ヘルシング4


最近、吸血鬼とグールが問題を起こす頻度が異常だった。
アーカード達は夜はほとんど出ずっぱりで、処理しても翌日には新たな吸血鬼が出現する。
この裏には何かあると、インテグラは界隈から情報を集めていた。

今日も雑魚の始末が終わり、三人が屋敷に戻ってくる。
いつもならすぐに解散だが、自室に行く前に広間に集められていた。

「最近、吸血鬼が異常発生していることは知っているな。それも、生まれたばかりの雑魚ばかりだ」
「お陰で何も楽しめん、そろそろ嫌気がさしてきたな」
「喜べ、明日、元凶がいる場所へ行く。結構な距離があるから、途中の村で一泊することになる。
その後、アーカードとセラスは敵の本拠地へ殴り込め、リノは拠点の防衛だ」
インテグラの指示に、リノは嫌な予感を覚える。

「そんな、僕も敵の居る場所へ行く」
「お前は何体も魔物を呼び出せる、四方八方を守るにはうってつけだ。異論は認めん」
容赦なく言い切られ、リノは不安気に目を伏せる。
自分が死ななければいいだけの話。
だけれども、敵の戦力がわからないのに、死なない保証なんてなかった。

広間を出た後、リノの気分は一気に重たくなる。
ここに居続けられるか、追い出されるか。
できれば、居続けたいと思う。
アーカードは、自分を殺してくれる唯一の相手かもしれないのだから。




翌日、リノは不安を抱えたまま軍の強靭そうな車に乗り込み、村へ赴く。
そのときは、寛容な村の人を脅すなりして宿泊するのだと思っていた。
けれど、目的地が近づくにつれて、景色に見覚えがあることに気付き始めた。
まさか、まさかと思いつつ、外を気にせずにはいられない。
「落ち着きがないな」
「・・・ちょっと、気になることがあって」
いつの間にか、リノの口の中は乾いていた。

目的地に着き、車から降りる。
その村は、村と呼んでいいのかと躊躇うくらい、何もない所だった。
家はあるものの人の気配はまるでなく、動物の鳴き声もしない。
そういった生き物だけでなく、大地は荒廃していて、草一本生えてはいなかった。

「家は残っているのに、住民は誰もいない。軍隊や吸血鬼がぞろぞろとやって来ても文句を言う奴もいない。
非常に都合の良い村だよ、ここは」
確かに、公に知らされていない組織にとっては、うってつけの場所。
けれど、リノは強い嫌悪感に襲われていた。
これ以上は進みたくないと、本能的に拒否する。
リノは、村に足を踏み入れようとはせずに、硬直していた。

「どうした、さっさと行くぞ」
アーカードに声をかけられても、リノは動こうとはしない。
「僕は・・・村の外にいる」
「勝手な行動は許されん。お前は私から逃れられないのだから」
アーカードはリノの手首を掴み、無理やり引く。
強い力に抗えず、リノは村へ入って行った。


何も変わっていない、昔のまま、何もない。
村の奥へ足を進める度に、胃が重苦しくなる。
強いストレスを感じていて、リノの顔色はずっと冴えなかった。

「嫌そうな顔をしているな。この村に何かあるのか」
リノは、何も答えない。
その態度から、隠しごとをしていることは明らかだった。
アーカードはリノの顎を掴み、自分の方を向かせる。

「反抗的な態度を取るな。お前は、私の命には逆らえない」
「う・・・」
アーカードは、じっとリノの目を見詰める。
その眼光に捕らわれると、口を開いてしまいそうになる。
危機感を覚えて、とっさに自分の指を噛み切っていた。
獅子が飛び出し、アーカードに体当たりして手を離させる。
リノは獅子に乗り、一目散に駆け出していた。


獅子が向かった先は、村の外れにある小さな家。
無意識の内に、安全な場所を求めていたのだろうか。
気付けば獅子を戻し、中へ入っていた。
足は、真っ直ぐに部屋の一室を目指す。
そこは、本棚とベッドしかない小さな部屋。
リノは、ベッドをじっと見て、布団をめくり、シーツが白いままなのを確かめた。

