癒し手独神と英傑達 イツマデ編2 裏人格ver
夜になるまで、琉生はイツマデを自由にさせていた。
夜に手薄になるための護衛という建前はあったし
途中で、やっぱり来ないでほしいと言われることを懸念していた。
出会わなければ、断ることもできない。
そんな狡い理由で、琉生は夜までイツマデと顔を合わせることはなかった。
時間は刻々と過ぎてゆき、完全に陽が落ちる。
二人には討伐に行ってもらい、カァ君も同行してもらっている。
社に残るのはイツマデと自分だけ。
琉生はイツマデの部屋に向かおうとしたが、なぜか足が鶺鴒台の方へ向く。
まるで、操られているかのようにふらふらと近付き、台の小刀を手に取っていた。
琉生はイツマデの部屋につき、襖を開ける。
中は薄ぼんやりと灯籠の灯りがついていて、奥にはイツマデが柱にもたれて座っていた。
琉生の姿を見て、イツマデははっと目を見開く。
「主様・・・アア、違う方の主様なんだな」
今の琉生は、魔獣は出していないものの雰囲気は違う。
普段の温和なものが抜け、眼光がイツマデをとらえていた。
『元の方が良かったか』
「いや・・・雰囲気は違っても主様であることには変わりない。
それより、護衛をするんだろ。オレは一晩中起きて番をしてる」
口ではそう言っても戸惑っているのか、イツマデは視線を合わせようとしない。
琉生はイツマデに歩み寄り、足の上をまたいで太腿の上に座っていた。
「お、おい・・・」
『ここからは命令でも何でもない。嫌だと思ったら拒んでも構わない』
間近に迫られ、イツマデはふいと首を背ける。
「護衛だろ?手薄な社に悪霊が来ないとも限らない・・・」
『そんなことは建前だ、様子は違えども心は一つしかない』
琉生は躊躇わず、直球に告げる。
『戦い以外の行為を助長する感情を、何と表現すればいいかわからない。
けれど、こうして迫りたくなるのは本心だ』
イツマデは顔を背けたまま、ぴくりとも動かない。
『断るなら今の内だ』
猶予を持たせても、イツマデは拒否の言葉も、肩を押されて離れさせることもない。
琉生はイツマデに腕を回し、体を密接にさせる。
強い心臓の鼓動がはっきりと伝わってくると、どことなく心地よかった。
「オレ、は・・・主様のこと・・・イヤだとは、思わない・・・」
絞り出したような、掠れた声。
そういうところが、たまらなく構いたくなるのだ。
琉生は、すぐ側にある首元へ、そっと唇を触れさせる。
それだけで、イツマデは怯んだように息を呑んだ。
あまり驚かせすぎないよう、少しずつ動く。
すると、イツマデの息遣いが耳へ届いてきた。
危機感からだろうか、それとも、高揚してくれているのだろうか。
一つの事が許されると、さらに進めたくなる。
琉生はぐっと背筋を伸ばし、イツマデの頬へも唇を寄せた。
イツマデは顔を向けようとはしなくとも、拒もうともしない。
どうしていいか、わからないでいるのだろう。
大人しくしているのをいいことに、琉生は少しずつ移動する。
その位置は、徐々に口元へ近付いていた。
触れる直前で、イツマデはしっかりと閉口する。
琉生はそこでも間を置いたが、堪え切れなくなるのは早かった。
閉じられた唇に、自身を重ねる。
行為自体は朝と同じ、けれど思うことが違う。
今の行為は、もっと欲深い。
さらに奥まで触れたいと、欲してしまう。
胸の辺りから、鳴り止まない鼓動を感じると
欲求が命ずるままに、舌を出して唇をなぞっていた。
怯むように、イツマデの肩が震える。
けれど、琉生は手を伸ばしてイツマデの後頭部に回していた。
今更、離れさせようとしても遅いと。
上唇を舌先でくすぐると、皮膚がしっとりと濡れ、何となくいやらしい。
その奥へ入ろうとしたが、まだ歯で阻まれていた。
少しずつ解すよう、下唇も軽く舐め、柔らかい感触を楽しむ。
心音は、さらに早まったようだったが
それでも、ここで終わらず先へ進みたいと、歯の部分へも触れる。
前歯も、尖った犬歯も舌でくすぐっていると
その隙間が、おずおずと開かれていた。
受け入れようとしてくれていることに、歓喜を覚える。
遠慮なく自身を中へ進め、その柔いものに触れていた。
「ッ・・・」
開かれた場所から、はっと吐息が吐かれる。
琉生は身動きの取れない舌へ重ね合わせて、やんわりと撫でていた。
お互いの液で濡れる感触は、欲を誘発させるようだ。
なだらかに口内を愛撫し、ゆったりとした交わりが続く。
イツマデはどうにも動けず、硬直したままだ。
拒否されないのは良いが、少しくらい反応が欲しい。
何とか行動のきっかけを作れないだろうかと考え
琉生は、舌をイツマデの犬歯へ押し付け、尖った部分に沿わせて引いていた。
じわりと、血が滲む。
その瞬間、イツマデは目を見開いていた。
妖の本能が、血の匂いに、味に反応する。
それが自分の主のものとあらば、効果はてきめんだった。
イツマデの舌が動き、琉生のものに触れる。
血が滲む部分をなぞり、喉を鳴らして飲み込むと、もっと欲しくなる。
イツマデは、本能のままに舌を絡ませ、唾液も血も交わらせていく。
『っ・・・』
立場が逆転し、琉生はわずかに身を引く。
けれど、イツマデは琉生の背後に手を回し自分の元へ引き寄せる。
大胆になった行動に、琉生の感情も昂るようだった。
