限りなく危ない夢と妄想11


シュンと遊園地へ行ってきた次の日。
熟睡しても少し疲れが残っていたので、今日は一日中家で過ごそうとしていた。
けれど、そんなだらしないことは許さないと言うように、電話がかかってきた。
受話器を取ると、すぐに活発な声が聞こえてくる。

『おはよー、ルイ。今日ヒマ?』
名乗らなくとも、声の調子だけですぐに相手が誰だかわかる。
「お早う、ジェン。一日中ごろごろしようとしてたとこだ」
『なら、一緒にデート行かない?
ホテル行った後、あんまり遊べてなかったし』

「いいよ、一人でいるより楽しそうだ」
『じゃあ、1時に駅前集合で!おめかしして行くからねー』
そこで、電話が切れる。
デートと言われたが、僕はその言葉に何ら違和感を持たない自分に驚いていた。


1時になり、駅前に着く。
辺りを見回すと、小柄な少女が一人立っているのが見えた。
もしやと思い、少女を凝視する。

「ルイ!」
少女だと思った相手が、笑顔で駆け寄ってくる。
明るい色の服の組み合わせに、金の髪飾りをしている少女らしき相手は、紛れもなくジェンだった。

「どうしたの、ぼんやりしちゃって」
「あ、ああ、すごく可愛らしくて、驚いたんだ」
「ありがと、おしゃれしてきたかいがあったよ。さ、行こう?」
ジェンは、普通に手を握る。
本当は男同士なのだが、周囲からはカップルだと思われているのか注目されなかった。
小さな手を握り返すと、まるで本当に少女と接しているような、不思議な気分になるようだった。


ジェンに手を引かれるままに着いたところは、近所にある大型ゲームセンター。
中に入った瞬間、様々に入り交じった電子音が耳についた。
滅多に来ないので、僕はクレーンゲームや見慣れないゲーム機を珍しげに見る。
周りには子どもや保護者もいたが、カップルも多かった。
特に、奥の方にある四角いボックスに集中している。

「ルイ、一緒にプリクラ撮ろう!」
ジェンに、そのボックスの中へ引っ張られる。
硬貨を入れると、中のウィンドウに説明が標示された。
僕は熱心に読んでいるところを、ジェンが不思議そうに見る。

「もしかして、撮ったことないの?」
「ああ、ない。あまり来たことがないから」
「じゃあ、ボクが始めての相手・・・だね。設定は任せてよ」
気を付けなければ、意味深に聞こえてしまいそうだ。
ジェンが次々にボタンを押すと、突然『画面に入ってね』という女性の声がした。


「ほら、並んで」
ジェンに腕を引かれ、部屋の中央に来ると画面に僕らが映し出される。
ぼんやりしていると、ジェンが腕を絡ませ、体が密着した。
次の瞬間、シャッター音がし、写真が画面に映し出された。
僕は遠くを見ていて、ジェンはばっちりカメラ目線だ。

「もー、画面見てよ。二枚目撮るよ」
「わ、わかった」
今度は、ちゃんと画面を注視する。
シャッターが切られる音がするまで、カメラ目線を保つ。
撮影はまだ終わらず、『まだ撮るよー』という女性の声がすると、ジェンが横から抱きついてきた。
いろんなポーズに凝りたいのだろうと、僕は軽く微笑んでジェンの背に腕をまわした。
シャッター音がし、画面に映し出される。


「ね、ルイ、次はボクを見ていて」
ジェンは僕を見上げ、見とれるような眼差しを向ける。
そんな視線に見詰められると、変に緊張してしまう。
お互いに見つめあっていると、またシャッター音がした。

「次で最後だから・・・ルイ、お願い」
何を頼まれているのか、今の状況なら言わずともわかる。
それを写真に残すのは気恥ずかしかったけれど、ジェンが望むのならその通りにしたかった。
首に腕がまわされると、僕はジェンの腰を抱き寄せ、身を下ろしていく。
そして、お互いが引き寄せ会うように唇が重なった。
うっすらと目を開けたままでいると、やはり女性と見違えてしまいそうだ。


シャッター音がしたところで、腕を解く。
唇が一旦離れたが、ジェンは再び重ね合わせていた。
長く触れ合わせるのではなく、短いものが何度も繰り返される。
まだ、足りないと、そう言われている気がして。
僕はもう一度ジェンを抱き、自分からも重ねていた。

