双子と僕、短編 ハッピー?バレンタイン


2月14日
世の中の男子がそわそわする日
だが、学生にとっては不幸にもこの日は休日だった
そんな日に、輪は双子に呼ばれて部屋へ来ていた
まさかとは思ったが、母以外の女性がいないこの家では、そんなイベントはないものだと思っていた
しかし、その予想は外れてしまった

「兄さん、今日はバレンタインデーだよね」
「好きな人にチョコレートあげる日だよね、兄さん」
双子は、ハート型にラッピングされている物を差し出しす
そこには、自分で結んだのだろうか、少しよれているリボンが巻いてあった
中身を開けなくとも、その形だけでそれが何なのか、簡単に察しがついた

「「ぼくらからのプレゼント。兄さん、受け取って」」
輪は目を丸くして、ラッピングされたものを見る
「これを・・・僕に?」
双子は、笑顔で頷いた
バレンタインデーとは、女性が男性に対して贈り物をする日
それが、まさかこうして兄弟間で行われることになろうとは
輪が戸惑うのも、無理はなかった


「兄さん・・・もしかして、受け取りたくない・・・?」
「兄弟でこんなことするのは、おかしいって思ってる・・・?兄さん・・・」
輪が中々受け取らないので、双子の声は不安そうに沈んでいた

「い、いや、そんなことない。まさか、二人からもらえると思ってなかったから・・・。
ありがとう、嬉しいよ」
輪がハート型をしたものを受け取ると、双子は安心したように笑った
驚いてはいたものの、双子からこうして贈り物を用意してもらえたことは、純粋に嬉しかった
二人は自分を慕ってくれているのだと、そう実感できる気がしたから
だから、輪は気付かなかった
双子の笑みの奥に、隠されている企てを



「兄さん、ぼくらもプレゼント欲しいな」
「うん、何かプレゼント欲しいな、兄さん」
「プレゼント・・・」
双子に言い寄られ、輪は眉根を寄せた
今日この日のことなど意識してもいなかったので、贈り物ももちろん準備していない
何かをあげると言っても、今から買いに行って、それをはいと渡すのでは味気ない
だからといって、今から作れば夕食の支度に支障が出てしまう
どうしたものかと、輪は悩んでいた

「・・・兄さん、プレゼント、思いつかない?」
「それなら、ぼくら欲しいものがあるんだ、兄さん・・・」
「なんだ、目的の物があるのか。何が欲しいんだ?」
それならば、あまり高価な物をねだられたら困るが、できる限りのことはするつもりでいた

「兄さん、ぼくらの欲しいものをくれるんなら・・・」
「少しの間だけ目をつむってて、兄さん・・・」
なぜ目を閉じないといけないのかと、疑問に思ったが
それが双子の望みに繋がるのならそうしようと、大人しく目を閉じた

「兄さん、ありがとう・・・」
「しばらく、そのままでいてね、兄さん・・・」
輪は言われた通り、床に座った姿勢のままじっとしていた
すると、足の方に何かが触れているのを感じた
紐よりも少し太いような、そんなものが両足それぞれに巻きついている感じがする
膝を曲げている姿勢だからか、それは難なく足にまわされていった


「・・・何をしてるんだ?」
目を閉じたまま、輪は問いかける
「後で、ちゃんと見せるから・・・」
「まだ途中だから、そのままでいて・・・」
双子にそう頼まれ、輪は閉口した
すると、今度は両腕を取られ、体の前の方へ誘導される
そして、その腕にも何かが巻きついてゆくのを感じた
両腕を繋ぎ合せるかのように、やや強めに

ふと気付くと、輪は自分の腕が動かせなくなっていることに気付いた
何かが絡みついていて、足もうまく動かせない
輪は、一体自分がどんな状態になっているのか、気になって仕方がなかった

「「・・・兄さん、もう目を開けていいよ」」
輪は目を開き、自分の現状を見る
「な・・・」
その光景に、言葉を失った
視界に入ったのは、ピンク色をしたリボン
それが体に巻かれ、足と腕の動きを封じている
解けないように、双子の手にはリボンの端が一本ずつ握られていた

「兄さん、これが・・・ぼくらの欲しいものだよ」
「だから・・・ちょうだい、兄さん・・・」
「え、な、何・・・っ」
何かを言われる前に、双子は輪の両頬に口付けていた
輪は反射的に身をよじったが、リボンが巻きついているせいでうまく動けない
頬に触れている感触が気恥ずかしいが、この状況ではどうしようもなかった
双子は、身動きがとれない輪に、ここぞとばかりに口付けてゆく
首筋に、口端に、そして、耳に

「っ・・・!」
左右対称の同じ個所に口付けられ、輪は身を震わせて反応する
その様子を見て、双子はくすりと笑った
「兄さん・・・耳、弱いんだ」
「なら、もっとしてあげる・・・兄さん」
耳元で、二人の声が囁かれる
輪は危機感を覚えたが、それはすぐに吹き飛んでしまう
湿り気を帯びた、柔らかな物が耳に触れた

