異常疾患4


ずっと手を握られたまま、ジュンの廃墟に戻る。
中へ入るなり猫達が集まってきたけれど、ヤトの斧を目の当たりにすると、一歩退いていた。
「お帰り。いじめっ子を殺してきてくれたの?」
ジュンはいたって普通の調子で、物騒なことを問いかける。

「ああ、今日は一匹だけな」
ヤトも、物騒なことを平然と答える。
この二人にとっては、そんな異常なことが普通なのだ。
僕も人のことは言えないけれど、奇妙な感じがした。

「それより、今からこいつとすることがあるから、部屋借りるぜ」
ジュンの返事を聞くまもなく、ヤトは部屋へ行く。
これから、何をされるのか想像できなかったけれど、いやな予感だけはしていた。
部屋に入り、ベッドまで行くと、ヤトが先に座る。


「ほら、座れよ」
促された先は、隣ではなく、ヤトの膝の上だった。
躊躇って足を踏ん張るけれど、力強く引かれると膝が折れてヤトとぶつかった。
足に乗り上げる形になり、真正面から向き合う。
腕ごと体が抱きすくめられ、ほとんど抵抗できない状態になっていた。

「これから・・・何する気なんだ」
恐る恐る尋ねると、ヤトが口端を上げる。
「精神病棟じゃできなかったことだ。あそこは、監視の目があってやりにくいからな」
ヤトは、するりと腰元へ腕をまわし、指先でうなじをなぞる。
その手つきがいやらしく感じられて、わずかに肩を震わせていた。

「ほら・・・オレの方を見てみろよ」
恐ろしい感じはしたが、おずおずと視線を向ける。
すると、すぐに距離が縮まって、お互いが重なっていた。
「ん・・・!」
突発的な口付けに、息を飲む。
怯んだ隙に唇が無理矢理割られ、ヤトが入り込んでくる。
進入してきた柔い感触は瞬く間に舌に絡みつき、上下左右に蹂躙し始めた。

「は、あ・・・っ」
開かれた隙間から、吐息が漏れる。
身をよじって抵抗しようとしたけれど、逆に強く引き寄せられた。
後頭部を押されて、自分からも唇を重ねているような形になってしまう。
ヤトの動きは一時も止まらず、まるで、欲求不満の獣のようだ。
舌を縦横無尽になぶられ、液の交わる音が聞こえてくる

「あ、ぅ、や・・・」
体に、熱が蓄積されていくのがわかる。
承知の上なのか、ヤトは服の中に手を入れてきて、うなじから背をなぞっていく。
そこから生じる寒気は、逆に熱を誘発させるようだった。
舌を翻弄され続けて、息が不規則になってくる。
そこで、やっと口が離された。
ヤトは獲物の味を確かめるように、舌なめずりをする。

「ぼ、僕は男だぞ・・・」
「あんたの性別なんて関係ない。オレが楽しいか楽しくないか、それだけだ」
ヤトの手は構わず動き、背中から前面に回り、腹部を通り過ぎる。
下肢に届きそうになったとき、危機感を覚えて腕を振り払った。
部屋の外へ出ようと、反転して立ち上がる。


「ジュンにばらされたくないだろ?あんたが、保健所から来たってこと」
一番の脅し文句に、動きが止まる。
その隙に、痛いほど腕を引かれ、とたんに引き止められる。
思った以上に強い力に逆らえず、今度は背がぶつかった。
ヤトの足の間に挟まれると、すぐさま腕を回され、抵抗できなくなる。
さっさと行為を進めたがっているのか、ズボンの留め金が外されていく。

「っ、止めてくれ・・・」
「懇願されて、素直に止めるような奴に見えるか?そんなわけないよな。
そうだったら、精神病棟なんかに入ってない」
ヤトは躊躇うことなく留め金を外し、その中へ手を滑り込ませる。
そして、すぐに下肢の中心部へ掌が添えられた。

