異常疾患8
夜通しジュンと繋がり合い、何度も果てた。
最初の内は、同じように下肢を擦られ、中へ注がれる。
達するたびにジュンの手は白濁にまみれていって、卑猥な感触が止まなかった。
朝が近付くにつれて、行為はだんだんとエスカレートしていって
後半はジュンが動き始め、中で二人の液体が混じり合っていた。
往復運動のたびに身が悦に震え、抑制も忘れて喘ぐ。
緩んだ窪まりからは液が漏れ出し、いやらしい音をたてた。
下肢に触れられている以上の悦楽に、何度も収縮して、お互いに達する。
すると、また中にジュンの精が注がれて、気が昂ってしまう。
休憩の間隔は回数を重ねるごとに長くなり、ジュンの気が済んだときには明け方になっていて
やっと終わった頃には、だいぶ体がだるかった。
「もう、朝なんだ・・・」
ジュンは静かな声で呟き、身を引く。
中からは、奥まで注がれた白濁が絡み付いて出てきて、背筋にぞくぞくとした感覚が走る。
体を起こそうと少しでも腰を引くと、とたんに液が溢れてきて、動けなかった。
「ジュン・・・満足、できたか・・・?」
喉が渇いて、うまく声がでない。
かさついた声で尋ねると、ジュンが擦り寄ってきた。
もはや、下半身の辺りが粘液質になっていても気にならない。
「ありがとう、ツカサ・・・ありがと・・・」
はっきりとした答えは聞けず、ひたすらにお礼を言われる。
いじらしくなって、ジュンの頭をそっと撫でた。
もう、こうして触れられることができなくなるのだと思うと、物寂しくなる。
けれど、別れなければならないことは、覆せない。
せめてぎりぎりまで一緒にいようと、自分からジュンを離すことは、最後までなかった。
やがて朝日が上り、時計がなくとも時間がきたとわかる。
ジュンはのろのろと腕を解き、ベッドから下りた。
「・・・シャワー、浴びよう?ボクもツカサも、ねとねとだから」
「ん・・・そうだな」
同じくベッドから下りると、やはりジュンを受け入れていた箇所から液が溢れてくる。
全身がだるかったけれど、卑猥な感触を堪え、何とか歩いた。
二人してシャワールームに来て、体を流す。
石鹸を泡立てて洗っている間、お互いに無言だった。
時間が迫ると、なぜか何を話していいかわからなくなる。
泡を流すとだいぶすっきりして、口をゆすぐと渇きも緩和した。
あまり広くもないので、先に出ようかと方向転換する。
そうして一歩踏み出したとき、また、窪まりに卑猥な感触がした。
「あ・・・っ」
溜まっていたものが一気に出てきたのか、液が太股を流れ落ちていく。
壁に手をついてその場に留まると、ジュンが顔を覗きこんできた。
「ツカサ、どうしたの?お腹痛い?ボクが、いっぱいしちゃったから」
「い、いや、痛くないけど・・・あの、ジュンの液が、出てきてるから・・・」
後半、声が小さくなる。
「あ・・・そっか、ごめんね、今出すから」
「出すって、どうやって・・・っ」
後ろからジュンの手が伸び、窪みに触れる。
そして、指が中へと差し入れられた。
「あ、っ、ジュン・・・っ」
緩まった個所は、痛みもなく指を受け入れる。
ジュンはすぐに奥まで進み、指を曲げて液を絡ませる。
「んん・・・っ、ぁ・・・」
喉がからからになるまで喘いだのに、まだ甘い声が出る。
ジュンはすぐに指を抜き、シャワーで洗い流した。
そして、また指を埋めていく。
もしかして、液が出切るまで繰り返すつもりだろうか。
「あ、あの、ジュン、もういいから・・・」
また昂ってしまいそうで、とっさに止める。
「ん、わかった。ごめんね、ツカサ・・・」
声に覇気がなくなったので、ついジュンの頭を撫でる。
「謝らなくてもいいよ。だるさはあるけど・・・嫌じゃ、なかったから」
ジュンの前では、本音が出る。
同情心から付き合ったわけではない。
抱き締められると温かくて、繋がり合うと熱くて、陶酔していた。
いつしか、ジュンにはかなりの好感を覚えていた。
その死期を見届けたいと望むほどに。
体を拭いて、服を着直す。
部屋へ戻ろうとすると、廊下にヤトが立ち塞がっていた。
「ヤト!どこ行ってたの?」
ジュンが問いかけたところで、後ろから白衣の男性が現れる。
病棟の先生なのか、ジュンははっと口を閉じていた。
「ジュン君、ヤト君、犬の駆除お疲れ様。一旦、帰ろうか」
