ヘタリア 番外イタリア編#3 後編



「リンセイ、俺と結婚して」



イタリアは、僕に指輪を見せたまま、そう言った
僕は聞き間違いではないかと、自分の耳を疑った
こんなに近くにいる者の言葉を聞き間違えるほど、耳は遠くないとわかっていても
僕には縁遠いその言葉を、易々と認識できていなかった
僕が何も言えずに黙っていると、イタリアが言葉を続けた


「俺、リンセイのことすっごく好き。だから、俺と結婚して」
僕はまたもや、言葉を失った
ここで言う、イタリアの「好き」という言葉には確実に愛情が込められている
昨日の今日で、まさか結婚したいと言われるなんて、ちらりとも考えたことはなかった
それだけ僕は驚愕し、今の状況についていけないでいた


「いつから・・・そう、思っていたんだ?」
いつからそう思われていたのか、それが知りたくなった僕はそう質問した
初めて、キスされたときからだろうか
それとも、僕がイタリアを受け入れた昨日のことだろうか
どうしてイタリアが結婚したいと思ったのか、その切欠を知りたかった
だが僕は、イタリアの答えにまた驚かされることになった


「俺が、初めてリンセイに告白したときからだよ」

イタリアは悩む様子もなく、すぐに答えた
その言葉は、僕に大きな衝撃を与えた


幼い頃、確かに仲が良かった
多大なスキンシップも、その頃からされていた
だけど、そのスキンシップの中に、僕はそんな感情を抱かれているはずはないと、そう思っていた
僕とは違う、明るくて、人懐こくて、可愛らしい彼が、対称的な僕にそんな感情を抱くなんてありえないと、ずっと決めつけてきた
だから、僕はそんなに好かれてはいないだろうと決めつけ、彼の前から姿を消した
何の別れの言葉も告げぬまま

罵倒されたっておかしくない、そんな状況で再開したのに、彼は僕を責めなかった
それどころか、その時でさえ彼は僕のことを愛していたという
何十年も、幼いときの想いを忘れぬまま
彼はずっと、僕を想い続けて―――


思わず、涙腺が緩みそうになった
そんなにも、自分が想われていたことに気付かなかった自分自身が愚かで
ずっと想ってくれていたイタリアが、とても健気に見えて
そして、愛情を向けられていることが嬉しくて
しかし、いきなり泣き出してはイタリアがうろたえてしまうと思い、ぐっと堪えた
イタリアは、じっと僕を見て返事を待っていた

その愛情に答えたい
姿を消したことを詫びたいからではない
真っ直ぐなその想いを、受け止めたい
今の僕の中には、そんな想いがあった

だが、国である僕が、易々と結婚するわけにはいかない
勝手にそんな判断をしたら、上司にどやされることは間違いない
それだけではなく、国の人々にも何らかの迷惑がかかってしまう
結婚しなくても、イタリアとはまた会える
イタリアが会いたいと言ってくれれば、いつでも会いに行く
僕は、深い愛情を向けられている中で葛藤し、そして答えた



「・・・結婚は・・・・・・できない」
僕は、俯きがちに答えた
この答えを聞いたイタリアがどんな顔をするのか、見たくなかった
「でも、僕はいつでも・・・」

「断られるかなって、だいたい予想ついてた」
僕の言葉を遮って、イタリアが言った
その言葉は意外にも悲哀が含まれていないように聞こえたので、僕は顔を上げた

「うん、国同士が結婚するのって、大変なことだもんね」
やけに物わかりのいいイタリアに、僕は違和感を覚えた
てっきり、泣きそうな顔でだだをこねられるかと思っていた


「リンセイ・・・一晩だけは、だめ?」
イタリアは、控えめにそう尋ねた

「一晩だけ、結婚するのか?」
僕はイタリアがなぜそんなことを言い出したのかわからず、尋ね返した
一晩だけの結婚なんて、何の意味があるというのか
それとも、イタリアはただ結婚したという雰囲気を味わってみたいのだろうか

「リンセイ、一晩だけ俺のお嫁さんになって。
俺、リンセイと・・・新婚さんがすること、したい・・・」
イタリアは、少し口ごもりながら言った
僕が、お嫁さん・・・そして、新婚がすること・・・・・・

「僕が・・・・・・え、あ、その・・・そういうこと、なんだよな・・・」
その内容が判明出来た僕も、口ごもった
それは、ここで言うべきことではないと、色恋沙汰に疎い僕でも十分判断できた

「お嫁さんが嫌だったら、お婿さんでもいいよ。俺、リンセイとならどっちでもいいから」
「どっち・・でも・・・」
その言葉の意味も、僕は理解できた
瞬間的に、頬が熱を帯びた
拒否しよう、とは思わなかった
そんなにも想っていてくれたことが、たまらなく嬉しかった

この指輪を取れば、家に帰った後何をするのか、わかっていないわけではない
しかし、そのことに対して微塵も嫌悪を感じていない自分がいた
僕は、もうとっくにイタリアを受け入れる準備はできていたのかもしれない
ただ、それに気付こうとしていなかっただけで
僕は事あるたびに焦り、慌て、混乱していた
それは不慣れなことへの照れを隠すためのものだったかもしれないが
今は、そんなことを言われて恥ずかしい、などとは思わなかった

受け入れてもいい
委ねてもいい
彼になら、そう思える
どっちでもいいのは、僕も同じだった




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
次はいよいよクライマックス・・・たぶん、表現の方法が重複すると思われますがorz
予定では、イタリア攻め受け、両方書く予定にしております
そして二つも書くとなるとやはりパターンが重複すると思われorz