クー・フーリン三兄弟のご近所さん+α オルタといっしょ





リンの世話をすることになってから、リツの周りは賑やかになった。

三兄弟の家に行く頻度が増えたこともあるし、家にいるだけでも構わずにはいられない。

今日も今日とて三兄弟の家に来て、キャスターに愛でられていた。

「チビは可愛いな、髪柔らかくてあどけなくて」

頭をよしよしと撫でられ、リンはにこにこと笑う。



「リン、きゃすたーのことすきー、おかしくれるもん」

「おいおい、お菓子がなけりゃ嫌いなのか?」

「くれなくてもすきー」

そうかそうかと、キャスターは嬉しそうにリンを撫で回す。

ほのぼのしたやりとりを見ていると、リツも気持ちが穏やかになる。

このまま一緒に暮らしたいと思うほど、リンは確かに愛らしかった。

「名残惜しいけど、そろそろ授業あんだわ、悪ぃな」

「えー」

「また今度、もっともっと遊んでやっから」

離れるキャスターを、リンは不満そうにしつつも無理には引き止めないでいた。



「そろそろ帰ろうな」

「んー、おっきいおにいちゃんともあそぶ!」

まだまだ遊び足りないのか、リンはたっと駆け出して2階へ行ってしまう。

「こ、こら、リン!」

慌てて追いかけようとしたけれど、じーんと足がしびれてその場にへたり込む。

早く行かないと迷惑をかけてしまうと思いつつ、どうにも動けなかった。





静かな部屋に、小さな足音が入り込む。

リンはオルタの部屋を見つけると、遠慮なく中へ入っていた。

「ほんいっぱいあるー」

ベッドで読書をしていたところへ声が聞こえ、オルタはじろりと目だけ向ける。

「・・・お前が読めるようなモンはねぇぞ」

オルタが気づいてくれたとわかると、リンはたたたっと駆け寄りベッドに飛び乗った。

「なによんでるの?」

「言ってもわかんねぇだろ」

リンは立ち上がって、本を覗き込む。



「字ばっかりー」

「・・・お前の兄貴のとこ帰れ」

言っても、リンは出て行かない。

何でこの兄弟は自分の元に来るのかと、オルタは甚だ疑問だった。

ちょろちょろされても邪魔になるので、リンをひょいと引き寄せる。

軽くて小さい体を足の間におさめ、大人しくさせていた。



「リン!」

足のしびれが取れ、次はリツが部屋に入って来る。

リツはリンがベッドに乗っていて、しかも足の間に座っているのを見ると、慌てて駆け寄った。



「ご、ごめんなさい、邪魔して・・・リン、帰るよ」

「やー」

リンはぷいとそっぽを向き、離れようとしない。

「別に、騒がしくしなきゃ構わねえ」

「ご、ごめんなさい・・・」

申し訳なくも、リツもベッドに座る。

近くに来たのはいいものの、邪魔してはいけないと声をかけられない。

やっぱり帰ったほうがいいのではと思った矢先、リンが垂れ下がるオルタの髪にじゃれついていた。



「こ、こら・・・」

「かみのけ、かたいねー」

そう言いつつも、リンは毛先をいじったり掴んだりして遊んでいる。

すぐに離れさせようとしたけれど、その前にオルタがリンに目を向けていて

引き剥がされるかと思いきや、リンの頭をわしわしと撫でていた。

「お前のは柔らかいな」

「えへへー」

リンは何とも嬉しそうに、オルタに甘えている。



オルタにはそれが猫のように見えたのか、頭から手を退けた後は顎のあたりに手をやり、かりかりと掻いていた。

リンはきゃっきゃと笑っていて、強面を目の前にしても喜んでいる。

きっと、この人の本質は穏やかなのだと感じ取っているのだろう。

それにしても、そうやってこちょがしてもらえていることが羨ましい。

リツがじっとリンの様子を見ていると、オルタが目を向けた。



「物欲しそうに見てるな」

「え?そ、そんなことは・・・」

ないです、とはっきり言えなくて口ごもる。

オルタはリンから手を離し、リツの顎に指をかける。

