異種との交わり3


森の近くにある一軒家は、街へ行くにはだいぶ不便で、暇つぶしになるものもない。
けれど、そんなところに好き好んで住んでいる青年が居た。
人間不信というわけでもないし、コミュニケーションができないわけでもない。
ただ一つ、どうしようもない個性があった。

毎日のように森へ行き、何かを探すよう辺りを見回す。
そして、自分が来たことを示すよう、軽く口笛を吹いた。
すると、草葉の陰から獣の気配がする。
恐ろしいものが出て来るかと思いきや、そこから現れたのは黒猫だった。
見た目は、普通の大人の猫と大して変わりない。
けれど、その目はきっと青年を見据えており、明らかな意思が見て取れた。

「ジル、こんにちは」
呼びかけを理解しているのか、ジルと呼ばれた黒猫は青年に近付く。
ジルが傍まで来ると、青年はうやうやしくひざまずいた。
「今日も、毛づくろいをさせてもらえますか?」
猫に話しかけるには大げさな、丁寧な口調で問う。
ジルは細い髭を揺らし、許可するように軽く鳴いた。


家まで移動すると、ジルもついてくる。
綺麗な金色のくしを手に取り、ベッドに座ると、ジルが足の上に飛び乗った。
青年は慣れた手つきで、背中の毛をすいていく。
気持ち良いのか、ジルは目を閉じて、尻尾をゆったりと揺らしていた。
「やっぱり、ジルの毛並みは綺麗だ。森で一番なんじゃないかな」
『当たり前だ。そこらへんの粗暴な輩と一緒にされたらたまらない』
今の声は、幻聴でも何でもなく、はっきりと青年の耳に届いていた。

この森の動物達は、都会で飼われているペットとは違う。
自分の特質もあるのかもしれないが、心を通わせていくうちに会話ができるようになっていた。
『最近、都会での暮らしはどうなんだ』
「うーん、生活のためには街で仕事をしないといけないけど、森で暮らせるなら暮らしていたいな」
街での暮らしは苦痛ではないものの、森の安らぎにはかなわない。
仕事は楽なものばかりではなく、少しでも空き時間があれば森へ来ていた。

「ジルの毛づくろいをさせてもらってると、何だか落ち着くよ。
こんな良い手触りの毛皮、他にはないから」
『相変わらず、おだてるのが上手だ』
「本心だよ」
素直に言うと、ジルはまた髭を揺らす。
最初は、警戒心満載で、近付くことさえも許されなかったけれど
今はこうして触れることができて、喜びに溢れていた。


「本当に綺麗だ。雄にしておくのが勿体ないくらい」
『・・・それを言うんじゃない』
一度街へ出たら、周囲の猫が見惚れずにはいられないくらいジルは美しい。
けれど、皆、雄だと知ればがっかりするだろう。
ジルには、それくらい妖艶な雰囲気があった。
人に例えると、イケメンが女装をしているような感じだろうか。

「ジルは、何で雌みたいに振る舞っているんだ?」
さりげなく問うけれど、ジルは答えない。
聞いてはいけないことを聞いてしまったかと、口を閉じた。
何も言わずに背をゆったりと撫で、尻尾にもやんわりと触れる。
すると、ふいにその尻尾が青年の手首を撫でた。

「ジル?」
『人の雄は、雌の方が好きなのだろう』
「えっ」
驚くと同時に、ジルが跳躍して青年の肩を押す。
逆らえない重力があり、あっけなく後ろに倒れてしまった。
切れ長の目に見下ろされると、不思議な魔力にかかったように動けなくなる。


『わかっているんだろう、私がお前に気を許した理由を』
ジルが身を下ろし、口を触れさせる。
髭が当たってくすぐったくとも、振り払えはしなかった。
そのまま、ジルは舌先で唇をなぞる。

「ん、くすぐった・・・」
微かに笑うと、小さな舌が中へ入り込む。
目を見開いたときには、自分の歯列がなぞられていた。
「な、な、に」
『舌を伸ばせ、届かないから』
「う・・・」
細い瞳に睨まれると、逆らえなくなる。
言われた通りにおずおずと舌を伸ばすと、ざらりとした感触が触れた。

「は、っ・・・」
少し硬い舌になぞられ、思わず吐息を漏らす。
舌を引っ込めることは許されなくて、前に突き出したままひとしきり弄られる。
みるみるうちに頬が熱くなり、いけないとわかりつつも心音は早まっていった。


ジルが舌を引っ込めると、青年はさっと口を閉じる。
『お前は素直に物を言う。それに、小さいからって私をぞんざいに扱わなかった』
「だ、だって、ジルからは高貴な雰囲気がにじみ出ているから・・・」
『つくづく普通の人間とは違う、変人だ』
悪口のように聞こえるけれど、それはむしろ褒め言葉に近い。
証明するように、ジルは青年の首筋へ舌を這わせた。

