擬人ペットの緩やかな日々 猫編4


今日は、朝から憂鬱で仕方がなかった。
もうすぐ長期休暇が終わり、出勤日が来てしまう。
食欲なんてわくはずなくて、溜め息ばかりついていた。
「朝っぱらから、何鬱陶しそうな顔してんだ」
「・・・もうすぐ、仕事が始まるから」
そう言うと、レイは鼻で笑った。

「嫌だ嫌だって、子供かよ。人間は稼がないと生きていけないんだろ」
「そんなこと、わかってるけど・・・」
「それなら覚悟を決めな。気落ちしてたって、何にもならない」
頭では理解しているけれど、そう簡単に気分を明るくできるはずがない。
無反応でいると、レイは部屋から出て行った。
何事にも動じないレイは、うじうじしている主人に呆れたのだろう。
しばらくは一人でじっとしていたが、部屋の空気が重々しくなるようて耐えきれなくなる。
気付けば、足はふらふらと癒しの場所を求めて動き出していた。


向かった場所は、猫の溜まり場。
レイには他の猫の匂いをつけるなと言われていたが、ここまで来てしまっては仕方ない。
もう顔を覚えてくれているのか、さっそく数匹の猫が寄ってきた。
しゃがみこんで、顎の下を優しく撫でる。
ごろごろと喉を鳴らす猫も気持ち良さそうだが、自分もだいぶ癒される。
顎の下だけでなく、頭や体も毛並みにそってゆったりと撫でてやる。
尻尾もやんわりと触れると、猫は気持ち良さそうに目を細めた。

「よしよし、今日はしばらくここにいるからな」
猫を撫でている間は、先にある憂鬱感を忘れられる。
猫は足元にすり寄ってきたり、肩に飛び乗ってきたりして、まさにハーレムだ。
いつの間にか頬が緩んでいて、時間を忘れていた。


思う存分たわむれると、小腹が空いてきて立ち上がる。
猫たちのおかげで、食欲を取り戻せたようだった。
「お前たちのおかげで気が紛れたよ、ありがとな」
猫から離れると、また不安感に襲われそうになる。
なるべく何も考えないようにして、腹が鳴っている内に家に帰った。

帰宅しても、まだレイはいなかった。
静かすぎる部屋に違和感を覚えつつ、いつものように米と味噌汁を用意する。
レイがいないとおかずを作る気にならなくて、それだけ掻き込んだ。
内容が貧相だからか、一人だけの食事がやけにもの寂しい。
いつの間にか帰ってきていないかと部屋を見回すけれど、やはり姿はない。
独り身の寂しさを久々に感じて、ふらふらと寝室へ行く。
何も考えないように寝てしまおうと、ベッドに倒れこむ。
どうか、仕事の夢を見ませんようにと、祈りながら目を閉じた。


目を開けたときには、もう外が薄暗くなってきていた。
気だるい体を起こして、リビングへ向かう。
ぼんやりとしたまま水を飲むと、少し覚醒した。
「ようやくお目覚めか、赤ん坊並みの睡眠欲だな」
気配もなく声がして、はっと振り返ろうとする。
けれど、その前に体が抱きすくめられていて、身動きがとれなくなった。

「レイ・・・お帰り」
「また性懲りもなくあいつらのとこへ行ってきたのかよ、全身から匂う」
「だって、癒されたかった」
そう答えると、レイがさっと離れる。
「なら、オレはここにいなくてもいいな。あんたは、あいつらを思う存分撫で回せばいい」
「えっ・・・」
「オレは、あんたとは趣向が合わない」
飼い主は猫を撫でたいけれど、猫は撫でられたくない。
わかっていたけれど、出て行こうとするレイの腕をとっさに掴んでいた。

「出て行かないでくれ・・・無理に撫でたりしないから」
「懐かない猫なんて、傍に置いておいて価値があるのか?」
「ある!」
声を荒げて、反発する。
「・・・一人で食事してるとき、空しかった。
空き地に出かけたのも、一人でいたからだ。・・・傍に、いてくれ」
言い終えた瞬間、また抱き寄せられる。
そして、唇にざらりとした感触が伝わっていた。
舌が這わされて、心臓が跳ねる。


「あんた、オレの趣向に合わせるって言ったよな」
「い、言った」
「なら、全身についてる臭い、取らせてもらうぜ」
手首を引かれて、寝室へ戻る。
風呂ではないのかと思いつつついていくと、ベッドに投げ出された。
「いきなり、何して・・・」
文句を言おうとする前に、レイが上にのしかかってくる。
急に顔が近くなって怯むと、耳に吐息がかけられた。
そこも、唇と同じようにざらついた感触が這う。

「ひ、あ」
「肩に乗らせたのか、ここまで臭う」
レイは匂いを上書きするように、耳の形を舌でなぞっていく。
前と同じくぞくぞくとしたものを感じて、身震いした。
舌の動きは止まらなくて、内側までも侵していく。

