エースコンバットZERO7
(登場するブレイズの機体がメビウスとなっていますが、機体の名前を知らないので・・・ご了承ください)



先日、散々恥ずかしい思いをして、サイファーはタリズマンのいる基地から帰って来た。
もう二度と行けないと思っていたが、数日後、また一通の手紙が届く。
それはサイファー当てではなく、イーグルアイに届けられていた。

「サイファー、これからタリズマンの基地へ行ってもらう」
「はあ!?」
突拍子もない事を告げられ、サイファーは眉をひそめる。

「どうやら、かなり厄介な機体に出くわしたらしい。応援が欲しいそうだ」
そう言われても、サイファーは乗り気ではなかった。
あんな場面を見られたばかりだと言うのに、また行かなければならないなんて。
タリズマンの性格からしてそれほど揶揄はされないだろうが、周りの機体達の反応が気にかかる。
だが、そんなことを言うわけにはいかず、サイファーは従うしかなかった。

「はー、全く・・・お前が、あんなことしなけりゃ・・・」
ノスフェラトゥに乗り込み、サイファーは恨みがましく呟く。
『無駄口を叩く暇があったら、さっさと基地へ行け。
タリズマンが苦戦する程の奴だ、興味深い』
「へいへい、わーったよ」

サイファーは、面白くなさそうに適当な返事をする。
このプライドの高い機体が、タリズマンのことを認めていることに対して、不機嫌になる。
元々、タリズマンの元に居たのだから、それは当たり前のことかもしれない。
それでも、サイファーは複雑な面持ちになっていた。


それから、あまり会話はせずに基地へ着く。
格納庫へ行くと、以前の様に人型の機体がうろうろとしていた。
しかし、その数は心なしか減っているように見える。
「来たか、サイファー」
機体、ではなくタリズマンに話しかけられて向き合う。

「あ、ああ。・・・それで、何か、厄介な事になってんのか?」
「驚異的な破壊力を持つ、レーザー兵器を搭載した奴が出てきた。
高速で、かわすのは難しい。・・・何体か落とされた」
どうやら、機体の数が減ったのは気のせいではなかったようだ。
人の形をしているところを見たからか、心が痛む。
タリズマンも同じなのか、声に覇気がなく、今にも溜息が出てきそうな雰囲気だ。

「それで、ソイツを落とす為に助っ人として呼んだってわけか」
「ああ。落とせなくとも、敬遠にはなると思う。ノスフェラトゥも、かなり驚異的な機体だからな。
ああ、それと・・・お前とノスフェラトゥのことは、何も言わないように言ってあるから安心しろ」
「う、あ、あれは・・・」
とたんに、サイファーは言葉に詰まる。
そうして困惑気味でいると、突然警報が鳴った。


「来たか・・・行こう、サイファー」
タリズマンは機体に乗り込もうとしたが、その機体は、人の形になって目の前に立ちふさがっていたから。
「どうした、タイフーン。早く行かないと・・・」
『タリズマン、今日は休んだ方がいいよ。もう毎日のように出撃してるじゃないか』
タイフーンは、心配そうに眉根を下げている。
ノスフェラトゥと言い争っていたときとは、まるで別人のようだ。

「けれど、それはサイファーに負担をかけることになる」
サイファーは、気を遣っているタリズマンの背を軽く叩いた。
「タイフーンの言う通り、疲れてんなら休んだ方がいい。俺とノスに任せとけって」
『ほら、助っ人もそう言ってることだし、ね?』
タリズマンはそれでも迷っているようだったが、二人から言われ、頷いた。

「奴はかなり遠方から撃ってくる。・・・気をつけろよ」
タリズマンが格納庫から出て行くと、タイフーンはほっとしたような表情をする。
そのとき、タリズマンはよほどこの機体に慕われているんだと、サイファーはそう感じていた。


