平坦な?高校生活2


アキに自転車で送ってもらった後、家でぼんやりとしていたとき、携帯に一通のメールが入った。
暇を持て余していたので、すぐに携帯を取る。
サーバーメールだったらすぐに消そうかと思っていたけれど、送信者に友人の名前を見つけて本文を開いた。
そこには、何とも簡潔な文章で「明日ゲーセン行かない?」と、ただそれだけ書いてあった。

特に予定もなかったので「いいよ」と、三文字だけのメールを返すと、すぐに返信が返ってきた。
画面には、また短い文章で「じゃあ、明日1時に迎えに行ってもいい?」と表示される。
今度は、「いいよ」だけではあっけなさすぎる気がしたので。
了承の返事の後に、「ゲームセンターなんて久しぶりだから、楽しみにしておく」と、付け加えておいた。

そこで、メールは終わった。
アキと遊ぶのも久し振りで、私は朝を楽しみにしつつ眠った。


翌朝、誰に起こされることもなく目を覚ます。
できることなら、昼が早く来るようにもっと眠っていたかったけれど。
二度寝はできそうにないので、午前中は本を読んで過ごした。

読書に集中していると、意外と時間は早く過ぎていって、いつの間にかお昼になっていた。
軽く昼食を食べて、1時を待つ。
待ち遠しい時間は流れるのが遅くて、1時間だけでも、午前中より長い時間を過ごしている気がした。


1時10分前、出かける準備をしていると、ふいに携帯が鳴る。
すぐに画面を開いて確認すると、送信者はアキだった。
本文には「そろそろ迎えに行ってもいい?」とだけ書いてあって。
私は間髪入れず、昨日と同じように「いいよ」と書いて送った。
確認のメールを送ってくれるなんて、今までにない配慮に私は内心驚いていた。


時間が、やっと1時になる。
時計の針がその時間を指したそのとき、玄関のチャイムが鳴らされた。
準備はとっくに終わっていたので、すぐに扉を開く。

「アキ、こんにちは。迎えに来てくれてありがとう」
「ま、こっちから誘ったんだし」
迎えてくれたアキの服装は、シンプルだけどかっこよかった。
黒いシャツに、飾りっけのない長ズボン、耳には珍しくピアスを付けていて、銀の輝きが映えていた。

「じゃ、行こっか」
アキに誘われ、私は昨日のように自転車の荷台に乗る。
車輪に巻き込まれてはいけないので、私もスカートではなくズボンを履いていて。
特別おしゃれをしたわけでもなく、いつも通りの私服だった。
アキも自転車に乗ると、私はその腰元へ手をまわす。
一瞬、アキの体が強張ったように感じたけれど、自転車はすぐに走り出した。


アキは街中の駐輪場に自転車を停めて、ゲームセンターへ向かう。
自動ドアが開いたとたん、クーラーの風と共にさわがしい電子音が響いてきた。
様々なゲームがひしめき合う空間は好きじゃないけど、嫌いでもなかった。
久し振りに来るゲームセンターには、見たことのないゲームがたくさんあって。
私はきょろきょろと、辺りを見渡していた。

「見たことないやつがたくさんあるけど・・・何にする?」
問いかけると、アキはある一点を見て言った。
「じゃあ、プリクラ撮ろ」
「プリクラ?」
アキの視線の先にあるのは、きらびやかなプリクラコーナーで。
そこには、かわいらしい服装の女子がひしめいていた。

「いいけど、珍しいね。プリクラなんて」
何度か一緒にゲームセンターに来たことはあるけれど、アキがプリクラを撮ろうなんて言ったのは初めてのことだった。
以前は、一回400円もかかる機械になんて興味を示していなかったのに。

「いいからいいから。今日は懐に余裕あるからさ」
早く行きたいのか、アキにぐいと腕を引っ張られる。
私は大人しく、そのプリクラコーナーへ向かった。




コーナーに着くと、ちらちらと視線を感じた。
カップルかそうでないのか、アキがボーイッシュなので、そのことを計りかねているのかもしれない。
丁度、一台空いていたので迷わずそこへ入る。
たった一枚のシートで仕切られているだけなのに、中は完全に隔離された空間みたいだった。
200円ずつ払おうと、私は財布を取り出す。
けれど、その前にアキが400円を投入してしまった。

「小遣いもらったばっかりだし、いーのいーの」
私が何かを言う前に、アキはそう言って画面を操作し始める。
写り方には特にこだわらないので、全てアキに任せ、後ろで待っていた。
すると、突然、外の音に負けないくらいの大きな音でアナウンスが入った。

「ほら、撮るから、並ぼ」
背を押され、私はアキの横へ並ぶ。
そのとたん、「はい、チーズ」と機械音に言われたので、反射的にVサインを作る。
けれど、突然のことだったので笑顔を作れず、仏頂面になってしまった。
アキはというと、瞬時に撮影用の笑顔を浮かべていた。
次からは笑っていないと、400円が無駄になってしまう。


