癒し手独神と英傑達 キイチホウゲン編3
琉生を部屋に閉じ込め、半ば無理やり一夜を共に過ごしてから
皮膚の感触を味わったことで、キイチホウゲンの欲望はさらに膨れ上がっていた。
それも、望んでいる相手はもう一人いる。
片方を味わった後は、もう片方の反応も目に焼き付け、声を聞きたい。
死合とは別の欲求は、日に日に増すばかり。
そんなときだった、一日社へ留まる機会が巡ってきたのは。
「主君、今夜、時間はあるか」
「うん、また手合せ?」
「いや、一夜を共に過ごしたい」
何の比喩もなく直接的に告げられ、琉生は少し返答に困る。
共に、すやすやと眠るだけなら即答していたけれど
以前の事があり、何か大胆なことをされるのではないかと薄々思っていた。
「心配せずとも、主君に以前のようなことはしない」
「そ、そっか、それなら、いいよ」
嘘を吐くような相手ではないと、琉生は快い返答をする。
普段通りの平静な表情、そのときのキイチホウゲンの考えはとうてい読み取れなかった。
夜になり、琉生はキイチホウゲンの部屋を訪れる。
以前と同じ煙管の香りを嗅ぐと変な気分になりそうだったが、そういうことは今日はないはず。
中へ入ると、すぐに自動で襖がぴしゃりと閉まった。
どことなく嫌な予感がして取っ手に手をやると、やはり開かなくなっている。
「えっと・・・悪霊が入ってこないように、用心のためにしてるんだよな?」
「まあ、邪魔されないためという意味では同じだな」
何の邪魔なんだ、と言う前に、キイチホウゲンはふいに刀を抜く。
まさか、ここで死合をする気なのだろうかと琉生は驚いた。
「こんな夜更けに、しかも部屋で戦ったら他の英傑達の迷惑になる」
「主君に入れ替わってほしいとは思うが、死合をするわけではない」
キイチホウゲンは、躊躇いなく自分の腕をさっと切る。
そして、弄ってくれと言わんばかりに琉生との距離を詰めた。
有無を言わさない灼眼に迫られ、琉生はしぶしぶ傷へ口を近づける。
ここから先は自分の範疇外になるからいいかと、そう思って血を舐めていた。
鉄に似た匂いと味が喉を通り過ぎた瞬間、鼓動が強まる。
キイチホウゲンの血で入れ替わるのは慣れたもので、ほどなくして雰囲気が変わっていた。
『死合以外で呼び出されるとは、よほど特別な用事でもあるのか』
「そうだな、主君以外では成し得ない特別な事だ」
自分の望む相手が目の前に表れ、キイチホウゲンは昂揚感を覚える。
「声が聞きたくなった」
平静な表情から何が出てくるかと思いきや、肩透かしを食らう。
『一晩中、語り明かせとでも?』
「聞きたいのは普段の声ではない」
キイチホウゲンは今の琉生にも恐れず近付き、耳の形を指でなぞる。
変な感覚を思い出すようで、琉生はぴくりと肩を動かした。
『・・・それなら、戻らせてもらう』
「普段の主君とはもう接した、今欲しいのは貴殿の方だ」
何をしでかしたとは問わず、琉生はキイチホウゲンを見据える。
『今の状態は戦いのために在るのだと、理解していると思ったが』
「承知の上での願いだ」
歯に衣着せず、迷いなく告げられ琉生は半ば呆れる。
同じく戦いのために生まれた英傑が、そんな欲望を秘めていたとは。
「元々、主君から誘いかけられたのが原因だ。もう駄目だと言うのに酒が欲しいとねだられ・・・」
『・・・皆まで言うな』
自分のことは、自分が一番よくわかっている。
それほど強くもないくせに酒は好きで、おおかた酔いどれて迫ってしまったのだろう。
記憶が無い間の出来事とは言え、キイチホウゲンの欲を目覚めさせてしまった責任を感じる。
『・・・わかった、お前の欲求を叶えよう。ただし、こちらも我慢が効かなくなっても恨まないことだ』
いつ危機感を覚え、魔獣が出ないとも限らないと警告する。
それでも、キイチホウゲンが怯む様子はなかった。
「主君よ、感謝する」
