エースコンバットZERO6(タイフーン、ソーグ、アークバードが登場します)


エースコンバットZERO6


平和になったあくる日、サイファーの元へタリズマンから一通の手紙が届いた。
文面にはただ一言、聞きたいことがあるから来てほしいとだけ書かれていた。
聞きたいことがあるのなら、電話でもいいのではないかとサイファーは思ったが。
ノスフェラトゥを譲ってもらった恩があるので、無下に断るわけにはいかなかった。

「おい、ノス。一緒にタリズマンの所へ行こうぜ」
サイファーは、ノスフェラトゥに乗りこみ語りかける。
以前より親密にかった影響からか、最近は人の形をしていなくても反応が返ってくるようになった。

『タリズマン・・・か』
何か迷う要因があるのか、ノスフェラトゥは断ることも、了承することもしなかった。
「ま、お前が嫌だって言っても、もう行くけどな」
サイファーは操縦桿を握り、機体を発進させ、タリズマンのいる基地へ向かった。


目的地に着き、滑走路に機体を着陸させる。
そこには、待ちわびるようにしてタリズマンが立っていた。
急ぎの用なのかと、サイファーはすぐ機体から下りて駆け寄った。

「よお、タリズマン。久し振り」
「ああ。・・・早速だが、見てもらいたいものがある。ついて来てくれ」
挨拶もそこそこに、タリズマンは格納庫へ向かう。
サイファーはちらりとノスフェラトゥを見た後、後を追った。

「なあ、聞きたいことって、何なんだ?」
道中サイファーが尋ねたが、タリズマンは「格納庫に行ってから話す」の一点張りだった。

そして、格納庫に着き、タリズマンが少し躊躇うように扉を開ける。
そこにあった光景に、サイファーは目を丸くした。
格納庫なのだから、機体が格納されているはず。
だが、格納庫に居るのは機体ではなく、人の形をしたものだった。
それも一人ではなく、女性の姿をしたものや、少年の姿をしている者がいる。
サイファーは、タリズマンがいるのも忘れ、唖然としていた。


「お前にも、見えるのか・・・」
サイファーの様子を見て、タリズマンは察したようだった。
「お前にも、って・・・」
サイファーが尋ねようとしたとき、突然扉が開いた。
漆黒の機体が入ってきたことを他の者も察し、一気に注目を浴びる。

「ノスフェラトゥ・・・だな?」
タリズマンは、二人に確認するように問う。
「あ、ああ・・・やっぱ、見えてんだな」
サイファーは、この基地へ来て驚いてばかりだった。
ノスフェラトゥ以外にも、人の形をしている機体がいるとは思わなかったし
何より、タリズマンにも同じようにノスフェラトゥが見えるとは予想だにしていなかった。

「他の隊員が居るときは普通の機体にしか見えない。けれど、人気の無いときに格納庫へ行くと・・・」
『あ!ノスフェラトゥ!』
タリズマンの声を遮り、別の声が被さる。
サイファーが目を向けると、一人の女性がこっちへ向かってきていた。
『タリズマンのとこからいなくなったと思ったら、新しい操縦士のとこへ転がり込んでたんだね。
今は、その白い髪の操縦士をいびってるのかい』
ノスフェラトゥは相手を一瞥し、興味なさそうに視線を逸らす。

『お前には関係のないことだ』
『何だって!相変わらず偉そうな態度を・・・』
討論している様子を見て、タリズマンは溜息をつく。


「・・・タイフーンだ。俺の機体の・・・」
「あ、ああ、機体・・・だろうなとは思ってた」
そうは言っても、サイファーはまだ目の前の光景についていけない。
機体同士がこうして会話をしているなんて、非現実的にも程があった。

『偉そうに言ってるけど、アタシに一度撃墜されたこと忘れたわけじゃないだろうね』
タイフーンの言葉に、ノスフェラトゥは露骨に舌打ちする。
『あれは操縦士が悪かっただけだ。俺がお前に性能で負けている訳がないだろう』
『また腹の立つことを・・・だったらもう一度やってみるかい』
喧嘩腰になっているタイフーンを、タリズマンは慌てて止める。

「ま、待て、そんなこと、許可が下りるわけないだろ。お前が破損したら大目玉を食らう」
『・・・・・・・・・わかったわよ』
タイフーンは不服そうだったが、タリズマンには逆らわなかった。
『行くぞ、サイファー』
「あ、ああ・・・悪いな、タリズマンに・・・タイフーン」
『まあ、アイツはここに居た頃から俺様な奴だったからね、慣れてるよ』
そのわりには声を張り上げていたが、それが彼女の気質なのだろう。
サイファーは、格納庫の様子を気にしつつもノスフェラトゥの後を追った。


