平坦な?高校生活5


生徒が忌み嫌っていたテスト期間が、やっと終わった。
皆、気が楽になったようで、勉強漬けの休み時間は夏休みの予定を話す時間に変わっていた。
夏休みまではまだ少し日数があるけれど、テストが終わったというだけで、生徒を浮足立たせるのは十分だった。

教室はいつもより騒がしくて、テンションの高い子が多い。
そんな中、笑いながら肩を叩いたり、腕を組んだりしている女子が目につく。
彼女達は、あんなにも気軽に、お互いに触れている。
それを見ていると、アキがしたことは普通のことなんだと、そう思えてくる。

異性ならまだしも、アキの性別は私と同じ。
なのに、過剰反応してしまった私の方がおかしいのかもしれない。
去年は、腕を掴むことすらしなかったアキだけど、一年経って、ものの考え方が何かと変わったんだろう。
私は、そう自分を納得させた。


テストが終わり、授業は進めるところがなくなったので、午後は自由になった。
結果が帰ってくるときは緊張するけれど、午前で帰れるとなると、ずいぶん気が楽になる。
早く家に帰ろうと校門へ行く途中で、後ろから軽く肩を叩かれた。
突然のことだったので、私は思わず肩を震わせる。

「ゴメンゴメン、驚かせて」
振り向くと、アキがいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「アキ・・・びっくりした」
「セイラン、突然なんだけど、今度の日曜ヒマ?」
「うん、ひ・・・」
暇だよ、と言おうとしたそのとき、先週の出来事が脳裏に浮かんだ。
もし、またアキが家に来て、先週と同じことされたらどうしようかと。
それは普通のことなんだと、さっき自分を納得させたはずなのに。
何で、動揺してしまうのかわからなかった。

「予定があったら、別にいいんだけど・・・その日、バスケの試合があるんだ。
それで、もし時間あったらって思って」
「あ・・・そ、そっか、試合ね。うん、時間あるし、見に行くよ」
私の思考回路は何を考えているのか、一人で勝手に焦ってしまっていた。

「ありがとう。今回は強敵なんだけど、セイランがいてくれるんなら心強いし」
「そうかな?それじゃあ、メール待ってるね」
会話はそこで終わり、アキは部活へ、私は家へ帰った。

アキは、私の家でのことは何ら気にしていないのか、その様子はいたって普通だった。
やっぱり、私が気にしすぎているんだ。
あれはただの、女の子同士のスキンシップ。
ただ、それだけなんだから。




日曜日、日差しが降り注ぐ中、私は学校の体育館に来ていた。
もちろん、アキの試合を見るために。
夏休み近くともなると、流石に気温が高くて暑い。
それでも、今日は本格的な試合だからか、見学者が多かった。

「セイラン、来てくれてありがとう」
「約束したから。確か、今日の相手は強敵なんだよね。頑張って」
ぱっとアキの方に向き直り、会話を変える。
「ん、そのことで、ちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・」
「アキ、おしゃべりしてる暇はないよ」
大きくなくとも、よく通る声でマネージャーが呼びかける。

「・・・また後で言うから」
アキは、チームの元へ戻って行く。
私は定位置の、体育館の隅へ移動した。


しばらくして、試合が始まった。
強敵だと言っていただけあって、なかなかシュートが決まらない。
得に、アキは集中的にマークされていて、よくシュートを外していて。
前半は、そのままお互い点数が入らぬまま終わった。


選手達はコートから離れ、床に腰を下ろしている。
マネージャーは、いそいそとタオルやスポーツドリンクを配っていた。
暑い中で運動しているのだから、かなり体力を消耗しているのだろう。
けれど、首からタオルをかけて床に座っているアキは、いかにもスポーツマンの風体をしていて。
その姿があまりにも似合っていたので、私はじっと見てしまっていた。

視線を感じたのか、アキもこっちを見る。
すると、手招きされたので小走りで駆け寄った。
「アキ、どうしたの?」
私はしゃがんで、視線を合わせる。


「あのさ・・・さっき、言いかけたことなんだけど・・・」
「うん、何?」
アキは、少し言いづらそうに言葉を濁す。

「・・・この試合に勝てたら・・・家に、泊まりにてほしい」
「アキの家に?」
私は、目を丸くしてアキを見た。
前、私の家に来たことすら初めてのことだったのに。
まさか、泊まりに来てほしいなんて言われるとは思っていなかった。

「こんな勝手な頼み、駄目かな」
「ううん、駄目じゃないよ。泊まりに行きたい」
私は自然と微笑み、アキに答える。
突然の願いは確かに驚いたけれど、それ以上に嬉しかった。
家に上げてもいい相手だと言ってくれて、それだけ親密になれた感じがするから。

「ありがと。こんな、勝手な頼み聞いてくれて。・・・よし!なら、意地でも決めないとな」
アキはさっと立ち上がり、軽く肩を回す。

「絶対負けない。セイランが見ててくれるんなら、絶対に」
「アキ・・・」
少し恥ずかしい言葉だったけれど、少しも悪い気はしない。
そして、ほどなくして試合再開の笛が鳴った。




またまた結論から言うと、アキは勝てなかったけれど、負けてもいなかった。
点数表は6対6になっていて、試合結果は引き分けだった。
終了後、私はすぐにアキに駆け寄った。

「アキ、お疲れ様」
「・・・勝てなかった。セイランと、約束したのに・・・」
半端な結果に満足していないのか、アキの言葉が沈みがちだった。
「でも、負けてもいないよ。アキ、マークされてたけどシュート決めたし、かっこよかった」
最後の言葉に、アキの表情は少し緩んだけれど、すぐに深刻なものに戻ってしまう。

「試合には勝てなかったけどさ・・・私、アキの家、行きたいな」
「えっ」
アキは、はっとしたように目を開いた。
さっき、勝ったら家に来てほしいと言われたけれど。
たとえ負けても、私は何とか理由をつけてアキの家に行きたかった。
友達同士のお泊まり会を、一度体験してみたかったし。
ただ単に、アキがどんなところに住んでいるのかも知りたかった。

「一回、友達の家に泊まってみたかったんだ。アキの予定が空いてるときに・・・」
「明日!いや、今日、今からでもいい、セイランがいいって言うんなら、早い方が嬉しい」
アキは意気揚々とし、とたんに明るくなった。

「あ、うん、じゃあ、今晩、行ってもいい?」
「じゃあ、夜、迎えに行くから」
アキはすかすがしい笑顔を残し、更衣室へ去って行った。
本当に急なことだったけど、躊躇いはなくて。
私は、久しぶりにわくわくとした楽しみを感じていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
今回、全く触れ合ってませんが・・・フラグ立て回ということで。