平坦な?高校生活13


先に、アキにお風呂から上がってもらった後、私も浴室から出て、浴衣を着る。
扉を開けるとき、私は浴室に入るとき以上に緊張していた。
どうして、あのとき頷いたのか。
ほとんど反射的に、そう反応していた。
頷けば、この後どうなるか、わかっていないわけじゃなかったのに。
アキに求められて、それを拒否する理由がなかった。

あんまりもたもたしていると、アキが痺れを切らしてしまう。
私は深呼吸して、居間へ足を踏み入れた。

部屋はぼんやりとした電気しかついていなくて、薄暗かった。
その薄暗い部屋の中で、布団の上にアキが座っていた。
「セイラン・・・おいで」
アキが、静かに言う。
私はその声に引かれ、ゆっくりとそこに近付いて行った。

数歩で距離はなくなり、アキの前に座る。
アキの顔がはっきりと見えた瞬間、すぐに体が抱き寄せられた。
相手を安心させるような、優しい抱擁。
私は、アキを受け入れるよう、やんわりと背に両腕をまわした。


「跳ね退けるなら、今の内だよ」
アキが、最後の確認をする。
私は返事のかわりに、まわした腕に力を込めた。
アキがわずかに身を離し、お互いの顔が見えるようにする。
私は自然と、目を閉じていた。
これからされることを、受け入れるように。

後頭部に、手がまわされる。
次の瞬間にはアキと唇が重なっていた。
もう、何も言えない。
私はじっと、重なり合った柔らかな感触を感じていた。
その触れ合いは一度では終わらず、何度も繰り返される。
アキが覆い被さってくるたびに、私の心音は落ち着きをなくしていった。

何度目かの口づけが終わったところで、アキが前のように小さく舌先を出し、唇のわずかな隙間をなぞり始めた。
「は・・・」
私はその感触に妙に反応してしまい、思わず吐息をつく。
そのとき、息をはいた箇所をアキに再び塞がれる。
そこで感じたのは、さっきと違うものだった。
重なっているものは同じだけど、唇だけでなく、その中にまで触れられている。
自分の中にあるものが、さっき唇の隙間に触れていたものだとわかると、頬が一気に熱を持った。
それは、舌に触れ、そして、絡め取られた。

「う、ん・・・」
舌が触れ合う感覚なんて、今までに感じたことがなくて、気付いたら、声を出していた。
本当に自分の喉から発されたのかと疑うような、甘い声を。
「ふ・・・ぁ・・・」
口内に触れられるたびに、力のない声が出てしまう。
アキと、液が混じり合っているとわかっても、少しも気持ち悪くなくて。
私の体温は上がってゆくばかりだった。


アキとの重なりが終わった頃、もう力が入らなくなっていた。
それを見計らったように、肩がそっと押される。
さっきの行為で力を無くしていた私は、あっさりと後ろに倒れていった。
アキが、全身に覆い被さってくる。
体は後ろに倒れてアキを見上げていると、アキが俯いて首に触れた。

「あ・・・」
アキの髪が、首に触れてくすぐったい。
ふわりとシャンプーの香りが漂ってきて、少し気持ちが落ち着く。
そして、首にアキの吐息がかかったかと思うと、小さな刺激が伝わった。
「んっ・・・」
肋骨のあたりに唇が触れて、少し身じろぐ。

「夢みたいだ・・・セイランと、こんなことできるなんて・・・」
どことなく熱い、アキの吐息がかかる。
その頃には、私の呼吸も熱を帯びているのがはっきりとわかるほどだった。
アキが顔を上げ、耳元へ場所を変える。

「セイラン・・・」
囁くように名前を呼ばれて、どきりとする。
そのとたん、ふいに耳朶が熱を帯びた。
「やっ・・・」
思わず、高めの声が出る。
私の耳朶は、アキの唇に挟まれ、甘噛みされていた。
耳がこんなに敏感な箇所だなんて思わなくて。
アキがわずかに唇を動かしただけで、私の熱は高ぶってゆくようだった。