「あ・・・っ・・・」
どこよりも感じやすい箇所に触れられ、声が裏返る。
男ものでも本当に関係ないようで、ヤトはそれを包み込み、上下に擦った。
「う、ぅ・・・」
少年に自由にされている羞恥心に、口をつぐむ。

「声出してみろよ。オレが満足するまで、あんたは解放されないんだ」
下肢だけでなく、ヤトの手が胸部にもまわる。
中心にある突起を掴まれ、顔をしかめたけれど
同時に下肢も握られると、痛みは快感に変わってしまった。

「ああ、っ・・・う・・・」
息を荒げると、ズボンがだんだんきつくなってくる。
欲が募ってきた状態では、もう衣服を取り去ってほしいなんて思ってしまっていた。
「男に触られて、あんたも感じてんだな。そんなに、悪いもんでもないだろ・・・?」
悦んでいるのだろうか、少年に触れられて。
疑問に思っても、体の反応はごまかしようがない。
このまま達して、終わってくれるのならそれでよかった。


「ヤト、まだ終わらないの?ボク、もう部屋で眠りたいんだけど」
ふいに、部屋の外からジュンが呼び掛けてきて、ぎょっとする。
「ああ、もうそんな時間か。別に入ってきてもいいぜ」
「ヤ、ヤト、何言って・・・っ」
わざとやっているのか、ヤトが耳を甘噛みする。
舌で形をなぞられると、力が抜けてしまった。

「そうだ、もう苦しいだろ?外に出してやるよ」
部屋から解放されるという意味ではない。
ズボンも下着もずらされ、解放されたのは起立しきった下肢のものだけだった。
同時に、ジュンが部屋の中に入ってくる。
羞恥のあまり、とっさに顔を伏せていた。

「ヤト、何してるの?」
「気持ちのいいことだよ。ほら、来てみな、ツカサの体だいぶ熱くなってる」
この状況を目の当たりにしても、足音が近付いてくる。
うっすらと目を開くと、すぐ傍にジュンがいるのが見えた。
起立しているものがあるにも関わらず、ジュンが前から抱きついてくる。
「ん・・・ほんとだ、いつもより温かい」
「ジュン、あの、今は・・・」
体が敏感になっていて、首に擦り寄られるだけでも落ち着かなくなる。

「ジュン、ツカサを触ってやれよ。きっと心音も早くなる」
ヤトがジュンの手首を取って、下腹部へ誘導する。
とっさの言葉が出てこなくて、自分の感じやすいものはジュンの手に包まれていた。
細い指が添えられ、吐息をつく。
ジュンは、ヤトに言われるがままに、触れているものを擦り始めた。

「あぁ、っ・・・や」
相手が変わっても感じるものは同じで、喘ぎが抑えられない。
むしろ、がむしゃらに触れられて、刺激が強まっていた。
そこへ、ヤトが容赦なくうなじを弄る。
前にも後ろにも感じるものがあり、欲が高まる一方だった。
「男の喘ぎも、案外悪くないな・・・いくときの声が聞きたい」
言われなくても、もともと欲が溜まっていたものはジュンに触れられて、限界が近づく。

「ジュン、離れてくれ・・・っ」
「でも、ツカサすごく温かくなってるし、もっと触れていたいな・・・」
掌に伝わる体温が心地いいのか、ジュンは手を離そうとしない。
むしろ、もっと熱を溜めたいと、しきりに擦る。
ヤトの舌はうなじから耳へと移動してゆき、身震いした。

「だめだ、ジュン・・・っ、あ、あぁ・・・!」
静止の言葉を発したけれど、間に合わない。
ヤトの舌が耳の中へ入り込み、ジュンの掌が全体を包み込む。
とたんに、今まで以上の大きな波に襲われ、びくりと体が跳ねた。


二人の少年の間で恥ずかしげもなく喘ぎ、達してしまう。
ジュンは驚いたのか、さっと退く。
解放されたものから、熱いものが競り上がる。
先端からは白濁が溢れ出し、床を濡らしていた。
ぜいぜいと肩で息をして、余韻が瞼を重たくさせる。

