ヘタリア(日伊)

―子供のような彼―

「ドイツードイツー、一緒にシエスタしよー」
「またかイタリア、そんな事している暇があったらトレーニングの一つでもしろ!」

イタリア君は、今日もドイツさんにくっつき、そしてあしらわれている
どんな反応をされても、イタリア君は屈託の無い笑顔でドイツさんに話しかける

そんなドイツさんを、うらやましいと思う
あの笑顔を、あんな間近で、それもほぼ毎日拝めているドイツさんが
あまり協調性のない私は、それを傍観している事しかできない
だが、今日この日、うらやましいという感情はつのりつのって、別の感情へと姿を変えた

あの笑顔を、自分のものにしてしまいたい
笑顔だけではなく、その存在さえも
それは、ドイツさんへの嫉妬だったのかもしれない
しかし、自分の中の感情は、もっと別の複雑な何かが渦巻いているようだった
私は、それが何なのかと自問自答する間も惜しかった
イタリアさんがドイツさんにあしらわれた後、私は躊躇する事無く彼を自分の家に招いていた




「今日は日本の家にお泊りだー。嬉しいなー」
イタリア君は馴染みのない畳張りの部屋に、わくわくしているようだった
その、いかにも楽しんでいるという雰囲気が、自然と私の頬を緩ませる

「寝る前に、お風呂に入りませんか?露天風呂がありますし」
「うん!日本の家のお風呂って、解放感があっていいよね」

あなたはいつも解放感に溢れているんじゃないんですかという言葉を、心の中で呟く
その解放感に、またうらやましさを感じる
自分の感情を包み隠さず表に出せる、そんな自己表現ができるのが、イタリア君のいいところだと思う
彼はいつでも場を和ませる雰囲気を持っていて、自然と気分を楽にさせてくれる
子供っぽいところにたまに気苦労も感じるが、それ以上にそんな彼に惹かれていた

「日本、早くお風呂行こー」
イタリア君が私の手を取り、待ち切れないというように引っ張った

「はいはい。そんなに急がなくても、家には私達だけしかいないんですから」
そう、私達だけしか・・・




風呂へ入る時、イタリア君は当たり前のように全裸で湯船に入った
日本人はそんなにオープンではないので、腰にタオルを一枚だけ巻いて入るのが日常的だった
そんな私にイタリア君は文句を言う事はなく、空を見上げていた

「お風呂に入りながら星が見れるって、いいなぁー」
「ええ、そうですね」
イタリア君の隣に座り、私も空を見上げる
普通に外で空を見上げるより、不思議と解放感があった


こうしていると、今、何にも縛られていないんだという感覚を覚える
もしかしたら、自分を隠している物がほとんどないせいかもしれない
相手も自分も、包み隠さず向き合っているという感覚を、何となく感じているのかもしれない
イタリア君は、それがいつもできているのだから、やはりうらやましい
長年引きこもり、保守的になっていた私にとっては、それはもうとてつもなく

ちらと隣を見ると、イタリア君はまだ気分良さそうに空を眺めていた
いつも解放されているように見えるイタリア君も、この何となく感じる解放感を満喫しているのかもしれなかった
その、空を見上げるその表情を、こっちに向けてくれないかな、と思う
少し赤く染まった頬は、あどけない子供のような愛くるしさを感じさせる

無理にでも、こっちに向けさせたい
そして、その頬に触れてみたい
そんな衝動が、脳裏をよぎる
だが、無理にそんな事をしては、自分から遠ざかってしまうのではないかという不安も生まれる
スキンシップに慣れているイタリア君は、その程度の事では何も思うまいとわかっていても、私は手を伸ばす事ができなかった


「ん?日本、どうしたの?」
注がれている視線に気づいたのか、イタリア君が小首を傾げて尋ねた

「い、いえ、何でもありません」
小首をかしげたその動作が瞬間的にかわいらしく見え、私は動揺を隠してお決まりのような言葉を言った
イタリア君は、そっかと短く言うと、また空を見上げた
私もつられて、空を見上げた



しばらくして、私はイタリア君の頬だけでなく、体がほんのりと赤くなってきた事に気付いた

「イタリア君、そろそろ上がったほうがいいかもしれませんよ」
私は年の功のおかげか、ちょっとやそっとの長風呂では根を上げないが、まだ若い彼にはそろそろ厳しいかもしれない

「そうだね〜。それじゃあ、出ようかな〜」
語尾が少し頼りなくなっている口調をしていたので、少し心配した
その心配は、やはり的中した
イタリア君が岩に手をかけ、一気に立ち上がった瞬間、右によろめいた

「イタリア君!」
自分でも驚くほど早く、よろけたその体を支えていた

「あ〜、ありがと日本〜。何だか、うまく立てないや〜」
「急に立ち上がるからですよ。一旦座って、体を落ち着かせましょう」
そう言った私が、落ち着いていなかった
外見では平静を保っているが、イタリア君の体を支えている腕が、
その肌に直に触れているのだと思うと、内心どぎまぎしている自分がいた
いくらスキンシップが多い彼とは言え、こうして直に触れる事は滅多にない事だったから
イタリア君を座らせた後も、触れた手を離すのが名残惜しくて、気遣うふりをして背中に手を添えたままにしておいた

「ヴェー、頭がぼーっとする〜」
「のぼせたんですよ。少しこのまま休みましょう」
イタリア君はまたヴェーというおかしな声を発し、ぼんやりと遠くを眺めた


この人と居ると、どこか気楽だった
こうしてぼんやりと黙っている時も、沈黙が痛くない
空気を読んで発言を慎む事が趣味の私でも、彼と居る時は発言を慎むほうがわずらわしく感じられる
それも、彼の自由奔放な雰囲気のおかげかもしれない
少し体が冷めたところで、私はイタリア君の背に添えていた手を離した

