癒し手独神と英傑達 マサカドサマ編2





夜、琉生は自室で一人緊張していた。

マサカドサマの手当てを受け、触れ合った後

今夜、部屋へ行ってもいいかと問われたからだ。

添い寝をしてくれるのかと甘い考えが浮かび、恥ずかしげもなく頷いた。

けれど、今になって、待ちわびると同時に変に強張っていた。

いっそ、先に布団に入ってまどろんで緊張を消そうかと思ったが

その前に、襖が開かれていた。



「将軍、まだ起きていたか」

戦闘用の軍服ではなく、楽そうな寝具を着ているマサカドサマが部屋へ入る。

雰囲気が柔らかくなったようだが、マサカドサマが隣へ座ると強張りはさらに増した。

「じゃ、じゃあそろそろ眠ろうか」

早口で言い、布団に寝転がる。

掛布団を取ろうとしたが、マサカドサマの下になって取れない。



「このまま共に眠るのも良い。だが、薄々気付いているのではないのか?

俺がそれだけの目的で来たのではないことを」

マサカドサマが琉生の傍らに手をつき、退路を塞ぐ。

夜に寝室に来るというのは、何となく、眠るだけで終わらないのかもしれないと思っていたが

具体的なことは考え付かなくて、ただ変に緊張していた。





「・・・何か、したいことって・・・」

マサカドサマの指が、いつかのように髪をすく。

見下ろされているだけでも思うことがあるのに、触れられると不明瞭な感覚が浮かぶ。

「一度行為を始めれば、頬や髪だけでは済まされんが・・・触れさせてくれるか」

小動物を愛でるように、撫で回したいのだろうか。

それくらいしか思いつくことがなく、琉生は頷いていた。



了承すると、また、マサカドサマの瞳が下りてくる。

ほとんど無意識の内に目を閉じると、同じ個所が重なった。

二回目なのに、なぜか、自分の鼓動が強くなる。

意味合いが違うからだろうか。

先のことは、信頼の証を示すようなもの。

今の行為は、まるでその先のもっと深い意味を持っているような。

そう思ってしまうと、鼓動は収まりがつかなかった。



数秒重なった後、わずかに離れる。

それだけではとても足りないと、そう言うように息つく間もなく再び塞がれた。

今度は、ただ触れるだけではなく違う感触を与える。

マサカドサマは舌を出し、琉生の唇を割っていた。



「ん・・・っ・・・?」

同じような柔らかさがあっても異なる感触に、琉生は不思議に思う。

けれど、それが自分の口内へ入り、舌へ触れた瞬間

マサカドサマのものなのだと実感し、かっと頬に熱が上った。



性急に求めることはせず、ゆったりと舌が絡まる。

羞恥を感じていることは確かだが、嫌な感覚ではなくて

押し返すこともせず、そのまま身を委ねる。

柔いもの同士が触れ、液が混じり合う。

心臓の鼓動ははっきりと強まってゆき、高揚感を示していた。





マサカドサマが離れ、琉生は無意識の内にごくりと唾を飲む。

眼下の相手の喉が鳴ったとき、自分の唾液が交わったことを目の当たりにして

マサカドサマは、理性のたがが外れかけていた。

一回の交わりで脳まで熱が届いたように、琉生の目は虚ろになっている。



「何だか、いやらしい、感触が・・・」

「ふ、この程度で満足してもらっては困る。こちらも、中々良いものかもしれんぞ」

マサカドサマは、琉生の耳元へ近付く。

そして、ふっと吐息をかけ耳朶に唇を触れさせた。

違う部分への刺激に、琉生は肩をすくめる。

その緊張感を他の感覚で埋めてしまいたく、マサカドサマは耳朶を軽く食む。



「ひゃ・・・」

怯んだ声が出て、琉生はとっさに閉口する。

唇が数回触れた後、舌先が、つうっと外側の形をなぞる。

「っ・・・」

また声が出そうになったが、喉元を閉じるようにして堪えた。

それだけでは飽き足らず、舌の動きは止まらない。

耳朶からじっくりとねぶり、耳の全体を濡らしていく。

少し動かれるだけでも感じるものがあり、琉生は息を吐いて声を抑えていた。



「堪え性があるな。だが、感じるままに声を発してもよいのだぞ?」

耳元で囁かれ、琉生は背筋にぞくりとした寒気を覚える。

頬の熱は取れなくて、どう答えていいかわからない。

困惑と周知のさなか、マサカドサマは琉生の内側へも舌を差し入れた。



