エースコンバット6 ソーグ×アークバード


眼光鋭くひねくれていて、とっつきにくくて威圧感がある
ソーグとは、まさにそんな機体だった
それだから、彼に近付く者はいなかった
たった一人を除いて

「そーぐ、そーぐー」
彼女は、かわいらしい声でソーグに呼びかける
後ろから聞こえてくる幼い声に、ソーグは振り向かなかった
そんな風に自分の名を呼ぶのは、一人しかいない
反応しないままでいると、肩にその相手がのしかかってきた

「・・・なんだ」
「さみしいー」
「離れろ」
「やー」
いつもふわふわと浮かんでいる機体は全く重たくなく、負荷ではなかった
けれど、べたべたされるのはあまり好きではなくて、つい突っぱねていた
そう言って、大人しく離れる相手ではないのだが

ソーグにひっついている彼女の名前は、アークバード
性格もふわふわと浮ついているような、不思議な雰囲気を醸し出している
そんな彼女は寂しがり屋で、しょっちゅうソーグにくっついていた
離れろと言われても、アークバードは怯むことなくソーグの傍にいる
ソーグは軽く溜息をつくと、もう何も言わなくなった


「はなれろって言わないの・・・?」
アークバードは後ろからソーグの両肩に手をかけ、甘えるように体を寄せる
「・・・もういい、勝手にしろ」
どうせ何を言っても無駄なら、相手の気がすむまで自由にさせたほうが早いと、ソーグは諦めた

「やったー」
アークバードは無邪気に笑い、ソーグに抱きついた
こういうとき、ソーグはいつも疑問に思うことがあった
甘えたいのなら、もっと他に人柄の良が相手はいる
なのに、なぜ自分に近寄ってくるのだろうかと




そんな不可解なことを考えていたある日、珍しくアークバードがまとわりついてこない日があった
今日は日差しも強く、かなりの猛暑日
流石に、こんな日は誰かと接するのは嫌なのだろう

そうして一人で歩いていると、草原にぽつんと立っているアークバードが見えた
日避けも何もない場所で、真っ白な服を着て佇んでいる
少しの間眺めていたが、ぴくりとも動く様子がない
もしや、オーバーヒートを起こし、動けないでいるのだろうか
そう思ったとたん、ソーグはアークバードの元へ歩みを進めていた

「・・・何やってんだ、テメーは」
声をかけ、冷却装置となっている左手をアークバードの頭に乗せる
一瞬の内に冷やされ、ぼんやりとしていたアークバードは、はっと目を開いた
「わーい、そーぐ冷え冷えー☆」
冷やしてくれたことが嬉しかったのか、表情はすぐに笑顔に変わる

「何してたんだ、壊れるだろうが」
「夏の温度変化のてすとー」
「・・・程々にしろ」
ソーグは呆れ、アークバードから手を離した
もし、あのまま放置されて、オーバーヒートしていたらどうするつもりだったのか
浮ついた性格からして、恐らく、その後のことは考えていなかっただろう
そんな自業自得にも近いことなど、放っておけばいいと思うが
ほとんど無意識の内に足が勝手に動き、ついでに冷却までしていた
唯一、自分に近付いて来る存在だから、意識せずとも気にしているのだろうか
気付けば、ソーグはアークバードに対して、少しずつ興味を抱き始めていた


「そーぐ、冷え冷えだから、ぎゅーってしてもだいじょうぶだねー」
アークバードは嬉しそうに言い、両手を広げて抱きつこうとする
その前に、ソーグは相手の肩を掴んで押し留めた

「・・・おい、聞きたいことがある」
「ききたいこと?なになにー?」
アークバードは首をかしげ、興味深そうにソーグを見た

「お前・・・どうして俺の所へ来るんだ。他にも機体はいるだろう」
ソーグには、笑顔の一つも見せない相手の所へ来る理由が思いつかなかった
けれど、アークバードはまた無邪気に笑って言った


「だってねー、そーぐといっしょにいると、えーさっと安心するー。
だからいっしょにいたいのー?」
あまりに単純で、意外な答えに、ソーグの仏頂面が驚きに変わった
今まで、ずっと敬遠されるだけだった自分を、一体誰が望むというのだろうか
共に居て安心するなんて、むしろ逆の言葉が相応しいはずなのに

やはり、どこかの回路が熱暴走でも起こしているのではないかと、疑いたくなる
けれど、そんな疑いを持っていても
ソーグはどこかで、アークバードの言葉を嘘だと認識できないでいた
思わず、相手から視線を逸らす

