限りなく危ない夢と妄想17


もう昼近くの平日に、僕はベッドに寝転がって本を読んでいた。
本当ならば授業がある時間帯で、休校日というわけでもない。
今日この日、僕は初めて大学をさぼっていた。
それというのも、ユウヤから借りた本がとても面白くてやめられなくなって。
昨日、深夜まで読んでいたら、どうしても朝起きられなかった。

気付けばとうてい授業に間に合わない時間になっていたので、いっそ休んで読み進めようと決断していて。
一応、同じ授業を取っているアスにだけはメールで連絡をしておいた。
「今日は休む」と送ったら、すぐに「どうかした?」と短い返事が帰って来たけれど。
正直に詳細を言うと怒られる気がしたので、薄情にも返信はしない。
そうやって、他の理由を考えるのが面倒で、さっさと本を読みたくて放置していたのがいけなかった。

適当に昼食を食べて、またベッドに寝転んで読み進めていたとき。
ふいに、玄関のベルが鳴った。
敵との戦闘がクライマックスになっている良い場面だったので、無視したかったけれど。
それはあまりにもだらしないと思い、扉を空ける。
そして、僕は硬直した。


「やあ、ルイ。お見舞に来たよ」
「ア、アス・・・」
面倒くさがらずに、返信しておけばよかったと後悔する。
見たとおり、僕は体調不良でも何でもない。
アスは訝しむような視線を投げかけた後、笑顔になった。

「上がってもいいかい」
「ど、どうぞ・・・」
その笑顔が、なぜか恐ろしくて仕方がなかった。
何か買ってきてくれたのだろうか、アスはビニール服を携えている。
申し訳なく思いつつ、とりあえず部屋へ招く。
そこで、ベッドの上に本を置きっぱなしにしていたことに気付き、また後悔した。
部屋に入ると、案の定、アスは本に気付き、手にとってまじまじと見る。

「有名なベストセラーの本だね、僕も読んだよ。。
絶体絶命の中で、まさかあんなどんでん返しがあるなんて・・・」
「い、言わないでくれ!楽しみにしてるんだから」
大きなネタバレをされそうになり、とっさに言葉を遮る。
アスは何かを悟ったのか、溜息をついて本を置いた。

「まさかとは思うけど、本に夢中になって大学を休んだわけじゃないよな」
「う・・・」
そのまさかを言い当てられ、何も言えなくなる。

「君ってやつは・・・よりによって、僕が教えてあげた授業を休むなんて」
「ご、ごめん・・・」
昼近くになって起きたときは、授業内容をあまり意識せずにメールを送っていた。
だから、その授業が以前アスに教えてもらったものだと気付いていなくて。
折角ノートを見せ、マンツーマンで教授した授業を休まれては気分がよくないだろう。
アスは本と袋をテーブルに置き、再びベッドの前に行く。


「ルイ、おいで」
笑顔で言われ、薄々嫌な予感を覚えながらもアスの隣で止まる。
すると、肩を押さえつけられ、ベッドに座るよう促された。

「全く、君は真面目な学生だと思っていたのに」
「・・・ごめん」
もはや、謝罪の言葉しか出てこない。
アスを幻滅させてしまったと思うと、心苦しくなる。
申し訳なさで顔を見られないでいると、顎を掴まれて上を向かされた。

「ルイ、悪い子だ。少し、お仕置きが必要かな」
まるで幼子に言うようだったけれど、何も反論はできない。
そう言うアスはやはり笑顔のままで、むしろそれが怖かった。
アスの指が唇をなぞり、隙間に入り込もうとする。
今逆らうのは良くないと思い、自ら口を開いていた。

人差し指が口内に侵入し、舌へ触れる。
腹の部分で表面をゆっくりと撫でられ、液がまとわりついてしまう。
やけに恥ずかしくて、俯いてしまいたかったけれど。
楽しんでいるような、アスの視線に捕らえられ、顔を動かせないでいた。
続いて中指も入り込んで来て、同じ場所へと伸ばされる。
二本の指は制止したままの舌を触り、ばらばらに動き始めた。

