癒し手独神と英傑達 アシヤドウマン編2
約束した通り、琉生はアシヤドウマンの部屋を訪れる。
中へ入ると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
「何か、お香を焚いてるのか?」
「ああ、良い香りだろう。匂いが薄まるから、早く襖を閉めてくれ」
琉生は後ろ手で襖と閉じ、アシヤドウマンへ歩み寄る。
いつもの猪型の式神に座っているが、場所は一人分しかない。
「ほら、こっちへ来いよ。癒してくれるんだろう」
やや躊躇いつつも、琉生はアシヤドウマンの前に立つ。
そして、控えめに足の上をまたぎ式神の上に乗った。
距離が近くて、顔を横に背ける。
「どうした、触ってくれないのか?」
自分から言い出したことだと、琉生はアシヤドウマンの頬へ手をやる。
「頬より、ここの方が良い」
アシヤドウマンが琉生の手首を取り、胸部へ誘導する。
心臓の辺りに触れ、鼓動が伝わると、変に緊張した。
集中して、癒しの光を灯そうとするけれど
規則的に伝わる鼓動に妨害されるようで、中々力が出せない。
「・・・他の場所じゃ、駄目なのか」
「ああ、それならこっちにするか」
アシヤドウマンは、琉生の手を下の方へ誘導する。
露わになっている腹部を通り過ぎた、さらに下へ。
「ちょ、ちょっと、待って」
直前で、琉生は腕に力を込めて抵抗する。
「そんなとこじゃなくても、掌とか、首の辺りとか・・・」
「オレにとっては、主人に触れてもらうならここが一番癒やされる」
癒しという単語をずるく使われ、琉生は言葉に詰まる。
アシヤドウマンが一向に手を離そうとしなくて、観念した。
「・・・わかったよ、自分から言い出したことだ・・・」
琉生は抵抗を諦め、力を抜く。
アシヤドウマンはおもむろに下半身の衣服を脱ぎ、己のものを露わにした。
そして、琉生の掌をそれに触れさせる。
「っ・・・」
アシヤドウマンの身が触れ、琉生は息を飲む。
さっきまで触ってもいなかったのに、その個所の温度はひときわ高い。
「ほら、こうやって、包み込んでくれよ・・・」
アシヤドウマンが、琉生の手を握る。
すると、掌でその身を包み込む形になってしまって、息が詰まった。
指と、掌全体で、あられもない個所の鼓動を感じる。
こうして添えているだけで、脈動は強くなっていくようだった。
緊張して、ここから癒しの光を伝えることなんてとてもできない。
「動かしてはくれないのか」
「だ、だって・・・」
無理に手を退けようとはしないものの、自ら動くこともない。
静止していると、ふいに下半身にむずむずとした感覚がした。
衣服がずらされ、同じ状態になろうとしている。
はっとして虫を払い除けるようにすると、小型の式神が服の隙間からひゅーっと飛んだ。
「こ、こら、いたずらするなっ」
幽霊は衣服の裾を引っ張り、ずらしてしまう。
「主人が行為を進めない気なら、ここからはオレが先導するしかないな」
服がずらされ、弱い所が曝け出されてしまう。
琉生は慌てて手を離し、元に戻そうとしたが
その前に、アシヤドウマンが琉生の身をぐいと引き寄せた。
案外力が強く、体が密接になる。
そして、自ずと下腹部が触れ合い、琉生は肩を震わせた。
「は、離し・・・」
「まだ身も心も癒されてないままだ。なに、主人もきっと良くなる」
アシヤドウマンはおもむろに下半身へ手をやり、琉生のものを指の腹でなぞる。
「ひ、っ」
あられもない場所は、軽く撫でられるだけでも身を震わせる要因になる。
反応があったのをいいことに、アシヤドウマンは琉生を包み、自身に擦り合わせた。
「や、や・・・」
動揺して、琉生はうまく言葉を言えなくなる。
そこから熱が伝わってくるようで、戸惑わずにいられない。
「ほら、感じてくるだろう・・・?」
アシヤドウマンは怪しく囁き、琉生を離さない。
手を広く使い、二人分のものを密接にさせ、隙間なく触れ合わせる。
物理的な刺激だけでなく、相手と同じ個所が合わさっていると、琉生は嫌でも実感してしまって
そのことを思うと、冷静さを保つことなんてとてもできなかった。
だんだんと、琉生のものにも熱が巡っていく。
生理的な現象だから仕方がないけれど、この相手に触れられて欲情したのだということをごまかしようがない。
「ふふ、オレの手でも感じてくれているんだな」
「だ、だって・・・いやらしい・・・」
アシヤドウマンの指は、滑らかに琉生の身を撫でる。
