限りなく危ない夢と妄想13


冬場になると、皆体を温めたがるのか、飲み会の話がちらほらと聞こえてくるようになる。
ラウンジでぼんやりと本を読んでいると、そんな話題が自然と耳に入る。
ゼミや部活、バイトの集まりで行くという話が多かったが、
僕はあいにく、一回もそういった場へ行ったことがなかった。

飲酒ができないわけではなく、特にアルコールがなくても生きてゆけるし。
騒がしい中で食事をするのなら、一人で何か好きなものを買ってくるほうがよかった。
それ以前に、集団の中に入っていないのが原因なのだが。

「ルイ、ぼんやりしてるな」
呼びかけられて顔を上げると、いつの間にかアスが正面に座っていた。
本のページが全く進んでいなかったのを見ていたのだろう。

「最近、飲み会の話が多いなと思って。アスも、そういうのには行くのか?」
「いや、うるさいのは嫌だからね。君も、参加しなさそうなタイプだな」
言い当てられて、僕は苦笑する。
楽しそうな雰囲気にあこがれないことはないけれど、行っても疲れるだけのような気がしていた。

「そうだ、僕らでしてみないか、飲み会」
「あ、それならいいな」
気の置けない相手となら、きっと気兼ねなしに楽しくやれる。
それに、酔ったら皆がどうなるのか興味があった。

「なら、皆に連絡しておくよ。来週の土曜でいいかい」
「ありがとう。頼む」
突然の提案だったが、初めての飲み会ということで、とたんに土曜日が待ち遠しくなっていた。




それから日程は問題なく決まり、場所はジェンの家になった。
ジェンの家に行ったことはなかったが、アスによると部屋が広く、両親も海外へ行くことが多いから都合がいいらしい。
各自、好きなアルコールと食事を持ち寄ることになったので。
僕は、近所のスーパーから適当なものを見繕って、ジェンの家へ向かった。


教えられた道順を辿り、ジェンの家を見たときは唖然とした。
周囲の家より一回りも二回りも大きな造りに、立派な門が取り付けられている。
本当にここでいいのかと確認し、呼び鈴を押した。

『ルイ、いらっしゃい。入って入って』
ジェンの声がし、門が自動で開く。
僕は恐縮して中に入り、家の扉を開けた。


「ようこそ!もう皆集まってるよ」
さっそくジェンが出迎えてくれて、さりげなく手を引かれる。
僕は、明らかに普通の一般家庭よりも豪華な内装に驚きっぱなしだった。
通された部屋は、大学の小教室くらい広かった。
床一面にホットカーペットが敷いてあり、スリッパがなくても温かい。
いくつかテーブルはあったが、なぜかそれらは隅に寄せられている。
中央にローテーブルがあり、その周りに三人が座っていた。

「床に座った方がゆったりできると思って、準備したんだ。座って座ってー」
確かに、椅子に座るよりは移動がしやすそうだ。
テーブルの傍に座ると、カーペットの温もりが心地良かった。

「それじゃ、早速始めるか。とりあえず、全部並べてみようぜ」
シンの合図で、全員が持参したものを取り出す。
まず、シンは数種類の缶ビールと、柿ピーやあられがミックスされた定番のおつまみ。
アスはボトルサイズの赤ワインと白ワインと、色とりどりのチーズ。
ユウヤは甘めの缶チューハイに加え、明らかに手作りのお菓子類を持って来ていた。


「ユウヤ、これ、自分で作ったのか?」
「うん。市販のには敵わないとおもうけど、一度、食べてみてもらいたくて・・・」
お菓子は一種類だけではなく、光沢のあるブラウニーや、フルーツが入ったクッキーなど多彩で。
ユウヤの意外な女子力を垣間見た気がした。

「お酒も食べ物も足りなかったらいくらでもあるからね、今日は飲み明かそう!」
ジェンが人数分のグラスと、ナッツ類の盛り合わせをテーブルに置く。
僕はとりあえず目についたアルコール類を買ってきたので、種類はばらばらだった。

