クー・フーリン三兄弟のご近所さん ランサーとの話4
ランサーと旅行に行けると決まった後、行動はとにかく早かった。
すぐに電車で行ける範囲で、かつなかなか行かない場所でビジネスホテルの予約を取っていた。
旅行当日、リツは約束の時間呼びやけに早く目を覚ます。
まるで、遠足を楽しみにする子供に戻ったような気分だ。
早いかなと思いつつ、リュックを背負って駅へ行く。
「あ・・・ランサー」
「おっ、リツ、早えな」
待ち合わせ場所にはすでにランサーがいて、お互い同じだったのかと顔を見合わせて笑う。
「んじゃ、行くか!」
「うん!」
ランサーは青いボストンバッグを肩にかけ、リツの腕を引く。
電車に乗る前から、リツは浮足立って仕方がなかった。
どこへ行くか明確に決めてないけれど、ふらりと訪れて気になる店に入ればいい。
無計画だけれど、自由気ままな旅。
どんな所でも、ランサーと一緒に過ごせるなら何でも良かった。
電車に揺られて一時間ほど経つと、景色はまるで違うものに変わる。
立ち並ぶビルや高い建物、一気に都会の雰囲気になっていく。
電車から降りると、人混みに紛れないようランサーの腕を掴んでいた。
「あっちーな、少し移動しただけでこんなに違うもんかね」
「うん・・・人の多さがまるで比じゃないや。でも、これはこれで違っていいね」
どんな変化でも、普段と違えば思い出になる。
とりあえず荷物はロッカーに預け、散策が始まった。
初めての街で、右も左もわからない。
英語表記の店が飲食店なのか、雑貨屋なのか、服屋なのかも見当がつかない。
日差しが照りつける中、とりあえずあてもなく歩いては目についた店に入る。
雑貨屋では、リツが目を輝かせて色鮮やかな文房具や鞄などを見て、実用的なものを買ったり
食品が売っていれば、酒のつまみによさそうだとお菓子や軽食を買ったり
さすが都会とあって少し歩けば違う店があり、気の向くままに買い物や散策を楽しんでいた。
ほとんど歩きっ放しでも、物珍しさの興奮もあり疲れを忘れる。
そうやって、忘れていたと思ったのだが、ふいにリツの頭が揺れた。
一瞬ふらつくと、はっとランサーが気付いた。
「リツ、立ちくらみか?」
「なんでもないよ、大丈夫」
そう、本当に一瞬浮ついただけだ。
自分に言い聞かせつつ、リツはあまり気にしないでいた。
けれど、しばらく歩いていると、また途中でぐらりと視界が揺れた。
今度はまともに立っていられなくて、壁にふらりともたれかかる。
「リツ、やっぱ体調悪いんじゃねえか」
「・・・ううん、大丈夫」
「・・・まあ、オレもさすがに歩き疲れてきたから、一旦休むか」
気遣わせてしまったと、リツは心苦しくなる。
けど、体がふらつくのは本当で、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
ロッカーから荷物を引き出し、ホテルへ向かう。
リュックが肩に食い込むようで、やけに重たく感じられる。
「ほら、それ貸せよ」
怠そうなのを察したのか、ランサーがリュックをひょいと取って背負う。
「だ、大丈夫だから、そんなくらい、自分で・・・」
「大丈夫、って言うの悪い癖だぜ。相手はオレなんだからよ、素直に甘えてくれりゃあいい」
男らしいことを言われ、リツは頬を緩ませる。
けれど、その喜びの感情がうまく表に出てきてくれなくて、体が疲弊しているのは明らかだった。
何とかホテルに着き、部屋へ行く。
中は普通のビジネスホテルという感じで、こざっぱりした机と椅子と、ベッドとテレビで構成されていた。
そのとき、もうほとんど会話をする余裕がなくなっていて、リツはベッドに座り込む。
