ヘタリア #1

―プロローグ―

近年、今まで息を潜めていた小国が大きくなりつつあった
その国は持ち前の軍事力で周囲の小国を併合させ、徐々に力を拡大していった
大して気に留められなかった小国のそんな噂は、ぽつりぽつりと広まっていった
そして、ある程度力を蓄えたその国は、さらに世界へ進出しようと試みた

だが、大きくなったとは言え、各国でよく噂を聞く、強大な国々にはまだとても敵わなかった
そこで、その国はまず同盟国を増やし、様々な文化の兵器や戦略を取り入れようと考えた
そしてその国は友好関係を築く為に、世界会議の会場に来ていた




ここは、世界各国が集まり会議をする、大規模な建物
そして、会議が終わり、各国が会議場から出てくるのを待っている国がいた
あまり内容がまとまっていないのか、よくがやがやと騒がしい声が扉の向こうから聞こえてきている
かれこれ待つこと一時間
そろそろ終わるかもしれないと、どんな美辞麗句を並べるか考えていた


さらに三十分ほど経っただろうか
部屋の中が静かになり、扉が開く音がした
それを待っていたその国は、一番に出てきた国にかける言葉を準備していた
だが、そんな綺麗ごとの言葉が吹き飛んでいってしまうほど衝撃的な事が待ち構えているとは、思いもしなかった

最初に出てきた国は、会議が終わるのを待っていたその国を見ると、呆然と立ち尽くしていた
そして、言葉を考えていたはずのその国も、呆然としていた
その相手は、初対面ではなかった

「り・・・り・・・・・・」
扉から出てきた国は、何か言いたそうに口をぱくぱくと動かしていた
一方、その相手国は目を見開き、驚きを露わにしたまま動かなかった
予想だにしていなかった出来事に、お互いついていけていないようだった
扉の後ろから各国がぞろぞろと出てきて、何だ何だとその様子を窺っている

「うわぁぁぁぁぁっ、あ、会いたかったよぉぉぉぉ!」
面と向かい合っていた国が突然号泣し、周囲の国がぎょっとした
そしてその国は、自分のまっ正面にいた国に飛び付くようにして抱きついた
抱きつかれたその国は、まだ思考回路がこの状況に追いつけないでいた

「イタリア、それは・・・誰だい?」
そう尋ねたのは金髪の好青年、アメリカだった
この状況を見て驚いている国も、興味深そうにその答えを待っていた
イタリアは一旦抱きついていた国から手を離し、各国に向き直って嬉しそうに言った

「この子はね・・・俺の、初恋の人なんだ!」
その発言に、そこにいた国々は発する言葉もないくらい、絶句していた
初恋の人だと紹介された国は、言おうと思っていた美辞麗句が、全て吹き飛んでしまっていた


イタリア=ヴェネチアーノとは、初対面じゃなかった
くるんとした一本の髪や、不思議な言動が特徴的で、忘れようにも忘れられなかった相手だ

まだお互いが小国だった頃、友人として良い仲だった
だが、自国が軍事国家として成長していくと、その友人を危険にさらす可能性があるとわかっていた
だから、突然、何の別れも言わずにイタリアの前から姿を消した
そして、案の定、上司から近隣国を併合という名で征服しろと、そう命令が来た
今度は、大国を征服する為の仲間集め
国の統制役である上司には、逆らえなかった


「ね、ね、もしかして、俺を待っててくれたの?会いにきてくれたの?」
すぐ隣にいるイタリアに呼びかけられ、はっとして正面にいる各国を見た
衝撃的な出来事に、思わずここへ来た意味を忘れそうになってしまっていた
イタリアへの返事はひとまずおいといて、とりあえずさわやかな笑顔を作った

「初めまして、各国の皆さん。僕はイタリアの古い友人、リンセイと言います。
まだ矮小な国ですが、どうかお見知りおき下さい」
リンセイという国は、形式ばった敬語を組み合わせ、丁寧に挨拶をした
堅物かと思われるかもしれないが、印象が悪くなるという確率は低い挨拶だった
こういう、形式的な挨拶に好感を持つ国が一つくらいはあるだろうと、そういう事も踏まえられた言葉だった

まさかイタリアがこの会議に出席しているとは思っていなかったが
ある国から信用されているという事は、他国と同盟を結ぶ時の信用性に繋がる
久々に会った友人には悪いが、その関係を利用させてもらうことにした

「ねえねえリンセイ、今日俺の家に来てよ!何なら、しばらく居てくれてもいいからさ」
イタリアはリンセイの腕をぐいぐいと引っ張り、無理にでも連れて行きそうな勢いだった
ここで各国と一言二言交わしておきたいと思っていたが、国々の視察も大切な任務
どの国が味方となり、敵となるかは現状ではわからない
今はこのイタリアという国がどうなっているのか、じっくりと調べておくのもいいかもしれない

「いいよ。君の国のこと、色々と知りたいしね」
笑顔を崩さぬまま了承すると、イタリアの表情はとたんに明るくなった

「それじゃあ行こ〜!観光地とか、おいしいお店とか案内するよ〜」
イタリアはよほど嬉しいのか、腕を組んだままリンセイを引っ張って行った
腕を組んで歩くのはどこか照れくさかったが、スキンシップが多感なイタリアの事なので無下に振り払う事はしなかった
それに、正直なところイタリアに会えた事は嬉しかった
上司からの命令がなければ、もっと嬉しかったのだが・・・




