―少年兵器 2―


どのくらい眠っただろうか
僕は、誰に起こされることもなく目を覚ました
いつの間にか蛍光灯の光が白い色に戻っていて眩しかった
眠っている間に孤児院へ戻ってきているんじゃないかと、起き上がって周囲を見回したが何も変わっていない
部屋にあるのは相変わらず、無機質で冷たい壁と、扉だけがあった

寝惚け眼で扉を見ていると、僕が起きたのを見計らったかのように扉が開いた
やはり、入ってきたのは男性だったで、昨日と同じように床にトレイと白い服を置いて出て行く
昨日、疑問に思ったことを尋ねようかと思ったけれど
聞いたところで何かが変わることもないだろうと思い直し、黙っていた

僕は床に座って、トレイの上の食事を残さず食べる
食事を終えると、一緒に置かれている新しい白い服に着替え、昨日テレビを見た部屋へ向かった
扉を開けても、もう視線は感じなかった
みんな、不安で仕方がなくて他人に気をかけることなんてできないと言うような、暗い表情をしている
ただ、一人を除いて


「よお、セキ」
テレビの前に陣取っていたルカが振り向き、僕の方を見た
僕は無言で、ルカの隣に座る
テレビの画面は、まだ真っ黒だった
「お前、よく眠れたか?」
時計がないのでどのくらい眠っていたのかわからないが、寝覚めは良かったので「うん」と、一言答えた

「俺は嫌な夢見たぜ。昨日の映像の動物が出てくるんだ、もちろん血まみれでな」
ルカはそう言ったが、やはりその表情に恐怖や不安は表れていなかった
少しの沈黙が流れた後、僕はルカに尋ねたい事があったのを思い出し、唐突に話を切り出した

「ルカ、何で君は・・・」
言葉を言いかけたとたん、テレビから電子音がして、画面が真っ赤になった
僕の言葉は途中で止まってしまい、ルカには届かなかった
今日は何か違うものが映されるかもしれないと思ったのか、数人の子供が集まってくる

けれど、映されたのは昨日のような生易しい映像ではなかった
周りにいた子供達の顔から、さっと血の気が引いていく
そして、僕とルカ以外の子は足早でテレビから離れた
映されたのは、僕よりもっと小さい子供の死体だった
本物か、偽物なのかはわからない
うつ伏せになって倒れているそれからは、赤黒い液体が地面に広がっていた


「・・・何かコレ、昨日よりレベルアップしてねえか」
確かに、昨日は動物の死体ばかりで、人の画像は一枚もなかった
その画像が途切れ、次の画像に切り替わる
今度は、僕と同年齢くらいの子供の死体が映されていた
それもうつ伏せになって倒れていて、今度は脇腹から赤黒い液体が流れ出ていた
僕とルカは、黙ってその映像を見ていた

画像が切り替わる度に、死体はどんどん年齢を増して行った
老人が終わると、また子供に戻る
死体は何パターンもあり、それは枚数を重ねるにつれて過激で残酷なものになっていった

けれど、流石にこれだけあると、全部作り物なんじゃないかと疑い始める
そう自分に言い聞かせつつ、画面が真っ黒になるまで僕とルカはテレビの前に居た
映像が終わり、扉からロックの開く音がすると、みんな我先に部屋から出て行った
あんな恐ろしい画像を映し出すテレビの傍にはいたくなかったんだろう
部屋には、昨日と同じく、僕とルカだけが残っていた

「あれ、流石に作り物だよな」
本当の事はわからなかったが、僕は「そうだと思う」と、答えた
「だよな。そう言えば、さっき俺に何聞こうとしてたんだ?」
「・・・何で、ルカは僕に話しかけたのか。その理由」
僕がそう訊ねると、ルカはきょとんとした表情を見せた

「あんなに人がいる中で、何で僕に話しかけたの?」
じれったくなって、僕は再び問い掛ける
すると、ルカは少し考えた後、口を開いた
「何つーか、お前は他の奴らと違って話しかけやすかったんだよ」
僕は、その意外な返答を信じられなかった

「僕が、話しかけやすかった?」
「ああ。俺が初めてお前を見た時、他の奴らと違って不安でたまらないって感じがなかったからな。
だから、少しはまともに話せるんじゃないかと思った」
僕は、ルカの言葉に驚かされた
あの時、不安を感じていなかったと言ったら嘘になる
けれど、他の子供達ほど不安や恐怖に満ちた顔はしていなかったように思える
この状況下でそんな僕の様子に気づいたルカの事を、素直に凄いと思った


「それじゃあ、セキは話しかけた俺を見てどう思った?」
「え・・・」
僕は、返答に困ってしまう
あの時、僕はルカの事をよく見ようとはしていなくて、覚えていなかった

「・・・・・・答え、られない」
言葉を詰まらせながら言うと、自分の気持ちが落ち込むのがわかった
何も答えられなかったことが情けなかったからだろうか
「そっか。まあ、あんまり人と接してなかったんだもんな、いきなりこんな事聞かれても困るよな」
ルカは特に気にしていないのか、あっけらかんに言った

「お、また邪魔者が来たみたいだな」
僕も通路を歩いて来る人に気付き、口を閉じる
「じゃあな、また次の観賞会の時話そうぜ」
「うん」
ルカが立ち上がり、部屋から出て行く
僕も後を追うように、自分の部屋へ戻った
部屋に戻ると、昨日と同じく、ベッドに寝転んで天井を見た

そうしていると、また疑問が浮かんでくる
今度は相手に対するものではなく、自分に対するもので
どうして僕は、ルカにだけ疑問をぶつけたのだろう、と
この部屋に入って来る男性にも、尋ねたいことはあった

なのに、尋ねる気にはならなかった
答えを聞いても、ここから出られるわけじゃない
何も変わらないのなら、どうでもいいと思っていた
それは、ルカに対しての質問も同じだと思っていたはずなのに
僕はあの時、ルカに尋ねることで何かが変わると思っていたんだろうか
自分のことなのによくわからなくて、僕は悶々とした時間を過ごし、やがて蛍光灯の光がオレンジ色に変わった