「そろそろ行きましょうか。このままだと、温まったつもりが逆に風邪をひいてしまいそうですし」
イタリア君は、そだねーと短く言うと、また勢いよく立ち上がった
この人はもう一回風呂に入った時、また同じことになりそうだなと予測がついた
だが、子供のようなそんなあどけなさが、相手に警戒心を与えないのだろうなと思う
私も、いつの間にか警戒を解き、そして同盟に調印していた
彼の傍に居て気楽なのも、お互い微塵も警戒していないと感じるからなのだろう




露天風呂を出た私は、ゆったりとした浴衣に着替えた
イタリア君にも、すぐ無駄になるだろうなと思いつつ、一応同じ物を用意しておいた
そして案の定イタリア君は、一旦はその浴衣を着たものの、布団に潜り込むとすぐに浴衣を脱いでしまった
最初のうちはなんて破廉恥な事をする人なんだと思ったが、今ではもう慣れたものだ
私は隣に布団を敷くと、イタリア君の姿を気にも留めないように、平然として寝転んだ
気に留めてしまったら、まじまじと見てしまったら、自分の中の何かが抑えきれなくなる気がした

「それじゃあ、お休みなさい。イタリア君」
「うん、おやすみ〜」

私は仰向けになって、他に誰もいないこの空間に安らぎを覚えつつ、目を閉じた
明日になったらイタリア君は帰ってしまうだろうと思うと、とても名残惜しい
その前に、いっそのこと、その無防備な体を抱きしめてみようかなんて考える
薄目を開いて隣を見てみると、イタリア君と視線がぶつかった

「ねえねえ日本、またこんな風に遊びに来てもいい?」
間近にイタリア君の顔があり、一瞬心臓が跳ねた

「勿論ですよ。歓迎します」
けれど私は、そんな事を悟らせないように普段通りの口調で答えた

「それじゃあ、約束っ」
イタリア君は布団から肩腕を出し、小指を立てた
その行動に私はきょとんとしたが、すぐに何をしたいのかわかり、イタリア君の小指に自分の小指を合わせた
「これ、ゆびきりげんまんって言うんだよね?ドイツに教えてもらったんだー」

そこでドイツさんの名が出てきた事に、私は少し眉を動かした
だが、イタリア君の何とも嬉しそうな笑顔を見ていると、嫉妬などという感情は掻き消えてしまった
この人は本当にかわいらしい人だと、そんな思いで頭が一杯になった
触れ合っているのは小指だけでも、私は幸福感を覚えていた
だから私からは指を外さず、イタリア君が自然と指を解くのを待っていた


「あ、あのさあ、日本」
イタリア君が、珍しく控えめに話す

「何ですか?」
未だ繋がれている指に気分を良くしつつ、尋ねる

「そっち行っていい?」
「え・・・ええっ!?」

私は、イタリア君のその発言に目を丸くした
そっちに行く、ということは、つまり私の布団にもぐりこみたいという事
しかも、何も身に着けていない状態で

「何だか寒くなっちゃって・・ね、そっち行っていい?」
冬場に全裸で寝てたら当たり前ですと言いたかったが、今の私は焦りでその言葉を言えなかった
うろたえている私をよそに、イタリア君は返答を待たずにもそもそと布団にもぐりこんできた

「あ、え、あの、イ、イタリア君」
「あったかい〜」
イタリア君はまるで子供が甘えるように、ぎゅっと抱きついてきた
抱きつくぐらいの事は、イタリア君にとっては日常の挨拶程度のものでしかない
だけど、私は違う。こうして抱きつかれると、私はとたんに狼狽してしまい、どうしていいかわからなくなる
しかも、今は状態が状態なので余計に

とたんに、私は葛藤する
自分の欲望と理性の間で
こんなに無防備な彼を目の前にして、欲望が生まれないはずはなかった

純粋無垢とも言えるその眼差しを自分のほうに向け、そして愛を誓うべき個所を重ねたい
柔らかそうな肌に余すとこなく触れ、印をつけてしまいたい
そんな欲望が、自分の中に湧き上がってくる
しかし、そんな事をしては、友という関係にひびが入ってしまいそうで、怖い
私を抑えているのは、その恐怖が大きな一因だった


私がそうして葛藤している内に、イタリア君は早くも寝息を立て始めた
よほど、この温かさが心地良かったのだろうか
相手が眠ってしまうと、私はだんだん冷静さを取り戻せてきた
イタリア君は私の懐に顔を埋めているので、寝息がかかって少しくすぐったかった

その寝顔はとても穏やかで、完全に相手に身を任せているという感じだった
ああ、彼は私を信頼してくれているんだなと、しみじみ思う
そして、その信頼を壊してしまってはいけないと、自分に言い聞かせる

今はまだ、友という関係でいいじゃないか
一線を踏み越えたいという想いがあるのは確かだが、それ以上に関係を壊す事をためらう
そんな臆病な私は、イタリア君の背に両腕をまわし、軽く抱きしめた
今は、友として気兼ねなく触れあえる、そんな関係でいい
私は今のこの時間が、とても至福だから・・・




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
このごろヘタリアにはまりまして・・そして、日本受けと攻めにはまる
今回は、少々攻め要素が入っている日本視点のみで書いてみました
それまでに、第三者視点からか、それとも日本視点で書いたほうか、どっちがより萌えるだろうかと真剣に考えていた授業中
ストレス溜まるとね・・あんな事やこんな事がもやもやと浮かんできてしまふものなのです←どうでもいい管理人情報