少し間を置いて、再び「はい、チーズ」の音が聞こえる。
今度は仏頂面でいるわけにはいかないと、私は軽く微笑んだ。
あまり無理に笑顔を作っても不自然になるので、やんわりとした笑みを浮かべる。
アキは結構楽しんでいるのか、隣に見える笑顔には爽やかなものだった。

何回かフラッシュがたかれた後、「次で最後だよ」と、呼びかけがかかる。
私は、特別なこともせず、同じ姿勢でいたけれど。
フラッシュがたかれる直前、ふいにアキの腕が肩にまわされた。
軽く引き寄せられ、お互いの肩が触れる。
驚いたけれど、最後の一回なので笑顔を崩さずにいた。


撮影が終わって、外へ出る。
そこからは落書きタイムということで、撮影した写真に自由に書き込める。
背景が殺風景だったので、そこにだけ模様を描いておいた。

「じゃ、半分に割ろっか」
「うん、ありがとう」
アキは、出てきたプリクラを真っ二つに切り分ける。
二人で撮った写真なんて、初めて見た。
こうしてまじまじと見てみると、まるで男子と一緒に写っているみたいで、少しおかしかった。

プリクラの後は、巨大テトリスやガンシューティングなど、アキの好きなゲームで遊んだ。
特に、アキはガンシューティングが得意で、銃を構える姿はさまになっていた。
また、ちらちらとアキを見ている人達がいたけれど、その中性的な姿が珍しいのだと思う。
私も、つい目が行ってしまうくらいだから。




「そろそろ、帰ろうか」
もう夕方近くになっていたので、そう提案する。
「ん・・・そうしよっか。でも、聖蘭は何かやりたいやつない?」
私がアキについてまわってばかりだったから、気を遣ってくれているのだろうか。
何かないかと、私はきょろきょろと辺りを見回した。

「・・・あ、ねむねこ」
目に留まったのは、一台のクレーンゲーム。
その中には、かわいらしい、眠っている猫のクッションがひしめいていて。
そのゆるんだ姿に、とたんにひきつけられていた。

「じゃあ、最後にあれやってくるね」
私は百円玉を入れ、クレーンを動かす。
なかなかいい位置に行き、クレーンはねむねこを掴んだように見えた。
けれど、意外と重量があるのか、それはぴくりとも動かなかった。

「あー、だめか」
クレーンゲームなんてそんなものだと、もう続ける気はなかった。
欲しいとは思ったけれど、いくらかかるかわからない。
けれど、アキはじっとクレーンゲームを見ていた。


「・・・アキ?」
アキは、じっとねむねこを見ている。
案外、かわいいものが好きなのかもしれない。
「セイラン、トイレ行きたくない?」
「え?」
突拍子のない質問に、つい聞き返す。

「うん、トイレ、行っといたほうがいいよ。帰り、もよおしたら面倒だし」
なんで急にそんなことを言い出したのかわからないけれど。
気を遣ってくれているんだろうと、それ意外に思わなかった。
「そうだね。帰る前に、行ってくる」
そう言って、私はその場から離れた。




広い室内ではトイレを探すのに手間取ってしまって、混んでいたこともあって、結構時間が経ってしまった。
待ちくたびれているかもと、急いでアキを探すと、まださっきのねむねこの前にいた。
小走りで駆け寄ると、アキが振り向く。

「セイラン!ほら」
アキは、目の前に丸いものを差し出す。
それは、ガラスケースの中にあったはずのねむねこだった。
「これ・・・取ったの?」
「ああ、案外簡単に取れたよ」
アキは、得意げに笑う。

「そんなにクレーンゲームが得意だなんて、知らなかった。おめでとう」
うらやましかったけれど、素直に祝福した。
「いや、これセイランにあげるために取ったんだし」
「私に?」
アキは、ねむねこをぐいと押し付けてくる。

「ほら、簡単に取れたからいいんだって」
遠慮しなくていいと諭されて、私は遠慮がちにねむねこを受け取った。
「ありがとう、アキ。嬉しいよ」
ねむねこを抱きしめると、頬が、自然と緩む。
それは、プリクラを撮っているときよりいい笑顔だったと思う。


ねむねこをもらったおかげで、帰り道は気分が良くて。
家まで送ってくれたとき、私はねむねこをぎゅっと抱いた。
「ほんとにありがとう。ねむねこ、大切にするよ」
アキからこんなプレゼントをもらったのは初めてで、本当に嬉しかった。

「私、何かお礼がしたい。アキ、何か欲しいものある?」
嬉しさあまって、そんな言葉が飛び出す。
アキは少し考えていたが、やがて言った。

「物じゃなくてさ・・・今度、練習試合があるから、それを見に来てほしい」
「わかった。メールで日程送ってくれたら、見に行くよ。
そういえば、アキが誘ってくれたの初めてだね」
「上達したからね。帰ったら日程送るし、また明日」
アキはそう言い残し、自転車にまたがり、颯爽と去って行った。
私は軽く手を振って、ねむねこを強く抱きながらアキを見送った。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
二話目から結構長い・・・こんなはずではorz。
堅苦しい文章しか書けないので、女子高生っぽくないことを言っててさーせん。
うーん、展開早くしたいのに、やっぱりじわじわになってしまう・・・。