限りなく危ない夢と妄想16


今日の授業は教授が出張へ行くということで、なんと40分も早く終わった。
一緒に受講していたシンは喜んでいたが、僕は授業料が変わらないのに勿体ないと思う。
けれど、早く解放されるのは、それはそれで喜ばしいことだった。

「今日は早く終わってついてたな。ルイ、時間あったら家に寄って行かねえか?」
「ああ、いいよ」
いつもはそのまま帰ることが多かったが、早めに授業が終わって機嫌が良いのだろう。
僕は遠慮なく、シンの家へ共に赴いた。




シンの家へ着くと、玄関に靴が投げ出されているのが目に付いた。
その持ち主も今しがた帰ってきたところなのか、学生鞄を持って廊下に立ち尽くしている。

「ルイさん!と、兄ちゃんお帰り」
「お前、部活じゃなかったのか」
「今日は休みなんだ。ちょうどよかった、ルイさんちょっと来て!」
とたんに、シュンに腕を引かれ、早く来てほしいとせかされる。
僕はちらとシンを見たが、軽く背を押された。

「どうせ、シュンの部屋でゲームでもしようと思ってたんだ。先に行ってろよ」
本当に、その予定だったのかもしれないが、シンの言葉はまるで弟のために言っているように聞こえた。
「やった!難しいゲームがあって、詰まってるんだ」
僕は腕を引かれるまま、シュンの部屋へ連れて行かれた。




シュンの部屋は大量の漫画があり、ゲームソフトが山積みになっていて、いかにも遊びたい盛りな雰囲気だった。
「このパズルゲーム、難しくてなかなか進まないんだよ」
シュンは、早速ゲームの電源を入れる。
すると、ゲーム機のロゴが表示された後、リアルな自然の風景が映し出された。
画質の美しさに、最近のゲームはこんなにも高度なのかと驚く。
シュンがセーブデータをロードすると、美麗な景色の中に少年が表れた。

「これ、いろんなギミック使って進んで行くんだけど、わからないんだ」
「ギミック?」
よく見ると、床に変わった色のボードがあったり、モンスターらしきものがうろついていたりしている。
どうやら、これらを使って進んで行くようで、そういうゲームなら役に立てるかもしれなかった。

「何だ、お前まだその面やってたのか。ネットで攻略調べればいいじゃねえか」
部屋に入ってきたシンが言うと、シュンは不満そうにした。
「そんなの面白くないじゃん。苦戦するから楽しいんだよ」
シュンは立派なことを言い、画面に向き直った。

「偉いな。どこまで役にたてるかわからないけど、協力するよ」
「ありがとう!」
満面の笑みにつられて、僕も微笑む。
シュンと接していると、純粋だった少年時代が回顧される。
懐かしむ気持ちがあるからか、シュンの部屋は不思議と居心地が良かった。
今はゲームもしなくなったし、漫画もほとんど読まなくなった。
好奇心旺盛で、積極的に自由時間を楽しもうとしているシュンが羨ましくて、微笑ましくもあった。



それからは、シュンにギミックの説明をしてもらい、苦戦しているところを一緒に考える。
最初は勝手がわからず眺めているだけだったが、やがて自分でコントローラーを握って操作していた。
何とかステージをクリアーすると、すぐ次のステージが出現し、またパズルを考える。
そうやって、シュンと一緒に解き方を考え、進めて行くと、昔感じた胸躍る感覚がよみがえってくるようだった。

いつの間にか夢中になっていて、ゲームの会話しかしなくなる。
シンは、バイトがあると言って途中で出て行ってしまい、ほとんど会話ができなくて申し訳なかった。
そして、何個目かのステージが終わったとたん、ファンファーレが鳴った。

「やった、レベルクリアだ!ルイさんのおかげだよ、ありがとう!」
よほど嬉しかったのか、シュンはコントローラーを手放して抱きついてきた。
僕は、喜びを共感するようにその背を軽く抱く。
ファンファーレが鳴り止むと、背景が荒れ地に変わり、新しいステージが始まった。
けれど、シュンや画面を見ずに、抱きついたままでいた。