「あ・・・は、レイ・・・っ」
言葉と同時に、変な吐息が漏れてしまう。
外側も、内側も柔らかなものに弄られて、気が落ち着かなくなる。
レイが動くと液体の音が直に聞こえてきて、かっと頬に熱が上った。
耳がしっとりと濡れたところで、レイが一旦離れる。

「まだまだ臭いがするな、全部拭い取るまで逃げられると思うなよ」
「ぜ、全部・・・」
猫に触りまくっていたことを思うと、冷や汗が流れる。
次に、レイは手を取り口元へ持ってゆき、掌を舌で大きく弄った。
「う、う・・・」
遠慮のない愛撫に、よからぬものを感じてしまう。
舌は掌を伝い、指の間にも入り込む。
一本ずつ、爪先からレイの液で濡れていく感触がとてもいやらしい。
そのとき感じているのは寒気ではなく、体を熱くさせる感情だった。


「体温が高いな、何を感じてる?」
「へ、変な、感じ・・・」
「なら、もっと別の感覚に変えてやるよ」
レイは手を離し、服のボタンを手早く外していく。
「レ、レイ、服の中までは猫に触らせてない」
「服から臭いが移ってるんだよ」
間髪入れずに言われると、そうなのかと押し黙ってしまう。
その隙にレイは身を下ろして胸部に近付き、舌先で体をなぞった。

「あ、うう・・・」
素肌に触れられると、くすぐったさよりも寒気が先行する。
けれど、嫌な感覚ではなくてレイをはね除けられない。
ざらついた舌が体をかすめるたびに、変な声が漏れそうになり唇を噛んでいた。
レイの体は徐々に下へと下がってゆき、腹部の辺りに触れられて身をよじる。
そこで、一旦レイが体を起こした。
ほっとしたのもつかの間、下半身の服に手をかけられる。

「ちょっ、どこまで触る気だ」
「撫でるためにしゃがみこんでたんだろ?足にまとわりつかないわけないよな」
全くもってそのとおりで、反論できない。
ズボンも、靴下も取られてしまい、身を隠しているものはあと一枚だけになってしまった。
レイは再び身を下ろし、太股の辺りへ舌を這わせる。

「う、う、んん・・・」
弄られるたびに、唇を噛む。
これは猫がじゃれついているだけなんだと、そう言い聞かせて強く目を閉じた。
感触は下へ移動してゆき、脛から足の甲まで湿っていく。
じゃれついてると言うには丁寧すぎる舐めかたに、自分が反応しかけてしまう。
レイは大切なペットだと、頭でわかっていてもどうしようもなかった。
左足が終わると、右足も同じように愛撫が始まる。
もう限界だと足をばたつかせようとしたが、その前に足を持ち上げられて膝裏を舐められた。

「ひ、ぁっ・・・」
滅多に触れられない箇所に触られ、力が抜けてしまう。
太股まで上がってくる舌を感じて、吐息をつく。
一旦解放されてしまった熱は、もう抑えられなかった。
「ここ、苦しそうだな」
ふいに、レイが下着に手をかける。
これ以上はいけないと、とっさにレイの手首を掴む。

「そ、そんなところ、関係ない・・・」
抵抗する意思を見せると、レイが間近に迫ってくる。
「でも、もどかしいだろ?解放してほしいだろ?あんたのわだかまりを」
恥ずかしい問いかけに、言葉が詰まる。
何も答えられないままでいると、レイの舌が唇をそっと舐めた。
何度も、何度もゆっくりと往復してゆく。
やけに優しげな触れかたに、また吐息をつく。
わずかに隙間を開くと、そこからレイが入ってきていた。

「ん、う・・・」
レイと唇が重なり、お互いの舌が触れる。
やんわりと絡ませられると、気は高揚するのに力が抜けてしまう。
それだからか、なまめかしいと思う反面、どこか心地いいものも感じてしまっていた。
しばらく、静かな交わりが続く。
まるで安心感を与えるような行為に、気付けば安らいでいた。

レイが口を離し、至近距離で視線が交わる。
「あんたの全身に、オレの匂いをつけてやりたい。撫で回させてくれたっていいだろ・・・?」
迫られて、主従関係が逆転する。
否定も肯定もできなかったが、レイを拒む力はとっくに緩んでいた。
返答を聞く間もなくレイは下半身の方へ手をやり、肌着の中へ指を滑り込ませる。
その指先が自身の中心に触れ、思わず口が開いた。

「あ、ぁ・・・レイ・・・っ」
驚愕と動揺を含んだ声に、レイは動きを止める。
「何も、引っ掻くわけじゃない。オレに任せてな、ご主人・・・」
優しく諭すような口調に、緊張感が緩む。
同時に、レイは指先で触れていただけのものを、掌で包み込んだ。