ランサーは荷物を置くとタオルを取り出し、額の汗を拭いた。
「顔赤いな、風邪ひいたか?」
「ん・・・そんな感じじゃ、ないんだけど・・・」
長文をつなげるのが、もう辛い。
人混みにまみれ、いつの間にかかなり体力を奪われてしまったのだろうか。
頭がオーバーヒートしているような、そんな感じがして考え事ができない。
「ちょっと待ってな、水買ってくるからよ」
ランサーが走って部屋を出て行くと、リツはのろのろとベッドに横になる。
せっかく二人で遠くへ来たのに、これじゃあ台無しだ。
陽はまだ高い、これからまだまだ散策しようと思っていたに違いないのに。
申し訳なくて、情けなくて、何て謝ればいいのか。
気を暗くしているところへ、また慌ただしくランサーが戻って来た。
「リツ、だいじょ・・・大丈夫じゃねえよな」
尋ねれば、たいてい強がりの返事が帰ってくるだろう。
ランサーは、ぐったりと横になっているリツの隣に座った。
「起き上がれるか?」
「・・・ごめん、怠い・・・」
一度寝転がってしまって、もう起きる気力がない。
このままでは水分補給もできないと、ランサーはリツの背に腕を回して上半身を軽く持ち上げた。
買ってきたペットボトルの蓋を開けてリツの口元へ持って行くが、自分で飲んでくれなければこぼれてしまう。
躊躇っている暇はないと、ランサーは自分で水を含み、リツに口付けていた。
「ん・・・ぅ」
口を割って、ランサーの舌が差し入れられる。
そこを伝って、少しずつ水が注がれていく。
冷たくて清らかで、リツは反射的に喉を鳴らして飲んでいた。
同時に自分の舌も吸われ、ランサーは微かに気が高まる。
けれど、今はただリツを介抱する一心で接していた。
水がなくなり、ランサーが身を離す。
「ランサー・・・もっと、ほしい・・・」
水が欲しいと、そう言われているだけなのにランサーの心臓が鳴る。
まるで、自分の口付けを求められているような錯覚に陥ってしまう。
「・・・ああ、満足するまで、たんと飲め」
ランサーはまた水を含み、リツの口を塞いでいた。
何度か繰り返し、熱っぽさが少し引いてくる。
ランサーは、そっとリツを横に寝かせた。
「ごめん・・・もっと、外回りたかったよね・・・こんなことに、なっちゃって・・・」
「あんまり謝んなよ、お前だって、水族館でオレが水ぶっかけられたとき気遣ってくれただろ?」
ランサーは、気にするなと言うようにリツの頭をくしゃっと撫でる。
「しばらく寝てな、体力落ちたときは寝るのが一番だ」
「でも・・・ランサー、退屈させちゃう・・・」
「いや、お前の寝顔、まじまじ見させてもらうしな。添い寝でもしてれば退屈なんてことねえよ」
ランサーはいたずらっぽく笑い、リツの隣に寝転がる。
その笑顔に安心して、リツは静かに目を閉じた。
目を覚ましたとき、窓の外はもう暗くなっていた。
どれだけ寝てしまったのだろう、ランサーは一人で出かけたのか、部屋には自分しかいない。
退屈させることを引け目に感じていたけれど、一転して寂しさが湧き上がる。
もう、以前と違って一人でいることに不慣れになってしまった。
近所の3兄弟の、特にランサーのおかげで。
のろのろと体を起こし、ベッドのふちに座る。
旅行先ではしゃぎすぎて体がついていかないなんて情けないと、気が暗くなりかけていたとき、扉が開いた。
「おっ、起きたのか。夕メシ買ってきたけど、食えそうか?」
「ランサー・・・」
ランサーはコンビニの袋を手に、テーブルに置いていく。
プリンとか、蕎麦とか、あっさりしてお腹に優しそうなものが並び、食べ物を見たとたんくーっとお腹が鳴る。
「ありがとう・・・寝たらだいふ気分良くなったよ」
「腹が減るのは健康な証拠だ、食え食え」