キイチホウゲンは琉生の腕を引き、布団へ横になるよう誘導する。
琉生は特に抵抗せず倒れ、赤い瞳を見上げた。
正直、どんなことを、どこまでするのかわかっておらず、いまいち危機感がない。
戦い以外の欲求とはどんなものなのか、興味さえ抱いていた。
キイチホウゲンは早速、琉生の腰紐を解いて服をはだけさせる。
肩口や胸部が露わになると、再び味わいたい欲求にかられるが
今の琉生に噛みつきでもすれば、跳ね除けられるだろう。
代わりに、指の腹で心臓の辺りから腹部まで、ゆっくりと撫でる。
生きる者の温かみが指先から伝わり、キイチホウゲンは目を細めていた。
『あまり弱弱しく触られると、むず痒い』
「主君は激しい方が好みか」
『戦闘時においてはそうだが・・・』
下手に肯定するとまずいと思い、琉生は言葉を濁す。
ここから先に、何をされるかわかったものではないのだ。
キイチホウゲンの手はそのまま下へ降り、その衣服にも手をかける。
人前で、完全に無防備になるなんて考えられなかったが
今更抵抗するのも見苦しいと、琉生はただ諦観していた。
するすると下方の服もずらされ、取り払われる。
弱点を露わにしているようで、どことなく落ち着かなくなっていた。
あまり筋肉のついていない、柔そうな体をキイチホウゲンは眺める。
この人格の方さえも、今は手中にある。
そんな状況を目の当たりにしたとたん、おもむろに下方へ手を伸ばしていた。
もはや隠す手段がない、ひときわものを感じやすい箇所へも指を這わす。
『っ・・・』
琉生の体は一瞬だけ震えたようだが、声を荒げることはない。
先に昂らせなければならないと、キイチホウゲンは五本の指全て使い、その身を撫で回した。
『ぐ・・・』
性質が変わっても弱点に変化はなく、琉生は歯を食いしばる。
戦っているだけでは感じようもない感覚が、下腹部から競り上がってくるようだ。
指の往復運動が刺激となって、声を発させようとするが
普段の声色とは違う、妙な音が出そうになって抑え込んでいた。
「こちらへ触れるだけでは、どうにも埒が明かないようだ」
いくら撫でても声を発そうとしない様子を見て、キイチホウゲンは手を退ける。
指が離れ、琉生はふっと息を吐いたが
一度培われた熱は下腹部に集中し、簡単に解消されるものではなくなっていた。
『この体を撫で回すことが、お前のしたいことか・・・?』
「いや、まだ先のことがある」
キイチホウゲンの手は、さらに下方へ移動していく。
そして、その奥の窪まりへ指を添えていた。
流石に驚き、琉生はキイチホウゲンを凝視する。
『そこは・・・物を受け入れるようにはできていないぞ』
「ああ、だから慣らさなければ」
キイチホウゲンの指が、窪みの奥へ埋められる。
『っ、う・・・』
指の第一関節まで入っただけで、琉生は再び奥歯を噛み締める。
痛みとは違うが、それと同じくらい強い感覚が体に走る。
じりじりと指が入ってゆくと、下腹部からの熱は増してゆく。
奥まで挿入したところで、キイチホウゲンは中を広げようと指をぐっと曲げた。
『うう、っ・・・』
とたんに、内部が抵抗するように収縮して、動きを押し留めようとする。
「痛むか」
『っ・・・違う・・・痛みじゃない、これは・・・』
今の今まで感じ得なかった感覚を、表現する言葉を持っていない。
痛がっていないとわかると、キイチホウゲンは指を前後に動かし、その箇所を緩めようとする。
ゆっくりとした動作でも琉生には確かに感じるものがあり、息を荒くして耐えていた。
後ろだけで達させてしまわないよう、キイチホウゲンは慎重だった。
1本に慣れれば2本目を、2本でも緩まれば3本目を。
徐々に刺激に順応しつつある体に戸惑いつつも、琉生は身を任せ続けていた。
ほどなくして全ての指が抜かれ、琉生は肩で息をつく。
異物感がなくなった分、そこはもどかしさを覚えている。
広げられてしまったせいで、体が疼いていることを誤魔化せない。
