―少年兵器 アナザーストーリー 3―


その後、僕は先にお風呂に入らせてもらい、2階の部屋へ戻った
僕はもう布団をしいておいてあげようと思い、押し入れを開ける
すると、中の様子が昨日とは違っていた
何だか、空間が広く見える気がする

それもそのはずで、昨日は2組入っていた布団が1組しか入っていないからだ
奥のほうを覗いても、布団は1つしかない
とりあえず布団を広げてみると、掛け布団にはかわいらしいキャラクターがプリントされていて
枕のほうはというと、これもまたかわいらしい水玉模様がプリントされていた
それらは、あきらかに女の子が使うようなものだった
けれど、僕は特に気にすることもなく布団を敷いた
丁度それを敷き終えた時、ルカが戻ってきた

「ルカ、これ、ラサかルカのお母さんの布団?」
僕が尋ねると、ルカは「あー、そうだった」と、何かを思い出したように言った
「布団を洗ってくれたんだけど、もう余分な布団が無いみたいでさ。
だから、ラサが自分のやつを貸してくれたんだよ。お母さんと寝るからいいんだと」
それなら、このかわいらしい布団にも合点がいく
ルカはそう言い終えると、部屋を出ていこうとした

「ルカ、まだ眠らないの?」
「いや、布団1つしかねーし、俺はリビングかどっかで寝るよ」
「えっ」
僕が見た限りでは、リビングにはとても寝転がって安眠できそうな所はなかった
どこかで眠ると言っても布団が無いなら寝苦しいだろうし、下手したら風邪をひいてしまうかもしれない
僕がいるから、遠慮してしているのだろうか
遠慮しないといけないのは、僕のほうなのに
僕は、僕のせいでルカに迷惑をかけるのは嫌だった
だから、すかさずルカの袖を掴み、引き止めた


「ルカ、嫌だ」
「ん?」
「僕のせいで、ルカに迷惑をかけるのは、嫌だ」
「いや、お前のせいってわけじゃ・・・」
「とにかく、嫌なんだ。行かないでほしい」
僕は何としてもルカを引き止める為に、強く言った

「・・・わかったよ。とりあえずクッションだけ持ってくるから待ってろ、な?」
僕が何を言っても聞かないのを悟ったのか、ルカは半ばあきらめがちに言った
確かに、1つの枕に2人で寝るのは窮屈そうなので僕は手を放した

「寒いし、先に布団入ってろよ」
ルカはそう言って、下の階へ降りて行った
僕の手はもう冷えかけていたので、布団に潜り込んだ
それから間もなくして、ルカは水色の四角いクッションを持って戻ってきた
僕はルカが隣に来れるように、枕を左に寄せる
ルカは電気を消して、その空いたスペースに寝転ぶ
オレンジ色の光が、ぼんやりと部屋を照らしていた

「ルカ・・・」
「ん、何だ?」
呼びかけると、天井を見ていたルカは僕の方を向いた
「ありがとう」
僕が唐突にお礼を言ったので、ルカはその意味がよくわかっていないようだった

「何だよ、急に」
「今日は雪も見せてもらったし、テレビも見せてくれた。それに、僕の質問に答え続けてくれた」
「ああ、そのことか」
「あの時、ルカが一緒に来いって言ってくれなかったら、僕はきっと殺人兵器になってた」
「・・・かもしれないな」
かもしれない、ではなく絶対にそうなっていたと思う
ルカがいなければ、僕は何も知ることはできなかった
泣く事も、怒る事も、嬉しい事も知ることはできなかった
ルカが、僕の世界を広げてくれた


「ルカ、僕は言葉では伝えきれないほど感謝してる。だから・・・・・」
僕はその想いを、態度で表した
テレビで見て、ルカが説明してくれた、あの行為を
僕はルカに近付き、その瞳をじっと見た後
ゆっくりと、自分の唇を、ルカの唇に重ねた

「ッ!」
それは、一瞬の出来事だった
けれど、その一瞬の間に、自分の中で何かが揺らぐのを感じた
唇を重ね合わせた瞬間、僕は温かさを感じていた
ルカが手を温めてくれた温かさとはまた違う、別のもの
それは、僕がまだ知らない何かであることには違いなかった
唇が離れると、ルカは目を見開いて、僕を見た

「お、お前・・・!」
ルカは、しばらく驚きの表情をうかべていた
その後、その表情は何かを発見したような、はっとしたものに変わった

「お前・・・今、笑ってなかったか?」
「え?」
そんな自覚は全然無かった
僕はただ、自分の中で揺らいでいる何かを不思議に思っていた
その揺らぎは、決して嫌なものではなくて、むしろ好ましいものだと感じていた
その揺らぎが、僕に変化をもたらそうとしているのだろうか
ルカに口付けた一瞬の時に感じた、その揺らぎが、その感情が