ジュンは、ちらと僕の方を見たけれど
逆らえないようで、すごすごとヤトの方へ歩いて行った。
「ツカサさんは、二人と一緒にいてくれたんですね」
「・・・はい」
「離れようとは思いませんでしたか?はっきり言って、二人とも普通じゃない」
僕は、すぐにかぶりを振る。
「思いませんでした。だって、僕も異常ですから」
男性は、考え事をするように顎に手をあてた。
「そのことなんですけど、実はヤト君から推薦が出ているんです。
貴方にも疾患があるから、診てやってほしいと」
「僕も、病院に行くんですか」
「強制ではありませんがね」
思いがけない提案に、僕もジュンも目を丸くしている。
その後、ジュンにじっと見つめられていた。
来てほしいという、期待の眼差しで。
「・・・僕も、診てもらいたいです。折角、ヤトが推薦してくれたので」
良い返事をすると、ジュンはぱっと笑顔になり、ヤトはふっと笑う。
少しでも長く一緒に居られるなら、病院だろうがどこへでも行っただろう。
「わかりました。では、行きましょうか」
男性の後ろにつき、二人と並ぶ。
「ツカサともう少し一緒にいられるんだ、嬉しいな」
「感謝しろよ、わざわざ病院まで出向いて言ってきてやったんだからな」
「ああ。ヤト、ありがとう」
素直なお礼がむずがゆかったのか、ヤトがふいと目を逸らす。
自分が面白く感じることを最優先させるヤトに、認めてもらえた気がした。
僕と共に居ることは、優先するに値することなのだと。
大通りに出ると車に乗り換え、三人で後部座席に乗った。
細い道を進み、わざと曲がり角が多い道を選んでいるのか、とても記憶しきれない。
気軽に来られたくない理由が、あるのかもしれない。
その間、隣に座っているジュンと手を繋ぎ、ヤトに肩を組まれていた。
たまに、バックミラーを通して見られているのに気付いていたけれど
二人に触れていられることが幸せで、振り払えるはずはなかった。
しばらくして、車が止まる。
周囲に家はなく、ひっそりとした場所に、巨大な病院がそびえ立っていた。
車を下りると、二人とも手を離して男性に続く。
院内は、普通の病院とあまり変わらない、清潔感のある白壁が目立った。
「まず、ツカサさんの精密検査をさせてもらいます。こちらにどうぞ」
男性に誘導され、二人と別れて部屋に入る。
中も埃一つ落ちていなくて、真っ白だった。
「推薦だけでは即入院というわけにはなりませんので、長丁場になりますがご容赦ください」
「はい、お願いします」
入院すれば、まだ二人と一緒にいられる。
不謹慎なことだけれど、悪い結果になればいいと願っていた。
精密検査は、本当に長丁場だった。
まずは、体重、伸長、視力検査など、基本的な健康診断を受ける。
その後、尿検査、血液検査、レントゲンなど、どんどん大がかりになってゆき
後半は、巨大な機械に入り、脳波や心電図を検査していった。
ようやく終わった頃には数時間が経過していて、疲労が溜まっていた。
「お疲れ様でした。結果が出るのは翌日になりますが、一旦家に帰りますか?」
「いえ、道がわかりませんし、できればここにいたいです」
「わかりました、部屋を用意しておきます。
結果が出るまでは、なるべくジュン君とヤト君の傍にいてください」
「はい、ありがとうございます」
望んでいたことを言われ、速答する。
ここにいる患者は、全員普通ではない。
二人と共にいたほうが、安全に違いなかった。
部屋の場所を伝えられ、案内板を見てから向かう。
相変わらず白い部屋には、ジュンとヤトがベッドソファーに座っていた。
「ツカサ!検査、どうだった?」
さっとジュンが駆け寄ってきて、勢い余って体がぶつかる。
「明日わかるみたいだ。それまでは、病院にいていいって」
「ほんと!?嬉しいな・・・」
離れないように、ジュンが腕をまわしてくる。
同じく背を抱き、ヤトの方へ視線を向けた。
「ヤト、推薦してくれて本当にありがとう。
こんなことでお礼を言うの、変かもしれないけど」
「・・・確かにおかしい。だから、あんまり感謝の言葉を連呼すんな、むずがゆくなる」
ヤトがまた視線をそらすのがどこかおかしくて、頬が緩む。
廃墟だろうが、病院の中だろうが、二人と接することができるのなら、幸せだった。
