SPEC4


最近は、本部からの命令がめっきりなくなっていた。
それでも、口座にはシングルマザー助成金がきちんと振り込まれていて奇妙に思う。
一度本部へ行ってみようと、直樹は呼ばれていなくとも本部へ赴いていた。

中が静かなのはいつものことだったけれど、どこか違和感がある。
ガードマンの姿もなく、人の気配がまるでしない。
会議室には一人くらいいるだろうと、部屋の扉を開ける。
そこには、確かに一人はいたけれど、いつも踏ん反り返っている老人はいなかった。
相手は珍客に一瞬目を見開き、ふっと笑った。

「あーあ、来ちゃったんだ。こんな組織からでも、音沙汰なかったら気にもなるか」
「ニノマエ、一体何があったんだ?誰もいないみたいだし・・・」
「ずる賢い大人は、もういないよ」
ニノマエは、ちらと床の一点に視線を向ける。
直樹も目を向けると、そこには赤黒い染みが残っていた。
まさかと思い、ニノマエを凝視する。


「俺は、世界の王になる。選ばれた者の、この力を使って」
子供の冗談などではないと、直感的に感じる。
部屋には鉄の匂いが残っていることに気付いたけれど、足が動かない。
怖じているからではなく、この先の言葉に期待しているから。

「直樹、俺についてきてくれる?」
返答は、一つしか思いつかない。
直樹はニノマエに歩み寄り、すぐ傍で告げた。

「僕は、ニノマエと一緒に居たい。・・・君の歩む道が、多少歪んでいたって構わない」
たとえ、数多の人の命を奪ったとしても、ニノマエは唯一心を許せる相手に変わりない。
支配欲があるのなら、甘んじて受け入れたっていい。
もう、従うべき相手はいない、ニノマエの世界に入ってゆける。
今感じているのは、恐怖ではなく一種の昂揚感だった。


直樹の言葉に、ニノマエは笑顔を見せて、その身を抱き寄せる。
その表情は、やはり子供のように純粋で、残酷だった。

「今日はここに泊まっていきなよ。俺らが支配者になったお祝いをしよう」
「母さんの許可が取れたらね」
ニノマエの口調は、普段通り軽い。
今、人を殺めたばかりなんて信じられないくらいに。
直樹は、わずかな恐怖心を覚えると共に、変わらないニノマエに安心してもいた。
普段通りに、携帯を取り出して母に電話をかける。
仕事中かと思ったけれど、運良く応答があった。

「母さん、忙しいときにごめん。今日、友達の家に泊まりたいんだけど・・・。
・・・・・・うん、明日のお昼には帰るよ。ありがとう、無理しないでね」
すんなりと許可が取れて、通話を切る。
今の言葉だけで察したのか、携帯をしまうと、ニノマエが後ろから抱きついてきた。
一瞬、肩を強張らせるけれど、すぐに力を抜く。
直樹は、体に回るニノマエの腕に、そっと手を添えていた。




もう本部に人はいなくて、ガードマンに止められることもなく自由に歩き回れる。
重要そうな機械がある部屋、書類がうず高く積まれている部屋も入り放題で、
内容がわからなくとも、宝探しをする子供のように高揚していた。
本部にはホテルの一室のような部屋もあり、歩き疲れた二人はベッドに腰を下ろす。
スプリングがぎしりと軋み、柔らかなマットが少し沈んだ。

「ニノマエ、これからどうするんだ?もう不本意な命令なんて聞かなくていいんだし」
「そうだな、俺が支配者になったってことを知らしめに行かないと。
とりあえず、いろんなお偉いさんの顔にキリトリセンでも書きに行こうかな」
悪戯っぽく笑いながら告げられた言葉が、本気か冗談かはわからない。
けれど、どちらにせよ、直樹は一緒になって微笑むことができた。

「でも、世界を支配する前に、しておきたいことがあるんだ」
「へー、なに・・・」
質問の途中で、直樹の声が途切れる。
その口はニノマエの唇に塞がれていて、続きが言えなくなっていた。
以前に大胆なことをされたせいで免疫がついたのか、直樹は抵抗しない。
さほど羞恥心がなくなると、お互いの体温が通じ合う心地よさが実感できた。


拒まれないことに気を良くしたのか、ニノマエは小さく舌を出して直樹の唇を舐める。
直樹はわずかに怯んだけれど、ニノマエから離れようとはしなかった。
少し戸惑いを残しつつ、おずおずと隙間を開く。
すると、間髪入れずに柔らかなものが入り込み、直樹の中に触れた。

「ふ、あ・・・」
ニノマエは躊躇うことなく祐樹に絡みつき、唾液をまとわりつかせた。
一点に留まっているのではなく、気を昂らせるようにかき回す。
「は、あぅ・・・」
舌の感触がいやらしくて、思わず声が漏れる。
引き寄せられると同時に押し付けられて、お互いの間には少しも距離がない。
胸の内に熱が募ってきたけれど、直樹はニノマエのしたいように任せていた。

