限りなく危ない夢と妄想15


飲み会の翌日、ジェンは丁寧なことに朝食を準備してくれていた。
昨日集まった部屋には大きなテーブルとイスが設置してあり、五人でテーブルを囲って座る。
大学へ行っているときでも、こうして全員で食事をすることは滅多にないので。
珍しい状況に、皆の雰囲気はどこか穏やかになっているようだった。

食卓には、トースト、サラダ、コーヒーなど洋風の朝食が並んでいて。
コーヒーカップを片手に香りを楽しんでいるアスが、とても絵になっていた。
「ジェン、泊まらせてもらった上に、食事まで用意してくれてありがとう。。
お陰で、すごく楽しい時間を過ごせたよ」
「よかったー。ボクの家、無駄に広いんだからいつでも使ってね!」
普通だったら、恐縮して気が引けてしまっていたと思うけれど。
ジェンの満面の笑みが本当に嬉しそうで、場を和ませていた。

「それにしても、昨日はお楽しみだったみたいだね?」
野菜を刺そうとしていたフォークが、ぴたりと止まる。
アスとシンも、問題発言をしたジェンを見ていた。

「お、お楽しみって・・・?」
「やだなー、わかってるくせに。実はボク達の部屋、すぐ隣だったんだよね」
それを聞いて、かっと頬が熱くなる。
ジェンはにやにやとしていたが、ユウヤは気まずそうに俯きがちになっていた。
ちら、と他の二人の様子も伺うが、いたって平然としていた。

「場を提供してくれたことには感謝してる。けれど、今後盗み聞きは止めてくれ。
僕やシンはともかく、ルイはデリケートなんだ」
昨日、アスもあられもない声を聞かれていたと言うのに、口調は至って冷静だ。
シンはそしらぬ顔をしていて、赤面しているのが自分だけで、僕はますます恥ずかしくなった。

「あはは、ごめんね。ちょっとした悪ふざけだと思って許してよ」
宿泊の恩があるからか、そのことはもう誰も追及しなかった。


朝食を食べ終わった後、皆が外へ出る。
まさか、飲み会から始まって、これほど長く一緒に過ごせるとは思っていなかった。
それだけに、解散するときは物寂しさを感じずにいられない。
それぞれがジェンにお礼を言い、門を出る。
ジェンは一瞬寂しそうな表情をしたが、笑顔で見送ってくれた。

帰り道はバラバラで、最初にシンと別れて、次にアスと別れる。
大学へ行けばすぐに合えるが、隣に居る相手が少なくなると、やはり物寂しかった。
「じゃあ、僕はこっちだから、また大学で」
「あ、あの、ルイ」
帰ろうとした途中で、ユウヤが何かを言いたそうにする。
けれど、すぐ目を伏せてしまい、言葉の続きは告げられなかった。

「・・・何でもない。じゃあね」
何でもない、とは程遠い様子でユウヤが去って行く。
大学で顔を合わせるのだから今尋ねなくてもいいかと、そのときは気にしなかった。




それから、大学でもユウヤの様子はいつもと違った。
授業の時は隣に座ろうとせず、一番後ろに行ってしまうし。
毎日部活に入り浸っているのか、一緒に帰ることもなくなっていた。
たまに、休み時間に姿を見かける事はあったけれど。
そのときも教室の一番後ろに居て、一心不乱にノートに何かを書き殴っていて、話しかけられる雰囲気ではなかった。

そんな日が続くと、だんだんと心配になってくる。
ユウヤのことが気がかりになった僕は、放課後に部室を訪れていた。
「ユウヤ、居るか?」
一声かけて部室の中へ入ったが、誰もいない。
机の上に画用紙や鉛筆が出ているので、いずれ帰ってくるのだろう。

待っている間は手持無沙汰になり、部室をうろつく。
変わったモチーフや分厚い書籍を眺めていると、本の間に一冊の大学ノートがはさまっていた。
書籍の中にあるのは違和感を覚え、手に取ってみる。
そのノートは、ユウヤが何かを書き殴っていたものと同じ色をしていた。

好奇心が疼いて、ページをめくる。
そして、中に描かれていたものを見て、僕は目を丸くした。


最初のページに描かれていたのは、顔のない少年が裸で仰向けになっているところだった。
モノクロで、形をおおざっぱにとらえたような絵は、ポーズの練習をしているだけのように見える。
けれど、その少年には蛇のようなものが巻きついていて、長い舌に体を弄られていた。
人体を描く練習に、蛇はいらないし、絡みつかせる必要もないと何となくわかる。

