―少年兵器6―
僕は、扉の開く音で目を覚ました
起きるとまず一番に、置かれていた新しい白い服に着替え
その中に、服の切れ端でくるんだナイフを忍ばせた
食事が置かれていたが、僕は食事をする時間ももどかしくて昨日の部屋へ向かった
扉を開けると、そこには昨日の男性も含む全員がすでに揃っていた

「揃ったようだな。では、これから野外演習を行う、ついてこい」
その男性を先頭に、子供達はぞろぞろと後を歩いて行った
もうどうにでもなれと言った感じで、その表情からは気力が感じられない
僕とルカは、一番後ろを歩く
その少し後ろに、別の男性がついた
僕はその男性に聞こえないように小さな声で、ルカに話しかけた

「ルカ、この野外演習で、僕は君を逃がす」
僕の言葉に、ルカは驚きの表情を見せた
「何言ってんだ、それこそ殺されるだろ」
ルカも、小さい声で言う

「大丈夫、どんな事をしても僕は君を逃がしてみせる」
「そんな事言っても、演習ってどんな事するか・・・」
「おい、静かにしろ」
後ろにいた男性に気付かれてしまい、ルカは口を閉じた
たとえルカが何を言っても、この考えを変えるつもりはなかった
覚悟は、もうしてきたから


それからは、お互い黙っていた
しばらく歩いていると目的の場所に着いたようで、歩みが止まる
前の方には、いかにも厳重そうな扉があった
男性が鍵を取り出し、その分厚い扉を開く

強い、太陽の光が差し込んで来る
冷たい地面ではなく、草を踏む感触がする
上を見上げると、天井ではなく青空が広がっていた
外には、青々とした葉をつけた、背の低い木が生えていて
人工的に作られた物は、遠くの方に見える金網だけだった
こんな風景を見るのは、とても久し振りな気がする
それだけ、ここでの生活は長く感じられていた

「これから、野外演習の説明をする」
低い声に、僕は男性の方を向いた
「これからお前達は10分間、あいつらから逃げてもらう」
その男性が指さした先には、拳銃を持った男性が数人立っていた

「心配しなくても、あれはペイント弾だ。10分間、弾に当たらなかったら合格。当たったら不合格だ」
たぶん不合格になると、殺されるんだなと察しがつく
けれど、今の僕にとっては、そんな事は関係なかった

「それでは、1分後にあいつらが追いかけに行く。さあ、もう逃げていいぞ」
男性がそう言った瞬間、子供達は蜘蛛の子を散らしたように散り散りに逃げだした
不合格ならば殺されると、察しがついている子もいるのかもしれない
子供達はかなり必死で逃げているようだった
逃げるなら、今しかない
僕は、むりやりルカの手を取って走り出した
でも、ルカの方が足が早く、逆に僕の方が引っ張られる形になった


「逃げるって、本気なのか?」
走りながらルカが問い掛けた
「うん。とにかく、金網の所まで行ってほしい」
僕達は、全速力でそこまで走った
金網は間近で見ると結構高く、3、4メートルはありそうだ
しかし金網の目は荒く、慎重にいけば上ることができそうだった

「もうすぐあいつらが追いかけてくる。ルカ、早く上って!」
まずは、見つかる前にルカをフェンスの向こう側へ行かせないといけない
ルカは僕の焦りを感じたのか、何も言わずに金網を上り始めた
その時、後ろの方から足音が聞こえた

ルカは、金網を上っている途中なので気付いていない
それは、僕にとって好都合だった
僕は、足音のしたほうへ走る
すると、すぐに拳銃を持った男性と遭遇した
男性は僕より先に金網に上っているルカに気づき、「何をやっている!」と、言おうとした


けれど、その言葉は途中で途切れた
僕はとっさにナイフを取り出し、勢いよく男性の喉元を切り裂いていた
突然の出来事に、男性は抵抗する暇もなかった
鮮血が飛び散り、僕を赤く染める
男性は何か言いたげにぱくぱくと口を動かした後、草の上に倒れた
僕はそれを見届け、ルカの所へ戻った
ルカは、もう金網の外側にいた
僕の姿を見て一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの表情に戻った

「さあ、お前も早く来いよ」
その誘いに、僕は首を横に振った
「もうすぐ、君を見つけたあいつらがやってくる。
僕はそいつらを食い止めないといけない、だから君は早く行くんだ」
本当はまだ一人にしか見つかっていないようだったが、僕はとにかくルカに早く逃げてほしかった