「は、あ・・・う」
思わず、熱い吐息を吐く。
やんわりと包まれただけでも、熱が急激に上ってくるようだ。
肌着はずらされ、ゆっくりとレイの手が上下に動き始める。
「あ、あ・・・っ、や・・・」
少し擦られるだけで、もう声が抑えられなくなる。
先の行為で体はすでに反応していて、短時間の愛撫でもそれは起立してしまっていた。
レイが指の腹で先端を撫でると、それがびくりと脈動する。

「う、う・・・っ」
羞恥心のあまり唇を噛むと、閉じた箇所を開くように口が舐められた。
「堪えずに、オレの愛撫によがってろよ。気持ちいいんだろ・・・?」
至近距離で囁かれ、思わず頷きそうになる。
ぎりぎりで残った理性が、それを押し留めていた。
「オレは、あんたの乱れた姿見て興奮してる。もっと声あげさせてやるよ」
レイが手を離し、下半身の方へ移動する。
そして、その中心にあるものに吐息がかけられて目を見開いた。

「気持ち良くしてやるよ、ご主人・・・」
手で触れていただけのものに、舌が触れる。
「あ・・・!」
ざらついた感触に、一瞬息が止まった。
レイは下から上へと大きく舌を動かし、躊躇いなくそれを弄る。

「あ、あ、や・・・」
性感帯が唾液にまみれ、気が昂らずにはいられない。
手で触れられるよりも感じるものが強くて、反応がごまかせなかった。
レイは、自分の舌の感触を味あわせるように、ゆっくりと動く。
じわりじわりと侵されているようで、往復するたびに身震いしていた。

「あんたの強い匂いがする」
「し、仕方ない、だろ・・・っ」
堪えようと思って堪えられるものではない。
先端からは先走った液が零れ、欲を示していた。


「もっと感じてろよ、発情してるって認めて、溜まったものを吐き出せばいい」
レイが、先端の液ごと全体を弄る。
「ああ、っ・・・や、あ、あ」
恥ずかしげもなく、上ずった声を発してしまう。
そんな声は、レイの愛撫にたまらなく興奮していると言っているようなものだ。
もはや、相手が自分のペットだということを忘れる。
ただただ、弄られ続けて欲が高まっていくばかりで
零れる液が、限界が近いことを表していた。

「レイ、もう、離すんだ・・・っ」
「ここまできて離れるわけないだろ。観念しろよ・・・」
レイの動きが早くなり、何度も舌が這わされて
根元から先端、裏側も余すとこなく唾液が伝う。
「あ、ぁ、うぅ・・・」
呼吸をするたびに声が漏れ、その身が脈動する。
弱い個所を見つけられて、裏側を重点的に舐められるともう駄目だ。
何度目かの愛撫の後、下肢がかっと熱くなった。

「あぁ、レイっ・・・!は、あ、ああ・・・!」
一瞬、全身に力が入り、声が高くなる。
そして、下腹部にレイがいるのにも関わらず、溜まりに溜まった欲が溢れていた。
体が、悦の余韻で小刻みに震える。
肩で息をしたまま動けないでいると、レイが身を起こした。

「あんたの匂い、つけられちまったな」
恐る恐る視線を向けると、レイは自分の顔にかかった白濁を指で拭っていた。
やってしまった、と罪悪感にとらわれる。
「レ、レイ、ごめん・・・不快だろ」
レイはじろりと見下げ、すぐ傍へ寝転がる。

「あんたも、オレの匂いをまとってる。当分、他の奴らは近付かないだろうな」
独占的なことを言われて、どきりとする。
これは、まるでお互いにマーキングをしたようなものだ。
決して、他の猫に気を取られないようにするために。

「こんな猫を飼ったのが運のツキだ。観念してオレのものになりな、ご主人」
熱烈なことを言われて、やはり鼓動が増す。
嫌悪感も恐怖もなく、あるのは胸の熱さだけだった。
「あんたが強い強い負の感情に苛まれたら、また慰めてやるよ。全身弄りまくってな」
方法は何にせよ、レイなりに心配してくれているのだろうか。
主人がペットを気に掛けるのは、当たり前だと言うように。

「そうだな・・・それなら、嫌でも気が紛れそうだ」
抗議しないことが意外だったのか、レイが一瞬だけ目を丸くする。
けれど、すぐに口端を上げて笑った。
「覚悟しな、次はもっと激しくしてやるから」
レイの尻尾が、楽しみを示すように揺れる。
そのとき、初めてレイに求められている気がして、胸の内には幸福感が溢れていた。

この先、憂鬱ことはあるだろうけれど、たぶん乗り越えられる。
この相手が求めてくれるのなら、帰りを待っていてくれるのなら
心は決して冷え切らないと、そんな気がしていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
とにかくひたすら舐めさせたかった回。これ目的で書き始めたようなもんです。
やっぱり動物と言ったらぺろぺろさせるしかないと思った←