異種との交わり4


幼い頃の思い出は、山に取り残されたことだ。
食いぶちを減らすために放置され、歩くこともままならない子供は餓死するはずだった。
けれど、今は成長し、山奥で生活をおくっている。
養ってくれる、異質な主人の元で。

巨大木のうろの中、外から羽音が聞こえて来て外へ出る。
その相手は、少年の前に風を起こしながら降り立った。
「ベルゼ、お帰りなさい」
「ああ。ただいま」
人の言葉を話してはいるが、人ではない。
相手は背丈が2mはある、巨大なハエの王だった。

「今日も、見つからなかったんですか・・・?」
「そうだな、最近は放置されている苗床が少ない」
苗床、というのは死体のことだ。
保温性の高い動物の死体に卵を産み付け、ふ化させる。
特に適切なのは人のものなのだが、最近は豊かになったからか、放置された死体なんて滅多になかった。

「そうですか、残念ですね・・・」
「子孫の数が減れば、生きた者に直接産み付けるしかないかもしれんな」
「駄目です!逆襲されて、ベルゼが傷つくのを見たくない」
ハエは、もともとそれほど強くない生き物だ。
ベルゼの子孫は、羽虫よりはサイズが大きいけれど、少し強い力で潰されてしまう。
人の子を拾って育てたのも、そんなもろい子孫達の中で、壊れにくいものを欲しがっていたのかもしれない。


「でも、本当は、生きた人の方が体温が高くて、ふ化しやすいんですよね・・・」
「そうだ。だが、お前の言う通り人の逆襲ほど怖いことはない」
憂いを帯びた瞳で、心配そうにベルゼを見上げる。
そのとき、ふとした考えが浮かんだ。
危険だけど、この相手のためになる考えが。

「ベルゼ、それなら、僕の体を使ってください」
驚いたように、羽が鳴る。
「何を言っている、お前を殺すことなど・・・」
「殺さなくとも、体の一部に産み付ければいいじゃないですか。
腕の一本使えなくなったって、足が不自由になったって構いません」
そんなことはいけないと、ベルゼはすぐに断らない。
このまま子孫が減り続けてゆけば、最終的には絶滅してしまう。
その前に、自分ほどの力を持った世継ぎを残さなければいけなかった。

「迷う必要なんてありません。貴方に拾われなければ僕はとっくに死んでいた。
この体、使わせてください」
言い切ったとたん、羽音が止まる。
決めたのだな、と覚悟した。

「わかった。だが、殺しはしない」
やんわりと笑み、ベルゼに続いて巣へ戻る。
早速産み付ける気なのか、一番奥に腰を下ろすよう指示された。
長い爪が服を脱がそうとしたので、自分でさっさと脱ぐ。
身に着けているものが何もなくなり、無防備になったが
この身を捧げることに、躊躇いはなかった。


爪先が、慎重に髪をする。
愛情を知らない人にとっては、その愛撫がたまらなく嬉しかった。
ベルゼの下半身から、無数の生殖器が露呈する。
うごめく様子はイソギンチャクの触手のようだったが、恐怖心はない。

「お前の体を不自由にするつもりもない。ただ、声を上げることにはなるだろう」
「どんな痛みだって耐えます、貴方のためなら」
触手が皮膚を突き破り、卵を産むことを想像する。
それも、恐怖ではなくむしろ光栄なことだった。
触手が下半身へと近付き、中心を包む。

「あ・・・」
柔らかな感触に、かすかな声を上げる。
触手はゆっくりと絡みつき、その個所を愛撫した。
「んっ・・・なんで、そんなとこ、触るんですか・・・?」
「体温を上げるためだ。触れている個所から、温かくなっているのが分かる」
見た目に反して、愛撫は優しい。
うっとりしていると、だんだん下肢が反応してくる。

「あ、あ、ベルゼ・・・」
名前を呼ぶと、また髪をすいてくれる。
そうして力が抜けたとき、細い触手がするすると先端を撫でた。
強張りを解すように、何度も触れる。
むずがゆいような感覚に、体を震わせた。
いつ産み付けられるのだろうかと気にしていると、先端から1本の触手が入り込んだ。

「あぁ、っ」
外側だけでなく内側にも触れられ、体が跳ねる。
少しずつ奥へ進んでくると、一気に体温が上がった。
「この温度なら、数分で孵るだろう」
言葉と共に、中へ違う感覚が走る。
ぽこぽこと、細かなものが奥へ排出され、溜まっていく。
今、卵を産み付けられていると思うと、身震いした。

ずるりと、触手が引き抜かれる。
けれど、まだ中に感覚は残っていた。
「これで、終わりですか・・・?」
「これ以上同じ場所に産むと、お前の体が壊れてしまう」
案外あっという間で、まだ体が疼いている。
感じている体は、愛撫を求めていた。