「昨日はボクがツカサを独り占めしちゃったから、今日はヤトに譲るね」
ジュンが離れ、ソファーの端に座る。
固まっているとヤトと目が合って、手招きされた。
ヤトの隣に座ると、すぐさま肩を引き寄せられて体が密接になる。
「なあ、あんた、オレに好かれて嬉しいかよ」
「嬉しいよ」
間髪入れずに答えると、ヤトが一瞬だけ目を丸くする。
狂犬だって動物には変わりないのだから、嫌なわけがなかった。
「やっぱ、あんたも異常だ。そうでなきゃ、近付きたがるはずない」
「うん、異常なところがあってよかったよ」
ヤトは少しの間閉口し、じっと視線を合わせる。
まるで、動物が相手の真意を探っているようだった。
「・・・昨日はジュンとお楽しみだったんだよな。じゃあ、今日はオレも楽しませてくれよ」
ヤトが服をはだけ、ベルト解く。
何をして楽しみたいのか、この時点で察した。
「そ、そういうことは、監視の目があるから駄目なんじゃなかったのか・・・」
「オレが無理矢理襲うのは止められるな。けど、合意の上で、オレが受ける側なら問題ない」
合意したわけではない、という野暮な言葉は飲み込む。
こうなっては、ヤトを止められないことはわかっていた。
ヤトが下半身の服だけをずらし、身を寄せてくる。
そして、手首を掴まれ、有無を言わさずその中心へ誘導された。
まださほど固くないものに、掌が触れる。
「ツカサ、擦ってくれよ」
「擦るって、ジュンの前で・・・」
「ボクのことは気にしなくてもいいよ。ヤト、見られるの嫌がってないし」
それでも素直に手を動かすのは躊躇われて、硬直する。
しびれを切らしたのか、ヤトに唇を塞がれた。
舌が唇を割り、隙間をこじ開けて中へ進んでくる。
「んんっ・・・」
同時に、掌にヤトのものが押し付けられ、心音が一瞬強くなる。
中へ入り込んできた舌はひたすらに相手を求めるように動き、絡みつく。
「は、あ・・・ぅ」
お互いの液が混じり合い、いやらしい音が聞こえてくる。
けれど、ヤトの舌を噛むことも、手を離すこともできない。
狂犬に求められて、本能はそれを叶えたがっていた。
口が離され、間に細い糸が伝う。
それを拭いもせず、ヤトは手を自信のものに押し付けた。
こうなっては達するまで離れないだろうと、観念する。
自分からゆっくりと掌を動かし、ヤトのものを擦り始めた。
「は・・・っ」
ようやく愛撫され、ヤトが吐息を漏らす。
手首を離した代わりに、最後まで逃げないように肩を掴んでいた。
単調に上下運動を繰り返すだけでも、ヤトのものが固くなっていく。
そこに溜まる熱を感じると、頬に伝わるようだった。
「ツカサ、ほっぺた赤くなってる」
ジュンが体温を確かめるように、頬に手を添える。
「何だ、今更照れてんのか?」
「今更って・・・恥ずかしいもんは、恥ずかしい」
触るのは二回目でも、そこの感触には慣れない。
「手が止まってるぜ、ほら・・・」
ヤトが手を重ね、無理矢理動かす。
「わ、わかった、するから・・・」
相手に促される方が、むしろ恥ずかしい。
自ら擦ることを再開すると、ヤトはすぐに手を離した。
「ん・・・は・・・っ」
ヤトのものはもう起ちきっていて、男の手に包まれて感じているとわかる。
自分もジュンと行為をした手前、人のことは言えない。
こんな単調な行為でヤトが満足するのならそれもいいと、手を動かし続けた。
なるべく何も考えないようにしていたのに、ふいに、ヤトに服のボタンを外される。
「何、してるんだ・・・」
「っ・・・触られるばっかりじゃなくて、触ってみる方も面白いからな・・・」
服がはだけさせられて、前面が露わになる。
ヤトはさらに身を寄せ、鎖骨の辺りに唇で触れた。
いつかのように軽い痛みがしたと思えば、別の場所へ移動する。
おそらく、次に鏡を見たときには点々と赤い痕がつけられているんだろう。
そうわかっていても、ヤトを押し退けることはしなかった。
「ツカサ、少しずつ温まってきてる。触る方も、どきどきするもんね」
まるで行為が見えていないかのようにジュンが腕を組み、ぴったりと体を寄せる。
素肌に触られはしないかと、少し覚悟したけれど
行為の邪魔をする気はないのか、ジュンは体を寄せただけだった。
やがて、皮膚に触れるヤトの息が熱っぽくなってくる。
