擬人ペットの緩やかな日々 猫編2


レイから夕食を二品リクエストされたので、はりきって作る。
一品は新鮮な刺身の盛り合わせで、ちゃんとパックから出して見映えもよくする。
もう一品は赤魚の煮付けと、結構手間がかかる。
味付けは濃くなりすぎないよう慎重にして、レイのことを最優先にする。
自分のその他の食事は、いつものインスタントみそ汁とパックご飯だ。
作っている間、レイはいつの間にかどこかへ行ってしまっていたが
出来上がり近くになると、煮物の匂いに引かれるように戻ってきた。

味付けが濃すぎないか確認して、器に盛る。
刺身をつけると、立派な献立が出来上がった。
「レイ、できたよ。冷めない内に食べよう」
テーブルの前には、すでにレイが待機している。
食欲には勝てないのか、待ちわびていてくれていることが嬉しくなった。

「うまそうな匂いだ。ただ、手で食うのは難しそうだな」
「そうだ、ごめん」
もう一膳箸を用意して、レイに渡す。
けれど、流石に持ち方まではわからないようで、握りしめているだけだった。

「えーと、持ち方はこうやって・・・」
レイの手を取り、箸に指をひっかけるようにして持ち方を教える。
そのとき、自分より細くて長い指が綺麗に見えて、少しどぎまぎした。
さっと手を離すと、レイは箸をかちかちと動かして練習している。
何回か動かした後、刺身を挟んで口に入れた。

「うまい魚だ。スーパーの安いやつじゃないな」
「ちゃんと魚屋で新鮮なのを買ってきたよ」
うまく箸を使えているようなので、自分も食事をする。
久々の煮つけはなかなかおいしくて、昼間よりは食が進んだ。
煮つけは熱かったのか、レイは身をほぐして冷ましてから食べている。
誰かと食事をするのも久々で、手料理を食べてもらえることがまた嬉しかった。


「ごちそうさん、約束通り尻尾に触らせてやるよ」
食事を終えると、レイはソファーへ移動して誘い掛けるように尻尾を揺らす。
自由に触れると思うと自然と生唾を飲んでいて、レイに近付いて行った。
ソファーに腰かけ、そろそろと手を伸ばす。
もう少しで触れるというところで、その手をぐいと引っ張られた。
「うわっ」
力強く引かれ、バランスを崩してレイに思い切りぶつかってしまう。
急に距離が近くなって、目が丸くなった。

「レ、レイ」
「触りたいって言ったのは、あんただろ?」
手元に、レイの尻尾が触れる。
さらさらとした毛並みは手触りがよくて撫でまわしたくなるけれど、今はそれどころではない。
自分の後頭部にレイの手が回り、指が髪をすいている。
さっき見た長くてしなやかな指に触れられていると思うと、やたらと緊張した。

「ふーん、案外柔らかい毛並みしてんだな」
「あ、う、生まれつきで」
後頭部に触れられると、落ち着きがなくなる。
長い指が髪を通るたびに、どぎまぎしていた。

「何緊張してんだよ、あんたがオレにすることと同じだろ?」
「そ、そうだけど・・・」
人形同士では、思うことが違う。
レイにそう言っても、わからないだろう。

撫でられているさなか、ふいに手が離れたので、さっと立ち上がる。
「ははっ、あんた目見開いて面白い顔になってるな」
からかわれたのだとわかり、急にはしずかしさが込み上げる。
何とか、レイのクールな顔を崩せないだろうか。


「・・・そうだ、レイ、今日は結構外歩いて汗かいたよな」
「まあ、余計な布被ってたからな」
「なら、風呂に入って綺麗にしておかないとな」
風呂、という単語に反応して、尻尾がぴくりと揺れる。

「昨日、洗わせてやったばっかりだろ」
「本当なら、毎日だって洗いたいくらいだ。ほら、行くぞ」
今度は、自分からレイの腕を取り、立ち上がらせる。
そのまま、有無を言わさず脱衣場へ連行した。

脱衣場に着くと、レイが逃げないうちにさっと服を脱ぐ。
「ほら、レイも脱がないと」
レイの服に手をかけようとすると、さっとかわされる。
レイは観念したように小さく溜め息をついて、身に付けているものを脱ぐ。
その体は細くてしなやかで、一瞬見とれそうになった。

考えを振り払うよう、さっさと浴室へ行く。
レイも来ていることを確認すると、さっそくシャワーを出して、自分の体を軽く流す。
その後、弱めの水圧でレイの体にお湯をかけると、尻尾が緊張したように跳ねた。

「人の形になっても、水嫌いなのは変わらないんだな」
不機嫌になっているのか、レイは答えない。
あまり水が好きではないことは承知の上なので、さっと流すだけにしておいた。
次は、スポンジを泡立てて、レイの背中を洗う。
痛くしないようにほどほどの力で擦ると、緊張ぎみだった尻尾が垂れ下がった。

もこもこの泡が気持ちいいのだろうか、特に嫌がるそぶりはない。
背中が終わると、肩から腕にかけてスポンジを滑らせていく。
そして、脇腹や腹部を撫でていくと、ぴくりと尻尾が揺れた。


「くすぐったくないか?」
「まあ、笑うほどじゃない」
相変わらずクールな顔を崩したくなって、腹部の辺りをもう一度撫でる。
すると、突然スポンジをひったくられた。

「後は自分でやる」
「そ、そうか」
嫌がっていたはずなのに、態度の変わり様を不思議に思いつつも、好きにさせる。
レイが体を洗っている間、自分は頭や顔を洗った。

ほどなくしてレイの体が泡まみれになると、シャワーでよく流す。
「次は僕が洗うから、スポンジ貸してくれるか」
そう言っても、レイはスポンジを握ったままだ。
「今度は、あんたを洗ってやるよ」
レイは背後に回り込み、スポンジを背中に当てた。
誰かに背中を洗ってもらうのなんて、何年ぶりだろう。
背中の全面が泡でまみれると、肩や腕も擦られていく。
積極的なレイに驚きはしていたものの、懐かしさがあり、身を任せていた。

そして、さっきと同じように、スポンジが腹部の辺りにも触れる。
それが下腹部に当たったとき、はっとしてレイの手首を掴んだ。
「レ、レイ、もういいから」
だが、レイは手を退けようとはしない。
そのとき、耳元に熱っぽい吐息がかけられ、どくん、と心臓が反射的に跳ねた。

「あんたは、オレのこと全身くまなく洗うだろ?だから、同じようにしてやるよ」
するりと、レイの手が太股の辺りを触る。
本能的にこれはまずいと思い、シャワーの詮を思い切りひねった。

「ぶわっ!」
強い水圧が思い切りレイの顔にかかり、ぱっと手が離れる。
その隙にさっと泡を流して、浴室から脱出した。
「き、着替え置いておくから、よく体拭くんだぞ!」
焦りに焦って、適当に体を拭いて、湿ったまま着替える。
温まり足りなくて、体温はさほど高くないのに
心音は落ち着きをなくしていて、大きく息をついた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
定番のお風呂シーン、ますます密接になってゆきます。