クーフーリン三兄弟のご近所さん ランサールート2
ランサーは道場に通い、自主練に励む。
それも、自らのゲッシュを果たすため。
スカサハとの手合わせのときはリツも行くけれど、キャスターの言葉を聞いてから素直に応援できなくなっていた。
予測に過ぎないけれど、ランサーが一撃でも当てれば、誰かに想いを告げるのだろうか。
そう思うと、どうか当たりませんようになんて祈ってしまう始末だ。
表面上は応援しているのに、心が反発する。
このまま、ランサーの誓いが果たされませんようにと。
今日も槍がかすらないまま終わり、リツはほっとする。
本当は、残念だったねと一緒に悔しがるのが友達なのに。
「あー!何で当たらねえんだよ!」
「お前は闘争心が強すぎる、どこに攻撃が来るかなど見極めるのは容易い」
相変わらず涼しい顔のスカサハに、ランサーは歯痒くなる。
リツは駆け寄り、いつものレモン水を差し出した。
「お疲れ様、ランサー」
「おっ、いつもありがとな。お前が見ててくれるから、余計に気合入るぜ」
嬉しい言葉のはずだけれど、それなら席を外していようかとも思ってしまう。
うまく笑えなくて、リツは複雑な顔をした。
「ん?どした、悪いモンでも食ったか?」
「はは・・・なんでもないよ」
こういうときはランサーが鈍感で助かると、リツは苦笑いでごまかした。
日は過ぎ、とうとう、その日が来てしまう。
ランサーは日々の鍛錬もあり成長していて、大振りなだけの単純な槍術だけでなく、目にも止まらぬ怒涛の突きを繰り出す。
そして、スカサハの肩を槍の切っ先が掠めた。
スカサハは距離を置き、槍を下ろす。
「ランサー、よくぞこの短期間で成長した、見事な連打であった」
「よっ、しゃあああ!」
ランサーは満面の笑みで叫び、拳を握る。
同じように喜ばなければいけないのに、何で、胸が痛いんだろう。
リツが駆け寄る前に、ランサーの方から歩み寄っていた。
「リツ、お前が応援してくれてたおかげだぜ!」
「・・・おめでとう、ランサー。これで、願掛けも叶うといいね」
心にもないことを言うのは、こんなに苦しいことなのかと痛感する。
「あー・・・それでよ、この後、時間あるか?」
一体何を話すというのだろう、もしかして告白のシチュエーションの相談だろうか。
もう、自分の脳はそんな方向へばかり考えてしまう。
「・・・ごめん、この後、塾があって・・・」
「そっか、それじゃ明日は・・・」
「・・・あの、塾の定期テスト前だから、根詰めて行かないといけないんだ、ごめん・・・」
「あー、そんじゃ、終わったら言ってくれ!」
リツの顔色が冴えないのもテスト前だからだろうと、ランサーは疑わない。
本当はテストなんてない、嘘をつくことが心苦しい。
けれど、ランサーと向き合う準備なんてできていなかった。
それから、忙しいふりをしてひたすらにランサーを避けていた。
試験科目が多い、補習がある、親と出かける。
いろんな理由をつけても、出会うたびに誘われる。
断るごとに胸がちくちくと痛み、辛くなるばかりだった。
あくる日、今日は本当に塾があり、日も落ちた時間帯に大通りを歩く。
「リツ!」
ふいに呼び止められて、びくりと肩が震える。
「ランサー、こんばん・・・」
「もう塾終わったよな、今から家に来てくれねえか」
挨拶も言い終わらない内に、たたみかけるように告げられる。
塾があるという一番の言い訳を使えない時を狙われ、リツは言葉に詰まった。
リツが断る返事をしないのをいいことに、ランサーは手首を掴む。
「あ、あの・・・」
引き留める間もなく、強めの力で引かれる。
リツは諦め、そのままランサーの家へ連れられていた。
家に着くと、ランサーはすぐさま自室へリツを連れて行く。
部屋に入ったとたん、壁際にリツを追い詰め逃げないように立ちはだかった。
「なあ、リツ、もう逃げないでくれよ・・・」
「に、逃げてるわけじゃ・・・」
真剣な表情で言われ、リツは唾を飲む。
もう、正直に言ってしまったほうがいい。
「・・・ランサー、告白するんだと思って」
瞬間、ランサーの目が点になる。
「だ、誰がバラしやがって・・・ま、まあ言いそうなヤツは一人しかいねえけど」
やっぱり当たっていたんだと、リツは胸が締め付けられる。
「・・・それで、女の子がどんなシチュエーションが好きか・・・相談でもしたいの」
「は?」
「だって・・・キャスターさんが、ランサーはモテるって言ってたし・・・。
だから、最近の女性はどんなプレゼント好きなのか、デートスポットはどこがいいのか、相談したかったんじゃ・・・」
「・・・お前、それだから最近元気なかったのか?」
リツは、躊躇いがちに小さく頷く。
何ていう勘違いだと、ランサーはキャスターを恨む。
「ちげーよ!確かに告白は間違ってねえけど、とんだ勘違いだ」
どういうことかと、リツは混乱する。