次のページには、前の絵の続きなのか、少年の体が蛇に弄られて濡れていた。
あまり鮮明な絵ではないのに、やたらと艶めかしく見えてしまう。
目を見張るものがあって、僕はページをめくっていた。
やはり絵は続いているようで、蛇は少年の下肢へ顔を下ろして行き、今にも中心へ舌を這わせようとしていた。
ここでも、少年には顔が描かれていなかったが。
小柄な体つきを見ると、自然とユウヤを想像してしまっていた。

もしかしたら、これを、ユウヤが描いたのだろうか。
恥ずかしがり屋で、すぐ赤くなるユウヤが官能的な絵を描くのは意外だったけれど、僕の目はその絵に釘付けになっていた。
いかがわしい気持ちからではなく、純粋に、芸術作品を見る気持ちになる。
実際、美術館に裸婦の絵は展示してあるし。
この絵も、荒い線で描かれているとは言え、一つの作品に思えていた。

続きを見たくなって、ページをめくろうとする。
そのとき、扉が開く音がした。
慌ててノートを閉じ、本棚へ戻そうとしたが、遅かった。
背後で、鉛筆が床に落ちる音がする。
振り返ると、まるで不審者を発見したような、驚きの表情をしてユウヤが立ち尽くしていた。


「ル、ルイ、それ、そのノート・・・」
「これ、やっぱりユウヤのだったのか。勝手に見てごめん」
謝罪したとたん、ユウヤの顔から血の気がみるみるうちに引いていく。
貧血でも起こしたのだろうかと、僕はとっさに駆け寄った。

「ユウヤ、大丈夫か?」
肩に手を置いたとき、ユウヤが怯えるように体を震わせた。
「そ、その絵、ぼ、僕・・・」
言葉がしどろもどろになり、体が震え始める。
突然の変化に、僕は慌ててユウヤの額に手を当てた。
重度の風邪をひいているのかと思ったが、額は熱いどころか冷たい。
なら、この震えは一体何が原因なのだろうか。

「ユウヤ、保健室に・・・」
先生に診てもらおうと、ユウヤの腕を掴む。
そのとき、ユウヤの目から涙が流れ落ちていた。
「ユ、ユウヤ」
滴は、拭われることなく頬を伝ってゆく。
もしかして、絵を見られたことがそれほどショックだったのだろうか。
突然の事に動揺しつつも、僕はたまらずユウヤを抱きしめていた。

「ごめん。勝手に見て、本当に悪かった・・・。
あれも一つの作品なんだって思って、つい見たくなってたんだ」
「作品・・・作品なんかじゃ、ない、あの絵は、ただの、僕の欲望なんだ」
絞り出したような、掠れた声で訴えられる。
体の震えは、まだおさまらない。


「変態なんだ、僕、あんなもの、描かずにはいられないなんて、
ジェンの家から帰ってきたときから、もう、おかしかった」
そこで、僕は気付いた。
飲み会の日の夜、ユウヤは隣の部屋のあられもない声を聞いて、欲求不満になっていたのだと。
けれど、なぜ涙を流す程怯えているのだろう。
できることなら、その原因を突き止めたかったが、それよりも先に欲求を解消させてあげたい。
原因は、他ならぬ自分にあるのだから。

「・・・ユウヤ、今から僕の家に来てくれ」
「え・・・?」
「ジェンの家に泊まったとき、今度は二人で入ろうって言っただろ?」
思い出したのか、ユウヤは目を見開いて、言葉を失っていた。
有無を言わさず、ユウヤの腕を引いて部室を出る。
半ば無理矢理だったので、いつでも振り解けるようあまり力は込めないでいたけれど。
家に着くまで、手が振り払われることはなかった。




帰って来ると、僕はユウヤをリビングのソファーに座らせ、風呂を沸かしに行く。
バスタオルと、派手な色をした瓶を脱衣所に置いてからリビングに戻ると、ユウヤはノートを持って気まずそうに俯いていた。
「ルイ・・・やっぱり、無理しなくていいよ。この絵のこと、今に始まったことじゃないから・・・」
幾分か落ち着いたのか、もう震えてはいない。
僕はユウヤの隣に座り、そっと肩に手をまわした。

「高校のときから、何か、もやもやすると、いやらしい絵を描くようになってた・・・。
それは、変態だって、おかしいって・・・」
声が、細くて微かなものになる。
親か同級生かわからないが、おそらく、絵が見つかって罵られたのだろう。
過去を語るユウヤの様子が痛ましくて、強い庇護欲にかられた。