「次に進まなくていいのか?」
「うん・・・少し疲れたから、また今度にする」
ゲームは放置され、ステージのBGMだけが部屋に流れる。
シュンはこの状態に安らいでいるのか、胸部の辺りから規則的な息遣いが伝わってきていた。


「ルイさんとこうしてると、すごく落ち着く。・・・オレのこと、わかってくれてるからかも」
「気が休まるんなら、良かった」
誰かの止まり木になれるのなら、これほどの喜びはない。
静止していると、シュンが顔を上げ、身を近付けてくる。
相手が間近に迫ると、つい、反射的に目を閉じてしまう。
すると、すぐに軽く唇が重なっていた。

そこからは、まだ不慣れな、躊躇いがちな様子が伝わってくるようだった。
前はあんな大それたことをしたというのに、遠慮している気持ちがあるのかもしれない。
僕は、拒みはしなかったけれど、引き寄せることもしなかった。



やがて、シュンが離れ、目を開く。
さっきはしゃいでいた表情はどこへ行ったのか、今はかすかに頬を染めていた。
「オレ・・・ルイさんのこと、都合の良い相手だって思ってるわけじゃない。
ルイさんが兄ちゃんたちと付き合ってるって、わかってるけど・・・触りたく、なるんだ」
思春期真っ盛りの年齢なら、仕方のない事だと思う。
しかし、同性に対して欲を覚える性質なら、それを解消することは中々難しい。
シュンのためなら、たとえ都合の良い相手だと言われてもよかったが。
相手を不快にさせまいと、気遣ってくれていることが嬉しかった。

「シュンは、リードするほうになりたいのか?」
「・・・オレ、どっちでもいいんだと思う。
触るのも好きだし、前に、ルイさんに触られたときも、良かったから」
「そ、そうか」
その心境は、自分と似ていた。
ジェンやユウヤには触れたいと思うし、シンやアスには触れられたいと思う。
相手が望むのなら、どちら側にでもなれる。
柔軟な性質と言えば聞こえはいいが、どっちつかずの優柔不断ともとれた。


「・・・シュンは、僕に対しては、どうしたいんだ」
好奇心で聞くと、シュンは迷うように目を伏せる。
「今、は・・・ルイさんに、触りたい」
シュンは照れくさそうに、控えめに言う。
そんな様子を見ると、少しだけ心音が強くなった。

黙っていると、シュンが首元へ唇を寄せてくる。
わずかに吐息を感じたとき、柔い物が触れた。
そこから漏れる息が温かくて、くすぐったい。
シュンは首筋や鎖骨の辺りに、次々と場所を変えて移動してゆく。
ほとんどはただ温もりを感じるだけだったが、途中で少し変化が訪れた。

「ルイさん、ここ、感じるの?」
「ま、まあ・・・」
首の血管の辺りに触れられたとき、反射的に肩が動いていた。
変化を察知したのか、シュンがそこで止まる。
そうして、皮膚が薄く色づいている場所を、舌でなぞっていった。

「っ・・・」
そこに触れられると感じるものが強く、思わず声を出してしまいそうになる。
シュンは血管の線を何度もなぞり、皮膚を湿らせる。
液の感触がいやらしくて、口呼吸の回数が多くなっていった。


「上着・・・脱がしても、いい?」
僕は、ここでも黙っていた。
この沈黙を否定ととらえられても、肯定ととらえられても、どちらでもよかった。
どうやら、それは肯定だととらえられたようで、シュンは上着に手をかけてボタンを外していく。
下の肌着は脱がせるのは手間だと思ったのか、そのままたくし上げられた。