擦り続けている下肢のものからは、わずかに液が漏れてきていた。
そろそろ限界なのかもしれないと、思いきって指に液を絡ませて愛撫する。
「は・・・っ、あ・・・」
ぬるりとした感触にヤトは感じるものが強くなったのか、その身を震わせた。
もう口付ける余裕はないのか、胸部の辺りで荒い呼吸を繰り返している。
早く終わらせたいと思う一方で、まだヤトの吐息を感じていたくなる。
いつの間にか、予想以上に思い入れが強くなっていた。
相手の愛撫を求めてやまない、この狂犬に。
「ヤト、もうすぐ、楽になるから・・・」
自然と、優しく諭すような言葉が出てくる。
動物に接するとき意外に出したことがないような、柔らかな声で。
応えるように、ヤトの爪が肩に食い込む。
僕もヤトの願望に応えて、下肢を掴む手に力を込めた。
そして、欲を発散させるように、指の腹で全体をなぞっていく。
液の感触も伴った愛撫に、ヤトはまた体を震わせて
先端を撫でた瞬間、肩がさらに強く掴まれた。
爪が皮膚に食い込み、痛みに顔をしかめる。
はずみで、ヤトのものを握りこんでしまった。
「っ、あぁ・・・!」
とたんにヤトが喘ぎ、下肢のものが脈動する。
手には卑猥な感触が散布され、指の間にまで白濁が絡み付いていた。
はっとして手を離し、様子を伺う。
「ヤト・・・ごめん、痛かったか?」
ヤトは肩から手を離し、大きく息をついて顔を上げる。
その目はやや虚ろで、悦の余韻に浸っているようだった。
珍しい表情を、つい凝視してしまう。
「なかなか激しいことしてくれるな・・・まあ、悪くなかったけどな」
満足したのか、ヤトは口端を上げてにやりと笑う。
「ヤトが最後まで体触らせるなんて・・・ツカサ、本当にヤトのことも想ってくれているんだね」
「ああ、二人とも大切な・・・大切な相手だ」
途中で、一瞬言葉に詰まる。
大切な友人か、愛玩動物か。
そこで迷ったけれど、ジュンは嬉しそうに笑った。
「一旦、手を洗ってくるよ」
ソファーから立ち上がり、続き部屋にある洗面台で白濁を洗い流そうとする。
その前に、じっと自分の手を注視していた。
何を思ったのか、ヤトの精がかかったままの手を口元へ持っていく。
そして、その液を、舌先で軽く舐めていた。
苦々しい味と、独特な匂いが鼻につく。
けれど、ヤトのものだとわかっているからか、嫌悪感はなかった。
あまり多く弄るのは気が引けて、石鹸を使って洗い流す。
匂いが残っていないかを確認し、部屋に戻った。
部屋では、ベッドの上で二人がくつろいでいた。
もう気が落ち着いたのか、ヤトは服を直して平然としている。
「ツカサ、今日は三人で寝よう?ベッド、つなげて広くしたから」
近付いて見てみると、ベッドが二つ連続して繋がっていて、三人はゆうに眠れるサイズになっている。
「いいよ。僕も、二人と一緒に居たい」
ヤトはちらとこっちを見たけれど、特に何も言わなかった。
真ん中に来るようジュンに促されて横になると、すぐに腕を組んできた。
「ツカサが入院してくれたら、またしばらく一緒にいられるんだけどな」
「うん、そうだといいな」
疾患であってほしいなんて、不謹慎極まりないけれど
それが、二人と共に居られる条件なら、構わなかった。
「あんた、本気で入院したいなんて思うのかよ。自分の自由で外に出られなくなるんだぜ」
ヤトが、訝しむように問う。
「それでもいい。ヤトとジュンの傍にいたいんだ」
ゆっくりと、ヤトの方に手を伸ばして腕を掴む。
真面目な顔で言うと、ヤトが軽く溜息をついた。
お互いは真意を読み取るように、しばらくの間視線を交わらせていた。
「・・・変人だよ、あんたは、どうしようもない異常者だ」
もはや、異常という言葉が褒め言葉に聞こえてしまう。
苦笑すると、ヤトが少し近づく。
そして、掴まれた腕を振り払うことなく目を閉じた。
その瞬間、この狂犬の傍にいることを許された気がして
その日は、ヤトの腕を掴み、ジュンに擦りよられたまま眠った。
翌日、診察を受けた部屋に呼び出された。
ここで、留まれるか追い出されるか判明する。
緊張ぎみに椅子に座り、医師と対峙した。
「まず、ツカサさんの診察結果から言わせてもらいますが・・・
貴方は、脳にわずかな損傷があります」