リツは、さっそく蕎麦のパックを開ける。
一口すすると、体力が回復したからか、単なる蕎麦もやけにおいしく感じた。
ランサーは、冷やし中華をずるずると食べている。
「・・・ランサー、ごめん、せっかくの旅行先なのに、コンビニで・・・」
「だから謝んなって、オレは不満とも何とも思っちゃいねえ。・・・一緒に居られんだ、それでいいからよ」
優しいことを言われ、涙腺が緩みそうになる。
申し訳無さと感謝の気持ちが入り混じっているからか、ランサーがさらに男前に見えた。
食べ終えて一息つくと、体調は完全に戻った感じがする。
けれど、知らない街で夜の散策は危ないだろう。
「先にシャワー浴びるか?」
「うん、そうす・・・」
そこで、言葉が止まる。
この旅行の目的は、この後のことなのだと覚えていたから。
リツが何を考えているのか察したのか、ランサーはばつが悪そうに頭をかく。
「無理すんなって。なーに、チャンスはこれっきりじゃねえんだ。さっさと汗流して寝た寝た!」
ランサーはあっけらかんに笑い、リツの背中を叩く。
「うん・・・ごめん」
リツは反射的に謝ってしまい、気まずくなりそうでそそくさと浴室に行った。
シャワーで汗を流し、体を洗う。
汚れているところなんてないよう、念入りに。
今日はもう寝るだけなのに、心のどこかで覚悟していたのだと思う。
だから、迷いが生まれている。
このまま、旅行を終わらせてしまっていいのかと。
悩み続けたまま、全身洗い終わる。
あまり長いことかけて待たせては悪いと、早々に体を拭いて、パジャマに着替えて浴室を出た。
「早かったな、んじゃあオレも入ってくるわ」
ランサーは、そそくさと浴室に入れ替わりで入る。
まるで、この夜を早く終わらせたがっているように見えてしまう。
リツは、ベッドに腰掛けてじっと床の一点を見詰めていた。
ほどなくして、ランサーが出て来る。
リツは布団をかけ、ベッドのへりによりかかって待っていた。
「はー、さっぱりしたぜ。・・・そんじゃ、寝るか」
「・・・ランサー、オレ、起きたばっかりで眠たくない・・・」
「じゃ、一晩中だべってるか?それか、夜中の怪しい番組でも見てるか」
ランサーはふざけたように言い、ベッドに座る。
近くに来たとき、リツははらりと掛け布団を取った。
その姿を見て、ランサーはぎょっと目を丸くする。
パジャマを着ていたはずのリツは、上も下も、何も身に着けていなかった。
「ちょ、おま、なんで、暑いのか?」
「ううん、そうじゃない・・・だって、こうするつもりで、来たんだから・・・」
明らかに動揺しているランサーに、リツは近付く。
羞恥心がないわけじゃない、それ以上の想いが強いだけだ。
「もし、詫びの意味で言ってるんなら・・・」
「そういうことじゃない。最初から、覚悟してきたから・・・」
リツはランサーの腕を掴み、やや俯きがちになる。
そして、小声で呟いた。
「ランサーと・・・したい・・・」
瞬間、ランサーの理性は崩壊していた。
リツの体を抱き寄せ、唇に覆い被さる。
リツは目を閉じ、ランサーを受け入れていた。
「なあ、本当に体大丈夫か?本調子じゃなかったら・・・」
「ほんとのほんとに、平気だよ。・・・したいって思いも、嘘じゃない・・・」
リツは、ランサーの目を真っ直ぐに見上げる。
「・・・気分悪くなったら、すぐ言えよ。止められるか、わかんねーけど・・・」
もう歯止めは効かないと、ランサーも服を脱ぐ。
銭湯で見たときとは状況が違う。
同じく、何も隠すものがない状態になると、ひきしまった体をまじまじと見ていた。
「やっぱり、男らしいな・・・」
それは、体つきだけのことではない。
今日、気遣ってくれたことも含めて全て、そう感じる。