呆けているリツの肩を掴み、ランサーは真面目な顔になった。
「相談も何も・・・ゲッシュに誓ってた相手は、目の前にいる」
リツは何も言えず、未だに唖然としている。
脳の処理能力が、まるで追いついていない。
「じれったいのは性に合わねえ!オレが好きなのはな、お前だよ、リツ!」
幻聴が聞こえた気がした。
胸の痛みが耳に伝わり、急に悪くなったのだろうかと疑う。
顔を赤くしているランサーを目の当たりにして、ようやく、気付いた。
「ランサー、それって・・・え?え?」
胸の痛みが、別のものに変わる。
自分で勝手に勘違いして、勝手に落ち込んでいた。
こんなこと、いいのだろうか、本当だろうか。
不安感が真逆の感情に変わり、涙が出そうになる。
「・・・お前は、どうなんだよ。友達か?親友か?それでも、諦める気はねーけど・・・」
そんなこと、答えは決まっている。
それだから、うまく笑えなくなるほど苛まれていたのだから。
「・・・オレも・・・ランサーの、こと・・・・・・好き・・・」
今度は、ランサーが呆ける番だった。
「い、いや、正直玉砕覚悟だったっつーか・・・マジで?」
何度も言うのは恥ずかしくて、リツは頷く。
耳の赤色が、本音を物語っているようだった。
「あー、マジで嬉しい!ゲッシュなんて半信半疑だったけどよ、本当に・・・」
ランサーはたまらず、リツをきつく抱きしめる。
槍を操るランサーに見惚れ、誰かに告白すると勘違いして、自分の気持ちに気付いた。
凄い願掛けだと、リツもランサーの背中に腕を回した。
お互いの鼓動が心地よくて、しばらく抱き合ったままでいる。
そのさなか、ランサーが少し力を緩めたので、リツもわずかに身を離す。
やけにお互いの顔が近くにあり、視線が交差する。
照れ臭くて、逸してしまうところかもしれないけれど、お互い留まっていた。
リツも、ランサーも、腕は解かないままでいて
そして、どちらからともなく、唇を触れ合わせていた。
柔らかい箇所から、じんわりと温かみが伝わってくる。
このまま、離れたくないと思う。
思いが通じ合うことは、こんなに幸せなものなのかと、二人は感じとっていた。
1分も重なっていないけれど、静かに唇を離す。
お互い、陶酔するような眼差しで相手を見詰めていた。
「・・・柔らかい、ね・・・」
「ああ・・・」
単純なことしか言えなくて、まだ離れ難い。
この腕を解くのが惜しいと、ランサーは再びリツに唇を寄せる。
リツも受け入れるように目を閉じると、すぐに同じものが重なった。
そこで、ランサーは小さく舌を出して唇の間をなぞる。
リツは驚いたように肩を震わせたけれど、自然と、隙間を開いていた。
ランサーの舌が、ゆっくりと口内に入り込む。
「ふぁ・・・」
吐息と共に声が漏れ、思わずランサーのシャツを掴む。
そんな声と仕草に高揚したのか、ランサーはリツの舌に触れ、やんわりと絡めていた。
「は・・・あぅ・・・」
ランサーの動きに反応するように、自然と声が発されてしまう。
柔くて、湿っていて、ゆっくりと絡め取られていく。
ランサーと交わっているんだと思うと心臓は激しく鳴るばかりで、高揚しているのは同じだった。
たまらなくなって、ランサーはリツの後頭部に手をやり、自身を深く差し入れる。
「んん・・・っ、ふ、ぁ・・・」
舌の全体が絡め取られて、力が抜けてしまう。
滑らかなような、卑猥なような、そんな感触に膝から崩れ落ちてしまいそうになる。
腰が抜けないよう、リツは必死でランサーにしがみついていた。
縋られているような、そんな感覚にランサーは抑えが効かなくなりそうだったが、これ以上は流石にまずいと舌を解く。
ランサーが離れると、リツは熱っぽくぼんやりとした表情で見詰める。
ランサーの腕は、まだ腰に回されたまま解かれない。
これで、我慢しろと言う方が無理だった。
「リツ・・・オレ、もう・・・」
「オイ、ランサーいつまで坊主連れ込んでんだ!親の承諾なしに泊まらせる気か!?」
突然、扉の外からキャスターの声がして、二人はぱっと反射的に離れる。
ふと時計を見ると、いつの間にか結構な時間が経っていた。
「あ、あの、もう帰りますから!」
リツは慌てて返事をして、鞄を拾う。
「す、すまねぇ、遅くまで引き止めちまって・・・」
「い、いや、オレも、時間忘れてたから・・・」
それ以上会話は広がらず、二人は視線を逸らしている。
「・・・じゃ、じゃあ、帰るね」
「そ、そーだな、送ってくわ」
リツはドアノブに手をかけたが、ぴたと止まる。
そして、隣にいるランサーにおずおずと耳打ちした。
「つ・・・次は・・・オレの、家で・・・ね・・・」
自分でも、なんて大胆なことを言ったのかと思う。
けれど、理性より本能が先行した感じがして、言わずにはいられなかった。
まさかの誘いに、ランサーは口をぱくぱくさせて言葉を探す。
動揺している様子を見て、リツは屈託なく笑っていた。