「は・・・」
アスの指に翻弄され、舌に絡ませられる。
口を開いたままでいるので、そこから液の音が漏れ出し、羞恥を覚えずにはいられなくなる。
舌にも、性感帯があるのだろうか。
無理矢理動かされていると、頬にじんわりと熱が上っていった。

お仕置きというからには、いつその指が奥に突っ込まれるか気が気ではなかったけれど。
最後まで舌を蹂躙して終わり、やがて二本とも引き抜かれた。
指に伝う糸を気にすることなく、アスはそれを自分の口元へ持っていき、舌を出してその液を舐め取った。


「ア、アス・・・」
その様子がやけに艶めかしくて、目が離せなくなる。
表面を弄った後は、一滴も垂らさぬよう指を口に含んで、自分の舌に絡ませていた。
決して綺麗なものではないのに、そんなに執拗に弄られると、また熱が上る。
まるで、血の一滴まで独占したがっているような気がして。
僕はわずかな怯えと共に、心音がだんだんと早くなるのを感じていた。

「そんなに僕を注視して、興味を抱いてくれているんだね、嬉しいよ」
「何か・・・アスからは人を引き付けるフェロモンが出てる気がする」
ジェンの家に泊まり、裸を見たときもそうだった。
気が付けばじっと見てしまっていて、あわよくば触れてみたいとさえ思う。
惹かれて、誘われれば、襲われるのは自分の方だとわかっていても。
ふらふらと近付いて行ってしまうことを止められなかった。
アスは軽く口端を上げて笑い、ハンカチで指を拭った。

「さて、と。折角の機会だし、これくらいで終わるのは惜しいな」
そう言って、アスは床に膝立ちになる。
何をする気かとアスを見下ろすと、その位置を見て僕はよからぬことに気付いてしまう。
「最初見た時に、丁度良い高さだと思ったんだ」
何が丁度良いのかと言うと、アスの顔は僕の膝のあたりにあって。
そして、膝を開かせようと手を添えられていた。
それだけで、何をする気なのか察してしまう。

「ア、アス、あの、それは」
「僕の趣向を知っているんだから、わかるだろう。・・・これは、君の断罪だよ」
断罪、と言われるとやはり言葉に詰まる。
授業をさぼった自分が悪いのだけれど、突然のことにうろたえてしまう。
戸惑ったけれど、アスの言う通り、罪滅ぼしのつもりで大人しくしているべきだろうか。


考えている間にも、ベルトが取られて、前を開けられる。
本気で抵抗する事が出来なくて、膝が開かれ、間にアスが割り入って来ていた。
手は自由なのだから、思い切り頭を押せば退けられるけれど。
迷いがある状態では、自分の事よりアスの欲求を解消させたい思いの方が強くて、とうとう下着がずらされていた。

中心部のものが外気に触れ、下を向かないように壁を見詰める。
自分のものがまじまじと見られていて、恥以外の何物でもない。
それでも、ここで抵抗すればアスの気を悪くしてしまうと思っているのか、相変わらず手は動かなかった。
抵抗されないと判断したのか、まだ反応していないものに、柔らかなものが触れた。

「っ・・・ん」
それは数秒ほど同じ位置に留まると、他の位置へ移る。
先端の方へ触れられると、背筋を寒気が走った。
今、あられもない場所に口付けられていると思うと、足を閉じたくなってしまう。
けれど、そんなことをしては断罪にならないと、我慢する。
やがて、その感触は柔らかくとも液を帯びたものに変わり。
弾力のあるそれは、口付けていた箇所をなぞるようにゆっくりと這わされていった。