吐息が熱っぽくなっていきたところで、口が離される。
お互いの間に伝った細い糸を舐め取り、ニノマエは口端を上げた。
「俺は、まず初めに直樹を支配したいんだ。絶対に俺の傍から離れないようにするために、したい」
直球な独占欲を受け、直樹は身震いする。

「何を、したいんだ・・・」
「んー、いやらしいことかな」
その宣言だけで、鼓動が強くなる。
けれど、今は昂揚感で正常な判断ができなくなっているのだろうか、
微塵も嫌悪感が生まれないのが、不思議だった。


「・・・目隠し、しないんなら・・・」
そんなことを言ってしまったとたん、ニノマエはぱっと表情を明るくした。
あどけない顔を見ると、何もかもを受け入れたくなる。
「嬉しいな、直樹を手に入れられるんだ。もう、すぐにでもそうしたい」
興奮しているのか、ニノマエは直樹の服を次々に脱がせていく。
いきなり素肌が曝け出されて慌てると、下半身の服にも手がかけられた。

とっさに手首を掴もうとするけれど、手が途中で止まる。
受け入れたいのなら、中断させてはいけない。
直樹が手を引っ込めると、ニノマエはズボンの留め金を外す。
そして、迷うことなく中心のものに触れて、外へ出させた。

「あ・・・」
まだ起立していないものを掴まれ、動揺と戸惑いが入り混じる。
そのまま上下に擦られると、身が震えて一気に熱が高まった。
「ひ、ぁ・・・」
こんなところを誰かに触られたことなんてなくて、羞恥心が募る。
単純な上下運動は何度も繰り替えされ、直樹のものを昂らせようとする。
掌の中でだんだんと熱くなるものは、ニノマエも興奮させていった。

「気持ち良いの?どんどん熱くなってる」
「は、ん・・・っ、う、ん・・・」
喘ぎとも、返事とも取れないような声が漏れる。
直樹の目は、もはやニノマエに陶酔するように見入っていた。
いつから、捕らわれてしまったのだろう。
無邪気な笑顔に惹かれている内に、離れられなくなっていた。
支配したいなんて、友人にあるまじきことを言われても、拒めなかった。


さっきからニノマエの手は一時も止まることがなくて、直樹の息が荒くなる。
頬が紅潮して、変な声が出て、恥ずかしくてたまらないはずなのに、遠ざけようとはしない。
まるで、もっと触れ続けていてほしいと、体が主張しているようだった。

「何だか、俺も熱いや。ね、触れ合わせてみようか」
ニノマエは恥ずかしげもなく下肢の服を下ろし、自身のものを出す。
直樹は見ないように視線を前へ向けていたけれど、皮膚が触れるとわかってしまった。
同じように、固くなっているものが押し付けられる。

「ニ、ニノマエ・・・」
虚ろな眼差しのまま名を呼ぶと、ニノマエの掌がそっと頬に添えられる。
目を見詰めて相手を魅了するのは、自分の専売特許のはずなのに、
間近で感じるその熱視線に、射止められていた。


「直樹、一緒に気持ち良くなろう」
ニノマエはお互いのものを一緒に包み、より密接にさせる。
「あ、あっ・・・」
皮膚が擦れ合い、手で包まれているときとはまた違う感触を覚える。
同じものが触れているんだと思うと、どうしようもなく気が昂っていた。
一方で、体は刺激に耐えようとシーツを握りしめる。

「そんなものを掴むくらいなら、俺に腕まわしてよ」
ニノマエは一旦手を止めて、直樹の腕を自分の背へ誘導させる。
抗う事もなく両腕を回すと、すぐに動きを再開した。

「やぁ、う、あ・・・っ」
思わず腕に力が込められ、自分からも下肢をニノマエに押し付ける形になる。
すぐ傍に直樹が来ると、ニノマエは頬を摺り寄せた。
愛玩動物を愛おしむような、それか、もっと深い感情のような、直樹はそんなものを垣間見る。
自分からも頬を寄せると、胸の中に温かなものが湧き上がった。
先から漏れたもので服が汚れても、気にしている場合じゃない。


「直樹、俺がこんな欲望を持ってても、傍にいてくれる?」
今更なことを聞かれ、直樹はすぐに頷く。
「ニノマエ・・・っ、一緒に、居たい・・・」
性衝動を抱かれていても構わない。
相手の視線を独り占めしたいと思っているのは、自分も同じだった。
完全に身を委ねるから、ニノマエの好きなようにしてほしい。
そう主張するように身を押し付けると、下肢のものが一層激しく擦られた。

「ああ、っ・・・や、あっ」
「ん・・・ここがいいんだ、俺も同じ・・・」
ニノマエは指を巧みに使い、お互いの弱い個所をなぞる。
耳元にかかる吐息が熱くて、高揚感が抑えきれない。
弱い部分を撫でられると、感極まってしまう。
声も、吐息も、感情も抑えきれなくて、お互いの間が液が滴り、解放してほしいとせかす。
ニノマエの手の動きが滑らかになると、脳の奥まで快感に侵されてゆく。
激しく触れ合わされていたものは、もう、限界だった。