ランサーは真剣な表情で、リツの肩を押す。
そのまま倒れ込むようにして、体を重ね合わせていた。
素肌が触れ合い、リツは温かみに包まれて目を細める。
心臓の鼓動が心地良くて、一晩中でも重なっていたいと思えてくる。
けれど、じっとしたまま終わるわけではないのだ。
ランサーは、リツの耳元へ唇を寄せて耳朶を軽く食む。
「ひゃっ」
耳に少し触れられただけで、驚きを含めた声を上げてしまう。
ランサーはむしろ楽しむよう、舌先で形をじっくりとなぞっていく。
「ぁ、ぅ・・・」
ぞくぞくと、身震いするような感覚にリツは身をよじる。
感じていることを確かめるように、ランサーは動きを止めない。
その舌は耳の外側をしっとりと濡らしたかと思えば、中にまで侵食してきた。
「ひぁ、っ、や・・・」
形をなぞられているときより刺激がいやらしくなるようで、変な声が出てしまう。
ぬるりとした感触に内側を侵され、また身をよじる。
もじもじと、とある感覚を堪えるように。
ランサーが動くと、液体の音が直に耳に届いてくる。
感触もその音も相まって、体温は異常に上がってくるようだ。
「心音、早くなってきてんな」
「だ、だって・・・ハダカで抱き合ってるだけでも緊張するのに、そんなとこ舐められたら・・・」
かくいうランサーの鼓動も強くなってきていて、同じ感情を抱いているのだとわかる。
それは幸せなことで、リツは頬を染めていた。
「まだ耳だけだぜ?本当は、すぐにでもここ触っちまいたいくらいだ・・・」
ランサーは少し腰を上げ、すり、と下半身を擦り付ける。
「ひゃ・・・」
下腹部の下のあられもないところが触れ、リツは息を呑む。
「ど、どうなっちゃうん、だろ・・・そこ、合わせたら・・・」
単なる疑問を口にしただけだが、ランサーにとっては煽りに繋がる。
早くそうやって教えて欲しい、感じてみたいと。
「・・・なら、もうやっちまうか」
「え・・・っ」
ここまで来て、抑えはもはや効かない。
ランサーは下腹部をぴったりと合わせ、自分のものを擦り寄せた。
「あ、っ・・・!」
びくりと体が震え、つい大きめの声が出てしまう。
はっとして口をつぐむけれど、ランサーは腰を前後に動かし、しきりに下腹部を合わせてくる。
「あぅ、ひゃ、あ」
ランサーが往復するたびに声が止まらなくて、堪えようと思うと逆に上ずったものになる。
そんな声はランサーを興奮させる要因になり、下半身のそれは瞬く間に硬度を増してきていた。
「声、抑えようとしなくていいんだぜ。もう邪魔モンは誰もいねえんだから」
そう、もうどこまでしても止める人はいない。
「・・・うん・・・ランサーの、好きにしてほしい・・・」
ランサーが満足するまでしたい。
気遣いではなく、自分の本心だった。
リツの誘いの言葉に、ランサーの下肢が疼く。
「それなら、遠慮しねえぜ・・・」
ふいに、ランサーは下腹部を隙間なく触れ合わせ密接にする。
そして、掌で二人分のものを包み込み上下に擦った。
「ひゃっ、あ、う」
性器を擦られ、リツは声を抑えられない。
自分でも執拗に触れたことなんてないのに、ましてやランサーと合わせつつ刺激されるなんて。
ランサーも感じているのか、近くで感じる吐息が熱い。
共感しているような、そんな繋がりを感じて、リツはランサーの背に腕を回していた。
「は・・・やべえ・・・もう、止まりそうにねえ」
ランサーは腰を揺らし、前後に大きく擦り付ける。
根元を自分の先端でいじり、形をなぞるとリツのそれがびくりと震えた。
「あ、あ・・・先っぽ、熱くて、へん・・・」
リツの先端からは、とろりとした白濁が漏れ出している。
それは、確かに悦に打ち震えていることを示すようなものだった。