軽く持ち上げられる動作だけでもどきりとして、目を丸くしてオルタを見上げていた。

少しの間視線が交わったが、リンの前でどうこうする気は無いのか手は引っ込められてしまった。



「チビのこと抱えておけ」

「あ、はい」

言われたとおり、リンを自分の腕の中におさめる。

すると、オルタは本を置いてリツの体を両手で持ち上げた。

目を丸くしているさなか、足の間に座る形になる。

さっき羨ましく思っていた体勢になり、一瞬反応が遅れた。



「オ、オルタさん」

「わーい、なかよしー」

リンはリツに抱えられ、リツはオルタに抱えられ、一見すれば微笑ましい光景だ。

リンは無邪気にはしゃいでいるけれど、リツはそれどころじゃなかった。

たくましい腕が回され、二人まとめて抱きかかえられ、背中の全面がオルタと接している。

相手の安定した心音が伝わってきて、それだけでもリツはどぎまぎしていた。



「リツにぃ、おるたのことすきなの?」

「えっ!」

堂々と問われ、リツはすっとんきょうな声を上げる。

「だって、どきどききこえてくるから」

「あ・・・」

リツの頭がちょうど胸の辺りにあり、聞こえてしまっていたようだ。

「・・・うん、そう、そうだよ・・・・・・オルタさんのこと、好き・・・」

子供の問いに答えただけとはいえ、恥ずかしくなって俯く。

「リンもおるたすき!」

リンは無邪気に言い、オルタに笑顔を向ける。



「おるたはリツにぃのことすきー?」

リンの問いかけに、オルタはすぐには答えない。

大胆な問いに、リツは答えを待ってしまっていた。

「おるたも、リツにぃのことみてるもん」

「・・・まあな」

その返事は、見ていることに対してか、それとも最初の問いへの答えか。

どちらにせよ嬉しくて、リツはオルタと目を合わせられなかった。





しばらく黙っていて、そろそろ読書の邪魔は止めて帰った方がいいのではないかと思う。

けれど、今の状況が心地よすぎて離れることができない。

「あ、あの・・・オルタさん、本全然読めてませんよね。・・・そろそろ、帰ったほうがいいですか・・・?」

「チビがいるなら暗くなる前の方がいいだろうな」

暗に、もう帰れと言われて少ししゅんとする。



「じゃ、じゃあ・・・帰ろっか」

「えー」

この体勢が心地良いのか、リンは不満そうだ。

「気を遣わせちゃうから・・・」

さっきの肯定的な返事も、リンがいるからかもしれないと申し訳なくなる。

声を小さくしていると、ふいにオルタがリンの目を塞いだ。

「さっきのこと、別にその場しのぎで言ったんじゃねえよ」

「あ・・・」

心を読んだようにオルタが告げ、リツの顎に手をかけ上を向かせる。

真上にオルタがいると認識したときには、その顔が近づいてきていて

はっとしたときにはもう動けなくて、唇が塞がれていた。



「ん・・・っ」

今までと体勢の違う口付けに、瞬時に心音が高鳴った。

オルタは完全にリツの口を覆い、その柔さを味わっている。

無骨な自分にはない感触に、オルタは目を細めていた。

弟といい、兄といい、柔らかいものの手触りは悪くないと。



前にも後ろにも引けない状態だからか、鼓動は余計に早くなる気がする。

口付けはさほど長くなく離れたけれど、リツは赤面せずにいられない。

「リツにぃ、なんでおかおあかいの?」

「なっ、なんでも、ないよ」

「どきどき、きこえてくるー」

リンは、リツの胸にぴったりと耳をひっつけてその音を聞いている。

ごまかす言葉がもう思いつかなくて、リツはおろおろしていた。



どう言えばいいのかと考えていたさなか、ふいにリンが静かになる。

「・・・リン?」

呼びかけても、聞こえてきたのはすうすうという寝息だけ。

鼓動の音を聞いて安心して眠ったのかと、リツはほっとした。

「ごめんなさい、リンが寝ちゃって・・・もう少しだけ、このままでいさせてもらえませんか?」