シュンの掌が、心臓の辺りに当てられる。
その音は、少しだけ早いと自分でも感じていた。
「ルイさんの肌、柔らかいんだ。兄ちゃんはガチガチだもんな」
「シンみたいに、鍛えてないから」
掌は心臓の位置からずれてゆき、胸部を撫でる。
なるべく反応しないでおきたかったが、その手が起伏を覆ったとき、またわずかに肩が動いてしまった。
そこが反応を示す箇所だと気付いたのか、シュンは指先で起伏に触れた。

「っ、ぅ・・・」
集中的に触れられると、頭の中で数式を考えていたとしても感じるものは感じてしまう。
変な声を出しそうになっている様子を見て、もっと刺激したいと思ったのか、
シュンは、ふいにその起伏へ唇を寄せ、自らの口内に含んでいた。

「ぁ・・・っ」
柔らかな唇に挟まれ、思わずか細い声を発してしまう。
そこを軽く吸い上げられると、体が震えた。
「ここも、柔らかい・・・それに、感じるんだ」
シュンは、反応する箇所を探すように起伏へ舌を這わす。
小さな箇所へ受けた刺激は下肢へ直結し、帰宅できなくなる危険を感じた。
思わず、シュンの肩を押して引き離す。


「これ以上されると・・・帰れなくなる」
「それなら、オレがいかせてあげる。前、ルイさんがしてくれみたいに」
以前の事を持ち出されると、言葉に詰まる。
けれど、あれは失恋の傷心を慰めるためにしたもので、他の意図はない。
シュンに触れられることが嫌なわけではないが、これ以上行為を軽々しく進めると。
このふしだらな相手をますます求めるようになってしまうのではないかと、懸念していた。

「・・・前は、慰めるためにしたことだ。だから、そういうことは、本当に好きな相手とした方が・・・」
「好きだよ!ルイさんのこと、好きなんだ!」
言葉を遮られ、強く訴えられる。
その言葉は、興奮状態のあまり、深い考えもなしに発されたものだと思うけれど、
直接的な好意の言葉に動揺し、シュンの肩を掴む手が緩んでいた。

そのとたん、シュンが身を寄せてきて、下腹部に固い物が触れた。
相手の肌に触れただけで、こんなにも反応を示している。
それは、思春期の強い欲のせいに違いなかったけれど、本当に好意を抱いているのだと示されている気もして、戸惑っていた。


硬直していると、ズボンのベルトに、手をかけられる。
先に告げられた言葉が耳に残っていて、拒むことができない。
ズボンも、下着もずらされると、シュンは自分の衣服も取り払った。
自然と、昂っているものが触れ合う。
その箇所だけ温度が高く、じんわりと熱が伝わってきて。
触れているものを想像すると、気が昂っていくようだった。

「ルイさん・・・」
名を呼ぶ声は、いつもの調子とはまるで違う。
相手との行為に酔いしれているような雰囲気があり、シュンの欲が伝わって来る。
抑えきれないのか、触れ合った下肢のものに手が触れる。
やや小さな掌では、それらを覆いきれなくて、シュンは両手を使って二つのものを擦った。

「っ、ん・・・」
「あぁ・・・っ」
間近で、お互いが感じあっている吐息が混じり合う。
僕は両手で必死に体を支えていたが、快感で腕が震えていた。
二つの掌は、がむしゃらに下肢のものを愛撫する。
欲に突き動かされるままの、単純な動きだったけれど、
掌が動く度にお互いが擦れ、熱を帯びていく。
肩を押そうと片手を床から離せば、とたんに床に倒れてしまうだろう。
もう、それくらい、力が抜けてきていた。

「ルイさんのも、オレのと同じようになってきてる・・・」
「し、仕方ないだろ・・・っ」
シュンは自分の手の動きを予測できるが、僕は次にどう動かされるのかわからない。
それが、ふいに敏感な個所をなぞられることもあって、呼吸が不規則になっていく。
シュンの手つきは不慣れなものでも、がむしゃらな動きに欲を刺激され、
節操のない体がどうしても反応し、身震いしてしまう。
悦楽が下肢から伝わり、心音を高鳴らせ、指先まで侵されている気分になった。


