微妙ではなくなった関係、後編

「・・・リンセイ君、そろそろ・・・いいですか?」
「あ、は、はい」
僕はまわしていた手を外し、布団の上に置いた
菊さんが離れてしまうことは名残惜しかったが、いつまでもそうしているわけにはいかない
相手が躊躇うことなく全てを曝してくれているのだから、いくら恥じらいがあっても拒むことはしない
再び、下着に手がかけられる
僕は少しだけ布団を握り、その行動が終わるのを待った


下半身を隠していたものが足を伝い、どんどん下げられてゆく
僕は、無意識のうちに息を呑んでいた
それが完全に取り払われたときは、菊さんの顔を直視できずに顔を背けてしまっていた

その間に、もう一枚布が床に置かれた
菊さんも、僕と同じ姿になったのだろうと思った
だがやはり、その姿の菊さんを直視する度量はなかった

そうして顔を背けたままでいると、ふいに菊さんの手が僕の頬を包んだ
そして顔の位置を固定され、菊さんと視線が交わった


「このような姿、恥じらうことは当然だと思います。
ですが・・・恥を忍んで、私を見ていてはくださいませんか?私も、リンセイ君のことを見ていたいのです」
菊さんは、僕を安心させるかのように優しく微笑んでそう言った
そう言われて、断れるはずがなかった
僕がまた「はい」と返事をすると、菊さんは頬から片手を離した
そして、その手は下腹部の方へ移動していった

「あ、っ・・・」
とたんに感じた感覚に、思わず体が跳ねた
菊さんを目の前にして驚いたような声を出してしまい、すぐに羞恥心が口をつぐませた
声を上げる要因となった箇所に、手が這わされる
慎重な手つきだがその個所は確実に刺激され、僕は体が震えるような感覚を覚えた

「っ、あ・・・ぁ・・・っ」
そこが愛撫され、やんわりと掴まれたりすると、僕は声を抑えきることができなかった
声が抑えきれないことなんて初めてで、愛撫される度に感じる感覚に戸惑った
羞恥の余り顔を背けたいと思ったが、頬に添えられている手を思うとそうはできなかった
僕は恥じらいと戸惑いが混じったような表情で、菊さんを見上げていた


「リンセイ君・・・怖くは、ありませんか?」
僕の戸惑いが伝わったのか、菊さんが手を止めて尋ねた

「怖いことなんてありません。僕は・・・菊さんに、委ねていますから」
プレッシャーを与えてしまうような言葉だったが、僕は菊さんに遠慮してほしくなかった
慎み深い彼が僕を気遣うあまり、思うように行為を進められないという状況になるのは嫌だった

「・・・ありがとうございます。では、進めますね・・・」
愛撫されていたものが離され、僕はふっと息を吐いた
そこで一瞬緊張が解かれたのだが、それはまたすぐに蘇ってきた
菊さんの細い指が、愛撫されていた箇所のさらに下方にある部分に触れた

「あ・・・」
僕は、戸惑いを含んだ声を発した
そんなところに触れられることが嫌なわけではなく、仕方ないこととはいえ菊さんを汚してしまうことが申し訳なかった
でも、止めることはしなかった
そんな理由で菊さんの覚悟を揺るがしてしまうのは、もっと申し訳なかった
そして、その中へ指の先端が埋められてゆくのを感じていた

「あ・・・っ!」
刺激に慣れていないその個所は、とたんに収縮して指を締め付けた
痛みはないが、愛撫されていたとき以上に強い感覚が体を走る
僕は思わず、布団を握りしめていた


「リンセイ君・・・大丈夫ですか?痛くはありませんか?」
菊さんは、心配そうな表情をして問いかけてきた
性格上、気遣わないほうが無理なのかもしれない

「大丈夫です。・・・菊さん、そんなに僕を気遣わないでください。
本当に、大丈夫ですから・・・菊さんのしたいように、してください」
僕は、少し積極的なことを言った
こう言ったほうが、菊さんが行動しやすいと思った発言だった

「・・・わかりました。年長者が、うろたえてはいけませんよね」
菊さんから、もう心配するような表情は消えていた
そして、僕の中にあるものは、限界まで奥へと進んでいった

「あ、っ・・・・・・は・・・っ」
僕が息をつくと、指の感触が増やされるのを感じた
ほとんど隙間のない箇所にまた指が差し入れられると、自然と全身が強張った
指はその収縮を広げ、緩めるように進んで行き、僕の息遣いはだんだんと荒くなっていった

「もう一本だけ・・・入れますね・・・」
不慣れな行為への恥じらいを含んだような呟きと共に、さらに指の感触が増やされる
埋められるとき、わずかに痛みを感じたが、僕は表情に出さないように布団を握りしめた
収縮は、さっきより少し緩んでいる気がした
けれど、感じる感覚はどんどん大きくなり、僕の息を荒くしていった
その緩んだ収縮の中で、指の動きはだんだんと増していった