「おい、ノス、どこに行くんだよ」
『着陸する前に、興味深い奴を見つけた。そいつの所へ行く』
勝手な行動が気にくわなかったが、基地のことを把握していないサイファーはノスフェラトゥについて行くしかなかった。

着いた場所は、一本の大きな木の前。
そこには、ノスフェラトゥに似た色の相手が座っていた。
人がやってきた気配を感じたのか、その相手は立ち上がり、訪問者を見下ろす。
「・・・でっけー!」
自分より一回りも二回りも長身の相手に、サイファーは思わず声を上げる。

『・・・ノスフェラトゥと、操縦士か』
長身の相手は、サイファーの方へ目を向ける。
その目つきはノスフェラトゥと似ているところがあったが、そこに冷酷非道な冷たさは感じられなかった。

「ノス、このでかいのが、お前が興味ある奴か?」
『ああ、戦略衛星軌道砲ソーグ。俺がADMMを使うに値する奴だ』
ノスフェラトゥは、口端を上げて怪しく笑む。
自分の好敵手に成り得る相手を見つけて、高揚しているようだった。


『喧嘩を売るなら受けてもいいが、今は駄目だ。あいつが来る前に、早く帰・・・』
『そーぐ!』
ソーグが二人を追い返そうとしたとき、軽やかな声が響く。
はっとしたとき、小さな少女がソーグの腰元に抱きついていた。

『そーぐ、今日もまっててくれたんだ、うれしいなー』
にこやかに笑うのは、まだ幼く見える少女。
かわいらしいとサイファーは思ったが、これも機体に違いなかった。
ノスフェラトゥは、訝しそうに少女を見る。

『お、おい、離れろ、エーサット』
さっきの仏頂面はどこへ行ったのか、ソーグは慌てている。
エーサットは一旦ソーグから離れ、見慣れない二人がいることに気付いた。

『こんにちは。そーぐのお友達?』
「ま、まー、そんなもんかな。・・・妹なのか?」
説明するのが面倒で、サイファーは適当にはぐらかす。
妹なのかと問われ、エーサットは首を横に振った。

『ちがうよー。だってえーさっと、そーぐとらぶらぶだもんっ』
エーサットはふわりと浮かびあがり、ソーグの首元に抱きつく。
ソーグは否定せず、遠くの方を見ていた。
サイファーは、目の前で少女が浮かび上がったことよりも、機体同士が恋愛感情を持っていることに驚いていた。


『そーぐのお友達も、らぶらぶなの?』
「へっ!?」
思いもよらぬことを尋ねられ、サイファーはとたんに動揺する。
関係性はそれに近いのかもしれないが、らぶらぶなどという甘い言葉は、とうてい似つかわしくなかった。
『だってねー、なんだか、すごく波長があってる感じがするのー』
サイファーがちらりとノスフェラトゥの方を見ると、丁度相手も様子を伺おうとしていたところだったのか、視線が合った。
急に照れくさくなり、サイファーは慌てて視線を少女の方へ直す。

「そ、そーなのか、ノスと、波長がなー」
『うん!のすーと、あいしょうばつぐんー』
サイファーは悪い気はしていなかったが、本人の前でそう言われると反応に困った。
一方、ノスフェラトゥはエーサットの雰囲気に戦意をそがれたのか、その場から立ち去ろうとしていた。
「ま、待てよ、ノス」
『もう帰るの?今度は、いっしょにあそぼうね!』
遠ざかってゆく二人に、エーサットは大きく手を振っていた。




その後、帰る前に挨拶くらいしていこうと、二人は格納庫へと来ていた。
そこには、まだ何体かの機体がうろうろとしていた。
タリズマンは声をかけられる前に二人を見つけ、近付いた。
「・・・変なことで呼び出して悪かったな。俺の目がいかれてるのかどうか、確かめたかっただけだ」
「いや・・・ま、まあ、悪いことじゃないんじゃねーか?波長が合ってるってことで」
タリズマンは複雑な表情をしていたが、サイファーはこの現状を結構楽しんでいた。

「じゃー、俺は帰るわ」
サイファーは滑走路へ行こうとしたが、タリズマンに腕を掴まれた。
「帰る前に、頼みたい事がある。・・・少しの間、ノスフェラトゥを貸してくれないか」
「・・・ノスを?」
サイファーは気が進まないと言いたげに、反射的に眉をひそめた。