タリズマンを見送った後、サイファーはすぐにノスフェラトゥに乗り込んだ。
「行くぜ、ノス。お前が楽しみにしてた奴とご対面だ」
『タリズマンを疲弊させるほどの相手ならば、期待出来そうだ』
またタリズマンの名が出て、サイファーはやはりそこが気にかかる。
前の操縦士とはいえ、その腕を評価しすぎているのではないかと。
タリズマンが自分より劣っているとは言わない。
けれど、ノスフェラトゥが簡単に相手を評価していることが気に食わなかった。

そんな愚痴を言っても仕方がないので、口数少ないまま出撃する。
レーダーに、まだ敵機の反応はない。
だが、遠くの方で何か光るものが見える。
以前も見たことのあるその光に反応し、サイファーは機体を上昇させた。

すると、その直後に耳をつんざくような音が聞こえ、一閃が放たれた。
赤い閃光が、機体の下を走ってゆく。
方向からして、自分の前方に敵機が居ることは間違いなかったが、その姿は一向に見えなかった。

「かなり遠いな・・・落とせないっていうのは、こういうことか」
レーダーに映らないほど遠くては、ミサイルが届かない。
不用意に近付けば、一閃に貫かれる。
ミサイルで狙えないのは相手も同じはずなので、エネルギー切れを待つしかなさそうだった。

相手の居る方向だけ見失わないようにし、光が放たれたら急旋回して避ける。
その繰り返しはだいぶもどかしく、一気に距離を詰めたい衝動にかられたが
短い周期で放たれるレーザーには、やはり近付くことができなかった。


やがて、エネルギーが切れたのか光が消える。
今の内に追い詰めようとしても、どれほど遠くにいるかわからない相手との距離を詰めるのは不可能に近かった。
「はー、終わったか・・・」
サイファーは、思わず溜息をつく。
高速の光を避けるたびに、かなりの集中力を使う。
これは、タリズマンが疲弊するのも最もだと思った。

『この程度で溜息か。助っ人が聞いて呆れる』
「何言ってんだ、こんぐらいで根を上げるわけねーだろ!」
タリズマンと比較され、サイファーはむきになっていた。
ライバル心を抱いているわけではないのに、なぜか張り合いたくなる。
そんな自分の心境が、不可思議で仕方がなかった。




そんなもやもやとしたものを抱いたまま、サイファーは連日敵機の相手をしていた。
相手は操縦士を変えているのかもしれないが、こっちはそういうわけにはいかない。
数で攻めても落とされるだけなので、一対一で臨むことが被害を最小限に抑える方法だった。
サイファーにはだんだんと疲労の色が見え始めていたが、意地になって飛び続けていた。
そして、今日も警告を示すアラームが鳴る。
サイファーはノスフェラトゥの元へ行こうとしたが、その前にタリズマンに止められた。

「サイファー、今度はお前が休め。疲れているはずだ」
「いや、まだ平気だ。あと数日くらい・・・」
言いかけたところで、突然ノスフェラトゥが人の形をして格納庫へ入ってきた。
『タリズマン、こいつと操縦を代われ』
「何言ってんだ、俺はまだ・・・」
訴えようとするサイファーを、ノスフェラトゥは鋭い眼差しで睨む。

『疲弊している操縦士のせいで撃墜されるのはごめんだ。
久々とは言え、今のお前よりはタリズマンの方が上手く飛べる』
「なっ・・・」
サイファーは絶句して、ノスフェラトゥを睨みかえした。
スクラップにされようとしていたところを救ったとき、柄にもない言葉を告げられたことを忘れたわけではない。
それだけに、悔しさが胸の内に渦巻いた。

「・・・そんなにタリズマンの方がいいなら、勝手にしろ!」
語気を強め、サイファーは早足で格納庫から出て行った。


その晩は、思い切り不貞寝をした。
鬱憤が溜まったせいで悪い夢を見ないように、深く眠った。
けれど、次の日の晩には、サイファーは格納庫を訪れていた。
眠っただけでは、疲労は軽減されても、鬱憤は少しも解消されていなかったから。

「おい、ノス、いるんだろ」
薄暗い室内に向かって呼びかけると、やがて足音が聞こえてくる。
『何の用だ』
姿を表したノスフェラトゥに、サイファーは歩み寄る。

「ノス、お前・・・前、お前は俺のものだなんて言ったよな」
ノスフェラトゥは答えず、ただサイファーを諦観していた。
これから目の前の相手が何をするのか、観察するように。

