異常疾患7


もう狂犬はいなくなり、狂犬病の蔓延は防ぐことができた。
そうして仕事が終わっても、保健所へ戻らなかった。
何度か着信がきていたけれど、無視し続けている。
自分の意思で廃墟から出て行く気は、毛頭ない。
けれど、仕事が終わったのは、ジュンとヤトにとっても同じで
散歩から戻ってきた猫が、一通の封筒をくわえていた。

「ん、何を持って来たんだ?」
真っ白な封筒を受け取り、まじまじと見てみる。
宛名も差出人も書かれておらず、奇妙な感じがした。
「ツカサ、それ・・・」
「この手紙、猫が持って来たんだ」
言葉を言い終えると同時に、ジュンに封筒をひったくられる。

「ヤト、来て!」
「何だよ、大声出して」
ジュンが廊下に呼び掛けると、ヤトが面倒そうに歩いて来る。
けれど、真っ白な封筒を見た瞬間、駆け足になった。
ジュンはすぐさま封筒を破り、中の手紙を見る。
ヤトもそれを覗き、盛大な溜め息をついた。


「・・・誰からの手紙なんだ?」
控えめに尋ねると、一拍置いて、ヤトが重々しく口を開く。
「病院からの通達だよ。戻って来いってさ」
「病院、から・・・」
とうとう、来てしまった。
ジュンとヤトに、もう会えなくなるという通達が。
そう思うと、瞬く間に気が沈んでいた。

「手紙が来たから、もう、明日には帰らなきゃ・・・」
「オレ達の役目も、狂犬を始末することだったからな」
せっかく理解者に出会えたのに、明日が別れだなんて、なんて早いのだろう。
保健所に戻らない内は一緒に居られると思っていただけに、ショックが大きかった。

「戻らないといけないよな、二人は・・・」
あわよくば否定してくれないだろうかと、そんな望みを込めて呟く。
けれど、二人は閉口していた。

「なあ、ツカサ、あんたはそんなにオレ達と離れたくないか」
ヤトの問いかけに、素直に頷く。
異常者を理解してくれるのは、同じ異常者でしかないのだから。
「嬉しいな。ツカサも、ボクたちと同じ気持ちなんだ。
・・・でも、ごめんね、これは覆せないんだ・・・」
ジュンの声が弱くて、悲しみに共感する。
胸の奥が冷えていくような感覚が、始めて理解できた。




その日、ジュンは一時も傍を離れなかった。
どこへ行くにも手を繋ぎ、座ったときはすぐに身を寄せる。
少しでも相手の温もりを感じたがっているようで、いじらしかった。
たまに、堪えきれないように唇を寄せてきて、口付けをせがまれても
触れたがっているのは同じで、全ての行為を受け入れていた。

そうして、夜が近付くにつれてジュンは落ち着かなくなる。
不安そうに胸元を抑えたり、床の一点を見詰めたりしていた。
「ジュン、大丈夫か?」
「う、ん・・・」
明らかに大丈夫ではない返事に、思わずジュンを抱き締める。
すると、ジュンも腕をまわしてきて、お互いに強く抱擁していた。
少しでも不安を拭えるなら、何時間でも抱いていたい。

「・・・ねえ、ツカサ。ボク、最後の思い出を作りたいな・・・」
「ん、何がしたい?」
「交尾がしたい」
大胆不敵で素直すぎる発言に、口が半開きになる。
「前は途中で止めちゃったけど、今度は最後までしたい。
ツカサの中、きっとすごく温かいと思うんだ」
易々と返事ができなくて、口は開いていても言葉が出てこない。
嫌悪感があるわけではない、ただ、心の準備ができていなかった。


「・・・そういえば、ヤトはどこに行ったんだ?」
「ヤトは、何も言わずにどこかへ行っちゃった」
「・・・じゃあ、猫達は?散歩から帰って来てないみたいだけど」
「みんなには、自分達で生きていくように言っておいたんだ。
・・・もう、ここには戻ってこないと思う」
後半、ジュンの声がとても細くなる。
まるで、その事実を認めたくないと言うように。

「・・・ごまかしちゃ嫌だよ、ツカサ。ボク、ツカサの中に触れたい」
話題を振って時間稼ぎをしようとしても、ジュンの欲望には通用しない。
「で、でも、あんなとこ、汚いし」
「シャワー浴びれば大丈夫だよ。何なら、ボクが洗ってあげる」
「こ、子供じゃないんだから、一人で洗える」
「じゃあ、行ってきて。ボク、ツカサの後でいいから」
有無を言わさず腕を解かれ、背を押される。
ジュンの意思は頑なで、断れる雰囲気ではなくなってしまった。
覚悟を決めるしかないんだろうか。
僕はジュンの視線に押されて、体を洗いに行った。