激しくはなく、ゆったりと、じわじわと昂らせるような
そんな手つきは妖艶以外の何物でもなかった。
同じペースで触られ続け、欲は募るばかり。
達させてはくれない様子に、琉生はもどかしさを感じてきてしまっていた。
けれど、自分で触ることは躊躇われる。
「ん、ん・・・アシヤドウマン・・・」
名を呼ばれ、一旦手の動きが止まる。
「どうした?そんな、もの欲しそうな目をして」
わかってやっているのか、アシヤドウマンは愉快そうに言う。
手が止められた今でも、昂りの熱は納まらない。
「っ、意地の悪いこと、して・・・」
「ふふ、どうしてほしいんだ?主人・・・」
アシヤドウマンは、にやりと笑んで囁く。
もはや、その声さえも艶っぽく聞こえてしまう。
「ほら、言ってくれないと進めようがないぞ?」
わかりきっているくせに、と声を大にして言いたい。
羞恥心よりも、本能的な欲求が優ってしまう。
止めないでほしい。
指の腹で、掌で、触れてほしい。
「・・・て・・・ほ・・・」
最後に残った理性が、声を小さくさせる。
聞こえてないのか、はっきり言ってほしいのか、アシヤドウマンはただ琉生を見続けている。
視線に耐えられなくて、琉生は俯く。
そして、再び口を開いた。
「・・・触って、ほしい・・・」
その一言で、アシヤドウマンの下肢が脈動する。
「ああ、いいぞ・・・」
求めに応えるよう、指はなだらかに琉生を愛撫する。
けれど、そんな軽い刺激ではもどかしさが増すだけだ。
琉生は俯いたまま、声を振り絞る。
「もっと・・・強く・・・して、ほしい・・・」
理性が本能に負けた瞬間を目の当たりにして、アシヤドウマンの昂揚感は最高潮に達する。
声を上げさせたいと、掌は琉生を握り込んでいた。
「あ・・・っ・・・」
急に強まった刺激に、思わず声が裏返る。
「そんなに欲しいのなら、主人の望みに応えよう・・・このオレの手で」
アシヤドウマンは掌を広げ、お互いのものを密接に触れさせる。
そのまま手を上下に動かし、同時に擦り合わせた。
「あ、あ、んん・・・っ」
温度の高い相手の体が擦れ、琉生は思わずアシヤドウマンにしがみつく。
心臓の鼓動と同時に下半身も脈動して、まるで昂揚感を共有しているようだ。
手でも擦られ、密接になり、悦を感じない部分がない。
「主人・・・オレの方を見てくれ」
顎を撫でられ、琉生はおずおずと顔を上げる。
目の前にあるアシヤドウマンの表情は、普段の余裕そうなものとは違う。
色欲にとらわれているような、欲を含んだ眼差し。
色っぽいと、そう思ったとき、自然と琉生の下腹部も疼いていた。
アシヤドウマンは下肢を包む手はそのままに、琉生に唇を寄せる。
艶やかな瞳が迫り、琉生が目を閉じた瞬間に口が塞がれていた。
閉じようのない隙間から、すぐに柔らかなものが差し入れられる。
「は、あ、ぅ・・・」
柔くて湿ったものが入り込んで、艶めかしい感触が口内に広がる。
上からも下からも悦の感覚を与えられ、鼓動は高鳴るばかりで
無意識の内に、琉生もアシヤドウマンの動きに応えていた。
お互いに舌を絡ませ、液を交わらせる。
こんなにも淫らな感覚になるのは、アシヤドウマンの色香に惑わされているせいだ。
室内に漂う甘い香りさえ、行為を助長する。
琉生は悦楽を求めるよう、アシヤドウマンに両腕を回していた。
積極的なことをされ、アシヤドウマンから理性が掻き消える。
お互い繋がり合ったまま、手の動きは早まっていた。
「あ、あ・・・は、ぁ、ん・・・」
琉生の淫らな声が、熱っぽい吐息が、達させてほしいとせがむ。
往復運動が繰り返されるたび、下肢のものは悦ぶように脈打っている。
始めて欲を覚えた体は、もう限界だった。
アシヤドウマンが絡まりを解き、わずかに口を離す。
そうして、琉生のものを握り込み、強めの刺激を与えていた。
「あ、あ・・・!ん、やぁ・・・っ!」
瞬間、下肢がかっと熱くなる。
その部分が震えたと思えば、白濁した精を散布していた。
アシヤドウマンの手には、もろに卑猥な液体がかけられていて
その粘液質な感触に陶酔するように目を細めていた。
「ああ・・・主人の精が、オレの手に・・・」
アシヤドウマンはその手を迷わず口元へ持ってゆき、舌先で白濁を掬い取る。
とても見ていられなくて、琉生は思わず俯いた。
そこで、まだいきり立っているアシヤドウマンのものが目につく。