「ユウヤ、絵の続きを見せてくれないか」
ユウヤは、信じられない物を見るような目を向け、ノートを守る様に胸に抱いた。
「僕はユウヤのことを変態だなんて思ってないし、その絵だってちゃんとした作品として見てる。
それが、ユウヤの願望だって言うんなら、この後同じようにしたいんだ」
絵の少年はユウヤで、蛇がその相手ならば、僕がその役をすればいい。
そうするために、最後まで絵を見たかった。
ユウヤはじっと何かを考えるように、床の一点を見詰めている。

「そうなると・・・ルイの負担になる・・・」
「僕のことは気にしなくていい。僕は、ユウヤならいつだって抱ける」
ユウヤは、はっとして顔を上げる。
その頬は、一瞬で紅潮していた。

そんな反応が嬉しいと思うが、一方で心苦しさも覚える。
ユウヤなら、とは言ったが、正確にはユウヤ「も」なのだ。
だから、せめて肉体的な欲望を満たしたかった。
他の意図は何もないと訴えるように、真剣な表情でユウヤを見る。
それでも戸惑っているようだったが、やがて、おずおずとノートが差し出された。


「ユウヤ、ありがとう」
部室で見た続きから、ページをめくる。
少年に巻きついている蛇は下肢へと舌を伸ばし、その中心へ舌を絡ませていた。
そして、次のページでは、その舌はさらに下方へある窪みを弄っている。
少年に表情はなかったが、きっと身悶えしていると想像できた。
そこにユウヤを当てはめると、気分が昂ってしまう。
自分が蛇と同じことをすれば、ユウヤはどんな表情で、どんな声を発するのだろうか。

次のページの絵では、蛇は舌をしまい、少年の窪みには尻尾が入れられていた。
少年は体を弓なりにしならせ、悦楽を感じている様子で。
僕の負担になるとは、こういう願望を描いていたからだと気付いた。
絵はそこで終わっていたので、ノートを閉じる。
そのタイミングで、ちょうどいいことに風呂が沸いた合図が鳴った。

「ユウヤ、行こう」
「え、あ、う」
戸惑っているユウヤの腕を引いて、脱衣所へ連れて行く。
僕は躊躇いなく服を脱いだが、ユウヤは恥じらっているのか動作が遅かった。
その間に浴室へ入り、準備をする。
さっき持ってきていた瓶の中身を浴槽の湯にふりかけ、手で混ぜ合わせる。
すると、みるみるうちにお湯の感触が変わっていった。

先に体を流して待っていると、静かに扉が開く。
本当に入っていいのかと伺いをたてるよう、ユウヤが顔を覗かせると、躊躇わなくていいと諭すよう、扉を開いて招き入れた。
シャワーでユウヤの体も、軽く流す。
遠慮して逃げてしまわないよう、ずっと腕を掴んだままでいた。

「先に、体を温めよう」
湯が変化した浴槽へ、ユウヤを引き入れる。
足を入れると、ユウヤは動きを止めた。

「ルイ、これ・・・」
「前、ジェンにもらった液を使ったんだ。結構温かくて、気持ち良いよ」
僕は、ユウヤの肩を押して座らせた。
二人も入ると、浴槽から湯が溢れ出す。
それは、水のように滑らかなものではなく、ゼリー状になっていてすんなりとは流れて行かなかった。
正直、手に余っていたのだが、高級そうな装飾で捨てるに捨てられないでいた。
温まることでジェル状になり、冷えると水になるらしいので排水溝が詰まる心配もない。
さらに、人の体内に入ってもいいと書いてあったことが、使うことを決心させた一番の要因だった。


浴槽がさほど広くないからか、ホテルでジェンが使ったときより粘りが強い気がする。
その感触は、お互いの気を昂らせるのに十分だった。

「ルイ・・・ごめん、折角ジェンに貰ったのに、使わせて」
「ユウヤのためだから使ったんだ。これなら、願望を全部昇華できる」
液体を掌ですくい、ユウヤの首につける。
粘り気のある感触に、それだけでユウヤは身震いしていた。
そして、僕はその液ごと、首筋に舌を這わせた。