「う、ぁ・・・っ」
液を纏っているものは、何のためらいもなく敏感な個所を弄る。
じっくりと感触を味あわせようとしているのか、動きは激しくはない。
たまに往復して同じ箇所へ触れられると、上ずった声が出そうになってしまう。
今更なことだけれど、女性の様な声を出すのはやはり恥ずかしくて、喉元で抑えつけていた。
けれど、いくら抑えつけても感じる物は変わらなくて。
アスの舌に絡められ、なぞられると、その箇所に熱が凝縮されてしまっていた。


「ふふ、いつまで経っても感じ易いのは変わらないな」
「そんなの、仕方ないじゃないか・・・っ」
敏感だろうが鈍感だろうが、生まれつきの体質なのだから仕方ない。
アスは早々に会話を中断し、再び舌を這わせる。
熱くなった下肢のものは膨張していて、柔らかな感触にしきりに反応した。

こうなると、息が荒くなり始め、体にも熱が循環してきて。
つい俯くと、アスの金色の髪が見え、今の状況が明確になる。
自分の太腿の間に顔を埋めている様子を見ると、。
こんなに綺麗な相手にとんでもないことをさせてしまっていると自覚して、落ち着かなくなる。
その髪が揺れると共に舌が動かされると、抑えきれなかったか細い声が発されていた。



やがて、弄られている感触がぴたりと止み、アスが顔を上げる。
「たまには、焦らして放置プレイでもしてみようか?それとも、ここからは目隠しでもしてみるとか」
「そ、そんなこと・・・」
体が反応すると目を閉じてしまうので、目隠しはあまり意味のないことだけれど。
自分のものが昂っているこの状態で放置されるのは、正直辛い。
何度も弄られ、高まりきった欲は抑えようとしても抑えられるものではなくて、刺激を感じられなくなったものが、たまらず疼いていた。

「言ってごらん」
「え・・・?」
「何をしてほしいか、言ってごらん」
アスが、意地悪そうにそう促す。
続きをしてほしければ、どうされたいかを言えと。
その言葉を知らないわけではないけれど、口にするとなると話は別だ。
散々ふしだらなことをしておきながら、恥じらうなんておかしいことかもしれない。
けれど、自分から、口に出してはっきりと求めたことなんてなくて、戸惑ってしまう。
躊躇っていると、アスが立ち上がった。

「どうやら、本当に放置してほしいみたいだね」
痺れを切らしたのか、アスがきびすを返そうとする。
そのとき、反射的に、腕を掴んで引き留めていた。
アスは、こんな駆け引きがとても上手い。
そうわかっていながら、引き寄せられて、虜にされてしまう。
僕は、一瞬アスと視線を合わせてから、伏し目がちになり、口を開いた。


「・・・アスに、して、ほしい」
「何をしてほしいんだい」
具体的に言うとなると、口が閉じてしまう。
けれど、今は羞恥に構っていられない。
強まっている欲に背を押され、アスを見上げて言った。

「アスに・・・・・・舐めて・・・ほしい・・・」
そう答えた瞬間、アスが口だけで笑い、唇を軽く舐める。
その姿はとても艶めかしくて、今からその舌に弄られるのだと思うとまた背筋が寒くなった。
悪寒ではなく、これから感じる快楽に対して、体が先走って反応していた。

「舐めるだけじゃなくて、もっと良くしてあげるよ」
アスが膝立ちになり、先と同じ所へ顔を寄せる。
けれど、感じたのは舌の感触ではなかった。
先端に、アスの唇が触れる。
そして、それはそのまま口内へ誘われていた。

「あぁ・・・っ!」
先の方が柔らかなものに包まれ、今までとは違う感触に驚いて声が出る。
そのまま舌先で弄られると刺激が強まって、息を吸うときにも声が上ずりそうになってしまう。
アスが徐々に身を進めて行き、昂ったものが、液を帯びている中へと含まれていく。
それに伴い弄られる範囲も広くなっていって、どんどん熱が高まる。
全てが咥えられたときには、自分のものからわずかに液が出てきているのを感じていた。