『これで、終わりか・・・?』
「いや、私の方も満たしてもらわなければ。このままでは生殺しもいいところだ」
キイチホウゲンは自らの衣服をずらし、猛りを露わにする。
自分の主君のあられもない個所に触れ、堪えている表情を見続け
最初から抱いていた欲望は、頂点に達していた。
自身のその身を、指を入れていた場所へあてがう。
それが何なのか察し、琉生は目を見開いた。
『ちょっと、待て・・・それは、流石に、身が裂ける・・・』
指とはまるで違う体積のものに、思わず怯む。
今まで痛みはなかったものの、それが入れば引き裂かれてしまうのではないか。
腕や首を切られることとは種類が違い、体が強張っていた。
「裂けないように慣らしたのだ、ここで終われば主君ももどかしいままだろう」
キイチホウゲンはわずかに身を押し付けるが、しきりに強張り相手を阻む。
緩ませようとしても、自分ではどうにもできなかった。
キイチホウゲンは一旦押すのを止め、琉生に灼眼を近づけて行く。
そして、浅く開いたままの口をそっと塞いでいた。
ゆっくりと舌を差し入れ、やんわりと絡ませる。
『ふ・・・』
緩やかな交わりに、琉生は自然と目を閉じる。
キイチホウゲンは、なだらかに琉生の口内を舌先で撫でていく。
液が交わり、艶めかしい感触がするけれど
お互い体温が上がっているからか、この交わりが心地良い。
『は・・ぁ・・・』
口端から吐息が漏れ、高まった体温を共有する。
数十秒、数分経っても、キイチホウゲンは琉生から離れない。
激しくはせず、穏やかな様子で、舌を、口内を撫で続ける。
この口付けは、まるで心を解すようだ。
ただ欲をぶつけるだけでなく、胸の内を暖かくするような心地よさがある。
舌を交わらせたまま、キイチホウゲンは今一度琉生の窪みへ指を添え、中へ挿れて行く。
『ふ・・・ぁ・・・ぅ』
吐息をつく最中に、声が漏れる。
ほだされているのか、緩んでいるからか、もうきつく指を締め付けることはない。
動かしてもあまり抵抗がないことがわかると、指は抜かれる。
同時に唇も離れ、琉生は薄っすらと目を開けた。
熱が脳にまで回ってしまったのか、はっきりと開眼することができなくなっている。
戦闘時には決して見ることのない、虚ろ気な視線を目の当たりにして
キイチホウゲンは、猛りを琉生に向けずにはいられなくなる。
指などより太い身を、秘部にあてがう。
そして、琉生が緊張しないうちに腰を落とし、中へ押し入れていた。
『う、あ・・・!』
体が押し広げられ、琉生は呻く。
反射的にそこが収縮し、キイチホウゲンはわずかに顔をしかめた。
声を荒げたのは、痛みからではない。
圧迫感は確かにある、だが痛みの代わりに通じてきたものは、紛れもない悦楽だった。
キイチホウゲンの身が、少しずつ深く入ってゆき、中が侵食されていく。
それだけで、気がふれてしまいそうになるほどの感覚。
初めて感じる体に、堪える術はなかった。
『あ、ぐ・・・変な、感覚・・・』
「・・・これから、きっと良くなる」
普段は手合わせで翻弄されている立場が、今は逆だ。
己の行動一つで喘がせ、目を向けることができる。
その現状を改めて実感すると、琉生の中の身が脈動していた。
この昂りを、主君へ注ぎ込みたい。
そのとき、どんな顔をして溺れるのだろう。
堪える術がないのは同じで、キイチホウゲンは琉生の奥を自らの身で突き上げた。
『うあぁ・・・っ、うぅ・・・』
とたんに体が収縮して、ぎゅっ、とキイチホウゲンを圧迫する。
まるで、この奥に留めたがっているようだ。
もはや、体の反応は自分で抑制できない。
ただただ感じるがままに、息を荒げ、声を上げていた。
「主君、乱れた声を私に聞かせてくれ」
抑制が効かないのは、キイチホウゲンも同じだ。
腰を浅く引いたかと思えば、また奥を突く。
体の底はひときわ衝撃を与え、琉生の息はもう荒い。