ここは、赤く染まっていたはずだった。
けれど、いつの間にか染みがなくなっていて、真っ白に戻っていた。
赤いままの方が良かった。
そうすれば、自分一人が死ぬだけで済んだのだから。

「ここは、お前の家か」
リノはさっと振り返り、アーカードを睨む。
部外者が、入ってこないでほしいと主張するように。
「お前とこの村は関係があるようだな。教えてみろ」
リノは伏し目がちになり、閉口したままでいる。
断固として言う気配がなく、アーカードは舌打ちする。

「答える気がないのなら、その身に聞いてみるか」
「・・・拷問しても、化物が生まれて兵を襲うだけだ」
アーカードはリノの腕を掴み、ベッドに座る。
足の間に体を引き入れ、後ろから束縛した。
「は、離せ・・・」
抗おうとしても、片腕で制されてしまい身動きが取れない。

「お前の命ごと吸い尽くしてしまえば、記憶が入り混じる。
だが、お前を殺せば私の仕事が増えるな。だから、別のものを貰おうか」
アーカードは、片手をリノの下肢へ持っていく。
まさかと思い、リノは両手でアーカードの腕を掴んだ。
そこで、腕に急に手ごたえがなくなり、どろりと解ける。
融解した黒い液は、リノのズボンの中へ入り込んだ。

「ひ、っ・・・」
どろどろとした液体が、下着の中へと進んでくる。
それは、下肢の中心へまとわりつき、敏感な個所を覆い尽くした。

「ああ、っ・・・や・・・」
とたんに、リノは身を震わせる。
突然すぎる愛撫に、驚愕の方が大きかった。
「血液よりは薄いが、記憶の断片くらいはわかるだろう」
下着の中で、黒い液がうごめく。

「や、やだ・・・っ」
初めて触れられる感覚に怯え、リノは自分の指を噛もうとする。
余計な邪魔はさせまいと、アーカードは液をリノの腕にもまとわりつかせて、下ろすように制した。


「やめ・・・こんな、こと・・・」
「お前が口を割らないからだろう。今更、中断はせんぞ」
下肢の液は、その身を昂らせるようにしきりに動く。
淫猥な感触に、リノの息は早々に熱っぽくなり、荒くなっていた。
心音が早さを増し、気が落ち着かなくなる。
無理矢理な行為でも、体は反応してしまっていた。

徐々に、下半身の服がきつくなる。
液体は範囲を広げ、ズボンの留め金を器用に外し、下着をずらした。
いきり立ったものが露わになり、リノは目を逸らす。

「触れられるのは初めてか」
「う・・・う、ん」
リノは、素直に頷いてしまう。
ずっと一人だったのだから、女性経験なんてなかったし、ましてや男性に触れられたこともない。
まだ快楽に慣れていなくて、動揺や不安感が入り混じる。
液体がうごめくと、リノは小さく悲鳴を漏らした。

「あ、う・・・やだ・・・いや、だ・・・」
「お前はさっきからそればかりだな。まだ悦が足りんか」
アーカードが舌を出し、リノのうなじをゆっくりと弄る。
驚いたように肩が震え、柔いものから逃れるように背が丸くなったけれど
少しも身を離そうとはせず、舌はうなじから耳までをなぞり上げた。

「何も考えられないようにしてやろう。悦楽に溺れるがいい」
液体がわずかに身を引き、質量を減らす。
そのまま退くのではなく、液はリノの先端へと移動し、中へと入り込んだ。

「あぁっ・・・!ひ、やめ・・・!」
いくら拒絶の言葉を発しても、液の動きは止まらない。
少しずつ中へと入り込み、リノを内側から犯そうとする。
「や・・・や、あ、う・・・!」
強い感覚に襲われ、リノは高い声を上げる。
追い出したいと思うのに、液は奥へ奥へと進んできてしまう。
自分の何もかもを暴かれてしまう気がして、恐怖心が増す。
その一方で、意識は知りようのない感覚に侵されてきていた。


