告白の返事 後編


「ヴェ・・・リンセイ・・・」
イタリアは呼吸もままならないまま、僕の名を呼んだ
それに答えるように僕はイタリアの後頭部に手を添え、そっと引き寄せた
すると、イタリアは甘えたがりの子供のように擦り寄り、そして呟いた

「俺・・・幸せだよ」

その一言に、僕は衝動的に幸福感を感じた

「イタリア・・・」
そして僕はその衝動ゆえに、イタリアの顎を取って上を向かせ、深く口付けた

「ん・・・」
その行為が嬉しかったのか、イタリアは僕の首元に両腕をまわした

そこで、僕は腹部に奇妙なものを感じた
僕はそれが何なのか気付き、とっさにイタリアを離した

「あ、あの・・ほら、先に、拭いたほうが・・いい」
僕は枕元にあった箱からティッシュを数枚取り出した
そのままにしておくのは、何だかイタリアを汚してしまった気がして嫌だった
イタリアはまだ余韻が残っているのか、ぼんやりとした様子で体を拭いた
密着していては最も濡れている箇所が拭えないので、僕等は一旦距離をおいた

僕が体を起こすと、イタリアも少しだるそうにしながら起きあがった
僕は訓練のおかげで基礎体力がついているから回復は早いようだったが、イタリアはまだ本調子ではないようだった
回復してきたせいか、僕は急に裸でいることに恥じらいを感じてきていた
そこで、僕は乱れたシーツを手繰り寄せて、下半身だけでも隠そうとした
どうせ取り換えなければならないのだから、剥ぎ取ってしまってもいいと思った


しかし、僕がシーツを手繰り寄せたとき、あるものが目に入った
白いシーツに、やけに目立つ痕
それが何なのか瞬時に判断できた僕は、とっさにその個所を隠そうとした

「ぴゃー!」
しかしそれは遅かったようで、室内にイタリアの悲鳴がこだました
それを目の当たりにしたイタリアの表情は、怯えに変わっていった

「リ、リンセイ、そ、それ、ち、ち・・・」
イタリアはかなり動揺しているのか、言葉が途切れがちだった
イタリアをこれほど動揺させたもの、それは、白い布地にぽつりとついている血痕だった
それほど大きくはないので、たいしたことはないとわかるのだが、イタリアは血がついているという事実に怯えているようだった

「お、俺が・・無茶しちゃったから・・・」
イタリアの声は、とたんに憂いを帯びたものに変わっていた
そんなに、悲観してほしくない
さっきまでそこにあった笑顔が失われてしまったことが、僕は悲しかった

「大丈夫だイタリア。これくらいの出血、全然たいしたことない」
僕がそう言っても、イタリアはまだ狼狽していた

「だ、だって、血が出てるってことは、すっごく痛かったんでしょ、俺が無茶しちゃったから・・・」
イタリアは、とうとう項垂れてしまった
そんなに悲しそうにしているイタリアを見たくなかった
だから僕は、項垂れたイタリアの頬に片手を添え、顔を持ち上げ、視線を合わせて言った

「イタリア、僕は痛みなんてほとんど感じなかったよ。まあ、最初は少し痛んだけど・・・。
でも、イタリアのことを感じてると、痛みが消えていったんだ」
ここから先は、かなり恥ずかしい言葉だった
けれども、僕は羞恥を押し殺して言葉を続けた
今、何より優先すべきことは、目の前にいる彼なのだから

「僕・・・その、イタリアを、感じて・・・・・愛撫されてるときも、な・・・中に、入ってきたときも・・・
き、気持ち・・良かった・・・から」
湧き上がる羞恥心のせいで言葉に詰まりながらも、本心を言い終えた
本当に、痛みなんて途中から消えていた
自分が出血していたなんて、気付かないほどに

「ほんと・・・?俺も、すっごい気持ちよかった・・・。
でも、俺、もっと勉強して、リンセイに痛い思いさせないようにするよ」
「えっ・・・」
僕は、驚きを含んだ声を発した
そのとき、僕はイタリアの言う勉強の意味を、食い違えてしまっていたから

「勉強って・・・他の人ともするってことなのか・・・?」
僕は少し、声を低くして言った
イタリアの言う、勉強の意味
それを考えた瞬間、とたんに嫌悪感を覚えた


「ううん。フランス兄ちゃんに、本借りるだけだよ」
「そ、そうか」
その答えに、僕は安堵していた
僕の知らないところで、他者とそんなこと、してほしくない
そんな考えが瞬時に脳裏をよぎっていた

イタリアが誰と何をしようと、それはイタリアの自由じゃないか
それを束縛する権利なんて、僕にはないはずなのに
それなのに、たぶん、イタリアが他の誰かとそんな行為をすると聞いたら、全力で妨害すると思う
今の僕には、そんな思いがある

独占欲が、僕の中に生まれている
僕だけの者でいてほしいという、そんな欲望が
なぜ、そんなものが渦巻いてしまっているのだろうか
独占欲なんて、そんなもの、それは、まるで―――

そこで、僕は気付いた
それは、恋人を想うがあまりに生まれる欲なのだということを


「リンセイどうしたの?やっぱり、まだ痛い?」
考え事に没頭してしまっていた僕は、イタリアに呼びかけられて我に返った

「いや、何でもない。・・・念のため、一回洗ってくるよ」
僕は散らばっている服を回収し、浴室へ移動した



そして一人になり、シャワーを浴びている間何度も確認した
指輪を受け取った後の、自分の気持ちを

なぜ、僕はイタリアの想いに答えたかったのか
なぜ、僕はイタリアに全てを委ねてもいいと思ったのか
その答えを、伝えようと思った

僕は、薬指につけたままの指輪をじっと見た
ひたむきな想いを向けてくれた彼に、僕の思いも告げたいと、そう思った



浴室から出ると、僕はすぐにイタリアの元へ向かった
僕はもう寝具を身に付けていたが、イタリアが不満そうにしたら脱ぐつもりだった

ベッドの前に着くと、僕はイタリアをまたいで壁側に寝転がった
そして顔を見合わせたとき、すぐにでも想いを告げてしまおうと思っていた

しかし、僕は言葉を発さなかった
目の前にいる彼は、寝息をたててすでに眠ってしまっていた
初めての行為で疲れたのだろう

相手に伝わらなければ仕方がないと、僕は肩を落とした
諦めた僕はイタリアの頭を撫で、起こさないようにそっと抱き寄せた
明日、帰る前に必ず告げよう
唐突に言って、驚かせたっていい
彼の、真っ直ぐな想いが気付かせてくれた、この想いを


「お休み、イタリア・・・」
僕は小さく呟き、眠りについた
今、伝えられなかった想いを抱きながら―――


―――愛してるよ・・・イタリア・・・・・・


―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
イタリア編は、これで終了のお知らせとなります
次は日本編・・・と、言いたいところなのですが、まだ一話も考えられてない状況ですorz
ので・・・何か話が思いつくまで、日本編は保留となりますorz
ちなみにイタリアが持ってた本は、フランス兄ちゃんの例のあの本です