと自分に言い聞かせ、苦渋の決断をした。

「・・・横向きになれば、何とか入るだろう」
「いいんですか!?」
床に放置されると思っていたのか、仙波は露骨に驚く。

「何だその顔は。床で寝たいならそうしろ、座布団でも枕にしておけ」
「あ、い、いえ、ご一緒させてほしいです!」
二人は、背中合わせになって布団に横になった。
特大サイズのおかげで、ぎりぎり仙波も入ることができる。

「いいか、少しでも変な事をしたら容赦なく追い出すからな」
「しませんって!後が怖すぎますし・・・」
武田は、最初は警戒心たっぷりで、気が気でならなかったが。
すぐに寝息が聞こえてきたので、安心した。
少しだけ触れている背中が、ほんのりと温かい。
布団の中が温まるのがずいぶんと早くて、ものの数分でうとうととしてくる。
いつの間にか、警戒心は心地良さに変わっていた。




朝になると、体が動かなくなっていた。
目は覚めているのに、身動きがとれない。
これが金縛りというやつかと思ったが、動こうとすればわずかに身じろぐことはできる。
だんだんと頭がはっきりしてくると、何かがおかしいと気付き始める。
俯いて自分の体を見ると、そこにはがっちりと腕がまわされていた。

現状を認識するまで、わずかな時間がかかる。
少しの間の後、武田ははっとして声を荒げた。

「おい、貴様、起きろ!今すぐ放り出してやる!」
「うーん・・・」
仙波はわずかに反応したが、起きる気配はない。
好みの女子に抱きつく夢でも見ているのか、腕も解かれないままだ。

「貴様、ふざけるのも大概にしろ!後でどうなるかわかっているんだろうな!」
必死に体をよじるが、どうにもこうにも振りほどけない。

「う、うーん・・・せんぱい・・・」
「なっ・・・」
予想外の場面で名前を呼ばれ、武田は硬直する。
まさか、この状況で、女子ではなく、上司の夢を見ていると言うのだろうか。
それはそれで大問題すぎて、焦りが募る。
だんだん危機感も湧きあがってきたとき、ぐっと体が引き寄せられた。

「せ、んな、み」
どぎまぎして、言葉が途切れがちになる。
後輩に無礼な事をされて、憤ってもいいはずなのに。
むしろうろたえてしまって、どうにかする術はないかと辺りを見回す。

すると、ふいに時計が目に入った。
瞬間、武田は目を見開き、渾身の力で跳ね起きた。


「仙波起きろ!今すぐ起きろ、今すぐ着換えろ、今すぐ出勤しろー!」
「う〜ん・・・あ、先輩、生きてたんですか・・・」
「寝ぼけている暇など一分一秒もないぞ!貴様のせいで遅刻寸前だ!」
仙波はごしごしと目を擦り、まだぼんやりとしていたが、時計を見た瞬間に開眼した。

「わ、わわわ、もうこんな時間なんですか!?お、俺、急いで着替えてきます!」
仙波に構う余裕などなく、武田は慌ただしく朝自宅を済ませる。
目覚まし時計などなくとも、定刻には起床していたのに眠り過ぎてしまった。
それは、ただ布団の中の温度が高かったのが心地良かっただけで。
決して、腕に抱かれていたせいではないと信じたかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
またいちゃつかせてしまった。もうこういう形じゃないとモチベーションが上がらなくなってきている←。
ひとまず、ここで一区切りです。。
KOBANの2巻が出たらまたテンション上がりまくって妄想活力が生き生きするかもしれませんが。
ではでは、長々読んでいただきありがとうございました!。