「ひ、あ」
動脈をなぞられ、びくりと体を震わせる。
普通なら、猫がじゃれついている、何でもない行為のはずだけれど、愛撫では済まされない。

ジルは首から離れると、下の方へ移動する。
そして、ズボンのベルトへ忌々しそうに爪を立てた。
『邪魔な皮だ。切ってしまおうか』
「だ、駄目だよ、そんなに安くないんだから」
『じゃあ、自分で取るんだな』
「うう・・・」

流石に躊躇いが生まれるけれど、このままではベルトもズボンも切り裂かれてしまう。
その気になれば、きっと皮膚だって掻き切れるだろう。
青年は渋々ベルトを外し、ズボンの留め金も外す。
ここから先にする行為を、もう覚悟していた。


『そう、それでいい。やっぱりお前は素直だ』
ジルは満足そうに言い、器用に爪を使って青年の下着をずらしていく。
「お、お手柔らかに・・・」
もう顔が真っ赤になっていて、青年は両腕で目を覆う。
自分の下肢を隠すものがなくなったと思ったときには、そこへもざらりとした感触が伝わっていた。

「あ、う、う・・・」
敏感な個所に触れられ、青年は必死に声を押し殺す。
『堪えなくとも、私とお前の仲だろう』
「は、恥ずかしいものは恥ずかしい・・・」
それは、この行為だけでなく、猫に弄られていることに対してもだった。
もっと悦ばせるよう、ジルは青年のものへ丹念に舌を這わせる。

「ああ、っ・・・や・・・」
軽い痛みは即座に快感に変わり、青年を喘がせる。
呼吸をするごとに熱が巡り、下肢が熱くなってく。
反応しているのがわかると、ジルは弄っているものの先端を軽く咥えた。

「ひあ、っ、か、噛み千切らないでほしい・・・」
そんなことをする相手ではないけれど、牙が当たると怖気づいてしまう。
青年が怯えたのを察すると、ジルはすぐに口を離した。
『そんなことしないから、素直に気持ちよがってればいい』
ジルは優しく、先端の辺りをぺろぺろと愛撫する。
そうして恐怖心が和らいだとたん、そこの反応はごまかしようのないものになってしまった。

『こんなに興奮して、人の舌より良い?』
「試したこと、ないから、わからない・・・っ」
『確かにお前はそうだったな。人間よりも、私達の方に惹かれたのだから』
ジルが意地悪っぽく言うと、青年は口をつぐんだ。

女性が嫌いなわけではない、友達としてなら付き合える。
けれど、恋仲になるのは考えられない。
人の世界に居ると、その良さを知る反面、狡猾さも見えてきてしまう。
だから、親密な関係になるのを無意識に避けているのだと思う。
そんな自分の意識が向かった先は、森の魔獣達だった。


弄られ続けていると、先端から卑猥な液が漏れてくる。
確かに感じている証拠を見ると、ジルは微かに笑った。
液ごと弄ると、その部分が身震いする。

「あ、あ・・・そんなもの、駄目だ・・・っ」
『貴重な蛋白質だ。全部、私に捧げるといい』
こんなものを舐めさせてしまうなんて、心苦しくなるけれど
素直な反応はどうにも止められなくて、限界を示すように液が滴っていた。
ジルは青年の切っ先に、執拗に舌を這わせる。
弱いところを弄られ、限界だった。

「ああ、ジル・・・っ、あぁ・・・!」
堪えようとして堪えきれるものではない衝動が競り上がってきて、とうとう達してしまった。
体が大きく震え、下肢から欲が吐き出される。
生暖かい白濁が散布され、とても下を向くことはできなくなる。
その衝動がおさまると、溜め息をついて脱力した。
動けないままでいると、下肢にまたざらついた感触がするようになる。

「あ、う、ジル、っ」
『すぐに終わるから、大人しくしていろ』
液が拭われ、体が小刻みに震える。
感触がなくなった時、再び息を吐いた。
ジルが顔の傍にきて、尻尾で首元を撫でる。

「ジル・・・」
『こんなこと、人の道に外れているな。でも、悪くない性質だ、そう思わないか?』
否定も、肯定もできずに沈黙する。
けれど、森へ来ることは止められないだろう。
それが、どうしようもない自分の性癖なのだから。

ジルの背中を、愛おしく撫でる。
ジルは、青年の手首に、尻尾をやんわりと巻き付けた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
今度は猫と人間、どんどん危ない領域にいってしまいそうな予感・・・