「好きだ・・・ルイさん、好きなんだ・・・」
「う・・・」
その言葉は、気の昂りが発させているもの。
それに、以前に自分が使った様に、必ずしも愛情を示すものではない。
けれど、やはり、好意を向けられると悦んでしまう。

感情を吐き出すかのように、シュンの手の動きが早くなる。
その動きに連動するように、せわしない吐息が混じり合う。
一時も止まらない刺激に、高まりが最高潮に達していた。

「ルイさん・・・っ、あぁ・・・!」
「っ、あ、あ・・・!」
ほとんど同時に、抑制を忘れた上ずった声が上がる。
そして、下肢のものがひときわ熱くなり、強く脈打つと、二人分の精がシュンの手に吐き出されていた。
もう、体を支える腕がだるい。
昂りの余韻で、お互いの息はまだ荒かった。


「手、ねとねとだ・・・」
シュンは液を弄ぶように、指の間で絡ませる。
早く拭いてほしかったが、シュンは両手をじっと見つめ、何を思ったのか片手の液を舐めていた。
それを呑み込むように喉を鳴らすと、続けて、もう片方の手の液も舌ですくう。

「な、何してるんだ」
シュンは両方の液を飲むと、少し眉をひそめた。
「どっちも、少ししょっぱい・・・でも、何か、違う感じがする」
味を比べてみたかったのかと、半ば呆れる。
けれど、違いがあると聞いて、僕にも少し好奇心が生まれていた。
シュンの両手にまとわりついているものを、凝視する。
少し躊躇ったが、こんな機会は滅多にないと思うと、シュンの手を取り、同じように液を舐めていた。

どちらが自分のものかわからないが、両方を舌ですくう。
そして、淫猥な感触と、独特な匂いとともに嚥下していた。
確かに、シュンの言う通り酸味を感じたが、違いはよくわからない。
強いて言えば、片方は粘りが強く、喉に引っかかる感じがして、余計に淫らな感覚が与えられるようだった。


「何か、オレの舐められると、また起ちそう・・・」
その言葉に、僕ははっとして手を離した。
「は、早く拭いた方がいい。匂いが部屋に染み付くかもしれない」
「別に、オレは構わないけど」
「両親が入ってくることもあるだろ・・・」
しきりに訴えると、シュンはやっと腰を上げ、ティッシュで手を拭った。
何枚かもらい、手で受け止められなかった分を自分で拭う。
服の乱れを直し、もう出て行こうと立ち上がろうとしたが、その前に、後ろからシュンに抱き留められていた。

思わず体を強張らせたが、静かな呼吸を感じると体から力が抜けた。
まるで、すがりつくように、強く腕がまわされる。
そのとき、シュンは共感したがっているのではないかと思った。

同性とも行為ができ、どちら側にでもなれる自分に戸惑いがあってもおかしくはない。
同じ性質を持った相手がいるのだと、安心したがっているのかもしれない。
少なくとも、僕は無意識の内に同類であるシュンに惹かれていたのだと思う。
僕は、シュンの気が済むまで、その場から動かなかった。



やがて、シュンがゆっくりと腕を解き、体が離れる。
帰ろうとする前に、シュンの頭を軽く撫でた。
「高校に入ったら、きっと好きな人ができる。シュンだけを愛してくれる人が、きっといるよ」
励ましたつもりだったが、シュンは一瞬切なそうな顔になる。
けれど、その表情はすぐ笑顔に変わった。

「ありがとう、ルイさん・・・引き留めてごめん。もう、暗くなるね」
シュンが扉を開けてくれて、部屋から出る。
一緒に玄関まで行ったが、その歩みは普段より幾分か遅い気がした 。
少しでも長く一緒にいたいと、そう言われているようで。
僕は心苦しさと共に、好意的な感情が大きくなるのを抑えられなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
3話連続でR-18とかやばいですねこの頭、全く自重する気がないのがよくわかります。
ああ、リバって書きやすいなあ、書いてる本人がそうだからかもしれませんけど。