「は・・・ぁ、あ・・・っ」
発したことのないような、上ずった声が発され僕は自分自身に驚いた
そして、感じている感覚のせいでさっき愛撫されていた自分のものが熱を帯び、隆起していることにも
僕は自分の体の変化に戸惑いを覚えたが、そんなことを考える余裕はなくなっていった
菊さんの指が動くたびに、僕は布団を握り締め、羞恥の余り声を抑えようとしていたから

でも、それはほとんど無駄な抵抗だった
どんなに収縮が緩んできても、熱は収まらずに声が発され、心音は最高潮に達していた
自分の鼓動を感じる中、どこからか液体が絡む音も聞こえてきていた
その音が聞こえてきたのとほぼ同時に、中のものは引き抜かれた

「は・・・」
感じていたものが緩和され、僕は息をつき、呼吸を落ちつけようとした
中にあったものが引き抜かれても、僕の熱は収まらないでいる
それどころか、今の僕はもっと熱を与えてほしいと、そんなことを思っていた

「リンセイ君、次は・・・流石に、痛いかもしれません。そのときは、どうぞ遠慮なく・・・」
菊さんにまた気遣われると思った僕は、息を落ちつけて言葉を割り込ませた

「・・・痛みを伴うことは、わかっています。
でも、僕は・・・それでも、菊さんに満足してほしいです。それに・・・」
そこから先は、もう言えなかった
今更ながら、この行為を求めることを言うのは恥じらいがあった
ましてや直球的に、菊さんが欲しい、などとは言えなかった
僕は言葉でなくとも求めていることが伝わるように、菊さんの背に両腕をまわした

「リンセイ君・・・。ありがとう、ございます」
菊さんは微笑み、少し姿勢を低くした
そして、僕の弛緩している箇所に、指とは違うものがあてがわれた
未知の痛みが襲ってくるとはわかっていたが、恐怖は生まれなかった
僕はまぎれもなく、菊さんのことを求めていたから
その菊さんが少し動きを見せたとき、中へ、あてがわれていたものが入っていった

「あ・・・っ!あ・・・ぅっ・・・」
とたんに、下腹部に鈍い痛みが走る
切り傷や打撲とは違う、感じたことがなく全く抵抗のないその痛みに、生理的な声が漏れていた
苦痛の表情だけは見せまいとしたが、自然と目が少し細まり、視界がわずかに狭くなっていた

菊さんは一旦、その位置で静止していた
僕の痛みが緩和するのを、待ってくれているのかもしれない
ここまできたら、早く行為を進めたいと思っていてもおかしくはないのに
つくづく優しい人だと、改めて思った瞬間だった
僕の息が少しおさまってくると、菊さんは制止していたものの動きを進めた

「ぁあ・・・っ、は・・・あ・・・!」
指のときより、かなり強い感覚が全身を走る
僕の体は瞬間的に跳ね、息が再び荒くなる
自身の中が開かれてゆくのをはっきりと感じ、頬はとっくに紅潮しきっていた
もう、この感覚に溺れてしまうのではないかと思ったとき、菊さんの動きが止まった


「リンセイ君・・・あなたにとっては、失礼な言葉かもしれませんが・・・・・・とても、可愛いです・・・」
「え・・・?」
そんな褒め言葉は言われたことがなかった僕は、内心驚いていた
今の僕は、菊さんにそう思わせる表情をしてしまっているのだろうか

けれど、可愛らしいなんて、そう言う菊さんのほうが似合っている言葉だと思った
今の菊さんは、僕ほどではないが息が荒くなり、頬が紅潮し、目もどこか悦に浸っている
それは、凛とした印象の菊さんからは想像もできないような、俗に言えば色っぽいものだった
僕は菊さんの背にまわしていた手を片方だけ移動させ、その頬に添えた

「僕には・・・菊さんが、とても可愛らしく見えます・・・」
「え・・・そ、そう・・・ですか?」
菊さんもそんなことは言われ慣れていないのか、少しうろたえた様子を見せていた
こうして先行していても、やはり菊さんは菊さんなんだと思いつつ、僕は再び手を菊さんの背にまわした

「で、では・・・動きます・・・から」
菊さんが控えめにそう言うと、中のものはゆっくりと身を引き始めた

「・・・っ・・・は・・・」
圧迫感が軽減され、少し楽になった僕は息を吐いた
しかし、動き始めたものは最後までは引き抜かれなかった
ある程度まで身を引いたそれは、再び僕の奥へと動きを進めていった

「あ・・・っ、ん・・・ぁ・・・!」
じわじわと進行してくるものに、僕は抑えようのない声を漏らした
もはや、羞恥だの何だの言っている場合ではなかった
ほとんど声を抑えることは諦めていて、感覚に任せた声を発していた

一旦奥へ進められたものは、再び身を引いてゆく
自身の内部で、その運動が繰り返される
そのたびに僕は過敏に反応を示し、息を荒げていた
僕の目上に見える菊さんも、ときたま熱っぽい息を吐き、同じ感覚を感じているようだった

しばらくは、そのゆったりとした動きが繰り返されていた
そのたびに聞こえてくる粘液質なものが絡んでいる水音を、とても淫猥に思う
だが、今となってはその音さえお互いを駆り立てる要因となっていた
そして、音に後押しされたかのように動きはだんだんと早くなり、自身の中が掻き乱されていった

