ヘタリア #6後編


家に着くと、二人はキッチンを借りて早々に夕食の支度にとりかかった
「イタリア、何が食べ・・・聞くまでもないか」
何が食べたい?という質問の答えは、簡単に予測できたのでリンセイは途中で言葉を止めた

「パスター!」



それから二人でパスタを茹で、結構本格的にソースを作った
イタリアの料理の腕は中々のもので、いつの間にかリンセイのほうが手伝う形になっていた
完成したのは、オーソドックスなミートソースパスタ

だが、自分で作ったものより格段においしかった
流石パスタが主食の国だけあると、リンセイは関心した
イタリアもその出来に満足しているようで、何とも幸せそうな表情であっと言う間にパスタをたいらげていた
リンセイは、相手のこんなに幸せそうな表情を見ることができるのなら、
たまには複数人で食事をするのも悪くはないなと思っていた




夕食の後片付けをした後、二人はリンセイの部屋に移動した
リンセイの部屋は一階の一番奥にある、ひっそりとした場所にあった
イタリアはその部屋を見つけると、わくわくしながら扉を開いた


リンセイの部屋は、ひっそりとした場所にあるものの、内装は綺麗だった
部屋の隅に置かれたベッド、中ぐらいのタンスとクローゼット
部屋にはそれらの家具と窓しかなく、スペースがかなりありあまっていた
客をもてなす椅子やテーブルがないところを見ると、来客など滅多に来ないのだということがよくわかる
だが部屋は清潔感に溢れていて、床や家具には塵一つ見えなかった

「見てのとおり、椅子がないから・・・ベッドにでも座ってくれ」
座る場所など、一人で過ごすにはベッドで十分だったので、元々あった椅子は倉庫へ押しやってしまった
ごちゃごちゃしているのは嫌いなので、部屋には必要最低限の物しか置かないでいた


イタリアがベッドに腰かけると、リンセイも隣に座った
二人分の体重で、ベッドの生地は結構沈んだ

「このベッド、ふかふかだ〜」
イタリアはベッドに頬擦りするようにしてうつ伏せになり、手足をぱたぱたと動かした
家具が少ない分、品質にはこだわっていた
このベッドは柔らかさや肌触りを追求した、結構な高級品
枕もふかふかで、寝心地の良さは一級品
緊迫感のある国の中で、せめて眠る時は安眠したいという理由で、特別に作ってもらった品だった

「イタリア、眠る前に風呂に入ってきてくれ。そこの扉の先にあるから」
リンセイは入り口とは違う扉を指差した
イタリアは、は〜いと返事をすると、その扉の奥にある風呂場へ移動した




イタリアに続いてリンセイも入浴を終えた後、やはり服一枚身に着けていない友人がベッドに横になっていた
床に散布している服が、何も身に着けていないということを物語っていた

「ほら、イタリア、奥に詰めてくれ」
イタリアが外側に寝転んでいたので、壁側に行くよう促した

「え〜、リンセイがそっちに行ってほしいな〜」
「別に、どっちが壁側にいてもいいじゃないか」
そう言ったが、イタリアはどこか渋っているようだった

「だって・・・朝になって、リンセイがいなくなってたら嫌だから・・・」
それを言われたものだから、リンセイはたじろいだ
その発言にだけは、返す言葉がなかった

「・・・わかった。僕が壁側でいいよ」
どっちにしろ大差はないので、リンセイは空いているスペースに寝転がった

「このベッドすっごいふかふかだね〜。リンセイも俺みたいになれば、肌触りがよくて気持ちいいよ〜」
「それは嫌だ」
リンセイは、きっぱりとした口調で即答した
友人と裸になって寝る趣味は、持ち合わせていなかった
もし相手が自分と同じ状態になったとしても、イタリアは何とも思わないだろう
だが、何度も言うようにこっちはそういうわけにはいかない
いくら仲が良かったとしても、そんな行為を易々としたくはなかった