ランサーは先端を指の腹でなぞり、液を指に絡める。
「お前も、感じてくれてんだな・・・」
「だって・・・ランサーが、触ってくれてるし・・・」
本当に、無自覚な煽りの言葉に下腹部が脈動して止まない。
「あー、もー・・・お前は、そういうこと言うから・・・ほんとに、止めらんねえからな」
ランサーは指に絡む液を、リツのものにぬるりとまとわりつかせる。
「ひ、ゃ・・・な、なんだか、いやらしい・・・」
「これから、もっとやらしいことになんだぜ」
リツの潤滑剤を絡ませつつ、ランサーは手の速度を早くする。
「あ、あっ、んぅ・・・っ」
早く強くなった刺激に、リツの声が上ずる。
それはランサーを興奮させる要因になり、更なる欲望をふつふつと湧き上がらせていく。
しきりに擦る手は、絶頂に導くまで止まらない。
往復のたびにリツは身悶えするけれど、腕を解こうとはしない。
恥ずかしくて熱くてたまらない、けれど重なり合っていたいと言うように。
そうしてしがみついていても、初めての感覚にいつまでも耐えられるわけじゃない。
リツは、自身の中に募ってくる強い衝動を実感していた。
「ランサー、っ、あ、だめ、もう・・・」
「イイぜ、出しちまえよ」
ランサーが、リツのものだけ強めに握り込む。
限界が近づくさなかに全体を刺激されたものだから、それは強く脈動した。
「ああ、っ・・・!ん、あう、あぁ・・・!」
衝動が、外へ溢れ出す。
全身が震えた直後、先端から抑えられない白濁が溢れ出していた。
ぬるぬるとした液体が、ランサーの掌とリツ自身に散布される。
一瞬、頭が真っ白になったかと思えば、ぐったりとして何も考えられなくなる。
ランサーは、掌にある卑猥な感触にまた欲情するようだった。
「リツ・・・すげー可愛い」
ランサーは思わず、リツの頬に手をやる。
広い掌に触れられ、リツはうっとりとランサーを見詰めていた。
「ランサー・・・何だか、ぼんやりする、けど、あったかい・・・」
余韻が全身に広がるようで、力がまるで入らない。
そんな感覚は怠さよりむしろ心地いいもので、じっとランサーを見詰めていた。
一方で、相手はさほど気怠くなっていないような、そんな感じがする。
自分だけが感じているのなんて勿体ない、同じようなことを共感してほしい。
リツはあまり深く考えず、ランサーの下肢に手を伸ばしていた。
「ちょ、リツ・・・」
「オレだけじゃだめだよ・・・ランサーも・・・」
意識がおぼろげになっている今だからできる。
リツは、今しがた触れ合わせていたランサーのものへ、掌を添えていた。
「ッ・・・」
ランサーは、驚いたように息を吐く。
それは自分のより幾分か大きくて、まだ固くて、溜まりに溜まっているようだ。
戸惑って手を引っ込めてはいけない、ランサーにも満足してもらわないと意味がない。
リツは思い切って、ランサーのものを緩やかに擦った。
「は・・・っ」
先に触れ合わせていたこともあり、ランサーは陶酔するような目でリツを見詰める。
もっと触れてくれと、まるでそう求められているようだ。
あまり下は見ないようにして、リツはただただランサーを擦り続ける。
直視してしまうと、きっとその大きさに動揺して手を離してしまうから。
ふいに、ランサーは身を下げて、自分の声を抑えるようにリツと唇を重ねる。
「は・・・ぅ」
するりとランサーの舌が入ってきて、リツはまた目を細めた。
全身の体温が上がっているようで、このまま眠ってしまいたくなる。
けれど、その前にしないといけない。
口付けたまま手を動かすと、掌の中のものはどくんと脈動していた。
同時に、ランサーは高揚感を抑えきれないよう、しきりに舌を絡みつかせる。