それから、リンセイは一日中イタリアに引っ張り回された
何件もパスタの店を紹介され、景色の良い場所を何か所も回った
リンセイは、まるで敵情視察をするように注意深く街を見ていたので、結構疲労していた
そうこうしている内に日は落ち、街は暗くなってきていた

「イタリア。今日、君の家に泊まってもいいか?」
イタリアは戦いに関してはからっきしの様子だったが、のどかな雰囲気や食事の豊かさにひかれた
戦争には役立ちそうにないが、友好関係を深めておいて損はなさそうな国だった
それに、今日は流石に疲れたので、自国へ帰るのが面倒だった

「もちろん、大歓迎だよ!久しぶりにリンセイと一緒に眠れるの、嬉しいな〜」
イタリアはその申し出を何も疑う事無く、易々と受け入れた
いつの間にか一緒に寝るという事になっているようだったが、リンセイは特に何も言わなかった
そしてリンセイは内心、イタリアももう大人、流石にあの癖は直っているだろうと
そう、思っていた



「あ、リンセイ、お風呂あがった?それじゃあ寝よ〜」
イタリアがベッドの上で、待ってましたと言わんばかりに上半身を起こして手を振っていた
リンセイは、そのイタリアの姿を見て絶句した

予想は、外れてしまっていた
イタリアは昔と同じ、何も身に着けていない状態でベッドに入っていた
まだ小さい頃はさして気にしなかったのだが、今となっては無視するほうが難しい
これには、黙っているわけにはいかなかった

「・・・イタリア、僕と一緒に寝たいんなら、服を着てくれ」
溜息混じりでそう言うと、イタリアは嫌そうにヴェーという奇声を発した

「だって服着て寝ると窮屈だし・・・そうだ、ならリンセイも俺と同じ格好すればいいじゃん!」
そう言ったとたん、イタリアがベッドから下りようとしたので、リンセイは慌てた

「わ、わかった、そのままでいいから。もう横になってくれ」
リンセイの慌てように、イタリアは大人しくベッドに寝転がった
慌てたはずみで、ついそのままでいいなんて事を言ってしまった
まさか再開して早々、裸の友人と床を共にするとは思わなかったが
今は友好関係を崩さない為にも、我慢するしかなさそうだった

リンセイが諦めた様子でベッドに寝転がると、すぐさまイタリアが抱きついてきた
「っ・・・!イ、イタリア!」
いきなり裸の友人に抱きつかれ、リンセイはまた慌てた
イタリアではこれはスキンシップの内に入るのかもしれなかったが、ここまで過度なものが自国にないリンセイは狼狽していた

「リンセイ〜」
一方イタリアは、呑気に友人の名前を呼んでいた
リンセイはすぐさままわされた腕を解こうかと思ったが、イタリアの表情を見ると、手が止まってしまった
今自分に抱きついているイタリアの表情は、今まで以上に穏やかで、幸福感に満ちた表情だった

何十年も会わなかったというのに、まだ自分を好ましく思ってくれているのだと再認識させられた感じがする
それならば、暫くはイタリアの好きにさせるのもいいかと、そう思った
そして、イタリアが幸せそうにしている姿を見た時、なぜか僕も幸福感を覚えていた
ただでさえ抱きつかれるという事にあまり慣れてはいなくて、どうにも落ち着かなかったが
僕に抱きつくことで、友がこんなにも嬉しそうにしてくれるのなら構わないと、そんな思いが生まれていた
イタリアが敵になる可能性がないわけではないのに、こんな事を思ってしまっている自分がまた不思議だった


リンセイがぎこちなくイタリアの背に片手をまわすと、イタリアは甘えるように擦り寄って来た
イタリアのその仕草は、何だか昔を思い出させるようだった
しかしあまりまじまじと観察していると、必要以上の情が生まれてしまいそうだった

「リンセイ、明日は俺の友達紹介するね。ちっちゃくて、かわいい国なんだ〜」
「へえ。楽しみにしておくよ」
それは、願ったり叶ったりの言葉だった
イタリアの紹介とあらば、相手国も警戒を緩めるかもしれない
何も知らない友を利用するのはやはり罪悪感があったが、上司に逆らう訳にはいかなかった

それにしても、イタリアから自分の事を初恋の人だと紹介された時には驚いた
昔から好きだとは言われていたが、それが恋愛要素を含んでいるものには聞こえなかったからだ
イタリアにそんな想いがあるのならば、この状況は非常にまずい
だが、所詮幼い頃の話
もう数十年経っているのだから、今もそんな想いを持ち続けているとは思えない


そうして何かと考え事をしている内に、隣から規則正しい寝息が聞こえてきた
「・・・お休み、イタリア」
リンセイは小声で呟くと、自分も目を閉じた




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
とうとうヘタリアにも手を出した管理人、しかもオリキャラで・・・
話は続ける予定なんですが、まだ二話までしか考えられてないという(汗)
なのでヘタリアは、短編をぽんぽん出す形になるかもしれません
それも、いつまで更新し続けられるかわからないという気紛れな性格ですが・・・orz