ジェンをそこに留めていると、ふいに唇に舌先が触れるのを感じた。
甘えるように軽く舐め、まるで理性を吹き飛ばそうとしているようで。
僕はそれに応えるように口を開き、ジェンのものへ触れた。

「は・・・ん」
舌をしまう間もないまま絡ませ、柔らかな感触だけを感じ合う。
見てしまったら確実に羞恥心が沸き上がるので、じっと目を閉じていた。
そんなとき、最後だと言われていたはずのシャッター音がした。
僕は驚いて動きを止めたが、ジェンは相手が離れる前に、自分の中へ引き入れていた。

「っ、ん・・・」
急に温かな口内へ入ってしまい、心音が反応する。
けれど、色香に誘われるがままに、再び絡ませ合っていた。
どちらかがリードしているというより、お互いが求めているように触れていく。
だんだんと吐息が熱を帯びてきたとき、これ以上行為を進めることに危機感を覚えていた。
自分の体が反応してしまってはここから出られなくなると、僕は絡まりを解いた。
ジェンもわかってくれたのか、唇が離れる。
頬を染めている姿は愛くるしくて、理性が揺らぎそうになった。


「騙してごめんね、出よっか」
ボックスの外に出ると、写真に落書きができる画面があったが。
ジェンは特に手を加えず、そのままプリントアウトしていた。
大きさの違う写真が出てきたとき、僕は硬直した。
抱きついていたり、口づけたりしているのはまだいい。
けれど、舌を触れ合わせている写真は、とても他の人に見せられるものではなかった。

「ちょうど二等分できるね。はい、ルイの分」
「あ、ありがとう」
僕は、ぎこちなく写真を受け取る。
よりによって一番恥ずかしい写真が一番大きくて、直視できなかった。

「嬉しいな、ルイとの思い出。拡大して額にでも入れようかな」
「や、やめてくれ、頼むから」
露骨に焦ると、ジェンはいたずらっぽく笑った。
「あはは、冗談だよ。次はどこ行こうかなー」
「その前に、僕、ちょっとトイレに行ってくる」
僕は一旦ジェンと別れ、辺りを見回してトイレを探す。
ゲーム機に道を塞がれて、いりくんでいて中々見つからない。
帰るときも、同じようなゲームばかりで目印がなく、時間がかかってしまった。


やっとプリクラのとこへ着いたが、ジェンが男性と向かい合っている。
友人に会ったのかと思ったが、それにしては表情が固い。
ジェンが迷惑そうに首を振ったとき、絡まれているんだと察した。

「ジェン」
とっさに駆け寄り、男性を見る。
相手は露骨に舌打ちし、睨み付けてきた。
「何だ、もしかして彼氏?」
そう尋ねられて、僕は言葉に詰まった。
さっきの行為を思い出すと、否定はできない。
だが、他にも関係を持っている相手がいる状態で、肯定してもいいのだろうかと迷っていた。

返事がないことにしびれを切らしたのか、男性が、ジェンに近付こうとする。
そのとき、僕は反射的にジェンの肩を引き寄せていた。
「ジェンは・・・僕の彼女だ。僕は決して、離れはしない」
「ルイ・・・」
それは、僕のわがままでしかない言葉だった。
それでも、見ず知らずの相手には決して渡したくはない。
威圧するような眼差しを向けると、男性はまた舌打ちをして立ち去った。
それを見届け、ジェンを離す。


「遅くなってごめん、ナンパされてたのか」
こんな格好をしていても、性別は男。
自分ではそうわかっていたが、周りからしてみればそうは見えなかったのだろう。
ジェンを一人にすべきではなかったと、僕は反省した。

「男だって言っても信じてくれないんだもん、迷惑だったー。
でも・・・その場しのぎだったとしても、ルイが、ボクを彼女って言ってくれたとき、すごくドキドキした」
照れ臭そうにしているジェンを見ると、胸が痛む。
自分は、ジェンだけの彼氏にはなれないのだとわかっているから。

「・・・彼氏は、二股どころじゃないけどな」
自嘲するように言うと、ジェンは首を振って腕を絡ませた。
「何股かけてたっていいよ。ルイは、女装癖があるボクみたいなのに付き合ってくれてるんだし」
「・・・ジェンこそ、こんな節操のない奴の側にいてくれて、ありがとう」
ジェンは柔らかな微笑みを浮かべて、腕を解いた。