ずらりと並んだ食事とアルコールの量に、明日が休日で良かったと今から思う。
全員がグラスに好きな飲み物を入れると、アスが音頭を取った。

「始めようか。仲間内だけの飲み会に、乾杯」
全員が軽くグラス合わせた後、僕は久々にアルコールを一口飲んだ。
少し甘くて、口の中で炭酸が弾けて気持ち良い。
ユウヤも一口飲んだだけだったが、シンとジェンは一気にグラスを開け。
アスは、度数の高いはずの赤ワインを半分は飲んでいた。
最初の飲み方で、それぞれがどれくらいアルコールに強いのかわかる気がする。

ちなみに、僕はと言うと実は酔っぱらったことがない。
今まで、少し頬が熱くなったらそれ以上は飲まないでいたので。
飲酒をしたら本当に人が変わることなんてあるのだろうかと、疑問に思っていた。
だから、今日はその疑問が解消されるかと楽しみにしていた。


それを観察するために、僕はちびちび飲みつつ、ほどほどに食事をつまむ。
五人で談笑するのは珍しいことではなかったが、飲み会、という雰囲気があって新鮮だった。
ユウヤ以外の三人はペースが早く、缶がどんどん空いていく。
そして、最初に酔いが回り始めたのは、ジェンだった。

「はー、いいなぁこの感じ、ほっぺたまであったかくなって、頭がふわふわしてくるー」
ジェンの頬は染まり、目が少し虚ろになっている。
その姿は、まるでとある行為をした後のように見えてしまい、一時の間見入っていた。

「んー?ルイ、もしかしてボクに見惚れてるの?いいよいいよ、どんどん見てー」
ジェンがにじり寄り、上目づかいで顔を覗き込んで来る。
そこに色っぽさを感じてしまい、動揺した。

「そうやって誘惑する姿、やっぱり夜の蝶を思わせるよ」
「蝶々でもいいよー、ひらひら舞って、まとわりつけるもん」
アスの言葉をさらりと流し、ジェンが横から抱きついてくる。
アルコールのせいか、服越しに伝わる体温がいつもより高い。
それが珍しくて、思わず頬へ触れていた。

柔らかくて温かい頬はまるで子供のようで、触り心地が良い。
他の三人はちらとジェンを見ていたが、特に咎めることはしなかった。
暗黙の了解というものが、皆の中で交わされているのだと思う。


「そういえばルイ、前、シュンを慰めてくれたんだってな。。
帰って来たときやけにすっきりした顔してたから、問い詰めたらそうだって聞いた」
「あ・・・ご、ごめん。僕、本当に節操がない・・・」
「謝らなくていいって、むしろ感謝してる。お陰で、ふっきれたみたいだしな」
事情がわかっていない三人は興味深そうに聞き入っていたが、アスがふっと笑った。

「成る程、とうとうシンの弟もルイに惹かれたんだね」
「まーな、血は争えないってことだ」
僕は申し訳なさがあったが、シンがあっけらかんに答えてくれたのが幸いだった。

「それで、ルイはしてあげたのかい、それとも、された?」
「え・・・ど、どちらかっていうと・・・した、かな」
最初はリードされそうになったが、途中から立場は逆になっていた。
情景を思い出してしまって、僕は勝手に赤面する。

「そうか。やっぱり、君はバイでリバーシブルなんだな」
「バイ、リバ・・・?」
聞き慣れない単語に、僕は呆ける。

「男女どっちでも愛せて、攻めに受けにもなれるってこと!」
ジェンの言葉は、まさしく僕の性質を的確に示していた。
博愛主義と言えば聞こえはいいが、八方美人を止められないだらしのない性格とも言える。
その性質は、一人でも親密な相手を増やしたがっている、貪欲なものに感じられていた。


「ごめん、僕、そんなふしだらで・・・」
「ふしだらなんかじゃない!」
突然、声をユウヤが声を上げた。

「ルイは、僕らの無茶な願いを全部聞き入れてくれてる。。
それで、皆がどれだけ救われてるか知らないんだ」
いつも控えめで静かなユウヤが饒舌になり、僕も含めて皆が驚いている。
よく見ると、いつの間にか顔に赤みが帯びていた。