「セイラン・・・もっと、もっと、触れたい・・・」
アキが身を起こし、見惚れているような眼差しを向ける。
そして、浴衣を縛っている帯が解かれた。
強い緊張感を覚えたけれど、抵抗する気はなくて。
浴衣の前がはだけても、気持ちは変わらなかった。
アキの手が、胸元へ移動してゆく。
緊張しているのは同じなのか、その動きはゆっくりとしたものだった。
やがて、胸の柔らかな部分が、アキの掌に包まれた。

「ぁ・・・」
強まっている心音は、その手を通して伝わっていると思う。
でも、今更恥じらいなんて気にしている余裕はなかった。
「柔らかい・・・ふにふにしてる」
「・・・ぺったんこだけどね」
寝転がっているので、ただでさえ膨らみがあまりない胸はさらに薄くなっている。
それでも、アキは満足しているのか、その表情には、どことなく興奮しているように見えた。

お互い、確認するように視線を合わせる。
何も身につけていない姿を見られて、恥ずかしくないわけじゃなかったけれど。
視線を逸らすことはしなかった。
アキの手が、ゆっくりと下半身の方へ伸ばされてゆく。
そしてすぐに、私は強い刺激を感じた。

「あっ・・・!」
自分の中心に、アキの指先が触れる。
とたんに、口を開き、あられもない声を出していた。
私はアキに触れられたことよりも、自分の声に羞恥を感じていた。
あまり強い刺激を与えないようにしてくれているのか、アキの手つきは慎重そのもので。
細かな箇所に、やんわりと撫でるような愛撫が繰り返された。

「ん、ん・・・っ・・・」
それでも、敏感にものを感じてしまうその箇所は、どんな優しい愛撫にも反応してしまって。
私は力を込めてシーツを握り、ぎりぎりのところで声を抑えていた。
それに気付いたのか、アキが手を止める。


「・・・我慢しなくていいんだよ。セイランの声、あたししか聞いてないから」
薄暗がりの中で、やんわりとアキが微笑む。
相手を安心させたいと、そんな思いが感じとれるような、そんな微笑み。
いつの間にか、手の力が緩んでいた。
自分が、安心しているのがわかる。
そのときどきで、瞬間的に強張ることはあっても。
私はアキに任せ、全てのことを受け入れていた。
アキになら、何をされてもいい。

緩んだ手が、アキの掌に包み込まれる。
それがとても温かく感じて、肩の力が抜ける。
そうして、どちらからともなく指が絡まり、そっと握り合った。
少し、気が落ち着いてきたところで、アキが再び下の方へ手を伸ばす。
今度感じたものは、愛撫ではなく、もっと強い感覚。
触れたアキの指先が、自分の中に入ってきた瞬間だった。

「あ・・・っ、んんっ・・・!」
アキを感じたとたん、体の中心がかっと熱くなって。
反射的に、アキの手を強く握ってしまう。
力の加減ができない。
アキが痛がるかと思ったけど、私の握力は微々たるものなのか顔が歪むことはなかった。

「あったかいな・・・」
アキは、うっとりとしたように呟く。
「や・・・っ、は、ずかしい・・・」
今更な言葉が出る。
恥ずかしいのは、変な声を出してしまう自分自身。
細い指なのに、少し動くだけでその声が出てしまい、体温が急上昇していくみたいだった。
私があまりに顔を赤くしているからか、アキがくすりと笑った。


「可愛いな・・・本当に、可愛い。もっと触れると、どんな風になるんだろ・・・」
アキの唇が、首筋へ落ちてくる。
少しでも多く、相手と触れ合い、熱を確かめ合いたいと望むように。
そして、下肢にある指ももっと相手のことを感じたいと言うように、ゆっくりと奥へ埋まって行った。

「あ、ぁぁ・・・っ」
そうやってアキを感じれば感じるほど、下肢に変な力が入って指を圧迫してしまう。
自分では止めようのない反応を、どうすることもできない。
アキが痛がっている様子を見せていないのが、せめてもの救いだった。
中にあるものは細くても、十分な刺激になって。
それを初めて受け入れる私の体は、早くも限界を感じていた。
呼吸が不規則になり、どんどん熱が上ってくる。

