エースコンバットZERO3


今、サイファーがいる地域はとにかく暑かった。
連日の猛暑日、冷房がきいている基地内にいるのもいいが、空を飛ぶのも良い気晴らしになり。
今日も、サイファーは滑空機に乗っていたのだが、その機体は漆黒ではなかった。

普段なら、ノスフェラトゥに乗っているところなのだが、照りつける太陽の元だとその機体を見ているだけで暑くなり。
どこかに着陸して休憩しようものなら、たちまち機体で目玉焼きが焼けそうな程熱せられてしまう。
だから、見た目も爽やかに見える白い機体を使うことが多くなっていた。
サイファーは快適だったが、格納庫に納められっぱなしの機体には、徐々に鬱憤が蓄積されていっていた。


今日も気晴らしの遊覧飛行が終わり、サイファーは自室で休んでいた。
けれど、ただじっとしているのは性に合わず、ピクシーとだべりにでも行こうかと腰を上げたとき、扉が、自然と開いた。
「げ・・・」
そこにいた相手を目の当たりにしたとたん、サイファーはたじろぐ。
鋭い眼光が突き刺さり、そこから機嫌の悪さをひしひしと感じたから。

『良い気なものだな。自分は好き勝手に飛び、快適な空間に留まるなど』
「う・・・」
もしかしたら、そろそろやって来るのではないかと思っていた。
オーバーヒートしないような環境ではあるものの、決して快適とは言えない格納庫に居続けたのだ。
その相手の機嫌が、良いはずはなかった。

「な、何しに来たんだよ・・・」
この相手が部屋へやってくると、いつもろくなことがない。
サイファーの予測通り、ノスフェラトゥは鋭い眼光を向けながらも、あからさまに何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。

『俺だけが不快な思いをしているのは癪に障る。
お前も、暑苦しさを感じればいい』
この涼しい部屋で、どうやってそんな不快感を与えるというのか。
ノスフェラトゥの体は元々冷たいものなので、この環境では逆に涼を感じさせるのではないだろうか。
どうやって嫌がらせをする気なのかはわからなかったが、嫌な予感だけはしていた。


ノスフェラトゥが、サイファーに歩み寄る。
逃げ場があるはずもなく、危機感を覚えつつもその場に立ちすくむしかなかった。
眼前まできたとたん強い力で肩を押され、その行動を予測できなかったサイファーは、そのまま床に倒れ込んだ。
したたかに背中を打ち付け、顔をしかめる。
「っ・・・何すんだ・・・」
気付けば、首の後ろを掴まれ、固定されている。
頭を打たないよう保護してくれたのかと一瞬思ったが、そんなはずはなかった。

『ククッ・・・』
ノスフェラトゥの冷ややかな笑みに、悪寒が走る。
これじゃあ、暑苦しいどころかむしろ寒いと感じたそのとき。
冷たくはない何かが、露わになっている首筋に触れていた。
「!?」
予想だにしていなかった感触に、サイファーは目を丸くする。
そして、自分に触れているものが何なのか気付くと、動揺せずにはいられなくなった。
漆黒の機体が相手に熱を与えられるものは、一つしかない。

ノスフェラトゥは、日焼けしていないサイファーの首筋に、赤い印を付けてゆく。
今、何をされているのか自覚したサイファーは、相手を跳ね退けようとしたがその前に、今しがた触れていたものとはまた違う、もっと柔らかで、わずかに熱を帯びたものが這わされるのを感じ、それどころではなくなってしまった。

「っ・・・何、して・・・」
それは、首筋をなぞり、皮膚を侵してゆく。
ノスフェラトゥは、今しがた触れていた首筋に己の舌を這わせていた。
サイファーは寒気がするような感覚がしたが、体の反応は違った。

悪寒がするどころか、むしろ熱が溜まってゆく。
這わされるものを感じる度に、サイファーは自身の内から何かが込み上げてくるのを自覚していた。
思わず吐息をつきそうになるが、口をつぐんで耐える。
それが面白くなかったのか、やがてノスフェラトゥは動きを止め、柔いものを離した。

「は・・・っ・・・」
ほっとしたせいで、つい油断してしまった。
サイファー自身も驚くほど熱っぽい吐息が、唇から漏れる。
思惑通りの反応に、ノスフェラトゥは口端を上げて微笑した。


『やはり、こういう行為をすると人は熱を感じるらしいな』
どこでそんな知識を仕入れてきたのか、ノスフェラトゥは心なしか楽しんでいるような様子で言う。
「お前・・・後で覚えてろよ!」
強く言ったが、相手は微塵も怯む様子はない。
頬を紅潮させている状態では、強がりにしか聞こえないのだろう。

『まだ、虚勢を張る余裕があるのか。・・・なら、減らず口の一つも叩けないようにしてやろう』
首を掴む手に力を込め、サイファーを逃がさないよう固定する。
同時に、体も押さえつけていた。
「お、おい・・・っ」
危機感を覚えたのか、サイファーは焦る。
しかし、抵抗する間もなくノスフェラトゥが眼前に接近し。
すぐに、言葉を発せない状況になっていた。

「―――っ!」
サイファーは驚愕を示すが、声を発することができない。
口を開こうとしても、その箇所は目の前の相手によって完全に塞がれていたから。
目の前に、鋭い瞳が見える。
これほど至近距離で顔を合わせることなど滅多になくて、思わず目を瞑っていた。