「プリクラだけじゃもったいないよ、もっと遊んで行こう?」
「そうだな、シューティングゲームでもしようか」
僕は、自然な動作でジェンの手を取る。
ジェンは驚いたようだったけれど、手はすぐに握り返された。
はたから見れば、バカップルに見えるだろう。
それでも、今は感謝の意を込めて、手を繋いでいたかった。




その後、シューティングゲームで白熱し、クレーンゲームを楽しみ、財布の中が軽くなって来たところでそろそろ帰ろうとした。
「ね、最後にもう一回だけプリクラ撮っちゃダメかな?」
「いいよ、あんまり恥ずかしい絵じゃなければ」
今度は、さっきとは違うボックスの中へ入る。
ジェンが言うには、写真に特殊な加工ができる人気機種らしい。
設定はよくわからないので、また全部任せておいた。

「ルイ、ボクをお姫様抱っこできる?」
「ああ、ジェンは軽いから大丈夫だと思う」
望み通り、ジェンの腰と膝裏に腕を回して、持ち上げる。
軽々とはいかなかったけれど、しばらくは横抱きにしていられそうだった。


「もう、カメラなんて見なくていいから・・・ずっと、ボクだけを見ていて」
ジェンの両腕が首に回り、僕は俯きがちになって相手を見下ろす。
見惚れるような熱視線を感じ、ジェンを見詰めて応えていた。
ここがボックスの中でなければ、結構良いシチュエーションなのではないかと思う。
少女漫画に出てくるようなワンシーンで、たとえ相手が同性でも違和感を覚えなかった。

見詰め合っていると、ふいにシャッター音がする。
次の撮影の前に態勢を変えるのかと思ったが、ジェンはそのままでいた。
2回、3回と音がし、どんどん撮影が進んで行く。
そこで、ジェンが腕に力を込める。
引き寄せたがっていると、そう察した。
はっきりと言わないのは、僕がさっき恥ずかしい絵は嫌だと言ったからだろう。
遠慮がちな様子がいじらしくて、僕はジェンに近付き、唇を重ね合わせた。

「ん・・・」
鼻から抜けるような声が可愛らしくて、少しだけ強く重ねる。
お互いが目を閉じているので、どんな絵が撮れているのかはわからない。
けれど、ジェンを抱き上げ、自分が主導になっていることが嬉しくて。
これが、受け入れてくれる幸福感なんだと、実感していた。

シャッターが音がし、女性の声で撮影終了の合図がかかる。
僕はゆっくりと身を離し、ジェンを下ろす。
ジェンは名残惜しそうにしていたが、順番待ちができていたのでボックスから出た。
すぐに写真を印刷するのではなく、ジェンが外にある画面で画像を加工する。
僕は、どんな感じに仕上がるのだろうかと、楽しみに待っていた。


「出来た!ルイ、見て」
渡された写真を見て、僕は目を丸くした。
背景が協会になっており、殺風景なボックスの中で撮ったとは思えないほどリアルで。
加えて、僕はタキシードを着て、ジェンは真っ白なウエディングドレスを着ていた。

「凄いでしょ?最近は、こんな加工だってできちゃうんだよ。。
・・・どうしても、欲しかったんだ」
「あ、ああ、驚いた」
加工技術にもそうだが、それ以上に、僕がお姫様抱っこをしている場面が、あまりにも違和感がなさすぎた。
大半は見詰め合っている写真だったが、一番大きいものは、愛を誓っている場面で。
まるで本当の結婚式のような場面に、一時の間見入っていた。


「ルイは、ボクが女の子だったとしても、同じように接してくれる?」
ジェンは、期待と不安が入り混じった、神妙な表情をする。
この写真のジェンは少女にしか見えなかったが、僕の気持ちは変わらなかった。

「もちろん。ジェンの性別がどっちでも、一緒に居るよ」
以前に彼女がいたように、同性としか親しくなれないわけではない。
僕は、どっちつかずの中途半端な性質を持っている。
優柔不断だと言われるかもしれないけれど、今はその性質があって良かったと思っていた。

「ルイ・・・大好き!」
ジェンが、人目もはばからず抱きつく。
少し周囲の視線が気になったが、ジェンの思いを一時だけでも受け止めていたかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
ジェンは小柄な可愛いらしいポジションなので、女装役にさせてみました。
服装の説明がほとんどできてませんが、私はメンズみたいな格好しかしないので・・・。
可愛らしい想像ができなかったんです申し訳ない。