「・・・・・・っ、テメー、どっかイカレてんじゃねーのか・・・」
「えー、ひどーい。そんなことないもーん!
えーさっと、そーぐとぎゅーってしてると、安心するもん。だから好きー」
視線を逸らしたままのソ−グをよそに、アークバードはふわりと浮かび、真正面から抱きついた
ふいをつかれ、ソーグはわずかにたじろぐ

「そーぐ、好きー、好きー」
直球な言葉に、どう対応していいか困惑する
だが、気付けば自然と腕が伸び、飛び込んできた体を抱き留めていた

「・・・わかったわかった」
まるで子供をあやすように、ぽんぽんと軽く頭を叩く
「えへへー」
アークバードは満面の笑みを浮かべ、ソーグに甘えた

冷却装置が働いているので、暑苦しくはない
それでも、自分の中のどこかが温かくなるような、そんな感じがするのは何故だろうか
強い日差しのせいではない温度を、ソーグは確かに感じていた




その後、ソーグがアークバードを突っぱねることはなくなった
今日も日差しは強かったが、オーバーヒートしないよう、二人は木陰に座っていた
アークバードは思いつくままとりとめのない話をし続けたが、ソーグはたまに相槌を打つだけだった
正直なところ、ソーグは会話を弾ませる術など持っていなくて、単調な反応しかできないでいた
ほとんど一方的な会話はやがて終わり、アークバードは満足したように笑った

「そーぐ、いっぱいお話聞いてくれてありがとー。
それじゃあ、えーさっと帰るねー」
まともなコミュニケーションなんてとれていなかったのに、相手は笑っている
場を盛り上げる話もできず、威圧感を与えることしかできない自分にこんな表情を見せるのは、この機体しかいないだろう
そう思うと、少し、未練がましいものを覚える
その未練を感じると同時に、ソーグは立ち去ろうとするアークバードの手を掴んでいた


「・・・・・・もう少し、ここにいろ・・・」
そう告げた瞬間、自分の発言に自分で驚いた
未だかつて、相手を突き放すようなことはあっても、自ら引き止めることはなかったのに
「いいのっ!?」
アークバードはとたんに表情を明るくして、ソーグの隣に座った

「そーぐともっと一緒にいられる。うれしいなー」
ぴったりと体をくっつけたアークバードは、ソーグの肩にもたれかかる
その行動に照れているのか、それとも自分の発言を恥じているのか、ソーグはやや俯きがちになる
だが、やがてアークバードの肩に腕をまわし、小柄な体をほんのわずかだけ引き寄せていた
らしくない行動に驚いたのか、アークバードはソーグを見る
その驚きはすぐに喜びに変わり、アークバードはソーグに飛びついていた

「そーぐ、大好きー!」
「お、おいっ」
アークバードは、両腕を精一杯伸ばしてソーグの肩にまわし、飛び付いた勢いのまま、頬に軽く唇を触れさせた
それは、言葉で伝えきれないほどの愛情表現の表れだった

「っ―――!」
自分の頬に柔らかい感触がしたとたん、動揺せずにはいられず、反射的にアークバードの肩を押し留める
当の本人は、今の行為を恥ずかしいことだと微塵も思っていないのか、不思議そうにソーグを見詰めていた


「お、お前・・・・・・もう帰れ」
さっき引き止めておきながら、矛盾している発言だったが
このまま対面していると、自分の方がオーバーヒートを起こしてしまいそうだった

「えー、そーぐともっと一緒にいたいのにー」
アークバードはまた飛び付こうとしたが、ソーグはさっと立ち上がって背を向けた
「寂しくなった時だけ来い。・・・話を聞くぐらいはしてやる」
それは、いつでも来てもいいと、そう言っているのと同じだった
いつも一人でふわふわとしているアークバードに、寂しくないときなんてないのだから

「そーぐ・・・ありがとう!また明日、お話しようねー!」
アークバードは背を向けたままのソーグに手を振り、ふわふわと浮かんで行った
一方、ソーグはらしくない自分の言葉が恥ずかしくなり、暫く俯きがちのままだった
けれど、なぜかその羞恥心を嫌なものだとは感じていなかった
ソーグは、自分のどこかの回路に何らかの変化が生じているのを、確かに自覚していた




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
友人のリクエストより、初のノマカプ小説です
友人のイラストのシチュエーションを元にしているので、いろんな場面を入れてみました
この頃からだったかな・・・ノマカプでもいいじゃないって思い始めたのは←