「ん・・・っ・・・」
耳朶に触れられ、くぐもった声が発されようとする
柔らかな二人のものに触れられると、なぜか力が抜けて行ってしまう
緊張で体は強張るのだが、リボンを解く力は出てこなかった
輪が反応していることに高揚を感じているのか、双子の息がわずかに熱を帯び始める
そして、柔らかなものは、輪の耳朶からゆっくりと形をなぞり始めていった

「っ・・・ぁ」
耳に感じた感触に、体の震えと共に呼気が乱れる
さらに、その呼気と共に気恥ずかしい声が口から発されようとする
けれど、羞恥心がそれを必死に抑えていた


「兄さん・・・いいよ、声出して・・・」
「今日は、母さんいないから、ね・・・兄さん・・・」
双子は囁き、再び兄が反応する箇所へと唇を落とす
そして、まるで愛撫するように優しく、兄の抑制のたがを外すように舌を這わしてゆく
声を抑えることができないほどの感覚を与えるように
ついには、外側だけではなく、双子のものは内側にまでも及んだ

「あ・・・っ・・・!や、め・・・っ」
内側に、わずかに触れられただけで、それだけでまた体が震え、声が発された
中に入ってこようとするものに、反応せずにはいられない
その声に双子は満足したのか、一旦身を引いた

「兄さん・・・兄さんの全部、ちょうだい・・・」
「全部、欲しいんだ・・・兄さん・・・・」
うっとりと、何かに酔いしれているような目で、双子は輪を見詰める
そして、そっと肩を押し、仰向けになるよう促した
「っ、ちょっと、待って・・・」
後ろに倒れないよう、輪は不自由な体を必死に支えようとする
制止の言葉をかけたが、双子は耳を貸さない
兄が欲しいという欲求だけが、二人を動かしていた

「あ・・・」
ぐらりと、輪の体が傾き始める
これ以上押されれば、完全に後ろへ倒れてしまう
そうなったら、その先はどうなってしまうのか
輪は再び危機感を覚えたが、もはや遅かった
もうあきらめて、双子に身を任せてしまおうか
そう思った瞬間
部屋の扉が、勢いよく開かれた


「ただいまー。お仕事早く終わったから、帰ってこれたわ・・・よ・・・」
部屋にいた三人は驚き、扉の方を見る
そこには、今日は帰ってこないはずの母が立っていた

「か、母さん・・・」
「お、お帰りなさい・・・」
予想だにしていなかったことに、双子はあきらかに動揺していた
それは輪も同じで、表情には出していないものの、さっきとはまた違う緊張感を覚えていた
この状況を母に問われたら、どう説明すればいいのかと
輪は、次に母が何と言うのか、気が気でならなかった

「・・・二人とも、何をしてるの?」
母は、じっと双子を見て言った
「えっと、これは、その・・・」
「ぼくら、えっと、あの・・・」
双子は必死に言葉を探しているようで、もごもごと口を動かしていた
まさか、兄が欲しくてやったなどと正直に言うわけにはいかない
そんなことを言えば、それこそ家族会議が開かねかねない
だから、双子は何かうまい言い訳はないかと、落ち着きなく視線を動かしていた
それに痺れを切らしたのか、母が一歩前に踏み出してきた

「だめじゃない!輪くんにこんないたずらして!
リボンは、お兄ちゃんを縛るためのものじゃないのよ!」
久々に聞く母の怒声に、双子は身をすくめた
「ご、ごめんなさい・・・」
「す、すぐ、ほどくから・・・」
双子は手分けして、輪に巻かれているリボンを解いてゆく
体が自由になった輪はほっとし、母に感謝した

「輪くんも、あんまり行きすぎた遊びに付き合うことないのよ。
だめなものはだめって、言ってあげてね」
輪のことは被害者だと思っているのか、その言葉は優しかった
「あ・・・うん、わかった。
・・・そうだ、今日の夕飯は僕らが作るよ。久しぶりに、母さんに食べてほしいんだ」
母が早くに帰ってきたときは、夕飯はたいてい母が作るのだが
その場をはぐらかす口実で、輪はとっさにそう言っていた

「あら、そう?それじゃあ、お願いしようかな」
「それじゃあ、すぐに準備するよ。ほら、二人も手伝って」
輪は双子の腕を引き、立ち上がる
そして、そのまま逃げるように、双子をキッチンへ引き連れていった




母から逃れ、キッチンへ着いたとき、双子は遠慮がちに輪を見上げた
「兄さん、ごめんね・・・」
「ありがとう、兄さん・・・」
困らせるようなことをしたにもかかわらず、自分達を助けてくれた輪に、双子は控えめに謝罪とお礼の言葉を口にした
「それより、僕の手伝いをしてくれ。母さんにおいしい料理を作ってあげよう」
おどおどとしている双子を安心させるように、輪はやんわりと微笑みかけた

「「・・・うん!」」
双子の声は、ぱっと明るくなった
とんでもないことをされるところだったが、それでも輪は双子を庇ってしまう
ましてや、母のように叱責することはできない
そんな自分を、つくづく甘いと思う

けれど、双子がこうして笑顔を向けてくれるのならば
それでもいいかと、そんな気になってしまう
双子がくれた贈り物に、自分は予想以上に喜んでいるようだった




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
友人からイラストをいただきまして、モチベーションが上昇して一気に書き上げました〜