「それなら・・・お前だって俺のもんだ!独占欲が強いのは、お前だけじゃねーんだよ!」
叫ぶと同時に、ノスフェラトゥの襟を掴む。
そして、自分の方へ引き寄せ、以前にされたように首筋へ強く唇を重ねた。

無機質で冷たいものではなく、人肌に似た感触が伝わってくる。
やり方を知っているわけではなかったが、とりあえず皮膚を吸い上げるようにする。
羞恥心がつのってきたところで離れると、青白い肌にはほのかに赤い痕が残されていた。
このまま何もしないでいると、この機体が元の持ち主の元へ定着してしまう気がして、いてもたってもいられなくなっていた。

『お前も、生意気なことをするようになったものだな』
ノスフェラトゥは、自分に付けられた痕を指先でなぞる。
その表情は、どこか愉快なものを見ているようだった。
「お前が、勝手なことばっかり言うからじゃねーか・・・用事はこれだけだ」
サイファーは出て行こうとしたが、その前に肩を掴まれ、引き止められる。
それと同時に足をひっかけられ、思い切り尻餅をついていた。


「っ・・・何すんだ!」
『あまり騒ぐな。他の奴に感付かれるぞ』
そう諭され、サイファーは口をつぐむ。
それをいいことに、ノスフェラトゥはサイファーの服へ手をかけていた。
「な・・・何する気だよ」
答える間もないまま、ノスフェラトゥは遠慮なくサイファーの服をはだけさせる。
そして、相手を逃がさぬよう肩を掴み、露わになった肌へ口付けた。

「っ・・・お、おい・・・」
ノスフェラトゥは動揺するサイファーをよそに、胸部へ触れる。
唇が触れ、わずかな痛みを感じるたびに、赤い痕が残されてゆく。
それだけではなく、まるでその痕を確かめるように軽く舌で弄られた。
寒気を覚えるような感覚に、サイファーは身震いする。
その行為は何度も繰り返され、いつの間にか頬には熱が上っていた。

「い、いいかげんにしろよ・・・っ」
羞恥に耐えかね、サイファーはノスフェラトゥを押し返そうとする。
『見える場所に付けられたくなかったら、大人しくしていろ』
「っ・・・」
以前の様に、首筋に堂々と付けられてはたまったものではない。
サイファーが抵抗を諦めると、ノスフェラトゥは、今度は背にも触れ始めた。
また、同じ痛みを感じる。
柔らかく、湿ったものが肌を滑る感触も。
サイファーは羞恥を覚えずにはいられなかったが、なぜかその感触を拒めないでいた。

ようやく満足したのか、ノスフェラトゥが離れる。
サイファーはほっと息を吐くと、急いで服を着直した。
「ったく・・・また、風呂に入らないといけねーじゃねーか・・・」
『ククッ・・・』
サイファーの言葉を聞き、ノスフェラトゥは一人怪しげな笑みを浮かべていた。
「じゃ、じゃーな、俺、寝るし・・・」
サイファーはその笑みを不気味に思いつつも、今度こそ格納庫を出た。


『ノスフェラトゥ』
一人になった黒い機体に、声がかけられる。
振り向くと、そこにはタイフーンが佇んでいた。
快く迎えることはできない相手を、ノスフェラトゥは睨みつける。
『喧嘩するつもりで来たんじゃない、ちょっと聞きたいことがあるんだよ』
『何だ』
早く済ませろと言いたげに、ぶっきらぼうに返事をする。
タイフーンは、それに腹をたてることなく問いかけた。

『アンタは、操縦士と良い仲みたいだけど・・・・・・人と機体って、結ばれると思うかい?』
ノスフェラトゥは、閉口する。
本来ならば、ありえない関係。
結ばれているなどという仲睦まじい言葉は似つかわしくないが、それに近い状態でいる。
答えは、すぐには見つからなかった。