「最近、残党の数が多くて面倒なんだ。ADMMがあれば、一掃できる」
これがタリズマン以外の頼みだったら、考える余地もなく断っていたが。
元々、ノスフェラトゥはタリズマンのものだったので、きっぱりと断るわけにはいかなかった。
しかし、ADMMは先日使用を禁止されたばかりだ。
サイファーが悩んでいると、ノスフェラトゥが隣に並んだ。


『俺はごめんだ。お前の元に留まれば、楽しめなくなる』
タリズマンは、ノスフェラトゥの言葉に目を丸くした。
「お前の楽しみ・・・敵を撃墜する以外にあるのか?」
『まあな』
ノスフェラトゥが、サイファーの方へ鋭い視線を向ける。
そのとき、サイファーは本能的に危険を察知し、その場から離れようとした。
だが、黒い腕はそれよりも早くサイファーの肩へまわされていて
そして、相手を強く引き寄せ、首筋に噛み付くようにして唇を押しつけていた。

「いっ・・・!?」
素早い行動に、サイファーは身構える間もなく捕らえられていた。
今となっては珍しい事ではなかったが、人前でされるのは話が別だ。
タリズマンも、他の期待も目を丸くして現状を見ている。
サイファーは何も言えず、ただ硬直しているしかなかった。

サイファーが首筋に痛みを感じた後、ノスフェラトゥが身を離す。
そこにははっきりと赤い痕が残されており、まるで所有物の証のようだった。
「あー・・・そういうことか。まあ・・・そういうことなら、諦める」
「い、いや、これは・・・」
サイファーが弁論しようとしたが、タリズマンは視線を逸らしていた。

『アンタ達って・・・そういうことだったんだ・・・』
「だ、だから・・・これは・・・」
タイフーンからも同じような反応をされ、サイファーは狼狽する。
言い訳をしようと考えても何も関係がないわけではないので、どうとも言えなかった。
ノスフェラトゥは、そんなサイファーの様子を嘲笑うかのように口端を上げていた。

「じゃ、じゃー、俺、帰るわ!」
サイファーは早くここから出たくて仕方がなくて、早足で滑走路へと向かう。
その慌て様を見て、ノスフェラトゥはまた嘲笑していた。
そのとき、タリズマンはノスフェラトゥを譲ったことは正解だったかもしれないと思った。
自分の元に居た時、この機体がこれほど楽しそうに笑った事はなかったから。


「全く、お前は何してくれてんだ!よりによって、タリズマンの目の前で・・・」
帰り際、サイファーは機内で悪態をつく。
『所有者が誰なのか、わからせてやったまでだ』
それは、機体の所有者ではなく、操縦士の所有者を言っているのだと、サイファーは嫌と言うほど承知していた。

「はー・・・でも、色んな機体がいて結構面白かったな。やっぱ、にぎやかなほうが・・・」
サイファーが言いかけたところで、無線にノイズが入る。
何事かとレーダーを見たが反応はなく、周囲に機体の影もない。
だが、機内には聞き覚えのある少女の声が流れた。
『やっほー、きこえるー?』
「あんた、確か・・・エーサット、って呼ばれてたやつか」

『そうだよ。やっぱり、のすとらぶらぶだったんだねー。そーぐと、えーさっととおんなじ』
「お、同じじゃねえ!」
サイファーは、たまらず声を張り上げる。
少なくとも、そっちのように幸せ一杯で、順風満帆な状況では決してないのだ。

『・・・まあ、いろんな形があってもいいんじゃないか』
「い、いろんな形って・・・あーもう!これからタリズマンの基地には行けねーじゃねーか!」
続けて聞こえてきたソーグの発言にも、サイファーは声を荒げる。
どこから見ていたのかは知らないが、これで今日出会った全員に知れ渡ってしまった。
お互いの関係を否定するわけではないが、あまり大々的に知られたくないのが本音だった。
万が一詳しく問われてしまったら、自分のプライドが崩壊しかねない。

『別に困ることはないだろう。それとも、たまには別の環境で蹂躙されたいとでも言うのか』
「な、なわけねーだろ!無駄口叩いてないで、さっさと帰るぞ!」
『ククッ、なら、格納庫でやってみるか?声を漏らせず苦悶している姿も悪くはなさそうだ』
「いや、しねーから!」
そんなやりとりをしていたものだから、サイファーは首の痕の言い訳を考えられず
基地に帰ってから問いただされたとき、冷や汗をかくことになった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
今回いちゃつきは少なく、ほのぼの系で欲望を抑え込んで書いてみました←
擬人化設定は全て友人のイラストから触発されて書いております(´Д`*)