「ひ、ぁ、ニノマエ・・・っ、あぁ・・・!」
びくりと、直樹のものが脈動し、痙攣する。
とたんに溢れ出した白濁は、ニノマエのものにまとわりついた。
「ああ、直樹・・・っ!」
白濁が伝った瞬間、ニノマエは直樹を強く抱く。
お互いのものを少しも漏らさないよう、体を捕まえたまま逃がさない。
ニノマエのものからも淫らな液が溢れ、交わり合う。
温かなものが下半身を濡らすと、直樹は目を細めて脱力した。


息が少し落ち着くと、ニノマエは直樹の頬に手を添えて、自分の方を向かせる。
そして、まだ陶酔したままでいる直樹の口へ覆い被さった。
「ん、ん・・・」
高めの体温に安らぎを覚え、直樹は目を閉じる。
呼吸のために一旦離れても、すぐニノマエは唇を塞ぐ。
少しでも体が動くと、下肢が二人分の液で滑り、また気が落ち着かなくなってしまいそうだった。

唇がふやけてしまうんじゃないかと思うくらい、重なり合う。
もはや、下も上もお互いの液体で濡れていた。
「絶対に離さないよ、直樹・・・もう、俺のものだ」
「う・・・ん・・・」
肯定の返事か、ただ息を吐いただけか、弱弱しい声が漏れる。
けれど、ここまでされてもSPECを使う気にはならず、ニノマエからも離れがたい。
それは、完全に身も心も許していることに他ならなかった。




それからは、普通に学校に通いつつ、放課後は委員会と称して直樹は本部へ赴く。
テレビでは、各国の首相の顔に切り取り線が現れるニュースでもちきりだった。
その首謀者を知っていても、直樹の行動は変わらなかった。
そして、今日もニノマエの好奇心を満たすためにベッドへ横になる。
体が熱くなり、体温を鮮明に共有できるのが好きなのか、
ニノマエは直樹のものを曝け出し、よく触れていた。

「は・・・っ、ぁ、ぅ・・・」
直樹の下肢にあるものは、ニノマエの掌に包まれ、擦られている。
もう、何回こんなことをされたかわからないけれど、SPECも使わずされるがままになっている。
それは、自分もニノマエの存在を求めてやまないからだと実感していた。

「直樹、後ろに指入れてみてもいい?」
「え・・・」
行為がエスカレートしてゆくことに、直樹はわずかに怯える。
それでも、ニノマエの好奇の瞳を見ると、拒めなかった。
この存在を留められるなら、玩具のように扱われてもいいなんて、そう思ってしまう。
否定しないでいると、後ろの窪みに細い指があてがわれる。
そして、それはそのまま中へ押し入れられた。

「ああ・・・っ・・・!」
前に触れられているだけとはまた違う感覚が、全身に走る。
強い快楽に襲われて、あられもない声を発していた。
窪みは、異物を拒むよう反射的に縮こまる。
抵抗されても指は抜かれず、むしろ中へ進んで行った。

「あ、う、あぁ・・・」
この違和感は、ニノマエが自分の中へ入ってきているからだと思うと、気がおかしくなりそうになる。
珍しいものに触れるよう、その指は内壁をなだらかに撫でた。


「ここも、こんなに柔らかいんだ。温かいし、直樹がすごく感じてるみたいだ」
「だ、だって、そんなとこ・・・っ」
傷つけはしないよう、ニノマエはゆっくりと指を動かす。
その先が、ふいに固い個所を掠めた。
柔らかいだけではない感触に、ニノマエはその部分を指の腹で押す。

「や、ああ・・・!そこ、だめ・・・っ」
突然、感じるものが強くなって直樹は縮こまる。
そんな様子を、ニノマエは高揚した笑みを見せて見詰めた。
「すごく気持ち良いんだ?なら、前も一緒に触ってあげるよ」
ニノマエは後ろだけでなく、さっきまで触れていたものへも掌を添える
それを上下に擦り、中では固い個所へ指の腹を何度も押し付けした。

「ああっ・・・や、あ、あぁ・・・!」
強すぎる刺激に耐えられなくて、直樹はあっけなく吐精する。
いつもより疲れて、ぜいぜいと肩で息をした。
自分の手が卑猥な液で濡れると、ニノマエはくすりと笑った。

「もういっちゃった?同時に触るとすごいんだね。じゃあ、次はどうしようかな・・・」
直樹は、おぼろげな眼差しでニノマエを見上げる。
自分の支配者になったこの少年からは、もう逃れられなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
最後の最後でいかがわしい支配者エンド。
でも、直樹も嫌々従っているわけではないので・・・微妙なハッピーエンド、にしておいてください。