『・・・さあな。俺達は、撃墜されればそれで終わりだ』
ミサイルが直撃したとしても、操縦士は脱出装置で助かることができる。
だが、機体はそのまま墜落するしかない。
飛ぶ度に破壊される危険性のある機体と、まだ安全な人との関係が長く続くものなのか、答えは出せなかった。

『そっか・・・邪魔して悪かったね』
つっかかることもなく、タイフーンはやけにしおらしかった。
ノスフェラトゥは面倒な相手にそれ以上関与することはなく、機体の姿に戻っていた。
[newpage]

翌日、回復したサイファーはタリズマンと共に飛ぶことになった。
そのとき、サイファーはどこか動作がぎこちなかった。
「サイファー、まだ疲れが抜けてないのか?」
「あ、い、いや、そんなことねーよ!もう平気だ」
サイファーは、慌てて取り繕う。
この服の下に、無数の赤い痕がついているせいなどとは言えるはずがなかった。

昨日、鏡を見た瞬間、絶句した。
ノスフェラトゥが怪しい笑みを浮かべていたのは、そんな様子を想像したからだろう。
「ならいいが・・・。今日は、奴を落とすためにもう一人呼んでおいた」
「へー、どんな奴なんだ?」
「俺も顔は見たことがないが、ラーズグリーズの悪魔と呼び名がついているほどだ。腕は確かに違いない」
悪魔と聞き、サイファーはどんなに迫力がある相手が来るのかと待ちわびた。

しかし、その後、やって来たのはいたって普通の、温厚そうな青年だった。
「はじめまして、何かピンチだって言うから来たよ。僕はブレイズ、宜しくね」
やんわりと微笑む相手に、二人は一瞬呆ける。
その相手は声の調子も穏やかで、悪魔とは似ても似つかなかった。

「あ、君が円卓の鬼神だね?怒ると怖そうな目つきしてるもん」
「あ、ああ・・・」
サイファーは、のほほんとしているタイプの相手に、どう接していいかわからないでいる。

「相手は、すっげーレーザー兵器使ってくる奴だ・・・大丈夫なのか?」
サイファーが心配そうに問うと、ブレイズはまた微笑んで答えた。
「大丈夫。僕のメビウスは機動性抜群だから、ちょっとやそっとじゃ撃墜されないよ」
自信ありげな返答だったが、二人は不安を覚えずにはいられなかった。
そんな不安を掻き消すように、警告音が鳴り響く。

「来たみたいだな。・・・二人共、頼んだぞ」
そう言い、タリズマンはタイフーンに乗り込む。
サイファーはノスフェラトゥに、ブレイズはメビウスに乗り、飛び立った。


空に、三体の機体が並ぶ。
三人を脅威だと思わない者は、この空にはいなかった。
「ブレイズ、手紙にも書いたが敵機はかなり遠くから撃って来る。気を付けろ」
「ああ、それで近付けないでいるんだろう。なら、俺が行って撹乱する」
タリズマンが言うと、ブレイズは穏やかとは程遠い声で返答した。
声の調子の変化に、二人は驚く。
どうやら、ブレイズは機体に乗ると性格が変わるらしい。

「わ、わかった。俺達は隙をついて撃墜する」
タリズマンが返事をするや否や、メビウスは一気に加速して敵機へ向かって行った。
真っ向から向かってくる相手に気付いたのか、遠くの方で一閃が光る。
機動性が優れているのは本当だったようで、加速しながらもぎりぎりのところでレーザーをかわしていた。

「行くぜ、タリズマン!」
メビウスに続いて、ノスフェラトゥもその後を追う。
タイフーンも、やや遅れぎみに続いて行った。
相手は焦っているのか、短い間隔で閃光が放たれる。
普通なら危ういところだが、先行しているメビウスの軌道を追い、かわすことができていた。
感覚が短くなると共に、相手との距離が近付いているのがわかる。
メビウスの後を追っていると、レーダーに反応があった。

「見つけたぜ、ノス・・・あいつだ」
まだ遠いが、確実に敵機の姿が把握できる。
相手も向かってきている機体を確認したのか、再びレーザーが放たれた。
距離は近くなっているが、メビウスのお陰でかわすことができる。
とうとう肉眼でも敵機を確認できるようになり、射程距離にも入った。