「何言ってんだ、つべこべ言わずにさっさと来いよ!」
僕はまた、首を横に振った
「何でだよ、折角、俺達友達になったじゃねえか!」
ルカは金網を揺らして、声を張り上げた
そう、ルカは始めてできた友達
僕の、たった一人の大切な友達
だからこそ、君に逃げてほしいんだ
流石に異変に気付き始めたのか、遠くの方で複数人の足音が聞こえた
もう、あまり時間がない

「ルカ、君は僕を変えてくれた。空っぽで、何も無かった僕を変えてくれたんだ。
君が嫌な顔をするのは僕も嫌だったし、君が不安になると僕も胸が痛くなった。
そして、君が笑うと、僕はとっても嬉しくなったんだ」
ルカは、黙って僕の話を聞いてくれていた

「だから、君が殺されるなんて絶対に嫌だ。
君がここに居続けて、僕みたいな兵器になるのも、絶対に嫌だ」
「セキ・・・お前は、それで良いのか。たぶん、殺されるんだぞ」
何を言っても僕の決心が変わらないことを悟ったのか、ルカの声は静かになった

「うん。もう、決めてたことだから」
足音が、かなり近くまで来ている
そろそろ、別れないといけない
「ルカ、最後に、笑ってほしい。僕はきっと、それで救われる」
僕がこれから、何人殺そうと
僕がこれから、どんなに帰り血でまみれようと
僕は、君が笑ってくれれば、きっと・・・


「・・・ああ、わかったよ」
そう言って、ルカはとても優しい笑顔を僕に見せてくれた
僕は、金網越しにルカの頬に触れる
そして、僕も微笑んだ

「さよなら、ルカ。僕の、大切な友達・・・」
別れを告げると、僕は振り返り、走った
すぐそこまで来ていた人の喉を切り裂くために
後ろの方で遠ざかって行く足音が聞こえて、僕は安心していた
僕は迷わず、そこまで来ていた人を殺した
同じマスクをつけている人を、何人も何人も殺した

一人殺す度に、白い服が赤く染まっていく
僕の体も、返り血で真っ赤に染まっていく
けれど、もうそんな事は気にならなかった
殺して、殺し続けて、僕は入って来た分厚い扉を見つけた
その前には、がっしりとした体形の男性が立っていた
その人だけは、簡単に殺せないと直感的に思った

けれど、その人は血まみれの僕が近付いても微動だにしなかった
そして、あっけなく首を切り裂かれて、草の上に倒れた
まるで、そうなることがわかっていたかのように、全く抵抗することなく僕に殺された
この人は、僕にナイフを渡したあの時から、もう覚悟をしていたのかもしれない
もしくは、こうなることを望んでいたのかもしれない

僕はしばらくその死体を見下ろした後、ドアノブに手をかけた
その瞬間、後ろの方でバン!という大きな音がして、僕の胸元に激痛が走った
聞いた事のない音だったが、それが何なのかはすぐにわかった
僕の胸元から、真っ赤な液体が流れ出ていたから

それは、返り血じゃなかった
もう一度、大きな音がして、僕は前のめりになって倒れた
あの拳銃は、本物だったんだ
やっぱり、不合格って、死ぬことだったんだ
血が、とめどなく溢れてくる
赤い水たまりが、僕を中心にして広がって行く


ああ・・・僕、死ぬんだ

そこに倒れている人みたいに・・・血がどんどん流れていって、死ぬんだ・・・

・・・・・・やっぱり、少し、怖いな・・・

・・・だけど・・・・・・

ルカ・・・最後に・・・君の・・・・・・・


君の笑顔が・・・見れて・・・・・・よかった・・・・・・・・・


僕は、ゆっくりと目を閉じた
もう、その目が開く事はなかった





それから、その建物は取り壊された
その訳は、建物にいたほとんどの人間が殺されていて、どうにもならなくなったからだった
そこからは、関係者と思われる大人の死体と、数人の子供の死体が発見された
ただ、不思議なことに、子供の死体の多くが恐怖の表情をそのままにしていたのに対して、一人の子供だけは微笑んだままでいた

そして、その跡地にはなにもなくなった
数日後、その跡地にあきらかに手作りの、砂で作った小さな墓が作られ
傍には、一本のナイフが添えられていた






―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
かなりの鬱エンドですorz
その時は衝動的にかなり悲劇的?な内容を書きたくなったもんで・・・
今になって見直すと、これはかなり鬱になりますね(汗)
と、いうわけで、書いた本人がいたたまれなくなったんでアナザーストーリーが置いてあります
こっちはほんのりBL含まれますのでご注意を