「ぁ・・・あ・・・っ!菊・・・さん、っ」
無意識の内に、相手の名を呼んでいた
まるで、何かを与えてほしいと求めるように
与えられる刺激に耐えられないのか、僕の下腹部にあるものからは少しずつ粘液質なものが流れ落ちていった

「っ・・・リンセイ君・・・・・・私と・・・っ」
菊さんは熱っぽい吐息まじりで何かを言おうとしたが、その言葉はかき消された

「ぁあっ・・・!っ、は、あぁ・・・っ、あ・・・!」
何回も繰り返される動作に、とうとう僕が耐えられなくなった
最奥を突かれ、最も刺激が強くなったとき
僕はいっそう上ずった声を発し、体を震わせた
とたんに、刺激を与えられた箇所が急激に収縮と弛緩を繰り返し、相手のものにも刺激を与えてゆく
気付いた時には自身の下腹部のものが強く脈打ち、乳白色の液体を散らしていた

「・・・は・・・っ、あ・・・!」
菊さんも、上ずった声を発して体を震わせた
そこで菊さんは、すかさず身を引こうとした
けれども僕は、両腕に力を込めてそれを引き止めた
今更、遠慮して離れてほしくなんてなかった
菊さんは一瞬困ったような表情を見せたが、すぐにぎゅっと目を閉じ、熱い息を吐いた

「ぁ、っ・・・」
自身の中に流れてきたものの粘液質な感触に、僕はわずかに声を漏らした
そして、ゆっくりと中のものが引き抜かれ、体に倦怠感がのしかかってきた
僕は菊さんの背から腕を外して、ぼんやりと相手を見上げた
全身の力が抜け、しばらくは動くのが億劫だった


「リンセイ君・・・すみません、中に・・・」
倦怠感を覚えているのは菊さんも同じなのか、息も絶え絶えにそう言った
「す、すぐに・・・掻き出しますから・・・」
菊さんは肩で息をしつつも、さっきまで自身を入れていた箇所へ手を伸ばした
しかし、僕は何とか腕を動かし菊さんの手を掴んで、それを阻止した

「いいんです・・・引き止めたのは、僕ですから・・・。菊さんも、休んで下さい・・・」
僕は、菊さんを求めていた
悦に呑まれる瞬間も、離れてほしくはないと
だから、菊さんから放たれたものが中にあっても、決して嫌ではなかった

僕がそう言うと、菊さんは隣に寝転がった
結構体力に自信のある僕でもこの状態なのだから、菊さんはもっと疲弊していると思う
僕は少しでも疲れを労う気持ちで、菊さんの頬にそっと手を添えた
菊さんは、その手に自分の手を重ね、目を閉じた



このまま眠ってしまうのかと思ったが、数分して菊さんは目を開いた
そして、僕の方に真剣な顔つきをして向きなおった

「リンセイ君。今更と思うかもしれませんが、伝えておきたいことがあります」
僕は言葉と視線の真剣さに少し緊張して、視線を合わせた

「・・・その・・・私と・・・・・・」
行為が終わって、恥じらいが込み上げてきているのか、菊さんは言葉を詰まらせていた
僕は急かすわけでもなく、じっと続きを待っていた


「私と・・・・・・ね・・・懇ろになっていただけないでしょうか」

「懇ろ・・・」
その言葉は、日本文化を学んだときに覚えた言葉だった
その言葉の意味は、愛や恋に関係するものだったと思う
確か・・・そう、男女間の関係がとても親密になること

「・・・え、ぼ、僕で、いいんですか」
その中睦まじい言葉は、男女間にのみ適応されると思っていた僕は聞き返した

「勿論、リンセイ君が良ければのはな・・・」
「い、良いに決まってます!僕が、その・・・嬉しいです」
言葉を途中で遮って返事をするほど、菊さんの申し出が本当に嬉しくて、言葉が混乱してしまっていた
今まで、成長したばかりの若輩国が失礼なことをしてきたと思っていた
けれど、今は菊さんも僕を求めていてくれる
そう思ってくれたことがたまらなく嬉しくて、その喜びを表現する言葉が見つからなかった

「菊さん、僕、菊さんのことを・・・愛してもいいんですね・・・」
僕が問いかけのようにして尋ねると、菊さんは微笑んで頷いてくれた
今なら、はっきりとわかる
僕が今まで衝動的にしてきた行為は、全て愛情から成るものだということが

まだ若い僕は、そのことがよくわかっていなかった
けれど、今は、菊さんのことをとても愛しい存在だと思っている自分がいる
その想いを菊さんは受け止め、受け入れてくれた
それは、軍事国家の僕が、初めて知った幸福感だった―――




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
これにて、番外日本編は終了のお知らせとなります
日本受けverは・・・正直、書けるかどうかわかりませぬorz
なので、これからは、短編を書いていきたいと思ってます
実は、管理人は。日本は受け攻めどっちでもいける!・・・とか、思ってる人です←どうでもいい情報