「もう・・・楽になりたい?」
アキの問いかけに、私は素直に頷く。
「ん・・・わかった」
答えが聞こえると同時に、指が動かされる。
現状だけでもいっぱいいっぱいだった私は、抑えきれなくなった。
指が、これ以上進めないところまで行き、そこを撫でた。

「あっ・・・!ん・・・っ、あぁ・・・!」
感じたことのない、強い感覚が全身に走る。
今までにないくらいの力で、アキの手を握り締めてしまう。
そして、下肢にある指も。
私は、声帯がおかしくなってしまうのではないかと思うくらい高い声を出した後、ぐったりと全身の力を抜いた。

「セイラン・・・」
優しく、唇が重なり合う。
私は、アキの体温を感じながら、目を閉じた。




ようやく、倦怠感がましになってきたとき。
私は浴衣を着ようと、もぞもぞと体を動かした。
「今日は、このままで寝よう?そんなに、寒いわけじゃないし」
浴衣を取ろうとしたところで、アキに抱きすくめられる。
何も身につけていない素肌が心地良く感じて、私は黙って頷いた。
そうしているとき、ふと思い出した。
言わなければならないことがあったんだと。
体を重ね合わせておいて今更な言葉かもしれないけれど、伝えたかった。

「アキ・・・」
名前を呼んでから、一息つく。
首元に擦り寄ると、甘えていると思われたのか、細い指が髪をすいていった。
私は、小さく深呼吸して、言葉を告げた。
「・・・愛してる」
ぴた、と指の動きが止まる。
今更な告白に、驚いたように。
すると、ふいに、アキの体がわずかに離れ、顎を取られて上を向かされる。
視線が交わったと思ったときには、唇が重なっていた。
その柔らかさに一瞬目を細めた後、私は目を閉じ、長い口付けに身を任せた。


「・・・すごく、嬉しい。セイランから言ってくれて」
身を離したと思ったとたん、強く、抱きしめられる。
控えめな、丸みを帯びたものが触れて、頬が熱くなった。
「ごめんね・・・今まで、さんざん戸惑わせて」
私がずっと言えなかったから、アキは迷ったと思う。
最後まで、拒むことはなかったけれど。
この言葉がないせいで、不安にさせてしまっただろう。

「あたしのこと、跳ね退けないでいてくれたじゃん。
それだけでも、嬉しかったけど・・・今は、もう、言葉じゃ伝えきれないくらい満たされてる」
アキの頬が、自然と緩む。
その表情は、私から見ても幸せそうだと思うもので、見ていると胸が温かくなった。
意識しない内に、アキの背に腕をまわす。
そして、初めて、私は自分からアキと唇を重ねていた。
それは、ほんの一瞬のことだったけれど。
アキは十分驚いたみたいで、ぽかんとしていた。


「・・・何だか、また歯止めがきかなくなりそう」
「え、えっ」
アキがそんなことを言ったので、私の方が慌てた。
「冗談だよ。二回もすると、セイランの負担になるし」
恥ずかしげもなく告げられ、私は、もう顔を上げていられなくなった。
俯いたついでに、傍にある首元に擦り寄る。

誰かにこうして甘えられる日がくるなんて、思っていなかった。
こうしてアキととても深い関係になることも、最初は考えていなかった。
けれど、アキの腕に抱かれている、この瞬間に確かな幸せを感じていた。
私は、静かに目を閉じる。
これ以上にない、胸の内にある温かさを感じながら。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
書いてた頃は夏だったのに、やっと連載終了・・・!
百合を書くのは初めてだったので、苦戦した部分もありましたが(特に、この話)
その分、萌えながら書けたところもありました。
次の連載は、執事×王子でいきたいと思っています。もう更新してますが。
これからも、週一回更新でいけそうですー。
ではでは、長々とお付き合いいただきまして、ありがとうございました!。