軍事国家 番外ラト編4


僕は、最後の確認を含め、ラトと視線を合わせる。
その視線が逸らされないでいると、ゆっくりと、ラトの下肢へ手を伸ばす。
そして、服の上から、違和感のある個所を掌でやんわりと包んだ。
「っ・・・ん」
ラトがわずかに身震いし、目を細める。
布を隔てているとはいえ、包み込んでいるものから熱を感じるようだった。

「リツさん・・・っ、下ろして・・・」
「え?」
切羽詰まっているのか、主語がない言葉が発される。
だが、今のラトの状況を見れば、どうすればいいのかはわかりきっていた。

僕は一旦、熱を帯びたものから手を離す。
そして、ラトの下半身を防護している寝具を、下にずらした。
それから、寝具の内側にある、肌着も。
自身が圧迫から解放され、ラトは羞恥を感じたのか、とっさに視線を逸らした。
照れて視線を外すラトを見るのは初めてで、僕はその様子に、どこかおかしさを感じていた。


「ラト・・・触るよ」
ラトがいつ拒んでもいいように、ここでも確認する。
けれど、自身が露わになっても拒否する意思は見せなかった。
だから、僕も迷わず、解放された箇所へやんわりと触れた。

「ぁ・・・っ」
か細い声が、ラトの口から漏れる。
いつもの毒を吐くときの口調とは似ても似つかず、少し驚いた。
これが、普通の反応なのだろうか。
ラトはそんな自分の声にまた羞恥を感じたのか、視線を逸らし続けていた。

反応しているラトは、どんなことになっているのだろうか。
あまり見てはいけないとは思ったが、ラトが視線を逸らしている内に、ちらと下肢の方を見てみた。
そこには、明らかに平常なときと様子が違うものがある。
血液が集中し、熱を帯びているせいか、やんわりと触れているラトのものは隆起していた。
そんなものを見ることは初めてのことで、僕はわずかに動揺し、さっと視線を上げていた。


「・・・リツさん。嫌になったんなら、いいよ・・・。無理に、しなくても・・・」
僕の動揺を感じ取ったのか、ラトが気を遣う。
「そうじゃない。・・・ただ、こういう風になってるのは初めて見たから、驚いただけだ」
その答えに、今度はラトが驚いていた。
今の状態のものを見たことがないなんて、信じられないと言うように。
僕は、何かを言われる前にやんわりと触れていたものを、今度は掌で包み込んだ。

「ん、ぁっ・・・」
全体を包まれ、ラトは再び声を漏らす。
それは、やはり聞いたことのないようなトーンの声で、僕は何か感じるものがあった。
感覚を手に集中させ、ラトの熱を鮮明に感じ取るように包み込んだまま、その手を動かしていく。

「あ、ぁ・・・っ・・・んん・・・」
指先ではなく、掌全体で愛撫する。
すると、より感じるものがあるのか、ラトの呼気は乱れてきていた。
激しい運動をしているわけではないのに、呼気が荒くなることを不思議に思う。
ラトが感じている感覚は、僕には知り得ないものなのだろう。

僕は継続して、掌全体を使ってラトを愛撫する。
時には、指先で先端をなぞり、そのものの形を滑るように撫でてみたりする。
そのたびに違う刺激が加わるのか、ラトの頬は紅潮してゆき、呼気までもが熱っぽくなってゆくようだった。

そんなラトの反応を、僕は好奇の目で見ていた。
いつもの強がりが、全く感じられない。
さっきまで視線を逸らしていた羞恥も、もはや感じていないのだろうか。
自身に触れられるたびに吐息を漏らし、官能的に思える声を熱と共に発している。
僕はやはり、何かを感じていた。
偽りのないその反応を見ていると、不思議と、触れられてはいないはずの下肢が熱くなってゆくようだった。


「っ・・・リツさん・・・一旦、止めて・・・」
吐息交じりの言葉に制され、僕は手を離す。
掌には、触れていたものの熱がまだ残っているようだった。
「リツさん・・・リツさんにも、触れさせて・・・」
ラトは僕の返答を待たず、すでに手を伸ばしていた。
さっき熱を感じた、下肢のその箇所へ。

「っ、ラト・・・」
伸ばされたラトの手に、動揺する。
しかし、ラトは躊躇うことなく、寝具の中へ手を滑り込ませていた。
とたんに、心音が高鳴る。
ラトに、触れられようとしている。
自分でもそうそう強くは触れたことのない、その箇所を。

しかし、止めようとはしなかった。
ラトが強がれなくなるほどの強い感覚を、感じてみたいと思った。
抵抗しないでいると、ほどなくして下着の中にラトの手が入り込んでくる。
そして、その手は迷うことなく、熱を感じつつある箇所へ添えられた。

「っ・・・ぁ」
力を込められているわけではなく、やんわりと触れられただけなのに。
僕は一瞬目を見開き、肩を震わせていた。
ラトはそんな僕を見てくすりと笑みを浮かべ。
今度は、さっき自分がされたように掌全体で、触れているそれを包み込んだ。

「ぅ・・・ん・・・っ」
全身に、瞬間的に走った感覚に、意識しなくとも思わず声が漏れてしまいそうになる。
だが、羞恥からか、反射的に口がつぐまれる。
ラトはそれが気に食わなかったのか、ふいに手を動かし始めた。
ゆったりと慣れさせるのではなく、多少荒々しく、僕のものはラトの手に強く愛撫された。