「ああ」

これで、まだオルタに抱えていてもらえると、リツは嬉しくなる。

オルタは本でも読もうかと思ったが、その前に無防備なうなじがふと目に入る。

支えてやっているのだから、自分も楽しませてもらってもいいだろうと

オルタは身を下げ、舌先でうなじをなぞっていた。



「ひゃっ!?」

何が起こったのかと、リツは目を白黒させる。

オルタは構わず、柔肌に舌を這わせていく。

「あ、っ・・・オルタ、さん・・・っ」

「堪えてろよ、チビが起きるぞ」

面白がるように、オルタはくっくっと笑う。

これは面白い玩具があると気付いてしまったかのように。

オルタは動きを止めず、肌に口付け軽く吸う。



「っ・・・んん・・・」

リツは、喉の奥で声を堪える。

オルタの唇が触れているとわかるだけで高鳴るのに、声を抑えていることが思いの外もどかしい。

オルタは軽い刺激と共に、首筋に熱を落としていく。

たまに軽く皮膚を吸うと、リツは声の代わりに吐息を漏らした。

体が微妙に震えているのが伝わり、感じさせてやりたいと言う欲が膨らむ。

兄弟の中では理性的な方だが、好ましい相手を目の前にしてお預けなど守っていられない。

刺激を強くしたらどう反応するかと、首の側面を甘く噛んでいた。



「ひ、ぁ・・・っ、ん」

固い感触に怯んだこともあるのか、リツは肩を震わせ、声を抑えきれない。

思い切り歯形をつけられないことをもどかしく思いつつ、逆側も噛む。

「あ、っ、だめ・・・痕、ついちゃ・・・」

痕がつくことだけ心配だが、この行為自体は拒まない。

そんなところがいじらしくて、つい少し強めに噛み付いてしまう。

「あぁ・・・っ、も、抑え、られな・・・っ」

声も、欲も抑えられないのかと、オルタの口端が上がる。

少年相手に欲深くなるのはどうかとも思うが、無自覚の煽りはタチが悪かった。



リツは堪えるようにぎゅっと腕に力を入れてしまい、リンがむにゃむにゃと言いみじろぐ。

起きたリンの前で進めるのはあまりにも意地が悪いと、オルタは口を離していた。

「んー・・・リツにぃ、おはよ」

「お、おはよう・・・」

起き抜けで、リンはぼんやりとリツを見上げている。

「リツにぃ、くびのとこあかくなってるよ?」

「え・・・あ、これ、蚊が入って来て、刺されちゃって・・・」

肩のあたりに赤い点があるのを見つけられ、リツはとっさに取り繕う。



「かゆいの?いたくない?」

リンは心配するように、その赤い点を指で突っつく。

「わ、あ、ダメ、触っちゃ・・・!」

「あれ?ねとねとしてる」

まだ唾液が拭えていないのにと、リツは慌てる。

「あ、いや、前も後ろも挟まれて汗かいちゃったんだ、帰ってお風呂入らないと!」

「てんてんもついてる」

「あ、あの・・・それ、は・・・」

もうごまかす言葉が思いつかなくて、リツはまごまごしている。

純粋な疑問に悪戦苦闘しているリツに、オルタはまた口端を緩ませていた。



「そろそろ暗くなるし帰ろっか!」

はぐらかすようにリツは立ち上がり、リンの手を引いてベッドから離れる。

「・・・おじゃましました」

部屋を出る直前で、さっと頭を下げて声掛けだけする。

直視するだけで戸惑いそうで、まともに顔を見られなかった。

「また連れて来てもいいぜ」

一方で、オルタは楽しむようににやりと笑みを浮かべている。

意地の悪い所があるのだと、リツは新たな一面を察していた。



「うん!おるたとあそぶー。リツにぃもいっしょにいこうね!」

「えーっと・・・」

即答されなくて、リンは首を傾げる。

「いっしょにいくの、いや?」

「そう、じゃないんだけど・・・」

言いよどむリツを見て、オルタはまたくっくっと笑う。

完全にからかわれている、けれど普段仏頂面なオルタが珍しく笑みを浮かべていて

そんな表情が見られただけでも、まあいいかと思えていた。