血が落ちなくなったところで、イツマデは舌を戻す。
琉生も口を離し、陶酔するような眼差しでイツマデを見上げた。
『イツマデ・・・もっと欲しかったら、好きなようにしてみるといい・・・』
「主、サマ・・・」
誘いの言葉に、本能が完全に前面に出た。
イツマデは琉生の背を抱いたまま、無防備な首筋に唇を押し付け、躊躇うことなく舌を這わせる。
『は・・・』
琉生が息を飲んだ瞬間、声が漏れる。
皮膚を味わうように、舌は大きく動いていく。
鎖骨から顎のあたりまで、欲望のままに弄られる。
まるで捕食されているようだけれど、そこにあるのは恐怖ではない。
卑猥な感触を覚えるさなか、琉生はイツマデの髪を撫でる。
触れてもいいのだと、そう示すように。
興奮は納まらず、イツマデは琉生を布団に押し倒す。
そして、腰紐を解きその肌を曝け出した。
完全に本能に支配されている様子を目の当たりにしたが、止めることはしない。
イツマデは身を下げ、胸部の辺りも弄っていく。
『は・・・あ』
ぬるりとした感触が、体を這いずり回る。
胸部へ、腹部へ、太股へ、イツマデは徐々に下方へ下がっていく。
新しい場所へ這わされると、琉生にも欲深い感覚がつのる。
体を身震いさせるような悦が、下半身へ溜まってゆく。
抑えようと思っても、体の反応は抑えられない。
イツマデの行為は留まることを知らず、最も欲が溜まっているところへ迫る。
そして、中心部にあるその個所へも舌を触れさせていた。
『っ、う・・・』
他の箇所とは比べものにならないほどの感覚を覚え、琉生は思わず息を飲む。
自分が欲しているものがここにあるのだと、イツマデはじっくりと舌を這わせた。
そこへは、少し動かされるだけで体が震える。
普段の様子とは考えられない行為。
そんなイツマデが自分を攻め立てていると実感すると、気が昂ってしまう。
もはや、お互いに行動を抑制する理性はなかった。
イツマデは琉生のものを弄るだけではあきたらず、口内へ咥える。
『う、あ・・・』
生温かな口内へ招き入れられ、刺激が増す。
舌は全体を這い、抑制など完全に外し解放させようとする。
往復するたびに、高まりきった熱が脈動する。
舌を通して琉生の鼓動が伝わり、イツマデは怪しく目を細めていた。
早く、限界に達したときの、溢れ出んばかりの欲望が欲しい。
性急にせがむよう、イツマデはそれを深く咥え込み、しきりに這いずり回る。
『そろそろ、離せ・・・っ・・・口に、出・・・』
警告しても、イツマデが身を引くことはない。
むしろ、それを望んでいる。
唾液が入り混じる水音が口の隙間から漏れ、下方へ垂れる。
今は、その液体が身を伝うだけでも高揚してしまう。
むさぼり尽されるような激しさに、体は耐えられない。
もう何十往復したことか、また根元から先端まで愛撫された瞬間、ひときわ強い脈動が下腹部に響いた。
『う、あぁ、あ・・・っ・・・!』
声が裏返り、恥ずかしげもなく高い声で喘いでしまう。
瞬間、下腹部はかっと熱くなり、限界を迎えた欲を、イツマデの口内に吐き出していた。
琉生の精が注がれ、イツマデは喉を鳴らす。
欲していた液体を逃さぬよう、舌で掬い取り嚥下していた。
『う、ぅ・・・』
敏感になっている体にとっては、軽く吸われるだけでも刺激が強い。
イツマデがやっと口を離すと、琉生は大きく息を吐いた。
脱力して、茫然と天井を見上げる。
まさか、わずかな血でイツマデがここまで本性を表すとは意外だった。
それだけ、求めたがっていたのだと実感すると、充足感が溢れていた。
やがて、イツマデが隣に寝転ぶ。
声をかける間もなく体が抱き留められ、背が羽に包み込まれた。
さらりとした感触が心地よくて、身を委ねる。
服を着てしまうと、この心地よさは半減されてしまう。
琉生はイツマデに擦り寄り、そのまま目を閉じていた。
琉生は、極上の羽毛に包まれたまま朝を迎える。
なぜか何も身に着けていなくてぎょっとした。
服を着ようとみじろぐと、イツマデも目を覚ます。
「おはよう、イツマデ。あの・・・僕、どうして裸なんだ?」
琉生の様子は普段通り、元に戻っている。
記憶はないが、今の状況を見ると、何があったかは何となく察しがついていた。
「ア、主様・・・昨日、は・・・」
イツマデは、言いにくそうに言葉を濁す。
「・・・僕が何かしたんだろ?覚えてないときの僕が」
「い、いや・・・オレの方こそ、主様に、酷いことを・・・」
狼狽するイツマデの頭を、琉生は優しく撫でる。
「イツマデは無意味に酷いことなんてしないよ。きっと、お互い様だ」
「主様・・・オレは、主様が欲しくなって、止められなくて・・・」
よほど申し訳なく思っているのか、イツマデはしどろもどろだ。
そんな様子を見ると、やはり愛おしさを感じずにはいられなかった。
琉生は、たまらずイツマデに身を寄せる。
「昨日、何があったか覚えてないけど、イツマデに包まれてると胸が温かくなる。
・・・これからも、一緒にいてほしい。イツマデも、ずっと・・・」
自分の口癖を使われ、イツマデは照れくさそうに琉生の背に腕を回す。
「ああ・・・オレは主様の傍を離れない・・・イツマデも、イツマデも・・・」
黒く不吉な羽に包まれていても、琉生の胸の内には暖かな感情が溢れていた。