「誰も、ルイのこと節操がなくて、ふしだらな奴だなんて思ってない。。
ルイは、皆を受け入れてくれてる、とても優しい人だよ」
「ユウヤ・・・」
「今日は楽しい会なんだから、暗いこと考えないで。ルイも、もっと飲んだ方がいいよ」
ユウヤから、チューハイが並々と入ったグラスを手渡される。

「・・・そうだな、ごめん。今日は僕も羽目を外すよ」
一人だけ、冷静に周りを諦観していることは止めだ。
酔うとどんな感じになるのか、少し怖いところはあったが、皆と一緒に楽しみたい。
僕はチューハイを一気に飲み干し、続けてビールを注いだ。
「お、いい飲みっぷりだ。俺等も負けてらんねえな、アス」
「ああ、誰が一番強いか比べる良い機会だ」




それから、空になったビールやチューハイのタワーができてゆき、ワインも空になった。
流石にシンとアスも酔ってきているのか、目が据わっている。
それは、僕も例外ではなかった。

ジェンの言っていた通り、頭がぼんやりとし、頬に熱が上る。
羞恥を覚えたときの熱とは違い、何とも言えない心地良さがあった。
食事はもう終わりに近付き、ユウヤはデザートに自作のブラウニーを食べている。
手が汚れるのも構わず両手で掴んでちまちまと齧る様子を見て、僕は引かれるようにユウヤへ近付いて行った。

「ユウヤは・・・甘い物が好きなんだな」
「うん、お酒も果実が入った甘めのものが好きなんだ」
「そうか・・・僕も甘い物は嫌いじゃない。分けてくれるか?」
「うん、いいよ」
ユウヤが、食べかけのブラウニーを差し出す。
けれど、それには手を付けずに味わいたくて。
僕は、ユウヤの唇へ覆い被さっていた。
驚いたのか、ユウヤが目を見開く。
それでも構わず、僕はユウヤが口を閉じない内に、舌を口内へ滑り込ませた。

「う、ん・・・っ」
ユウヤの舌へ触れると、ブラウニーの甘さが伝わってくる。
もっと感じたくなって、その柔いものを絡ませていた。
チョコレートだけでなく、チューハイの甘さもほのかに混じっていて。
とたんに、その味に酔いしれてしまう。
柔らかい感触と甘味にとらわれ、僕は周りに三人がいるのも忘れて、ユウヤを蹂躙していた。

「は・・・っ、ぅ、んん・・・」
ユウヤの口から漏れる吐息が熱っぽくて、気が昂る。
これが、酔っているということなのだろうか。
自分が止められなくなってしまいそうで、そこで解放した。

「ル、ルイ・・・」
皆の前でされたことが恥ずかしかったのか、ユウヤは完全に紅潮している。
そんな様子が愛おしくて、僕はユウヤの手を取って、指についているチョコレートを舐め取った。
とたんに、ユウヤの指が強張り、緊張しているのだとわかる。
もう止めようと思ったはずなのに、歯止めが効かない。
一本一本含み、汚れていない付け根から、先端まで舌を這わせていた。


「あ、あの、ボク、もう、いいから・・・ジェ、ジェンに、してあげて」
ユウヤは、しどろもどろになって手を引く。
これ以上されると、自分の体が反応してしまうと思い、遠慮したのかもしれない。
僕は言われた通り、ジェンに向き直った。

変容ぶりに驚いているのか、ジェンは珍しく身を固くしている。
初々しい様子が可愛らしくて、気付けばジェンの肩を掴み、じっと見詰めていた。
そして、躊躇うことなく唇を重ねる。
そこから先の行動も早くて、すぐに口内を侵そうと同じように自身を差し入れて行った。

「は、ん・・・っ」
ジェンに触れ、絡ませると、まるで女性のような上ずった声が聞こえ、また高揚する。
いろんな種類のアルコールが混じっている味がして、酔いがエスカレートしそうだった。
最初は身動きをしなかったジェンだが、やがて自分からも動き、絡ませ合う。
お互いが求め合うように交わると、隙間から音が漏れて来て、それもまた気を昂らせていた。

「っ、は・・・あ、ん・・・」
だんだんと、ジェンの息が熱くなって、声もどこか色気のあるものになる。
お互いの吐息と液が混じり合い、アルコール以外の熱さを感じていた。