「そうだ、その欲望を体に刻み付けておけ。すぐに、余計な感情は消え失せる」
「あ・・・う・・・」
アーカードは、リノの耳元で誘惑するように囁きかける。
羞恥心も、恐怖心も忘れさせて、ただ一つの感覚を与えるように。
液に侵されていくにつれて、リノの目は焦点が合わなくなる。
気付けば、嫌悪感なんてなくなっていて、体は刺激を求めていた。
「さあ、絶頂に達してみろ。そして、私に全てを曝け出すがいい」
液が急激に動き、上下に運動する。

「やあ・・・っ、あぁ・・・!」
さらに受ける感覚が強まって、リノの体が跳ねる。
液はいやらしい音を立て、しきりに擦り合う。
狭い隙間から出入りを繰り返され、リノは歯を食いしばる。
けれど、液が溢れて先端から垂れ、その身が再び包まれると、荒い息を吐かずにはいられなくなった。
熱くて仕方がなくて、解放してくれることを望む。
リノの意識は、初めて欲を求めていた。

高まった感情に応えるように、液がリノのものを包み込む。
もう、淫らな感覚を感じないところなんてない。
そして、液がずるずると奥まで入り込んだ瞬間、脳髄まで届く衝撃がリノの身を襲った。

「ひ、あぁ、や・・・う、あ、あ・・・っ・・・!」
リノは悲鳴にも近い声を発し、絶頂に達した。
黒い液に侵されている先端から、白濁が溢れて漏れ出す。
黒と白が混じり合い、白色はすぐに呑まれていく。


精が吸収され、アーカードの脳裏にリノの記憶が流れ込んでくる。
一番に強い記憶は、真っ暗闇だった。
融解した体と同じようにうごめき、何かを求めて一心不乱に進んでいる情景が浮かぶ。
そこから、記憶が巻き戻る。
目の前に見えるのは、振りかざされた果物ナイフと、女性と、真っ赤な鮮血。
それは、相手のものではなくリノ自身のものだった。

ベッドに仰向けになったまま、リノは女性を見詰め、目を潤ませる。
抵抗する時間は十分にあった、けれど何もしなかった。
心臓が熱くなり、死を受け入れるように、静かに目を閉じる。
それは望んでいたものではないけれど、抗う気力なんてない。
リノの目尻から涙が落ちた瞬間、世界が闇に覆われた。


記憶の断片は、そこで途切れる。
一回の行為で搾取できる量で読み取れるのは、そこまでが限界だった。
リノの体にまとわりついていた黒い液が、身を引いて行く。
どこまで、知られてしまったのだろうか。
追及する気が起きなくて、リノはぐったりとしてアーカードに身を委ねた。

「少量では詳しいことまではわからんな。もう一回してみるか」
「え・・・う、いやだ・・・」
リノは、弱弱しく首を横に振る。
アーカードはリノの頬に手をやり、自分の方を向かせた。

本当に、何も知られていないのだろうかと、リノは訝しむ。
けれど、鋭い目に見詰められると、追及はできなくなった。
そのまま顔が近づき、唇が重なる。
行為の余韻が残っているからか、その感触がやけに心地よくて
リノは静かに目を閉じ、口付けを受け入れていた。

アーカードがゆっくりと身を離し、リノの頬に触れる。
無理矢理な行為とのギャップがあって、安心感が身を包む。

「貴方は・・・僕が望んだら、殺してくれる・・・」
「今はまだ、お前は兵力として必要だ」
必要だと言われて、リノは内心嬉しくなる。
けれど、一方で、争いに怯えながら生きなければならないことに不安も覚えている。
そんな中だからか、腕に抱かれている今この時に、安らぎを感じていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
早々にいかがわしい場面。アーカードが融解した場面を見たら、つい・・・