シャワーだけなのでさほど時間はかからず、心の準備もできないまま部屋に戻る。
「じゃあ、今度はボクが洗ってくるね」
入れ替わりで、ジュンが出て行く。
一人で部屋に残されるのは久々で、物寂しさに溢れた。
いつもは、猫か、ジュンか、ヤトの誰かがいてくれた。
誰かと触れ合うことが多くなっていくうちに、ジュンと同じくらい寂しがりやになってしまったのかもしれない。
今も、緊張のさなか、ジュンが早く帰ってこないかと思っていた。

暇を持て余して、ベッドに寝転がる。
入り口に背を向けて目を閉じていれば、寝ていると勘違いしてくれないだろうか。
可能性は薄かったけれど、狸寝入りをしてジュンを待った。


ほどなくして、背後から足音が聞こえてくる。
僕は反応せずに、規則的な寝息を心掛けた。
「・・・ツカサ」
呼びかけられたけれど、答えない。
今は、寝ているつもり、なのだから。

「ツカサ、寝ちゃったの」
ジュンがベッドに入ってきて、背に体が密着する。
シャワーを浴びた後だからか、温度が伝わりやすい気がした。
静かにしていると、軽く肩を揺さぶられる。
それでも反応しないでいると、ふいに変な声が聞こえてきた。


「う、ひっく・・・うぅ・・・」
呼吸が変になっているようで、気にかかる。
そのしゃくりあげたような声は、幼子の泣き声だった。
今、やっと気付いたふりをして目を開く。
体を反転させると、ジュンが目を潤ませていた。

「ツカサ、嫌なんだね、ボクと、するの・・・」
ジュンの声は途切れ途切れで、今にも大泣きしてしまいそうだ。
「ご、ごめん。少しうとうとしてて・・・」
「ううん、無理しなくていいよ・・・こんなこと、したいはずないもんね・・・」
とたんに、胸の内がずきりと痛んだ。

「嫌じゃないよ。ただ、度胸がなかっただけなんだ・・・」
あやすように、ジュンの頭を撫でる。
そのとき、ジュンが何も着ていないことに気付き、手を引っ込めた。
「ほんとに?ほんとに、嫌じゃないんだね」
ジュンがさっと起き上がり、馬乗りになって動きを封じる。
泣き顔はどこへ行ったのか、今は微笑みが映っていた。

「え、と・・・ジュンは嫌いじゃない、けど、あんまり痛いのは」
「じっくり慣らすから大丈夫だよ。ね、ツカサ・・・」
ジュンが身を下げ、耳元に唇を寄せる。
「ボク、ツカサの中で感じ合いたい・・・・・・しても、いい・・・?」
耳元での囁きに、一瞬身震いする。
甘えたがりの猫を、拒否する術は持っていなかった。


「・・・わかった。好きにして、いいよ」
恥ずかしながら呟くと、ジュンが体を起こす。
そして、服のボタンを次々と外し始めた。
「ごめんね、ずるいことして。でも・・・どうしても、してみたかったんだ」
あっという間に上半身を露わにされると、ヤトにつけられた痕が目立つ。
そこで、ジュンは手を止めた。

「これ、ヤトがつけたの?」
「ま、まあ・・・」
ジュンが、その痕を指でなぞっていく。
「ツカサは、ヤトにまで好かれてるんだね。傷つけられてなくて、よかった」
ジュンの手が下へ移動し、続いてズボンも下ろされる。
何の躊躇いもなく衣服が取り払われ、身を任せているしかなかった。
すぐに下半身の服も放られ、完全に無防備な状態になる。

「ツカサに触れるって思うと、シャワー浴びてるときから興奮しっぱなしだったんだよ。ボクの、もう熱いんだ」
ふいに手首を取られ、誘導される。
掌が、何か温かくて固いものに触れると、反射的に心音が強く鳴った。
すぐに離すことは許されず、上から手を包まれて、ジュンのものを握ってしまう。

「は・・・ツカサの手、気持ちいいな・・・」
「そ、そっか」
もう、口数が少なくなる。
掌から伝わる脈動に、動揺せずにはいられなかった。
「ツカサ、ゆっくり慣らすから・・・」
ジュンがもう片方の手を伸ばし、下肢の窪みに触れる。
どきりとしたときには、その指が、自分の中へ入ってきていた。