「セキ、もしかして、嬉しいのか?」
僕はその問いに、すぐに返答は返せなかった
嬉しい、ということは間違ってはいない
僕は、ルカが傍にいてくれるだけで嬉しい
一緒に雪を見た時も、食事をした時も嬉しかった
だけど、今は少し違う
嬉しいことには変わりないけど、何かが違う
その何かが、僕にはわからない

「嬉しい、けど、少し違う。うまく言えないけど、とても温かいんだ。
僕の手はそんなに温まってないのに、どこからか温かさを感じる・・・」
すぐに冷えてしまう僕の手は、もう冷たかった
でも、寒さは感じない
ストーブが点いているわけでもないのに

「セキ・・・そうか・・・いや、でも・・・」
ルカは・一人で迷っているような声を出した
しばらく・ルカはそのまま何かに悩んでいる様子だった


「・・・よし、セキ、ちょっとそのまま目閉じてろ」
「うん」
もう眠るのかなと思い、素直に目を閉じる
そう思ったとき、僕の唇に柔らかい感触の物が触れた
「んっ・・・」
目を閉じていても、それが何かはすぐにわかった

ルカの唇が、僕に、重なっている
それは、さっき僕がしたような短時間で軽いものではなく
少し強くて、長いものだった
首に回っているルカの腕が
腕を掴んでいるルカの手が、とても熱い
いや、僕自身の体温が上がっているんだ

僕の感情の揺らぎが、ますます大きくなっていくのがわかる
知らない何かが、僕を包みこんでいく
僕は、それを抑えきれなくなる
感じた事のない、この感情を―――


ルカがゆっくりと唇を離した時、感情が僕の外に溢れ出た
それは、自分でも気がつかないくらい自然に
僕の表情に、表れていた

「やっと・・・笑ったな」
「え・・・?」
僕は、微笑んでいた
ルカの口付けがとても温かくて
自分が満たされるのを感じて
僕は初めて、幸せというものを感じて、笑っていた

「セキ、お前は・・・俺とこうすることが、幸せだって感じたんだな」
僕は、頷いた
僕の心は、今までにないほど満たされている
「あー、で、でもな、本来こういう事は女と、異性とするもんなんだよ」
「何で?僕はルカだから温かい、幸せな気持ちになれたんだ」
僕がそう言うと、ルカは照れくさそうに顔を赤らめた
そして、何か言葉を探すように、もごもごと口を動かした

「ま・・・まあ、いいか、しばらくは・・・でも、いつかはこの行動の意味をちゃんと教えてやるからな」
「ちゃんとした意味?」
この行為は、感謝や喜びを相手に伝えるものだと思っていたけれど
何か他にも意味があるのだろうか

「ほ、ほら、もう寝ようぜ、テレビ見たから目が疲れただろ?おやすみ!」
ルカは急に慌てて、そっぽを向いてしまっう
そんなルカの様子がおかしくて、僕はまた少しだけ笑っていた


僕はもう、兵器じゃない
泣く事も、怒る事も、笑う事もできる
悲しみを、怒りを、幸せを感じることもできる
僕はもう、空っぽじゃない
ルカ、君と出会ってから
僕は、変わることができたんだ
君のおかげで、僕は
笑えるように、なったんだ

それから、僕はだんだんと、頻繁に感情を表に出せるようになった
最初は、そうそう簡単に表情を変えることはできなかったけれど
ルカと一日を過ごすたびに僕の心は満たされていって、ラサやルカのお母さんとも笑い合えるようになっていた
それでも、僕はまだ知らない事がたくさんある
ルカは、僕にそれら教える為に、一緒にいてくれているのかもしれない

けど、たとえ、僕がいろんなことを知って
ルカのように、他人の心を満たすことのできるようになっても
僕は、ルカと一緒に居たい
ずっと、ルカの傍に居たい
僕がそう強く思い始めたのは、口付けを交わしてから、そう時間がたっていない時だった
そして、僕はいずれ気付くことになる
そういった想いが、人の中で一番強く、幸せな感情だということを・・・




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
救いを入れた感じの物語りで、ほんのり弱弱しくBLでした
少年兵器は、私が一番最初に投稿した作品なので、至らない部分も多くあったと思います(修正はしました)
雰囲気重視し過ぎて空回りしたような表現がありますが、若気の至りと言うことで・・・
ではでは、長々とお付き合いくださりありがとうございました。