手が離れた今、きっと同じように求めているだろうと
まだおぼろげな意識の中、琉生はその個所に触れていた。
「主人・・・」
アシヤドウマンの声に、驚きが含まれる。
下肢のそれは、取り切れなかった液体で濡れていて、指に絡みついてくる。
そのままアシヤドウマンの身を撫でると、体が震えるのがわかった。
うまいやり方なんてわからないけれど、掌で包んで上下に擦る。
自分の精が潤滑剤になって、掌はひときわ艶めかしい感触を与えていた。
「ああ、主人・・・は、ぁ・・・」
吐息と共に発される声は、とても甘く妖艶で
聞き続けていると、また変な気分になってしまいそうになる。
終わらせてしまった方が良いと、琉生はわずかに力を込めてアシヤドウマンを握り込んだ。
「は、あ・・・あぁ・・・っ」
いっそう甘い声が発されたと同時に、包んでいるものがどくんと脈動する。
吐息と共に吐き出されたのは、欲が凝縮された白濁。
それは琉生の手に解放され、指の間に絡みついた。
卑猥な感触、けれどすぐに拭おうとはしない。
今なら、アシヤドウマンの昂揚感が分かる。
始めて感じる相手の精。
興味本位で、琉生は手を口元へ持って行く。
独特な匂いがしたけれど、すぐに香で紛れる。
そして、指に絡む白濁を、軽く舐めていた。
アシヤドウマンは、ごくりと生唾を飲む。
想い人が自分の精を飲んだことは、この行為を受け入れていることと同義ではないかと。
「う・・・に、苦・・・」
琉生は顔をしかめ、手を退かす。
ほんのわずかに飲んだだけだが、液体の存在感はとても強い。
拭ってしまわないと、再び下肢が疼いてしまいそうだ。
「主人、オレの欲望を飲み込んでくれたんだな・・・」
「え・・・あ、あ・・・どんな感じなのかな、って・・・」
冷静になると、かなり大胆なことをしたのだと気付く。
まともに顔を見れないでいると、ふいにアシヤドウマンが琉生の後頭部に手をやり引き寄せた。
「なあ、朝まで傍に居てくれるか?」
「・・・うん」
琉生は素直に返事をして、アシヤドウマンに身を預ける。
このまま、しばらく寄りかかっていたくて、気付けば目を閉じていた。
朝になり、琉生は布団の中で目を覚ます。
拭ってくれたのだろうか、手に違和感はない。
隣を見ると、すぐ傍でアシヤドウマンが眠っていた。
眠っているのをいいことに、じっと見詰める。
静かな寝息を立てている相手は、改めて見るとやはり美青年だと実感する。
昨日、この相手と淫らなことをしたのだと思い出すと
なぜだか、胸の辺りがとくんと脈打つような感覚がした。
昨日はアシヤドウマンも疲れたのだろう、一向に起きる気配はない。
同じことをしたのに、後始末をして、布団に寝かせてくれた。
琉生は、体をぴんと伸ばして身を近づける。
そして、感謝の意を込めて、そっと唇を重ねていた。
静かな触れ合いが心地良い。
けれど、呼吸を止めてはいけないと、すぐに離れる。
昨日に続いて大胆不敵だと、思わず背を向けた。
すると、布団が動いてふいに両腕が体に回される。
「お・・・おはよう」
起こしてしまったかと、どぎまぎする。
「まさか、主人が口付けを落として起こしてくれるとはな」
まごうことなき真実に、琉生は黙りこくる。
恥ずかしそうに背を丸くして離れようとすると、強めに引き寄せられた。
「昨日は、嬉しかった。オレに委ねてくれて」
「あ・・・うん・・・アシヤドウマンが癒されたんなら、よかった」
だいぶ淫らな行為だったけれど、アシヤドウマンが満たされたのならそれでいい。
行為の昂揚感がそう思わせたのかもしれないが、そう思っていた。
「・・・部屋に香を焚いていただろう。それに催淫作用が含まれていた、と言ったら・・・軽蔑するか」
ほんの少しだけ、琉生は言葉に詰まる。
けれど、アシヤドウマンの声が普段より控えめなのが意外で
不思議と、厳しいことを言う気はなくなっていた。
「・・・香があってもなくても・・・変わらなかったと思う。アシヤドウマンを満足させたかったから」
後半、照れくさくて語尾がすぼまる。
答えた途端、うなじに柔らかな感触が触れた。
アシヤドウマンの唇が、皮膚にそっと重ねられていて
優し気な行為に、また心音が鳴っていた。
「もう少し、こうしていてもいいか」
「・・・うん」
琉生は、体に回るアシヤドウマンの腕を留めるように手を添えていた。
心が、彼の色香に捕らわれているのを感じる。
それは、決して不快な感覚ではなかった。