クー・フーリン三兄弟のご近所さん+α





今日も親は遅く帰ってこない、いつもなら一人でしんとしているところ。

けれど、今日の家の中は賑やかだ。

「リツにぃ、おそとあそびにいこー」

「わかったわかった、そんなに引っ張るなって」

リツの傍には、4〜5歳くらいの少年がいて手を引っ張っている。

まるでリツをそのまま小さくしたようにそっくりで、年の離れた兄弟のようだ。

リツは少年のペースに合わせるよう、急ぎ足で外へ出た。



公園へ行く途中、三兄弟の家の前を通りかかる。

よければ紹介しようかなと、少年の手をくいと引いた。

「どこいくの?」

「優しいお兄さんたちの家だよ」

誰かいるだろうと、呼び鈴を押す。

「へーい。お、リツ・・・と、んん?」

キャスターが出てきて、少年をまじまじと見る。

知らない相手に見詰められ、ちびはさっとリツの後ろに隠れた。



「この子、親戚の子でリンって言うんです。ちょっと引っ込み思案で」

「ほー、すげえ似てんな、お前をそっくりそのまま小さくしたみてえだ」

キャスターはしゃがんでリンと視線を合わせて、にっと笑う。

その笑顔に、リンはちらと様子を見ていた。

「チビ、プリン食べるか?すげーうまいのがあるぜ」

「ぷりん・・・?たべたい」

「じゃ、上がってけ」

「す、すみません・・・」

子供の素直な物言いに、リツは申し訳なくも中へ上げてもらう。

リビングへ行き、いつものようにローテーブルの前に座った。



「ちょうど買ってきたやつあったんだよ、デパートで催事やっててな」

キャスターが、リツとリンの前にプリンを置く。

こだわり卵のなめらか生クリーム入りプリンと、いかにもおいしそうだ。

「ありがとうございます、オレの分まで」

「わーい、いただきまーす」

リンはうきうきして、さっそくひとすくいして食べる。



「おいしいー、とろとろ」

「ほんとだ、コンビニのとは全然違う」

生クリーム入りとあって、舌の上で滑らかにとろける。

プリンで喜ぶなんて子供っぽいかと思うけれど、美味しさに頬が綻ぶ。

リンもにこにこして、スプーンを舐めていた。

「きゃすた、こっちきてー」

「んー?何だ?」

リンに呼ばれ、キャスターは隣に座る。

「あーん」

お礼のつもりか、リンはプリンをすくってキャスターに差し出す。

「おっ、ありがとよ」

子供は嫌いではないのか、キャスターは安心させるような笑顔でプリンを食べる。

応じてくれたことが嬉しかったようで、リンもにこにこしていた。



「す、すみません・・・」

「可愛らしいじゃねえか、しかもお前にそっくりときた。これはよからぬことをしたくなっちまうかもなあ・・・」

キャスターが怪しいことを言うので、リツは反射的にリンの手を握る。

キャスターに限って酷いことはしないとわかっているけれど、どことなく発言が不安だった。

そんなとき、玄関が開く音と、足音が向って来るのが聞こえてきた。



「リツ、来てんのかー・・・って、リツ小さくなったか!?」

リビングに入るなり、ランサーがリンを見てぎょっとする。

リンのほうも、ランサーを見て目を丸くしていた。

「きゃすたーふえた?」

兄弟でそっくりで、リンはきょろきょろとランサーとキャスターを見比べる。

その発言に、リツもキャスターもふふっと笑う。

「違うよ、あのお兄さんはランサー。キャスターの弟だよ」

「らんさー」

「驚かせてごめん、親戚の子・・・リンを預かってるんだ」

リツに話しかけられ、放心していたランサーははっとする。



「びびった・・・キャスターに変な薬飲まされて縮んだかと・・・」

「オイ、いくらオレでもそんなもん作れねえよ」

否定するのはそこなのかと、リツは心の中でつっこみを入れる。

ランサーは珍しいものを見るように、リツの近くに座る。

「それにしても似てんなぁ、癖っ毛具合とか、のほほんしてそうな感じとか」

「写真見ると、子供の頃のオレと瓜二つなんだ。でも、ランサー達もそっくりだよね?」

「確かに、風貌は似てっけど・・・」

そこで、ランサーは言葉に詰まる。

「似てるけど、何だ?ランサー」

「・・・いやー、趣味はバラバラだなーってな」

キャスターの笑顔に裏があるようで、ランサーはとっさに取り繕う。



「らんさーも、リツにぃとなかよし?」

「おう!釣りに行ったり、銭湯行ったりしてるぜ」

「それなら、リンもなかよしー」

大好きなリツが好きな相手なら安心だろうと、リンはランサーの腕にきゅっと抱き着く。

リツも一番年が近くて接しやすい相手だからか、リンも懐きやすいようだ。

唐突なかわいらしい出来事に、ランサーは胸がきゅんとするような感覚を覚える。



「可愛げあるじゃねえか、よしよし」

ランサーが嬉しそうにリンの頭をくしゃくしゃと撫でると、リンはにこーっと笑っていた。

本当に子どもは癒されると、リツも微笑ましくなっていた。

そんなほのぼのとした雰囲気の所へ、もう一人帰宅する。

のしのしと部屋に入って来て、勢ぞろいの様子を見て、一瞬硬直していた。



「あ、オルタさん、おじゃましてます」

リンは現れたオルタを見て、口を半開きにしている。

「きゃすたーまたふえた?ほっぺにおえかきもしてる」

「こ、こら、リンっ」

「ぎゃはははは!お絵かきだとよ!」

また増えたということと、タトゥーのことを言われキャスターとランサーは吹き出す。

雰囲気はまるで違うが、やはり兄弟なのだ。

オルタは状況が飲み込めていないが、馬鹿にされていることだけはわかる。

ずかずかと二人の所へ迫り、黙らせるよう一発ずつ拳骨をおみまいしていた。



「って!何すんだ!」

「どういう状況だ、これは」

「あ、あの、オレの親戚の子を預かってるんです。

リン、この人はオルタさん、ランサーのお兄さんで、キャスターさんの弟だよ」

「おるたー」

リンはオルタの大きさに、まだ口を半開きにしている。

「リツにぃとなかよし?」

問いかけられたが、オルタはふいと背を向けて遠ざかってしまう。

きっと、子供との接し方がわからないのだろう。



「まあ、アイツは放っておいて、オレ達と遊ぼうぜ!」

ランサーは対照的に子供好きなようで、リンを高い高いしてあやす。

「らんさー、あそぶ!」

ランサーが満面の笑みで接してくれるおかげで警戒心は完全に解けたようで、リンも笑顔になる。

一人では無邪気な子供は手に余るかもしれないと不安な部分もあったけれど

三兄弟と接すれば、リンにとってもいい環境になるだろうと、リツは安心していた。