「ひ、ぅ」

さらに刺激され、思わず小さな声が発されてしまう。

その反応をよしとしたのか、柔く湿った感触は中へ進んで行く。



「ぁ、あ・・・」

艶めかしい感触に、自分で反応が抑えられない。

激しくはなくても、弱い部分を確実に攻められているようで

与えられる温度が、徐々に頬以外の箇所へも伝わるようになっていた。





中も外も濡らしたところで、マサカドサマは舌を抜く。

やっと刺激がなくなり、琉生は大きく吐息を吐いた。

虚ろな眼差しをしている様子を見て、マサカドサマは口端を上げる。

琉生が自分の行為で確かに感じているとわかると、戦闘時とは別の高揚感が湧き上がっていた。



休む間も与えず、マサカドサマは琉生の衣服の腰紐を解く。

一枚物の寝具はそれだけではだけ、体の前面は完全に露わになった。

無防備な状態になり、琉生は思わず顔を背ける。



「怖いか」

「そうじゃない、けど・・・ただただ恥ずかしい・・・」

もはや、肌を切られ、血を啜られる恐怖はない。

それでも、全裸を曝して平然としていられるほど厚顔無恥ではなかった。



「初々しいことだ。ここから先、将軍がどんな反応をするか・・・」

広い掌が、露わになった素肌へ触れる。

そして、腹部から胸部にかけてゆったりと撫でていた。

それだけでも、琉生は軽く体を震わせてしまう。

マサカドサマの行動の一つ一つが、ある一点を昂らせる要因になる。

体を隠すものがない今、はっきりとわかってしまう。

マサカドサマの手は体をなぞり、下方へ向かっていた。



今更、抵抗したり、悪あがきしたりする気はない。

ただ、堂々と晒していることが躊躇われて、足を曲げ、体をよじり隠そうとする。

そんな動作は、相手を煽ることにしかならないとは思わずに。



「隠そうとしても、そろそろもどかしくなっているのではないのか?」

掌は下腹部を通り過ぎ、太股へ添えられる。

「うう・・・」

近くに触れられると、言われたとおりもどかしさが増す。

本能は、すでに望んでしまっている。

その掌で、包み込んでほしいということを。



琉生は、躊躇いながらも姿勢を戻す。

再び露わになったその物を、望み通りマサカドサマは包み込んでいた。

「あ、っ・・・」

どくん、と下腹部よりさらに下方にあるものが、脈動する。

あられもない箇所を掴まれ、琉生は羞恥心にとらわれた。



けれど、それ以上に強い感覚が脳を支配する。

マサカドサマの掌が上下に動かされ、琉生は歯を食いしばる。

その個所から刺激が全身へ伝わるようで、みっともない声が出ないよう抑えつけていた。



「ここまで来て堪え続けるか」

琉生は何も返答ができない。

少しでも声を出してしまえば、そこから留められなくなる気がした。

「そこまで頑ななら、俺にも考えがある」

マサカドサマは、ふいに琉生のものの全体を強く握る。



「あ・・・!」

急に刺激が増して、一瞬だけ声が上ずる。

そのとき、琉生が閉口する前に、マサカドサマは自らの指を押し入れていた。



「んぐっ・・・」

二本の指に妨害され、口を閉じることができなくなる。

指の腹が、舌の表面をゆったりと撫でる。

いやらしさを感じつつも、緩やかな動作に琉生はほだされていた。

怯えていない様子を見て、マサカドサマは下肢のものも同じように愛撫する。

指の腹で緩やかに、じっくりと愉しむように。



「あ、う、ぅ・・・」

口を閉じたいのに、声を押し留めることができない。

出そうと思って出しているわけではない、高めの声が発されてしまう。

琉生が自分の手に擦られ、喘いでいることを目の当たりにすると

マサカドサマも奮い立ち、再び強めに握り込んでいた。



「や、ん・・・!」

指があるにも関わらず、琉生は反射的に口を閉じようとする。

そのとき、犬歯が皮膚にひっかかり傷を作っていた。

出血したと感じ、マサカドサマは指を抜く。

琉生は息を吐いたが、濡れた指に赤い滴が混じっていて、はっと目を見開いた。



「あ・・・ご、ごめん、血が出て・・・すぐ、治さないと・・・」

琉生は手を伸ばし、傷へ触れようとする。

「いや、このままでよい」

「え・・・だって、血が」

言葉の途中で、マサカドサマはもう一度琉生の口内へ指を入れる。