「は、ふぁ・・・ん」
上も下も交わり合い、甘い声がどうしても漏れる。
いやらしい、液体の感触が理性を奪う。
もはや羞恥心なんて麻痺していて、ただただランサーを握ったり撫でたりする。
自分のもろくに触らないし、テクニックなんてまるでないけれど
少し動くだけでも脈動していて、掌から興奮具合が伝わってくる。
反応してくれているとわかると、自分もまた淫らな感覚を覚えそうになっていた。
そろそろやばいと感じたのか、ランサーが口を離す。
お互いの間に伝う糸がやけに淫猥に感じて、どきりとした瞬間にランサーを強く握ってしまっていた。
「っ、ぁ・・・」
痛くしたかと思い、はっとして力を緩める。
そのとき、ランサーのものがひときわ強く脈動したと思えば、指に液体がかかっていた。
自分もさっき出した、卑猥な感触が指の間に絡みつく。
それは満足したと示すようなもので、ランサーは大きく息を吐いていた。
「はー・・・リツ・・・」
ランサーは脱力し、リツに覆い被さる。
零れた液体が下腹部の間にまとわりついて、また変な気分になりそうになる。
けれど、お互いはもう満足したように余韻を味わっていた。
「ランサー・・・」
リツは、ランサーの首元に頬をすり寄せる。
胸の内から溢れ出るような熱と幸福感に、酔いしれていた。
翌日、リツが目を覚ましたとき、お互い裸のままだったから一瞬目を見開いた。
けれど、すぐに昨日は大胆なことをしたのだと思い出す。
目が覚めても相手が傍に居てくれる、それは何て幸せなことなんだろう。
リツはまだ寝ているランサーの髪をさらさらとすいて、密かにはにかんでいた。
何か触っていると気付いたのか、ランサーも目を覚ます。
「あ・・・おはよう、ランサー」
「おう、おはよ・・・」
寝覚めにリツの裸を見たものだから、ランサーは言葉が止まる。
けれど、同じくすぐに思い出したようだ。
とうとうしてしまったと、夢ではなかったと自覚する。
「・・・チェックアウト、何時だっけ?」
「んー・・・10時だな」
ふと時計を見ると、あと1時間もない。
さっさと服を着て出る準備をしないといけないのだけれど、名残惜しい。
「・・・10分だけでもいいから、少しだけ・・・」
リツは甘えるように、ランサーに身を寄せる。
ランサーは目を丸くしたが、ふっと微笑んでリツを抱き締めていた。
想いが通じ合っていると、そう伝えるように。
帰宅する間も、ずっと胸の内に温かいものを感じていた。
それだから、なおさら離れ難くなる。
人通りが多い場所を抜け、もうすぐ家に着いてしまう。
すると、周囲にあまり人がいないのをいいことに、ランサーはふいにリツの手を取る。
リツは、照れくさそうに少し俯きつつも、その手を握り返していた。
はたから見れば仲の良い友達か兄弟、けれど、もう違うのだ。
そのまま、ランサーの家へ帰宅する。
もう手は離さないといけないけど、二度とつなげないわけじゃない。
「ランサー、誘ってくれてありがとう。・・・すごく、楽しかった」
「おう。・・・長い休みがあったら、また行こうぜ」
「うん!」
リツは微笑んで、快く返事を返す。
そんな良い雰囲気のところで、玄関の扉が開いた。
「おう、帰ったか。イイ思い出作れたかよ」
察しているのか、キャスターがにやにや笑いながら訪ねる。
問われているいい思い出の内容を察し、二人は口を半開きにしていた。
「青春だねえ・・・ランサー、坊主のこと大事にしろよ。何かあったらオレが奪っちまうからな?」
「は!?だ、誰がやるかよ!・・・リツは、もう、俺のだからな」
ランサーに見詰められ、リツは恥ずかしながら頷く。
二人の青春が眩しすぎて、キャスターは直視できないでいた。