「あ・・・!」
思いもよらぬ感覚に、声が裏返る。
中に触れられたことなんてなくて、始めてのことに全身が反応した。
ジュンの指は、ゆっくりと奥へ進んでくる。
「ん、ん・・・っ」
少しでも動かれると、窪みは抵抗するように収縮する。
声を堪えようとすると、つい手に力が入り、ジュンのものを握ってしまった。

「あっ・・・」
ジュンの甘い声が聞こえて、はっと力を緩める。
けれど、そこから離れることは許されず、まだ手を捕まれていた。
「ツカサ、ボクのを握ってもいいよ。ツカサに包まれていたいんだ・・・」
そこで、ジュンがふいに指を曲げ、中を広げようとする。

「あ、やっ・・・」
刺激が強まり、窪みが収縮する。
同時に体に力が入り、ジュンのものを掴まずにいられなかった。
「あぁ・・・ツカサ、このまま解してあげるからね」
「う、ん・・・」
欲に陶酔しているような、うっとりとした表情が真上にある。
それは、僕も同じかもしれない。
今のジュンは、まるで発情期の猫のようだった。

ジュンはだいぶ興奮していたけれど、言った通り、じっくりと慣らしていった。
無茶な動きはせず、少しずつ動ける範囲で中を緩ませていく。
指が増やされても痛みはなかったが、その分他に感じるものが増す。
ジュンのものは相変わらず熱くて、掌も温まる。
そうやって固くなっている状態は、僕も同じだった。
そこには直接触れられていないのに、熱が溜まる。
ジュンの指に、確かに感じている証拠だった。


ほどなくして、指が抜かれる。
何も液体をつけていないはずなのに、自分の中がほんのりと濡れている感触がしていた。
防護のための液が、むしろ淫猥なものを思わせる。
「ツカサ、入れたい・・・入れても、いい・・・?」
「ん・・・いい、よ・・・」
欲が高まりきっている今、ジュンを拒むことなんて考えられない。
手はやっと解放され、ベッドの上に下ろすことができた。

ジュンが少し身を引き、自身のものを窪みにあてがう。
シーツを握って身構えたとたん、それが身を進めてきた。
「あ、ぁ・・・っ!」
指とはまるで違う圧迫感に、上ずった声が漏れる。
どんなにシーツをきつく握り締めても抑えられない衝動が、競り上がってきていた。

「んっ・・・ツカサ、痛い?苦しかったら、すぐに言って」
気遣いの言葉に、こんな状態でも内申嬉しくなる。
欲情して、早く事を進めたいはずなのに、傷付けないようにしてくれている。
ジュンの気持ちに応えたい。
たとえ出血しても、ジュンの全てを受け入れたいと、そう感じた。


「大丈夫・・・僕、ジュンのこと、絶対に拒まない。
だから・・・そんなに、気にかけなくても、いいよ」
「ツカサ・・・ありがとう」
ジュンが安心したように微笑むと、胸の内が温かくなる。
体の力がわずかに抜けると、ジュンが再び身を進めてきた。
気遣いをさせないよう、声を堪えて、肩で大きく息をする。
息が不規則になり、吐息も熱を帯びていく。
心音はとっくに早くて、重なり合った胸部から、ジュンと共鳴していた。

「は・・・ここが、ツカサの一番奥かな・・・」
下腹部が触れ合い、ジュンの動きが止まる。
圧迫感はだいぶ奥まで感じるようになり、ジュンのものを全部受け入れたとわかる。
内側でお互いの脈動が伝わり、繋がり合っていることを実感していた。

「あったかい・・・ツカサの肌も、体の中も、すごく熱いよ」
「だ、だって・・・ジュンのこと、感じてる、から」
今更、羞恥心なんて薄れていて、正直にものが言える。
ジュンの鼓動に、気が昂って仕方がなかった。

「このままでいたいけど、それじゃあ物足りないよね・・・?」
「えっ・・・」
ジュンが、再び下の方へ手を伸ばす。
そして、起ちきっているものを、始めて掌で包み込んだ。
「あ、ぁっ」
びくりと体が震え、あられもない声が出る。
中を侵されていると、体が敏感になっているようで
やんわりと触れられただけでも、窪みが収縮した。


「あ・・・ツカサ、ここ触ると縮まるんだね。もっと、締め付けてくれてもいいよ・・・」
ジュンはうっとりと陶酔するように言い、包んでいるものをゆったりと愛撫する。
掌が上下に動き、指の腹が根本から先までをなぞっていく。
「は、あ、ぁ・・・っ」
どんな動きをされても感じて、ジュンを圧迫してしまう。