「俺が撹乱して、レーザーの照準を合わせないようにする。後は、隙を見て撃ち落とせ」
ここからは、自分でレーザーの軌道を見極め、かわさなければならない。
サイファーは集中し、操縦桿を強く握った。


最初は、敬遠するように敵機の周囲を回る。
射程距離に入ったのは自分達も同じで、レーザーだけではなくミサイルも放たれるようになっていた。
旋回し、三機共ミサイルは難なくかわす。
だが、たまに放たれる閃光は驚異的で、中々敵機をロックオンできずにいた。

そんな中、間近でレーザーを見ていると、サイファーはかつて相棒だった者のことを思い出していた。
どこかで擦れ違ってしまった、片羽の妖精も、同じように光線を向けてきた。
そうして、一瞬、集中が途切れたのがまずかった。
敵機は、レーザーの照準をサイファーに向ける。

「っ、ヤバイ・・・!」
発射口が赤く光り、今にも放たれようとしている。
間に合わないと、サイファーは直感的に感じた。

「サイファー、避けろ!」
無線から、タリズマンが叱咤する。
それと同時に背後からミサイルが飛んできて、敵機の翼をかすめた。
敵機は、急旋回してバランスを崩しす。

「撃て、サイファー!」
感傷に浸る暇は無い、機は今しかない。
サイファーは敵機をロックオンし、ミサイル発射ボタンを強く押した。

ミサイルは完全に敵機を捉え、正面から直撃する。
爆撃音が轟き、たちまち黒煙が上がった。
機体はそのまま落ちて行き、地面に着くと同時に完全に大破した。
「終わったか・・・」
サイファーは肩の力を抜き、脱力した。


三人が基地へ戻っても、他の機体は人の姿にはなっていなかった。
見えない者が一人、いるからかもしれない。
「はー、お疲れ様。それじゃあ、僕は基地に戻るよ」
「あ、ああ。また今度、礼はさせてもらう」
ブレイズは二重人格なのだろうか。
メビウスに乗っていたときとはうってかわって、穏やかになった雰囲気に、二人はまだついていけなかった。
ブレイズは早々にメビウスに乗り込み、基地を去る。
すると、とたんに機体は人の姿に変わっていた。
その中に表れたノスフェラトゥの姿に、サイファーは安堵する。

「タリズマン、さっきはありがとな。お陰で助かった」
「いや、出演要請をしたのはこっちだ。お前とブレイズがいなかったら、この基地がどうなっていたかわからない」
和やかな雰囲気になったところへ、ノスフェラトゥとタイフーンが近付く。
『いい加減、回顧するのは止めることだな。それだから、タリズマンに引けを取っていることに気付かないのか』
「う、うるせー・・・」
サイファーは、強く反論できない。
ノスフェラトゥの言っていることは最もだったし、撃墜されかけた後ろめたさがあって何も言えなかった。

『それとも、もっと証を付けてやろうか。過去の相手の事など思い出せなくなる程、俺を印象付けてやれば・・・』
「だーっ!それ以上言うんじゃねえ!」
放っておくととんでもないことを言い出しかねないので、サイファーは声を荒げて遮る。
タリズマンはタイフーンに向き合い、聞こえないふりをしていた。


「タイフーンも、よく頑張ってくれた。暫くは休むといい」
労われても、タイフーンは珍しく俯きがちになっている。
『あ、あのさ、タリズマン・・・・・・もっと、他の性能が良い機体に乗り換えてもいいんだよ。
さっき、アタシ・・・かなり遅れて飛んでたし』
やけに控えめな声に、タリズマンは目を丸くした。

「らしくないな、お前がそんなことを言うなんて。俺は、他の機体に乗り換える気はない」
『でも・・・もし、撃墜されたらタリズマンだって危ないんだよ』
タリズマンは、そんな不安を払拭する様に軽く笑った。
「タイフーン、お前は俺の操縦に不安を感じているのか?」
『そんなことないけど・・・少なくとも、さっきの三人の中では一番だって思ってるし・・・』
「なら、安心しろ。俺は絶対にお前を撃墜させやしない。お前が、俺を信頼してくれるのなら」
タリズマンの優しい言葉に、タイフーンの表情は明るくなった。