普通なら肩を落とすところだけど、逆に期待する。
けれど、それはすぐに打ち消されてしまった。
「ですが、貴方は普通に日常生活を送っているようですし、ここでの治療は必要ありません。
カウンセリングで解決できる疾患でしょう」
「そう・・・ですか」
医師の言葉で、病院から離れることが決まってしまった。
二人とも会えなくなると思うと、胃が冷たくなるような虚しさに襲われる。
「出て行かないといけませんよね、治療しないのなら・・・」
「その前に聞きたいのですが、貴方には他人の内分泌液が残っていました。
お相手は、ヤト君ですか?」
大それたことを聞かれ、一瞬呆ける。
「あ、相手、は・・・ジュンです」
答えると、医師は目を丸くした。
「まさか・・・あの子が人に興味を持つとは。
私達は、ジュン君は猫とつがいになると思っていたんですよ」
そうなってもおかしくないだろうと、苦笑する。
医師は真剣な面持ちのまま、考え事をするように床へ目を向けた。
「・・・実は、貴方が二人と協同できていたことにも驚いているんです。
そのことで、昨日会議があったのですが・・・」
医師は、迷うように言葉を止める。
じっと続きを待っていると、医師が視線を上げた。
「ツカサさん、非常勤職員になりませんか。貴方なら、二人を更正できるかもしれない」
「非常勤、職員・・・?」
「はい。本来の仕事もあるでしょうし、週に1、2回で構いません」
今度は、こっちが目を丸くする番だった。
追い出されるかと思っていたのに、逆に招かれている。
そんな提案に、首を横に振るはずはなかった。
「ぜひ、そうさせて下さい」
「いいんですか?ここには、はっきり言って異常な子しかいませんし、貴方に危害を加えない保証はありませんよ」
「それでも構いません。ジュンとヤトにまた会えるのなら」
間髪入れずに、即答する。
医師はまた暫く黙り、決意したように立ち上がった。
「わかりました。手続きの書類を準備しますので、まだ院内にいてください」
医師が部屋を出て行くと、少し間を空けてから同じく出て行く。
向かったのは、もちろん二人が居る部屋だった。
「ジュン、ヤト、聞いてくれ!」
部屋へ入るなり呼びかけ、二人が視線を向けてくる。
「ツカサ、もしかして、入院することになったの?」
「いや、実は、この病院の非常勤職員になれそうなんだ。
入院はしないけど、たまに二人に会いに来られるんだ!」
よほど驚いたようで、ジュンだけでなくヤトまで目を丸くする。
喜んでくれるかと思いきや、二人とも複雑そうな表情になった。
「でも、ここにはいろんな人達がいるから・・・ツカサのこと、心配だな」
「はっきり言って、キチガイも平気でうろついてる。傷つけられない保証はないぜ」
「危険だとは言われた。けど、僕の意思は変わらないよ。
・・・どうしても離れたくないんだ、ジュンと、ヤトから」
姿形は人でも、性格は動物のように本能的な二人を見ていると、どんどん愛着がわいていく。
ここまでして傍にいたがるのも、二人は人と動物の中間にいるような存在だからに違いなかった。
「ツカサ・・・ありがとう、ボク、すごく嬉しい・・・!」
喜びのあまりか、ジュンが飛びついてくる。
ふらつきつつも体を受け止めると、しっかりと抱きしめた。
「本当にしょうがない変人だな。・・・まあ、拒みはしねえさ。
アンタと居た方が面白そうだって、オレの本能が言ってるからな」
ヤトも傍に来て、肩を組まれる。
僕は片腕をジュンから外し、ヤトの腰元を抱いた。
異常な二人組、だからこそ離れがたい。
異質な存在は、同類に惹かれずにはいられなかった。
院内に危険人物がいるとしても、喜んでここへ来よう。
更生させるさせないは、正直に言うとどうでもいい。
僕はただ、是が非でも感じたかった。
二人の鼓動が弱くなってゆき、停止するその瞬間を。
僕はジュンとヤトがが離れないよう、回している腕に力を込めた。
―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
これにて、ほんのりダークでだいぶいかがわしかった連載は終了です。
モチベーションが上がったら、非常勤職員の話も書く・・・かも、しれません。
ではでは、ながながとお付き合いいただき、ありがとうございました!