琉生が驚くさなか、その傷口を舌へ押し付けていた。



「ん・・・!」

じわりと、血の味が広がっていく。

忌み嫌う香りと胸やけがしそうな味に、顔をしかめる。

一方で、マサカドサマは薄ら笑いを浮かべていた。

以前は、自分が琉生の血を舐めていたが今度は逆だ。

これで、お互いの血が交わり合った、そう思うと口端を上げずにはいられなかった。



今は、血意外に欲しいものがある。

それを早く己のものとし、その瞳に自分しか映らないようにしてしまいたい。

下肢を包む手の動きは、もう止まらなかった。



「は、ふ、ぁ・・・」

全体を愛撫され、単純な動作でも欲は溜まっていく。

往復されるたびにその個所は強く脈打ち、刺激をせがむ。

その機会を見計らったかのように、掌はつのりつのった欲情を絞り出すよう握り込んだ。



「あ、あ・・・っ・・・は、あぁ・・・!」

マサカドサマの指を含んだまま、琉生は果てる。

かっと熱くなった下肢から溢れ出る白濁を止められない。

それは掌に放出され、粘液質な感触を与えていた。

白濁がおさまると、マサカドサマは口から指を抜く。

そして、傷の部分を濡らす液体ごと自分でも弄っていた。



「そ、んなの、汚い・・・」

唾液で濡れた指を弄る様子を直視すると、戸惑いを覚える。

それだけでなく、マサカドサマは下肢を覆っていた手も口元へ持ってゆき、同じように体液を舐め取っていた。

「な・・・なに、やって・・・」

決していい味わいではないものを、マサカドサマは平然と口にしている。

自分の精が相手に交わっていることを目の当たりにすると、さらに動揺していた。



「お互いに血は交えた。後は、俺と精を紡げば将軍の体は俺を忘れられなくなるな・・・」

猟奇的なような目に見据えられ、琉生はどきりとする。

先に飲んだ血を、美味しいとは思わなかったが吐き出そうともしなかった。

心の内では、すでに望んでいたのかもしれない。

マサカドサマと交わり、通い合うことを。



「僕・・・僕も・・・マサカドサマの・・・が・・・欲しい・・・」

虚ろな眼差しで、呼びかける。

こんなことを言ってしまうのは、行為の余韻に脳が麻痺しているからだろうか。

「将軍に求められるとは、これほど喜ばしいことはない。焦らずとも与えよう、体の芯まで届くような熱を、奥深くへ・・・」

マサカドサマは、卑猥な感触を残す手を琉生の下方へ伸ばしていった。









朝になり、琉生はぼんやりと目を開ける。

昨日、何だかとても疲弊することをした気がした。

けれど、寝具はちゃんと身に着けていて、夢だったのかと疑う。



「目が覚めたか」

背後でマサカドサマの声がして、くるりと反転する。

座っている相手を見上げると、いつものように指が髪をすいた。



「体調はどうだ、痛むところはないか」

「ん・・・別に、ない」

ゆっくり起き上がると、ぼやけていた思考がはっきりとしてくる。

そうだ、昨日は、お互い密接になっていたのだと思い出す。

あられもない部分に触れられ、恥ずかしげもなく声を上げ、そして―――

とたんに、マサカドサマの方を向けなくなってふいと顔を背ける。



「その様子だと、記憶は飛んでいないようだな」

「・・・覚えてるよ、何となく・・・」

「何となく、か。では、明確に残るようさらに回数を重ねた方がよいかもしれんな」

「お、覚えてるから!」

慌てて主張すると、マサカドサマはにやりと笑った。

たとえ記憶が不明瞭になったとしても、体の感覚が記憶している。

掌に包まれたことも、その血を、精をこの身に受け入れたことも。



「さあ、今日も悪霊狩りに行くとしよう。だが、無理についてくることはないぞ」

「・・・行く。マサカドサマが戦っているところ、見ていられるようにしたい」

悪霊討伐を、断固として断っていた日が嘘のようだ。



「辛くなれば退避していればよい。将軍の御身は一つしかないこと、忘れぬようにすることだ」

優しい気遣いの言葉に、琉生は自然と微笑む。

地獄絵図にも慣れてしまえば、この相手の傍にいられる時が長くなる、そんなことを考えてしまう。

首狩りが好きな戦闘狂、それでも、自分の視線はマサカドサマを追うようになっていた。