「んっ・・・」
喉の奥から発されたような、高めの声が耳に届く。
そんな反応をされると、自分の欲が湧き上がって来てしまう。
首筋の液を絡めたまま、舌はユウヤの口元へと上がって行き、唇へ触れる。
掴んでいる肩が震えたが、抵抗はされない。
わずかに隙間が開かれると、その中へ柔い物を差し入れた。

「ぁ、ぅ・・・」
くぐもった声に、行為がエスカレートしてしまう。
首に付けた液体ごと、ユウヤの舌と触れ合わせる。
人体に入れてもいいという説明書きがあったので、嚥下しても問題はないはず。
口内の液だけでなく、ジェルも共に絡ませると、柔い感触がいつもより淫猥に感じられた。
感触に興奮しているのか、動きが滑らかになり、浴室に液の音が反響する。
重なっている素肌から伝わる鼓動が強くなるのに、さほど時間はかからなかった。


口を離し、ユウヤの唇についたジェルを軽く舐めて拭う。
解放されたユウヤが息をつくと、その熱を間近で感じられて心地良かった。
そのとき、自分の息もやけに熱を帯びていることに気付く。
本当なら、このまま、この液に包まれたまま行為を進めるつもりだった。
けれど、湯の温度が熱すぎたのか、鼓動が早くなってきている。
入浴したままでは、確実にのぼせてしまいそうだった。

「・・・ユウヤ、一旦出ようか」
「ん・・・」
ユウヤも熱かったのか、先に浴槽から出る。
頬を染めている要因が、自分の行為だけではないのだと思うと少し残念だった。
浴槽から出ても、全身が液で濡れている。
そんな姿を見ていると、蛇に弄られた少年の絵を思い出してしまう。
思わず手を伸ばそうとした瞬間、ユウヤの足が滑った。
体がバランス感覚を失い、後ろに倒れそうになる。

「ユウヤ!」
とっさに浴槽から飛び出して、体を支える。
けれど、慌てたので僕の足も滑ってしまい、二人して床に腰を下ろしていた。

「ご、ごめん・・・」
「大丈夫だよ」
支えるついでに、ユウヤを抱き留める。
ジェルがまとわりついた体が、とても艶めかしい。
そうやって体を触れ合わせていると、欲が増して来るのを感じていた。
そうして生まれた欲に、背を押される。
何も、浴槽の中で全て済ませなくても良い。
僕はユウヤを、ゆっくりと床に寝かせた。

「ル、ルイ・・・」
「ユウヤ・・・僕、今から蛇になる。絵と、同じ事をしたいんだ」
ユウヤの体が強張ったが、突き放されはしない。
絵では、少年が横になった後、蛇に全身を弄られていた。
その場面を思い出し、まずはユウヤの腕を持ち上げて、上から下へ舌で弄った。

「あ・・・」
か細い声が、ユウヤが反応している事を示してくれる。
肩から手の甲まで這わせ、指先を口に含んで丁寧にジェルを拭う。
指を変えるたびに、かすかに強張る様子が初々しくて。
右手が終わると、すぐに左手も同じ様に含んでいた。
わずかに開いたユウヤの唇から、溜息にも似た吐息が漏れる。
動きを進める度に、体はジェルではなく、他の液で濡れていった。


腕が終わり、次は胸元へと顔を近付ける。
平らな胸は舐めやすく、ジェルを拭うのにさほど時間はかからない。
胸部の突起を舌がかすめると、ユウヤの体が一瞬跳ねる。
もっと反応が見たくて、その起伏を軽く押した。

「ぁ、あ、ぅ・・・」
小さな箇所でも敏感にものを感じるのか、声が漏れ始める。
舌先で弄ぶように触れると、その箇所が少し固くなった。

「ユウヤ、気持ち良いのか・・・?」
尋ねたが、恥ずかしくて仕方がないのか、ユウヤは視線を合わせようとしない。
けれど、目を伏せて、わずかに頷いていた。
羞恥を覚えている様子が可愛らしくて、抑制が効かなくなる。
それならまだ触れていようと、もう片方の起伏へも唇を寄せた。
ユウヤが身じろいだが、逃さぬよう肩を掴む。
同じ様に弄るだけでは単調だと思い、今度はその突起を口に含み、軽く吸い上げた。

「あ・・・っ・・・」
さっきより高い声が、刺激の強さを物語る。
もう胸部のジェルはなかったが、まだ離れがたくて突起を甘噛みする。
痛みを与えないようあまり力は入れなかったが、ユウヤの体がびくりと反応していた。
そのとき、下肢に、何かが当たる。
まだそこへは触れていないのに反応しているんだと気付き、僕は含んでいたものを離した。