舌を解き、口を離すと、その間に細い糸が伝う。
一本の線がとても淫猥なものに見えてしまって、僕は我に返ったように視線を逸らした。


「君は、アルコールが入ると大胆になるんだね。本能が先行して、躊躇いがなくなっているのか」
酔っていても、アスの分析は的確だった。
いつもなら、皆が見ている前では羞恥心が湧き上がり、行動に歯止めがかかるはず。
けれど、今は抑制する力が極端に小さくなっていて、ただ浅はかな欲のままに体が動いていた。

「それじゃあ・・・俺達に対してはどうなるんだ?」
ふいに、シンに腕を引かれて、座ったまま横抱きにされるような姿勢になる。
服の上からでも体温が高いことを感じて、僕は温もりを求めるようにシンに身を寄せた。
さっきまではリードしていたが、今は逆の立場になる。
多くの好意を受けたがるどうしようもない性格は、相手に合わせてどちらにでもなることができていた。

「ふふ、たまには遠慮なく甘えられるのもいいね」
アスが傍に来て、誘惑するように顎を撫でる。
そのまま持ち上げられて顔を起こすと、もうものが言えなくなっていた。
唇を舐められ、隙間を作るよう促される。
何も考えないまま薄く口を開くと、すぐに柔い物が入り込んで来た。

「ぅ、ん・・・っ」
待ちきれないようにアスの舌が触れ、表面をなぞる。
その温度は高いのに、体が身震いしてしまう。
その反応は、相手を嫌悪しているからではなく、悦楽ゆえの震えだった。

アスの動きはあまり激しくなく、ゆっくりと絡み合ってゆく。
少しでも長く、自分を感じさせたがっているように。
縦横無尽に侵すのではなく、舌の表面や裏、側面もじっくりと弄られて。
僕の熱は、じわじわと増してゆくようだった。

羞恥心が麻痺しているせいか、僕も少しずつアスに触れる。
その間、アスは動きを止め、相手がどこまでするのかじっと待っていた。
相手が口内にいるのに、動くのは自分という奇妙な状態だったけれど。
歯止めがかかることはなく、今しがたされたことと同じように、ゆっくりとアスに触れていった。
動作が遅いと、それだけアスが離れるまでの時間が、とても長く感じられていた。


「今日の君は、一段と魅惑的だ・・・その欲を、飲み干したくてたまらなくなる」
「よ、欲って・・・」
その隠語が何を示しているのか気付き、動揺する。

「そのときは、枯渇しないように注いでやるよ。お前の後ろからな・・・」
「そ、注ぐって・・・」
自重していないシンの発言に、顔には出ていないが結構酔っているとわかる。
これ以上無抵抗でいるのはまずいと、身じろぐ。
けれど、体がしっかりとシンの腕に抱きとめられていて抜け出せない。
それだけでなく、アスの誘いかけるような視線にもとらわれていて、目が逸らせない。
もはや、肉体的にも、精神的にもこの二人に捕らえられてしまっていた。


「はいはい、水を差すようだけどそこまでにしてね、流石にバレるから。。
物足りなかったら止まって行きなよ。五人用はないけど、三人用のベッドならあるから」
突然の提案に、僕は一瞬呆けてしまう。

「ルイ・・・それでもいいかい?」
戸惑ったが、断る理由は見つからなくて、僕は頷いていた。
そこで体が解放され、ほっと息を吐く。

「嬉しいなー、まだ皆と一緒にいられるなんて。。
ね、ユウヤ一緒に寝ようよ。ボクらだったら、心配いらないでしょ?」
「え、う、うん」
「そっちの三人は、大きなベッドがある部屋に案内するね」
「ありがとう、恩に着るよ」
さっきからアスの口調は変わりなく、もしかして裏で示し合わせていたのではないかと思う。
そうだとしても、僕はもう首を縦に振ってしまった。
さっき、ジェンが心配ないと言っていたのは、ユウヤもジェンもリードされる側だからだ。
一方で、シンとアスはリードする側。
そのことを考えると、心音が反射的に反応していた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
飲み会からお泊まり会、長くなるので一旦ここで区切ります。
今までの流れからして、この先どんなことになるのかは予想がつくと思いますので・・・。
自重しませんと、先に言っておきます。