「イタリア、一つ聞きたいんだけど・・・日本さんにこうして抱きつく時、緊張するか?」
イタリアがもう無茶な事を言うい出さない内に、話題を切り替えた
イタリアに抱きつかれても、緊張はしない
だが、日本に触れられた時、かなりの緊張感があった
その緊張感を発しているものは一体何なのか
もしかしたら、スキンシップの少ない国の日本は、触れる相手を緊張させる雰囲気を持っているのかもしれないと思った

「ううん。ドイツも日本もリンセイも、抱きつくと、幸せ〜って思うよ〜」
「そうか・・・」
自分に抱きつくことで、友人が喜んでいるのは悪い事ではなかった
だが、その一方、予想が外れて少々気落ちもしていた
ならば、自分が日本に触れられた時に感じるあの緊張感は一体何なのか

自分から触れる時は、よりそれが増す
訓練の時とも、切羽詰まった時とも違う
その微妙な緊張感は、一体何なのだろう


「それじゃあ、おやすみのハグ〜」
イタリアはいつものように、自分の姿を少しも気にせず抱きついてきた
まだ少し抵抗はあったが、顔を真っ赤にして押し退けようとはしなかった
だんだんこのペースに慣れてきているなぁと、感じる時だった
両頬に軽くキスをされても、これは就寝前の挨拶だと割り切れば何て事はなかった

「リンセイからも、してほしいな〜」
「えっ」
自分からこのイタリア式の挨拶はしたことがなかったので、少し動揺した
だが、これもコミュニケーションの一貫、これは挨拶なんだと自分に必死に言い聞かせた
リンセイは意を決してイタリアを背に両手をまわし、本当に軽く、頬に自分がされた事と同じ事をした


柔らかいイタリアの頬に自分の唇が触れるだけで、かなりの緊張感を伴った
ただ押しつけるだけの不格好なものだったが、これが精一杯だった
それはほんの一時の行為だったが、緊張のせいか自分の表情が固くなっているのを感じた

さっさともう片方も済ましてしまおうと、リンセイは首を反対側に持って行こうとした
その瞬間、イタリアが急に首の角度を変えて、リンセイと向き合う形になった
そして、頬へ触れるはずのものは、イタリアの唇と重なった

「っ!」
突然の事に驚き、リンセイは反射的に顔を離した
自分からイタリアと唇を重ねてしまった事に、心音が瞬間的に高鳴った
リンセイとの距離が空くと、イタリアはその空間を詰めるようににじり寄った
そして狼狽しているリンセイに再び抱きつき、今度は自分のほうからさっきと同じ個所を重ねた

「イ、イタリ・・・っ・・・ん・・・・」
リンセイの言葉は途中で途切れ、言葉を発そうとした箇所に柔らかいものが覆い被さった
リンセイは反射的に口を閉じ、目を閉じた

心なしか以前より強く押し付けられているものに、再び心音の高鳴りを感じる
友人からされているこの行為に、体が少しずつ熱くなっていく
いや、それはただ驚いているだけだ、風呂上がりだから、熱が籠っているだけだ
友人に対してやましい事を思うはずはない、何も思うはずはない
リンセイは口付けられている間、そう自分に言い聞かせていた



イタリアが離れた後、リンセイは何も言えなかった
イタリアは本当に挨拶だけの意でこんな事をするのか、という疑問を考えずにはいられなかった
それは、あまり深く追求してはいけない疑問かもしれない
相手のペースに任せ、流されるままにしておけばいいと思う
それでも、この行為の後に浮かぶその疑問を、放っておけないのが自分の性格だった

「リンセイ、お休み〜」
そんな事はつゆ知らず、イタリアはリンセイに抱きついて、完全に眠る体制に入った
イタリアの寝顔を見ていると、真剣に考え事をする自分が馬鹿らしくなりそうになる
そしてほどなくして寝息が聞こえてくると、難しい考え事をする気などなくなってしまった
考え事は、いつでもできる
今は、もう眠ってしまおうか
友の温かみを感じる、この時間の中で―――




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
またもや長々とした文章でさーせん
ああほんとイタリアとはこういったシーンが書きやすくて助かる
そして後書きに何書けばいいかわからなくて困っているこのごろorz