「っ、あ・・・ぁっ・・・」
急に強く触れられ、とたんに身が震えた。
自然と、声が発されてしまう。
それは、いつも無愛想な自分のものとは思えないほど、熱を含んだものだった。
声と共に、体が熱を帯びてゆく。
たった一か所、その箇所に触れられるだけで、平常でいられなくなる。
そのとき、僕は感じていた。
触れられる悦と、触れたいと思う欲を。


「リツさん・・・ボクのも、触って・・・」
僕は、もはや迷うことなくラトの下肢に手を伸ばす。
すると、さっきとは違う感触が掌に伝わってきた。
液体状の、粘液質なものがまとわりついてくる。
その液は潤滑剤となり、手の動きを流暢にしていった。

「あっ・・・あ、んん・・・っ」
粘液質なものに反応しているのか、ラトの声は上ずり、ますます熱っぽいものになる。
そんな声を聞くだけで、また下肢が熱くなった。
「は・・・っ、リツさんも・・・出てる」
主語のない言葉だったが、それが何を示しているのかすぐに判明する。
自身に触れているラトの手の動きが、とたんに滑らかに、流暢になった。
淫猥にも思える液の感触は、敏感な個所をさらに反応させた。

「っ・・・あぁ・・・っ」
ラトだけではなく、僕自身からも同じ液が零れ落ち、気を抜くと体が支えを失ってしまいそうになる。
悦楽という感覚は、それほど強いものだった。
「・・・リツさん、一緒に・・・っ」
荒い息交じりで、ラトが訴える。
だが、何を、どうすればいいのかわからない。
ただ僕は、少しでも、強い悦を与えるようがむしゃらにラトに触れ続けた。


手の動きが荒々しいものになると、ラトも同じく動きを速めてくる。
全体に液を絡みつかせるように、掌にも、指先にも自身が翻弄される。
僕の息はとっくに荒くなっていて、言いようのない熱を、全身に感じていた。

「リツさん、ボク、もう・・・っ、は、あ、あぁっ・・・!」
突然、ラトがいっそう上ずった声を発し、体を震わせる。
そのとたんに、愛撫されていた自身のものが、強く握られた。
「っ、ぅ、あ・・・っ・・・ラト・・・っ・・・!」
抑えようのない、同じような上ずった声が発される。
自身を強く握られた刺激に耐えきれず、達していた。
脈打ったものが白濁を散布し、ラトの体に液が落ちてゆく。
達したのはラトも同じで、僕の体にも液がかかっていた。


「・・・は・・・ぁ・・・」
ラトは大きく息をつき、腕をベッドの上に落とした。
悦の余韻からか、急に脱力感が身にのしかかってくる。
力が抜け、僕はラトの横に寝転がった。
「リツ・・・さん・・・」
やんわりと、首にラトの両腕がまわされる。
その熱が、やけに心地良くて。
僕は、ラトを包み込むようにしてその体を抱いていた。

お互いの液で服が汚れ、シーツにもその液が付くが、今は気にかけていられなかった。
達した後の余韻で、脳の芯が痺れているようで、息を整えるのが精一杯だった。

「ね・・・嫌じゃなかった・・・?ボクと、こんなことしちゃって・・・」
冷静になったからか、ラトが不安そうに問いかけてくる。
「嫌だったら、最後までしてない。・・・気持ち悪いことはなかったし」
ラトに触れることも、触れられることも、微塵も嫌悪感はなかった。
むしろ、僕はラトから、熱を与えられることを望んでいた。

そのとき、ふと思った。
こういう行為を拒まなかったということは、僕はもしかしてラトを愛しているのだろうかと。
ただの友人同士の慣れ合いにしては、過度すぎる行為。
人付き合いの少ない僕には、よくわからない感情だけれども。
ラトに口付けることも、触れることも、全て自分から望んでいた。
それは、やはり、そういうことなのだろうか。
自分で自覚しない内に、僕は―――。


「ラト」
「ん、何?」
「僕、たぶん、ラトのことを愛してる」
その言葉を言い終わったとたん、ラトは顔を上げ、信じられないものを見るような目で僕を見た。
「・・・・・・そっか」
ラトは一瞬、無邪気な子供のように笑い、顔を伏せる。
それは、まるで照れくささを隠している子供のように見えた。

「ボクも・・・・・・」
ラトが何かを呟いたが、俯いているせいかそれは聞こえなかった。
僕は、自分の心情がはっきりとわかっていないから、「たぶん」としか言えなかった。
けれど、いずれ言えるようになるかもしれないし、感じられるようになるかもしれない。
人から愛されることのなかった僕に、今の今まで向けられることがなく。
僕も誰かに向けることもなかった、愛情と言うものを。
腕の中に居る、この愛しい相手に―――。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
これにて、ラト編は終了です。
一週間で一話のペースだったので・・・思えば約四カ月かかってますねorz。
しかも、まだハル編があるっていう。
ですが・・・その前に、書きたい連載があるので。
軍事国家の更新は、申し訳なくもおろそかになってしまうかもしれませんm(__)m