「ん・・・ツカサ、まるで強く抱いてくれているみたいで、気持ちいいな・・・」
すぐ傍で、ジュンが吐息を漏らす。
止めどない反応は、ジュンに下肢を愛撫されるたびに引き起こされ、収縮する。
お互いに感じあっているとわかると、無性に愛おしい気持ちが沸き上がり
気付けば、重たい腕を動かし、ジュンの背にまわしていた。

「ツカサ、一緒に気持ちよくなろう・・・」
ジュンは微笑み、手の動きを早くした。
「っ、あぁ・・・」
早い愛撫に、体が打ち震える。
ジュンのものを奥に留めているだけに、だいぶ敏感になっていた。
後ろが縮まるたびに、自分の中にジュンがいることを感じると
無意識のうちに、その背にしがみついていた。
快感を堪えるように、はたまた求めるように。

「ぎゅっとしてくれて嬉しいな。中も、同じようにしてくれる・・・」
「う・・・」
もはや、恥ずかしいことを言われるだけでも反応してしまう。
ジュンが中で動かなくても、捕まれているものから液が零れていくのを感じる。
汚してしまうと思っても、止めようがなかった。


「ツカサ、ボクのに感じてくれてるんだ」
ジュンが零れた液を指先ですくいとり、まじまじと見る。
「そんな、もの、シーツにでも拭いてくれ・・・っ」
さっきから息が落ち着かなくて、絶え絶えに訴える。
けれど、ジュンは言うことを聞いてくれなくて
あろうことか、その指を自分の舌で拭った。

「なに、して・・・」
「ん・・・変な匂いする。でも、ツカサのだって思うと、全然嫌じゃないよ。
・・・ね、もっと欲しいな」
嘘ではないのか、ジュンは屈託なく笑う。
そして、再び下肢のものに手を添えて、その液ごと全体を愛撫した。

「や、あぁ・・・っ」
液のせいで動きが滑らかになり、余計に感じてしまう。
往復するたびに喘ぎ、それに伴いジュンを締め付けることを止められない。
液がさらに零れると、すぐさま全体に塗り付けられていく。
卑猥な感触と早い愛撫に、欲を解放したくてたまらなくなる。
もう、その身は限界だった。
本能だけが先行し、ジュンの背を引き寄せる。
すると、ふいに強く握り込まれて、とたんに悦楽に襲われた。

「あ、ジュン・・・っ、ああ・・・!」
頭が真っ白になって何も考えられなくなって、反射的にジュンの名を呼ぶ。
強すぎる感覚に窪みはしきりに収縮し、ジュンを締め付けた。

「ああ、ツカサ・・・っ・・・!」
上ずった声で、ジュンも喘ぐ。
お互いに早い脈動が伝わり合い、熱を共有する。
自身の先端が熱くなり、艶めかしい液が溢れ出す。
そして、中には粘液質なものが流れ込んできていた。

「あ、う・・・」
ジュンの精が、奥へ注がれていく。
未だにジュンを留めている個所は、縮むたびにその液を受け入れていた。
独特な感触を、忌まわしいものだと思えない。
大きく息を吐き、ただ受け入れ続けていた。

「ツカサ・・・すごく温かいよ。肌だけじゃなくて、胸の辺りが、すごく温かくなってる・・・」
「うん・・・僕ももう、熱いくらいだ・・・」
重なっている体だけでなく、胸の内から温かなものが湧き上がってくる。
この気持ちは、愛おしい者と繋がり合っているからなんだと、そう感じていた。


やがて、徐々にほとぼりがおさまり、息が安定してくる。
けれど、ジュンはまだ中に留まっていた。
「ツカサ、少し回復した?」
「ん・・・まあ。もう終わったから、そろそろ抜・・・」
言いかけたところで、ジュンに下肢のものを掴まれる。
一瞬体が跳ね、また体が反応した。

「ボク、まだツカサとしたいな・・・だって、眠ったら明日になっちゃうんだよ」
明日になれば、別れなければならない。
その事実を改めて知らされると、物寂しさが溢れてきた。

「・・・わかった。ジュンの気の済むまで、付き合う」
「ありがとう、ツカサ・・・」
そっと、ジュンと唇が重なる。
僕は静かに目を閉じて、全てを受け入れようと決めた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
もうこの小説いかがわしくてなにがなんだか←
次にヤトといかがわしくなって、終了となります。