「聞き心地の良い声だったぜ。体温も高くて抱きがいがある」
嬉しくない褒め言葉を投げかけられ、腹部の辺りが引き寄せられる。
余韻に浸っている今は、抵抗する気力がなかった。
様子を見ていたジュンが、また近付いてきて、胸部に耳を当てる。

「心音、まだ早いや・・・。体もあったかいし、気持ち良いな」
前からは、ジュンがすがりつき、抱きしめられる。
二人の少年に好きなようにされて、羞恥を覚えないはずはない。
けれど、自分の存在が求められているのだと思うと
ジュンの首に麻酔を打とう、なんてことはできそうになかった。
たとえ、必要とされているのがこの体温だけだとしても。


息が落ち着いてきたところで腕が解かれ、解放される。
いそいそと服を着直そうとしたところで、ジュンに「待って」と止められた。
「ツカサ、そのままの姿で一緒に寝よう?素肌の方が、温かいよ」
「そ、それは・・・」
「ははっ、そいつはいい、そうしてやれよ。オレは、狭苦しいのはごめんだけどな」
ヤトはさっとベッドから下りて、部屋を出て行く。
危険人物が立ち去り、思わずため息をついていた。

「ツカサ、寝てもいい?」
「ああ・・・いいよ」
安心したからか、つい肯定してしまう。
ジュンがあまりにも嬉しそうに笑うものだから、もう撤回はできなくなった。
観念してベッドに寝転がると、ジュンがすぐさま隣に来る。

「ボクも脱いだ方が、温まるよね」
布団をかぶったまま、ジュンがもぞもぞと服を脱ぐ。
さっき体力を奪われたからか、もうどうにでもなれと投げやりになっていた。
ジュンがひっついてきて、柔肌が触れ合う。
確かに温かかったけれど、別の要因で熱が再発しそうだった。

「・・・そういえば、ジュンは、どうして精神病棟に入っていたんだ?」
「ボク?ボクは、猫が好きすぎるからだよ」
疑問符が浮かぶ答えが返ってきて、反応に困る。
「じゃあ、ヤトは?」
「ヤトは、自己中心すぎるからだよ」
こっちは、わかる気がする。
さっきも、自分本位のことしか考えておらず、相手を脅して楽しんでいた。
集団の中に居ればすぐに問題が起きそうだと、簡単に想像できる。

「ツカサは、どうして?」
そこで、言葉に詰まる。
ジュンには仲間だと思われているのだから、同じ病棟に入っていたということにしないとまずい。
「・・・僕も、ジュンと同じ、動物が好きすぎたから・・・だよ」
動物の全てが好きで、息絶える瞬間さえ好ましく思う。
保健所にいるから、自分の異常性は発見されないでいる。
もし見咎められれば、おそらく病棟行きだろうと自覚していた。


「そうなんだ。だから、ボク、ツカサといると安心するんだね」
ジュンは、首元に身を寄せてくる。
たぶん、この相手が死んだときでも、感じるのは悲哀ではないんだろう。
言葉をいいようにしか受け止めていないジュンは、一旦身を起こして、頬へ唇を寄せる。
そうして甘えられて、触れられることが、何ら嫌ではなくなっていた。
むしろ、動物に懐かれたときのような幸福感を覚える。
少年と裸で抱き合っているなんて、何とも奇妙な状態でしかなかったけれど
腕は自然とジュンの背に回っていて、そっと撫でていた。

「ヤトが帰ってきたけど・・・まだ、しばらく一緒にいてくれる?」
「病院側から何も言われてないし、ここにいるよ」
さらりと、嘘が出る。
病院の患者ではないし、連絡が入ったら戻らなければならない。
それでも、自分の本心を隠せなかった。
ジュンが、息を引き取る時まで一緒に居たいという本心を。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
4話目なのにもう発禁、異常性のある相手の方がいかがわしくさせやすいというね。
こんなこと書いてしまっている脳内が最近やばい・・・。