そのまま体を下ろしていき、腹部をなぞって、下肢へと身を近付ける。
ユウヤのものが目に入ったが、まだジェルは残っている。
触れたい欲望を押さえつけ、細い足を持ち上げて、舌を這わせていった。
足はさほど感じないのか、上ずった声が聞こえてこない。
そこは早々に終わらせて、太腿の付け根から、中心へ向かう。
筋肉の強張りを感じたが、拒まれないのをいいことに、ユウヤのものへ触れた。

「あ、ぁ・・・っ・・・」
ひときわ高い声が耳に届くと、ちゃんと満足させられているんだと安心する。
根元から先端まで、ゆっくりと弄っていく。
ジェルの淫猥な感触も相まって、そこはだんだんと熱くなっていった。
そこを含んでもよかったけれど、今達させてしまうわけにはいかない。
だから、また根元までなぞり、さらに下へも触れようとする。
隙間まで粘液質な液にまみれていて、難なく窪みへ舌を入り込ませた。

「やぁ、あ・・・っ!」
窪みが一気に縮こまり、相手を阻もうとする。
柔いものでは進めなくて、一旦身を引く。
ユウヤを見下ろすと、全身は液で濡れていて、絵の少年そのものになっていた。


「・・・ユウヤ、何であの絵には顔が描かれていなかったんだ?」
「だ、だって・・・恥ずかしすぎる、から」
抑えきれない願望の中にも羞恥があって、やはりいじらしい。
けれど、そんな羞恥心は忘れさせて、欲に溺れさせてしまいたかった。
ジェルが絡んだ指を、先に舌で触れた窪みへ触れさせる。
そこはまた収縮して阻もうとしたが、液が助長して、指が中へ埋められていった。

「ふ、あ・・・ぁ・・・」
指が締めつけられて、動きが止まる。
それは感じている証拠なのだと、自分の経験からわかっていた。
潤滑剤もあり、少し力を込めれば指は奥へと埋められてゆく。
特に弱い箇所を探そうとしたが、それを探る余裕はなくて。
今はユウヤを解し、自分も共に快感を覚えたかった。
指を増やすと、ユウヤが歯を食いしばって、全身に力を込める。
手がタイルを押さえつけて指先が赤くなっていたので、腕を取って自分の背へ誘導した。

指を動かすと、腕に力が加わって、背中にかすかな痛みを感じる。
少しでも労わるよう頭を撫でてあげたかったが、液が絡んだ手ではできない。
なので、身を下ろし、ユウヤの頬へそっと口付けた。


「ルイ・・・」
虚ろ気な眼差しと共に、求められるように名を呼ばれる。
熱っぽい吐息も、声も、何もかもが官能的に感じられて、自分の昂りを抑えようがなかった。
指を一本ずつ抜くと、ユウヤが息を吐く。
その熱を感じたくて、自然と口付けていた。
高まっているお互いの温度が交わって、一時の間安らぐ。
静かに重なり合っていると、だんだんとユウヤの息が落ち着いてきていた。

名残惜しく身を離し、いよいよ絵の最後の場面を思い浮かべ、腰を落として窪まりに自身のものをあてがった。
ユウヤが一瞬、身を震わせる。
けれど、背に回された腕は解かれない。
僕は小さく深呼吸して、自身をユウヤの中へ埋めていった。

「う・・・!あ、あ・・・!」
よほど痛いのか、ユウヤの表情が歪み、背中に爪が立てられる。
とたんに圧迫感を覚え、僕も息を吐いていた。
痛がっているとわかっても、もう身を引く事は出来ない。
一気に身を進めることはせず、ユウヤの力が弱まるまで、じっとそこで待っていた。
欲望が渦巻く中、動かないでいるのは中々の試練だったけれど、それ以上に辛い思いをさせたくなかった。


窪みが痛みに慣れて来たのか、やがて収縮が弱まってくる。
そこで再び腰を落とし、ユウヤの中を押し広げて行った。
「い、ぅ・・・っ、あ・・・!」
少しでも動かすと、ユウヤの体が敏感に反応して、圧迫される。
けれど、その圧迫感も、内壁の柔らかさと相まって気を昂らせるものになった。

奥へ身を進めると、だんだんとユウヤの息が荒くなってゆく。
そして、僕自身の呼吸も落ち着かないものになる。
中の温度が肌に触れるより熱くて、お互いの体温が交わり合っているのを感じる。
自分から、完全に自主的に相手を責め立てるのは初めてだったけれど。
自分のものの全てが繋がり合うと、熱が胸の内から湧き上がってゆくようだった。