「いいです、もっと産み付けられたっていいです・・・。ベルゼ、触ってください・・・」
「・・・性を教えるべきではなかったかもしれんな。わかった、疼きを解消しよう」
ベルゼの下半身が再び近付き、さっき触れていた個所よりもさらに下方へ触れる。
ものを受け入れたことのない個所は、反射的に縮こまったが
触手に撫でられると強張りが解け、その先端を咥えていた。

「ああ、う・・・」
前を包まれていたときとはまた違う感覚に、収縮する。
けれど、一旦入り込んだものはその中を侵食した。
2本、3本と、弾力のある触手がそこを広げ、奥を犯す。

「ひや、あう、あ」
壊れてしまわないよう、中を掻き回されて、触手が動くたびに声が上がった。
しばらくは、一定の動作が続く。
体は巧みな動きに慣らされ、強張りは緩んできていた。

「こっちは性器よりも余裕がある。少し大きなものでも大丈夫だな」
呟きと共に、触手の中が盛り上がる。
自分の中が、丸い形の卵に押し広げられ、それは最奥に埋め込まれた。

「あ、あ・・・」
異物感が残され、虚ろな目でか弱く喘ぐ。
触手は少し身を引いたかと思うと、別の場所へ同じ卵を排出した。
何度か繰り返されて、中に卵が溜まっていく。
触手が引き抜かれた後でも、まだしっかりとした感覚が残っていて、やはり体が疼いた。
このまま、孵るまで放置されるのだろうか。
そんなもどかしさを感じたとき、性器の方に違和感を覚えた。

「早いな、もう孵りそうだ」
細い触手が差し込まれていた奥が、むずむずする。
そうして間もなく、無数の何かが動き始めた。

「ひ、あ、や・・・っ」
それらは、じわじわと中を伝い、上へ上ってくる。
無数に居るものがばらばらに動くので、その分刺激が強い。
息を荒くしつつ悶えていると、とうとう先端から白くて小さな子が顔を覗かせた。
1cmにも満たない子は、体を揺らしながら次々と孵り、先端から出てくる。
白い精に濡れ、地面に落ちてもぞもぞとうごめいた。


「これ、が、貴方の子供・・・っ」
出てくるたびに先端が擦られ、刺激が走る。
身を震わせると子が落ちてしまいそうで、必死にこらえていた。

「お前の体温はよほど心地よかったようだ。これなら、また孵るだろう」
その言葉通り、今度は後で産み付けられた方にも違和感を覚える。
そっちにある卵は、もっと大きいもので、当然出てくる子も大きい。
最奥の方で、ぴくりと子が動く。
そこで孵った子は、狭い中を広げようと、上下に頭を振っているようだった。

「ああっ、あんまり動くと、だめ・・・っ!」
体が感じるままに収縮して、潰してしまうことを懸念する。
けれど、子は出口を探して、下へと動いて行く。
そして、ほどなくしてそれは下肢からも顔が出てきた。
すっぽりはまってしまったようで、体をよじって出ようとする。

「ひや、あぁ、ん・・・」
そんなところで動かれると、また感じてしまう。
さらに、後の子が控えていて、早く行けといわんばかりに中でうごめいていた。

「ああぁっ、は、う、ぅ・・・」
「お前が感じすぎて出られないようだな。補助しよう」
ベルゼが触手を伸ばし、子を取り出す。
やっと抜けた子は、白くてぶよぶよした幼虫で、小さな子よりだいぶ大きい。
1匹目が出ると、次々と残りの子が這い出ようとする。
そのたびに悦を感じて喘ぎ、縮こまってしまうので、1匹ずつ触手が取り出した。




何匹目か数えていられなくて、やっと異物感がなくなる。
収縮しないよう必死だったからか、まだ体は熱っぽかった。
「お前のおかげでふ化できた。感謝する」
「嬉しい、です・・・。最後に、貴方をください・・・」
ベルゼは羽を震わせ、下半身を触れさせる。
そして、前の性器も、後ろの窪まりも、両方を触手で犯した。

「ああっ、ん、ん・・・」
緩んだ個所へは、するすると触手が入り込む。
もう産み付けは行われない、単純な性行為だった。
求めるように、ベルゼの腕を掴む。
無数の触手は求めに応え、縦横無尽に中を暴く。
欲望のままに最奥へと自身を埋め込んだ瞬間、高い声が上がった。

「あ、ああ、ベルゼ・・・んん・・・っ、あ・・・!」
今まで以上に体が強張り、精が吐き出される。
出ききっていなかった小さな子が同時に放出され、びくびくと震えた。
後ろの窪まりは、触手を逃がさないようにきつく収縮する。
締め付ける度に感じるその感触が、脳を痺れさせるようだった。

完全に達し、触手がゆっくりと抜かれる。
おぼろげな眼差しでベルゼを見詰めていると、爪が慎重に頭を撫でた。
壊さないよう、傷つけないよう、気遣ってくれることに幸せを感じる。
このハエの王の愛情しか知らない人は、やんわりと微笑んでいた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
産み付けからの出産?しかも蟲姦、だいぶ危ない話でした・・・これはグロ注意だったかもしれない。