平坦な?高校生活2


アキとゲームセンターに行ってから、一週間後。
私は手土産を持って、学校の体育館へバスケの練習試合を見に来ていた。
体育館に入るとストレッチをしている選手達がいて、そこでアキと目が合った。

「セイラン、来てくれたんだ」
「約束したからね」
ストレッチの途中にもかかわらず、アキが傍に駆け寄ってくる。
アキのユニフォーム姿を見るのは初めてで、スポーティなその服装はよく似合っていた。

「アキ、ストレッチの途中だよ!」
バスケ部員から、せかすように声がかかる。
「今戻ります!じゃ、また後で」
アキはさっと部員達の輪の輪に入って行き、私は邪魔にならないように体育館の隅へ移動した。

時間が経つと、人がぽつぽつと増えてきた。
練習試合だから見学する人が少ないのか、最終的に集まった人数は楽に数えられるくらいだった。
開始時間になり、選手達がコートに集まる。
そして、開始の笛が鳴った。




結論から言うと、アキがいるほうのチームが勝った。
中でも、アキは何度もダンクシュートを決めていて、チームに大貢献していた。
シュートを決めるたびに、どこからか黄色い声援があがる。
私は、そんなアキをじっと見ていた。
他の選手もファインプレーはあったのに、不思議と、アキから目が離せないでいた。

試合が終わると、マネージャーが選手にタオルとスポーツドリンクを配っていた。
アキのところへ行って、ねぎらいの言葉をかけようかと思ったけれど。
その前に、見学していた三人の女子が駆け寄って行った。
「アキ先輩、お疲れ様です!今日も大活躍でしたね!」
その声は、さっきの黄色い声援と同じものだった。
たぶん、アキのファンなのだろう。

「ありがとう。でも、活躍してたのは皆そうだったよ」
「モテるねえ、アキ。この幸せものが」
他の部員がにやにやと笑いながら、からかうように言う。
アキは、少し困ったように笑っていた。

「あの、これ先輩に作ってきたんです。よろしければ、食べて下さい!」
その子は、綺麗にラッピングされた箱を両手で差し出した。
「ありがとう。みんなで食べるよ」
それは、アキのために作ってきたのだと言っているのに、返したのは無神経な言葉だった。

「あの・・・失礼します!」
女の子は何か言いたそうにしていたけれど、ぺこりと頭を下げて外へ出て行った。
「マネージャー、これ、後でみんなで食べよう」
アキは中身も確認せず、箱をマネージャーに渡す。

「はいはい。アキ、あんまりファンを粗末に扱っちゃダメよ」
「粗末にしてるつもりはないけど?」
自覚していないのか、アキは不思議そうな表情でマネージャーを見ていた。
マネージャーは呆れたように溜息をついて、きびすを返す。
会話の相手がいなくなったところでアキと視線が合い、すぐに体育館の隅までやって来た。


「ずっと見ててくれたんだ」
どうやら、試合中でも気付くほど私の視線は強かったみたいだった。
「うん。アキ、いつもの三割増しくらいかっこよかったから」
素直な感想を言うと、アキは照れたように笑った。
「ありがと。かっこいいって言われると、嬉しい」
アキは、かわいいと言われるより、かっこいいと言われるほうが好きだった。
女子にしては珍しいことかもしれないけれど、そう言われたいがためにボーイッシュな格好をしているのだと思う。

「そうだ、私も差し入れ作ってきたんだけど・・・」
試合後は疲れるだろうと思って、簡単なお菓子を作ってきていた。
渡すつもりだったけれど、さっき、丁寧にラッピングされた差し入れを見てしまったから少し躊躇った。

「差し入れ?わざわざ作ってくれたの?」
「まあ、そうだけど・・・」
言ってしまったからには、出さないわけにはいかない。
私は紙袋に手を入れ、それを取り出した。

「さっきの子と比べると、しょーもない感じだけど・・・」
袋から取り出されたのは、何の飾りっ気もないタッパで、そこにはこざっぱりしたヨーグルトケーキが入れてあった。
けれど、ラッピングされた箱に見劣りするのは明らかだった。

「そんな立派なものじゃないけど、よかったら・・・」
控えめな言葉と共にタッパを差し出すと、瞬時に手から離れた。
「今、食べてていい?」
「あ、うん、そんなものでよかったら」
言葉を言い終えると同時に、アキは蓋を開けてケーキを頬張る。
私は少しだけ緊張して、感想を待った。


「うん、さっぱりしてて、それでも甘くて・・・これ、すごくうまいよ!」
アキは、満面の笑みを浮かべていたのでほっとした。
「ほんと?よかった。それなら、他の皆にも・・・」
「いや、これは一人で食べたい。・・・独り占めしたい」
言葉を遮り、アキが言う。
そんなに気に入ってくれたんだと、私も嬉しくなった。

「気に入ってもらえてよかった。言ってくれたら、またいつでも作るよ」
「セイラン、ありがと。試合見に来てくれた上に、差し入れまで持ってきてくれて。凄く嬉しい」
そんな率直なお礼の言葉を聞いたとたん、私はなぜかどきっとしていた。
嬉しさとはまた別の何かを、一瞬だけど感じていた。

「ほら、アキ!いつまでもだべってると更衣室閉めるよ!」
「あ、ヤバイ、行かないと。じゃあ、また明日」
「うん、バイバイ」
アキは、急いで更衣室へ駆けて行く。
今度は、私がその背を見送っていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
今回はいちゃつきなし・・・どうやって密接にしようか悩むこのごろです。
やっぱり、やまあり、オチあり、意味ありを目指すと長々してしまうのかも。
早く展開進められるよう精進します。