「ユウヤ、温かい・・・」
「は・・・っ、ルイ、もう、熱い・・・」
最奥まで突き上げられ、もうユウヤの息は絶え絶えになっている。
もう少し、このまま繋がっていたかったけれど。
それでは負担になると思い、限界まで身を進めたところで、起ち切っているユウヤの中心を掴んだ。

「やっ、あ・・・あ・・・」
前にも後ろにも悦を感じ、ユウヤの体が跳ねる。
とたんに窪みが縮まり、全体が締めつけられて、僕もどうしようもない高まりを感じていた。
掴んでいるものから液が流れ落ち、指の間に絡みつく。
その液と一緒にユウヤの昂りを愛撫し、何度も掌を上下に動かした。
往復する度にユウヤの体は敏感に反応し、何度も収縮する。
繰り返される圧迫感と愛撫に、お互い限界に達しようとしていた。


「ユウヤ・・・好・・・」
思いが溢れ出たように、口から零れそうになる。
けれど、言葉を飲み込んだ。
そんなことは、今の自分が言っていいことではない。
それは、確固たる愛情を伝える言葉ではないけれど。
行為を求め、感じている相手が愛おしいのは本当だった。

ユウヤに快感を与えたくて仕方がなくなって、僕は指先で、下肢の昂りを余すとこなく、全体的になぞる。
下から上へ、精を絞り取るかのように。
そうして、何度目かの愛撫で、指先が先端に集中した瞬間、ユウヤの体が、ひときわ大きく震えた。

「あ、っ、ああ・・・!ルイ・・・っ・・・好き・・・・・・あぁ・・・!」
上ずった声と共に、悦楽に耐えるよう背中に爪を立てられる。
同時に、腹部の辺りに、粘液質な白濁が散布されていた。
「っ、あ・・・」
力が加えられたのは背中だけではなく、ユウヤの中にある自身のものも、しきりに圧迫される。
今まで以上に強い収縮に、耐えられなくなる。
自身を抜こうとしたが、その途中で引き留められるように締め付けられ、体が脈打つ。
解放された昂りを抑えることはできず、白濁が、ユウヤの中へ流れ込んでいた。


「は・・・」
体の中に熱いものを感じて、ユウヤが息を漏らす。
悦楽を覚えた後、僕は溜息を吐くように肩を上下させ、液にまみれた自身を引く。
とたんに、窪みから液体が溢れ出してきて、急に羞恥心が湧き上がって来るようだった。

「ユウヤ、ごめん・・・」
「いいよ・・・ルイのだから・・・」
気持ち悪いと思うのに、ユウヤははにかんで笑っている。
その笑顔が、何よりの救いだった。




その後は、もう一度浴槽に入って体を温めてから、ジェルを洗い流して浴室を出た。
もう、欲は完全に昇華されたのか、ユウヤの表情はどこか晴れやかになっているようだった。
「ルイ、疲れたよね・・・前、二人の相手したばっかりだから・・・」
絶対にユウヤの方が負担は大きいのに、気遣ってくれている。
そんな優しさが嬉しくて、そっとユウヤの髪をすいた。

「平気だよ。僕、結構貪欲みたいだから」
苦笑して言うと、ユウヤは照れたように俯きがちになった。
確かに、飲み会の日の夜は疲れたけれど、今とは状況が違う。
リードされたい願望と、リードしたい欲望は別物で、
ユウヤに対しては、思春期の少年の様に欲を覚えていた。
そこには、精神面で充足させられないのだから、せめて肉体面でカバーしたいという後ろめたさもあったけれど。
それ以上に、ユウヤのことが愛おしかった。

「ルイ・・・今日は、本当にありがとう。・・・僕、嬉しかった」
「ユウヤだったら、いつでもいい。また、絵を描いたら見せてほしいな」
ノートの一見はよほど恥ずかしい事なのか、ユウヤは耳まで赤くなった。
ユウヤは、気の多い相手を許容してくれている上に、気遣いまでしてくれる。
少しでも恩に報えるなら、いつだって欲求を昇華する手助けをしたかった。
いくら特殊なことをしたいと言われても、ユウヤの頼みなら応えられると、そう感じていた 。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
今回の発禁は結構力を入れて書いたので、とても長くなりました。
もう、何か、脳内危ないですね、今更すぎますけどね!←