ヘタリア #12後編


刀が、床に落ちる音がした
そして、膝が崩れた

肩の震えが止められない
手に力を込めていないと、零れ落ちそうになる
それでも、口は言葉を発そうとする
ここへ来た意味を、覚悟を掻き消してしまう言葉を
そんなことを言ってしまえば、何も解決しない
僕が処罰されるだけで、元の黙阿弥に戻ってしまうというのに

「ぼ・・・く・・・は・・・・・」

自分にも聞こえるか聞こえないかというほどの、掠れた小さな声が発された
どんなに抑えようとしても、抑えきれない
口が開き、声帯が震え、言葉が紡がれてゆく
そんなこと、そんなことを言ってはいけないはずなのに
そんな、決心を打ち壊す言葉を


「・・・・・・亡びたく・・・ない・・・・・・っ!」


震える声で、僕は言った
ああ、これが僕の本音だったのだと、言葉に出した今気付いた

「僕は、イタリアと・・・日本さんと・・・・一緒にいたい・・・・・・」
溢れ出した本音は、もう止まらなかった
全てを台無しにする言葉のはずなのに
口は決して、閉じようとしなかった


「お願いします、併合を・・・取り止めて下さい・・・!
消滅すること以外の刑罰なら、どんな事でも課して下さい・・・
僕は・・僕は・・・まだ、二人と離れたくないんです!」

上司を見上げて、本音をぶつけた
言葉を言い終わったとたん、急速に視界が滲んでいった
とめどなく涙が溢れ、目の端から次々と流れ落ちてゆく
上司の前で涙を流すなど、こんなに情けないことはなかった

だけど、今はどうしても抑えられない
乱暴に袖で拭っても、また溢れてくる
しゃくり上がる声を抑えようとすると、喉が熱くなる

もう、何も言えない
声を出そうとすると、変な呼吸音が出てしまう
僕はイタリアに、日本さんに、こんなにも執着している
いつからこんなにも、二人を大切に思うようになったかなんて覚えていない
だけど、確かに僕にはあった
二人と離れたくないという、強い願望が





「お前の涙など、初めて見た」
上司は、静かに言った
そしてベッドから腰を上げ、リンセイの前に立った

罰を、言い渡されるかもしれない
涙の量は、だんだんと減ってきていた
まだ少し滲んでいる視界に、下りてくる掌があった
情けない姿を見せるなと、平手打ちの一発でも繰り出されるだろうかと思った

だが、その手は、顔よりも上の方で止まった
上司は、リンセイの頭をぽんぽんと軽く叩いただけだった
まるで、子供を慰める親のように
リンセイは上司のその行動が意外で、呆然と相手を見上げていた

「もう眠れ。私に、そんなに情けない姿を見せるな」
上司はいつものように、無表情で言った
涙は引き、上司の顔色が伺える
はたから見たら、いつもの無表情
だけど、今の上司からは何か別のものが感じ取れた
頭を軽く叩いた掌は、どこか優しくて
僕は少し、嬉しいということを感じていた

「明日、二国へ行ってこい」
「・・・どういう意味ですか?」
まさか、先陣を切れとでも言い出すつもりだろうかと思い、リンセイは訝しげに上司を見た
「お前は二国と対面し、そして―――」








翌日
僕は上司に言われた通り、イタリアと日本さんと対面していた
いつかのように、和室に座って顔合わせをして

「急な御用事とのことでしたが、やはり、国内で何か・・・」
「えっ、リンセイ、どうしたの」
日本さんの言葉で、イタリアも心配そうに僕を見る
国内で何かあったことは間違いではないが
それは、悪い方向へは傾かなかった

「折り入って、二人に相談があるんです」
その相談を悩み相談とでも思ったのか、二人は心配そうな表情をした
けれど、その表情は僕の次の言葉で一変した

「僕と・・・同盟を結んでほしいんです」


昨夜、上司が告げたことは、二国と同盟を結んでこいということだった
上司は領地を拡大できないことに不満があったかもしれないが、僕は感謝した
同盟を結んでおけば、危害を加えることも、加えられることもなくなる
そう、ずっと今の関係を保ってゆける

いくら好感を持たれていても、必ず同意してくれるとは限らない
だけど、希望を抱かずにはいられなかった
僕は緊張して、二人の言葉を待った
返答に、そんなに時間はかからなかった



「もっちろんいいよー!俺、リンセイともっともっと仲良くなりたいもん。
ね、日本もそうでしょ?」
イタリアは、満面の笑みで答えた
だが、リンセイはまだ内心緊張していた
この前、日本国では愛情の証とも言える行為をしてしまったのを思い出すと、警戒されてもおかしくはないと思っていた
少しの間があった後、日本さんは静かに言った

「私も・・・謹んで、お受けいたします」
柔らかい笑みが、僕に向けられた
僕は・・・心底、安心した
肩の力が、ふっと抜けていった

「ありがとうございます・・・!日本さんも、イタリアも・・・ありがとう・・・!」
僕は頭を下げ、言葉では言いきれないほどの感謝を示した

これで、これで友を失わずに済んだ
一旦は亡びを覚悟した身だったが、今はこの二人と居続けられることがたまらなく嬉しい
勿論、上司の部屋に忍び込んだ罰則はある
けれど、今はそんなもの、とてもささいなことに思える

僕が執着しきっていたこの二人が、友で在り続けてくれる
国なんて、これ以上大きくならなくても
僕はそれだけで、十分だった




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
これにてヘタリア連載は終わりです・・・が
まだ日本とも、イタリアともかなり不完全燃焼なんで、番外編や短編で補充していきたいと思います
最終話なのに二国の出番少なくてさーせん・・・orz
ただ、終わらせただけ・・・って感じですorz
番外編では、行きつくとこまで行きつくと思います(自重?なにそれおいしいの?)