『あ、当たり前じゃないか!アタシは・・・タリズマンを、信頼してるよ』
そのとき、タイフーンの色白の肌は、ほんのりと赤みを帯びているように見えた。
そんな二人の様子を見ていて、サイファーは胸の内が温かくなるのを感じていた。
そして、自分の隣に居る機体をちらりと見て、ひそかに溜息をついていた。


『何だ、昨晩尋ねてきたのは、そういう理由があったからか』
空気を読まず、ノスフェラトゥがタイフーンを見据えて言う。
「タイフーンが?何を聞いたんだ?」
タリズマンが不思議そうに言うと、タイフーンは露骨に慌てた。

『わー!ノ、ノスフェラトゥ、言ったら、今度こそスクラップにしてやるからね!』
『フン、大きな口を叩く奴だ。まあ、うつつを抜かしているお前には無理なことだと思うがな』
ノスフェラトゥが揶揄するように言うと、タイフーンはかなり動揺した。
『ま、全く不愉快な奴だね!せいぜい、ミサイルアラートに気をつけな!』
タイフーンは、早足で格納庫の奥へ去って行く。

「ノス、お前な・・・」
口端を上げて笑うノスフェラトゥを見て、サイファーは頭を抱えていた。
一方、タリズマンはなぜタイフーンが怒ったのかわからないと言うように呆けていた。
幸か不幸か、案外鈍いらしい。

「・・・そうだ、サイファーもご苦労だったな。ねぎらいになるかわからないが、背中でも流すか?」
「い、いや!いい!それぐらい、自分でできっから!」
そんなことになったら、まともに見られてしまう。
いくら鈍いと言っても、無数の痕を見たら驚愕するに違いない。

「そんなに全力で断ることでもないだろ・・・まあいい。
また、何かあったら頼む。お前達が来ると、タイフーンが生き生きするからな」
「そ、そーなのか。それならよかったけど・・・」
逆に、ノスフェラトゥのせいで怒らせてしまっているようにしか見えなかったが。
そこは、タリズマンにしかわからないところがあるのだろう。

「それに、ノスフェラトゥが楽しそうにしている様子を見るのは、俺も嬉しい。
以前は、もっと凶悪な笑い方しかしなかった」
「いっ・・・さらにタチが悪かったのかよ」
今でさえ手に余るほどだと言うのに、それ以上のことを考えるとぞっとする。

『タリズマン、余計な事を言うな』
「わかったわかった。じゃあ、またな」
「ああ、じゃーな。また一緒に飛ぼうぜ」
タリズマンが去った後、サイファーはノスフェラトゥを横目で見た。
「さっき・・・タリズマンが、お前の性格が前はもっとひどかったみたいなこと言ってたけどよ・・・それって、俺の影響で変わったのか?」
良い答えが返ってくることは期待していなかったが、気になったので一応問うてみる。

『まあな。お前は、タリズマンとは違った』
意外にも素直な返答に、サイファーは少しだけ嬉しくなる。
だが、それはほんの束の間の喜びだった。

『お前は何にでも大袈裟に反応して狼狽する。それに、感じやすい体をしているようだしな』
「お、お前・・・やっぱ、タチ悪いわ!」
相手が耳を塞ぎたくなるようなことを、いけしゃあしゃあと言う。
決して、心地良いものというわけではない。
ただ、正直に言うと、退屈しなかった。
この機体ならば、どんな形にせよ過去を忘れさせてくれるかもしれないと、サイファーはそう感じていた。





―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
サイファーの心境は、自分では気付いてないけどタリズマンに嫉妬してたということにしてあります
何だか、書いてるとサイファーがどんどんノスを好きになっていくような・・・
一応、相思相愛・・・ですかね、歪んでますが(^−^;)
書き溜めはまだあるので、もう少し更新続けられそうです