女子高校生の恋愛事情1


高校二年生、入学したての緊張感もなく、受験勉強もなく、最も楽な時期。
この一年も、いたって普通の生活をずっと送っていくんだろうかと思うと、どことなくつまらない。
5時間分、ノートを取るだけの授業が終わり、放課後になる。
何か部活に入っているわけではないので、鞄に教科書を詰め込んで昇降口へ向かう。
この平坦な日常は、部活に入っていないからだろうかと思うけれど。
情熱や熱意とはほど遠い、冷めている私が何かに熱中するのは無理だった。

授業が終わったというのに、昇降口に居る人はまばらで、皆、部活や、放課後の集まりに勤しんでいる。
靴を履き替え外へ出ると、クーラーのきいた室内とは違う、むわっとした生温かい空気に包まれた。
私の家は学校からそれほど遠くはないけれど、この空気の中、歩いて帰るのはだるかった。
それでも、どんなに暑くても寒くても、歩かなければ帰れない。
うだうだ考え事をするのはやめて、さっさと帰ろうと校門を通り過ぎた。

「セイラン!」
突然、なじみ深い声に名前を呼ばれて振り返る。
そのとき、離れた場所から聞こえてきたと思った声の主は、もう、すぐ近くに居た。

「アキ。今日、部活ないの?」
「ああ、今日は休み。顧問は出張、部長は風邪ひいてるから」
アキは、それほど残念がってはいない様子で答えた。
目の前に居るこの相手は、私の数少ない友人で。
かっこいい自転車にまたがっている様子は、ボーイッシュな服装と合わさってまるで男子に見える。
スカート姿を一度も見たことがないけれど、彼女は紛れもない女性だった。
声の質でそう判別できるものの、黙っていたら男子に間違われても仕方がないと思う。


「帰るんなら、後ろ乗ってく?」
アキは、荷台をぽんと叩く。
徒歩がだるいと思っていた私には、願ってもない提案だった。
「うん。お願いしてもいい?」
控えめに尋ねると、アキはにっと笑う。
それは了承の合図だったので、私は遠慮なく荷台に乗った。

「あ、鞄は前に乗せるから」
そう言い、アキは後ろ手で鞄を受け取る。
私は、振り落とされないよう荷台の部分を両手で掴んだ。
「じゃ、しゅっぱーつ」
アキの掛け声と共に、自転車が動き出した。

人と荷物を一人分余計に乗せていても、自転車はスムーズに進んで行く。
アキは運動好きの体育会系で、特に練習がきついバスケ部に入っているので。
自転車をこぐことなんて、トレーニング程度のことなんだろう。

私の方はというと、意外と余裕がなかった。
わずかな段差に乗るだけでも結構な衝撃が伝わってきて、落ちないように、必死に荷台を握り締めていた。
そんなとき、ふいに自転車が止まる。
私は手から力を抜き、疲れを少しでも回復させるようひらひらと振った。


「どうしたの?」
不思議に思い尋ねると、アキは少し躊躇うように振り返った。
「あのさ・・・」
そこで、一瞬言葉が止まる。

「荷台、ずっと持ってるの辛くない?何なら、しがみつきなよ」
「いいの?それなら、そうさせてもらおうかな」
正直、荷台を掴んでいるのは辛かったから、私は遠慮なくアキの腰に腕をまわしてしがみついた。
あまりひっつくと暑いと言われそうなので、やんわりと。
アキはすぐに前を向き、合図もなしにペダルをこぎ始めた。


前半は、バランスを取るのでいっぱいいっぱいだったけれど。
後半は、アキにしがみついていたおかげでかなり楽だった。
家の前に着くと、私はさっと自転車から下り、鞄を受け取った。

「送ってくれてありがとう。おかげで、帰り道が楽だったよ」
「ん、そっか」
二人乗りで疲れたのだろうか、アキの頬は少し紅潮しているように見える。
「じゃあ、また明日」
私は、軽く手を振ってアキに背を向ける。
なぜか、私が家の中に入るまで、自転車が去ってゆく音は聞こえなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
衝動的にこんなジャンルが書きたくなったんで、お試し程度に書いてみました。
長々ではなく、できるだけ短く仕上げようと思っているので(たいてい、途中でモチベーションが下がるため)。
一話一話の展開が早く、短くなると思われます。
ちなみに、今更ながらのキャラ設定は、↓をどうぞ。


セイラン。
高校二年生。髪はなかまゆきえ(漢字がわからない)よりやや短い。
つまり、黒のストレートロングヘアーです。
身長は160cm前後で、服装はダサくないけど特別洒落ているわけでもない。
熱血とは程遠いけど、冷血漢でもない性格。

アキ。
高校二年生。髪は茶色のショートカット。
後ろ髪が首を隠すか隠さない程度で、シャギーが入っている。つまり管理人の好みの髪型←。
身長は170cm前後で、服装はボーイッシュ。
冷徹ではないけれど、熱血漢でもない性格。
名前がカタカナなのは、いい漢字が見つからなかったからですorz。