アスは当たり前のように液を絡め取り、そして嚥下する。
飲み込まれるときに少し吸い上げられると、どうしても喘いでしまう。
限界が近付いている事を感じ取ったのか、急に、アスの動きが早くなった。
舌は全体を這いまわり、唇が上や下に、たまに位置を変える。

「あ、あ・・・ぅ、や・・・」
そうして動かされると、まるで、誰かに挿入しているような感覚にとらわれていった。
アスがたまに息継ぎをすると、吐息がかかって昂りを助長し。
自分の液とアスの唾液が混じり合い、執拗に弄られ、脳が理性を無くす。
もはや、理性がなくなっているのは同じなのか。
欲を自分の口内へ解放させるるように、強く吸い上げられた。

「アス・・・っ、あ・・・!」
限界に達した昂りを、堪えることができない。
感じるままに声を上げ、どうしようもない欲が、アスの口内に散布された。
けれど、アスは身を離さず、その状態で白濁を嚥下しようとする。
すると、喉が動く度にまた吸い上げられる感覚がして、体が震えていた。

「アス・・・っ、はな、し・・・っ・・・!」
達したばかりのものはひときわ敏感になっていて、これ以上刺激を加えられると、気がおかしくなりそうになる。
思わずアスの肩に手を置くと、すんなりと離れた。
そこで、全てを飲みほしたのか、アスが息を吐く。
吐息と共に自分の精の匂いがわずかに漂ってきて、とたんに羞恥心がよみがえってきた。

さっさと粘液質な感触を取り去ってしまおうと、立ち上がろうとしたけれど。
その前にアスがハンカチを取り出し、自分の液にまみれたものを拭っていた。
触れられるとまた声が出そうになり、ベッドのへりを握って必死に抑えつける。
そこが拭き終わると、僕はすぐに服を直した。


「アス・・・すぐに洗面所に」
今すぐにでも口をすすいでほしかったけれど、アスはベッドから離れ、持参した袋から何かを取り出していた。
お菓子の様な、粒上のものを何粒も口に放り込んで、咀嚼している。

「君の味の余韻を感じていたいけれど、道行く人々に感付かれるのは嫌だからね」
おそらく、口臭取りを大量に食べたのだろう。
アスが話すと、独特な匂いではなく、ミントの香りが広がってきていた。
アスはそれだけを取り出し、残りはテーブルの上に放置したまま部屋を出ようとする。

「・・・いきなりこういうことをされるのが嫌だったら、もう隙を作らないことだ。
僕はどんな機会でも利用する、とんでもなく狡猾な奴だから」
自虐的にそう言い、アスは部屋を出て行こうとする。
「僕は、アスがただ狡猾な相手だとは思わない。・・・それに、嫌だったら蹴り飛ばしてる」
立ち去る前に、そう言葉を投げかけていた。

アスは、僕が授業をさぼったことを利用して、行為に及んだ。
そして、断罪という言葉を使い、拒ませないようにした。
確かに、ずるいやり方かもしれない。
けれど、アスはどこか不安がっていると思った。

拒まれないように、そんな防護策を準備せずにして易々と行為などできない。
半ば無理矢理したことに後ろめたさを感じるけれど、欲求には勝てない。
そんな葛藤が渦巻いているのではないかと、そう思っていた。
アスと、視線が交差する。

「君ってやつは、本当に理性を崩壊させる様な事を言う。
けれど・・・きっと、僕はそれに救われているんだろうな」
相手にも、自分にも告げるようにそう言い残し、アスは今度こそ部屋を出た。
僕はようやく腰を上げ、テーブルに置かれた袋の中身を見る。
その中には、数種類の果物が入っていた。
どれも形がいいものばかりで、みずみずしい。
本当に、心配してくれていたんだろう。
アスは狡猾というよりも、不器用なだけなんだと、そう感じていた。


―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
もうこのシリーズは大半がいかがわしいですね・・・もうなんかあぶないですこのあたま。