『あ・・・あ・・・っ、もう・・・気が、ふれて、しまいそう・・・』
往復運動をする度に感じていることは明らかで、琉生の呼吸に合わせて締め付けられる。
相手を求め、欲しているような反応に、理性は崩壊していた。
キイチホウゲンの動きは止まらず、琉生を責め立てる。
深く繋がり合いたい本能はしきりに体の奥を突き
更なる刺激を求め力強く押し入れた瞬間、琉生が震えた。
『あ、う、や・・・ああっ・・・!』
募り募った欲が、頂点に達する。
琉生が上ずった声を発したとたん、下腹部がかっと熱くなり
溜め込んでいた身体から、精が溢れ出ていた。
同時に、異物を咥えている箇所が激しく収縮する。
今、自分が吐き出したものを搾り取ろうとするかのように。
「っ、う・・・!」
連続して圧迫され、キイチホウゲンも呻きを漏らす。
そのまま身を引くことはせず、己の欲望を琉生の中へ注いでいた。
濃い液体が体に流れ込んできて、琉生は身震いする。
粘液質な感触に、深いところで交わり合ったのだと実感させられる。
やがて、徐々に力が抜け、体が緩まっていた。
『は・・・鼓動が、早い・・・体が熱くて、虚ろになる・・・』
「ああ、私も同じだ・・・」
悦の余韻に酔いしれ、お互い吐息を吐く。
未だ下半身は繋がったまま、キイチホウゲンは身を下ろして琉生に唇を寄せる。
琉生はおぼろげな意識のまま、腕をキイチホウゲンの首に回していた。
唇が重なり、心地良さを覚える。
こうして重なると、いつも、彼にしかない匂いが身に沁み込むようで
お互いの体温が、胸の内を温めていく。
自分にもこんな感覚があったのかと、驚きや戸惑いが渦巻くが
それ以上に、幸福な感情を覚えていた。
キイチホウゲンは身を離し、間近で琉生を見詰める。
今の姿は、まるで表裏一体。
表にある人間らしい感情が出てきているような、そんな顔をしていた。
『この行為は、存外疲れる・・・もう、戻らないと、体に障る・・・』
「もう眠るといい。・・・体が痛んだら、私がまた介助しよう」
琉生は、すっと目を閉じる。
そのとき感じていたのは、安らぎに他ならなかった。
琉生は、以前と同じく、自分の部屋とは違う空気の中目を覚ます。
なぜここにいるのか、昨夜の記憶が無い。
また酔い潰れてしまったのだろうかと疑うが、頭痛はしない。
体を起こすと、煙管をふかして読書をしていたキイチホウゲンが気付いた。
「起きたか。怠くはないか?」
「え?うん、今日は大丈夫」
普通の反応に、やはり記憶は共有されないのだと悟る。
キイチホウゲンは琉生の傍に寄り、視線を合わせた。
「・・・あ、あの、手合わせしてて、疲れて寝ちゃった、のかな・・・」
「疲れることをしたのは確かだが、手合わせではない」
瞬間、煙管の匂いがして、鼓動が鳴る。
記憶はないけれど、深い香りが体に染み付いているような気がする。
もう、決して吐き出すことは許されないくらい奥深くへ。
キイチホウゲンが、ふいに琉生の首元を指先で撫でると
はっとして、琉生はとっさに身を引く。
嫌だからではない、覚えのない羞恥心が勝手に体を動かしていた。
「あ・・・読書の邪魔して、ごめん。もう行く・・・」
立ち上がろうとする琉生の腕を、キイチホウゲンは瞬時に掴んで引き留める。
「私が主君の知らぬ間に何をしたか、知りたいか?」
怪しく囁かれ、琉生は思わず身震いする。
愉しんでいるような様子に、嫌な予感しか覚えなかった。
「主様!どこにおられますか、主様!」
何とも間の良いことに、外でカァ君の声がしてはっと顔を背ける。
「もう、行かないと・・・」
気が逸れてしまっては意味がないと、キイチホウゲンは手を離す。
再び引き止められないうちに、琉生は急いで部屋を出た。
慌てていても、琉生はどことなく察していた。
幸福感と羞恥心が入り混じる感覚は、きっと、キイチホウゲンと深い繋がりを持ったことなのだろうと。