そうしたとき、重ねられている箇所に、再び柔いものを感じた。
それは唇の隙間をなぞり、口を開くように促している。
応じてはいけないと、頭ではそうわかっていた。
だが、目を閉じてしまったせいで、弄られる感触をより鮮明に感じてしまい。
ほとんど無意識の内に、また熱っぽい吐息を吐いてしまっていた。
その隙が見逃されるはずもなく、唇をなぞっていたものは躊躇うことなく相手の中へ侵入する。
そして、サイファーは瞬く間に蹂躙されていた。

「ぁ・・・ぅ・・・っ」
ノスフェラトゥはサイファーの口内へ己を進め、その中にあるものを絡め取る。
初めて感じる、自分に絡みついて来る感触に、サイファーは吐息も、声も抑えることができなかった。
首を固定している手はこんなにも冷たいのに、口内にあるものは驚くほど熱い。
いや、これは自分の熱なのかもしれない。
呼気が混じり合い、もはや判断がつかなくなっていた。


ノスフェラトゥは少しも遠慮などすることなく絡ませてゆき、しだいに音が目立つようになる。
自分の操縦士を思うがままにしている快感に酔っているのかもしれない。
感触だけではなく、音まで聞こえるものだから、自分の状況がありありと想像できてしまって。
サイファーとしては、もう、自身の熱を抑える術がなかった。

「は・・・っ、や・・・め・・・・・・」
これ以上こうされていると、昂ってしまう。
本当に熱が溜まり、抑制できなくなってしまう。
もう止めろと言いかけたとき、やっとノスフェラトゥが離れ、解放された。

「っ・・・は・・・・・・」
サイファーは、肩で大きく息をする。
熱のせいか、相手を睨みつけることすらできなかった。
『ククッ・・・良い顔だな』
「う・・・るせー・・・」
息も絶え絶えに反論するが、声に全く覇気がない。
ノスフェラトゥは昂揚感を堪え切れないように口端を上げて笑うと、サイファーの顎を指先でそっとなぞった。

『どうせなら、もっと与えてやろうか。自身の内から湧き上がるような熱を』
「何・・・言って・・・」
言葉の途中で首筋を撫でられ、続きが言えなくなる。
相変わらず無機質な指は冷たかったが、今は、その温度が心地良いものだと感じてしまった。
そんな自分が信じられず、動揺してしまった。


冷たい指が首から下へ下りてゆき、服を掴む。
拒み、跳ね退けなければいけない。
そうしなければ、完全に蹂躙される。

だが、意に反して体が動かない。
先の行為で、思っている以上に疲労してしまっているのか。
それとも、どこかで、望んでいるのだろうか。
このまま、蹂躙されても構わないなどという、愚かなことを。

跳ね退けられないままでいると、いよいよ、服の留め具に、手がかけられた。
「やめ・・・っ」
危機感が最高潮に達した、その瞬間。
助け舟とも言うべきか、それとも厄介者と言うべきか、部屋の扉がノックされ、聞き慣れた声がした。


「相棒、起きてるか?」
親しい者の声に、サイファーははっと目を見開く。
「明日の出撃のことで話したいことがあるんだが、入ってもいいか?」
反射的に、さっと血の気が引いてゆく。
今、入ってこられたら、この状況をどう説明すればいいのか。
それよりも、こんな場面を見られる方がまずい。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!・・・い、今はダメだ!後で、俺の方から行くから!」
サイファーは必死に訴え、渾身の力でノスフェラトゥを押し退けて体を起こした。
「そうか。じゃあ、後でな」
足音が聞こえ、ピクシーが去って行ったのがわかる。
サイファーは、今までで一番大きな安堵の溜息をついていた。

一連のことで気分が萎えてしまったのか、ノスフェラトゥはその場から退いていた。
サイファーが立ち上がると、自然と視線が交わったが。
今はとても直視できなくて、服を整えつつ扉に向かった。

「じゃ、じゃー、俺、ピクシーのとこに言ってくっから・・・」
振り向かないまま、相手を見ずに言う。
だが、取っ手を掴み、扉を開く直前に、サイファーはぴたと動きを止めた。

「・・・明日は、派手な戦闘になるかもしんねーから・・・・・・そのときは、頼む」
それは、格納庫に放置していたノスフェラトゥへの、せめてもの詫びの言葉だった。
サイファーは向き直り、ノスフェラトゥを見る。
操縦士の言葉が意外だったのか、それとも先の行為で満足しているからか。
向けられているのは、鋭く突き刺さるような視線ではなかった。
「そ、それまでに、見つかんねーように、ちゃんと戻っとけよ!?」
そうして視線を合わせていることさえ羞恥を感じ、サイファーはそう言い放って部屋から出て行った。


だんだんと、足音が遠のいて行く。
半端なところで終わってしまったが、狼狽する操縦士の反応は愉快なものだった。
それに、飛んでいる時とは違う種類の高揚を感じていた。
暑苦しい不快感を与える目的も、最後には忘れていた。
相手を押さえつけ、思いのままにしていたとき、自分が今まで知り得なかった欲望を自覚していた。

これを昇華することができたら、どんな快感が生まれるのだろうか。
相手が再び他の機体に移るようでも、それはそれで構わないかもしれない。
そのときは、思う存分この欲望を解放させることができるのだから。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
以前、友人に献上したものを連載の時間稼ぎに上げてみましt←
機体擬人化×操縦士にはまってはまって・・・
書き溜めていた分があるので、紅一点の合間に上げて行きたいと思います