限りなく危ない夢と妄想4


約束通り、ユウヤはアスを呼び出してくれた。
場所は、大学の和室。
講義がなく、滅多に使われない場所を指定したらしい。

授業が終わり、その部屋へ赴く。
下駄箱を見ると、すでに一足の靴があった。
すでに、アスが来ているのだろう。
僕はやや緊張気味に襖を開け、対峙した。

「アス・・・」
呼びかけると、アスはあまり驚くことなく僕を見た。

「ここに来るのは、ユウヤだって聞いてたんだけど。・・・やっぱり、君か。。
頼むのならシンにすべきだったね、あの子は緊張すると声が震える癖があるから」
どうやら、僕がここに来ることはちゃんと言わないでおいてくれたらしい。
けれど、誰が来るのかは推測されてしまっていた。
後ろ手で襖を締め、じっとアスを見る。
お互いの距離は、手が届かないくらいに離れていた。

いざ、こうして対面してみると、どう話を切り出そうかと迷う。
何も言わないでいると、アスが先に言葉を発した。


「それで、僕等と手を切りたいって、そう伝えに来たのかい」
「え・・・」
僕の心境を誤解しているのか、思ってもいないことを諭される。

「・・・元々、君を縛り付けるのは、ジェンが帰ってくるまでの期間限定にしようって思ってた。。
その後、君が離れて、シンとユウヤから恨まれることになっても、それでよかった」
明かされた事実に、驚く。
ほんの一時だけでも、アスは相手を求めていた。
自分の策略が原因で、友人から疎まれても、それでいいと。

そこにあるのは、どこまで深い愛情なのだろうか。
それを向けられているのは自分なのだと思うと、心音が反応した。
畏怖とも、親愛とも取れない感情が、渦巻いていた。

「ジェンが帰ってくるのは明日だったね。それで、君はもう自由だ。。
・・・最も、ジェンが君の家に電話したときから、僕等が君を縛り付けておく理由はなくなっていたんだけど」
その瞬間、相手を自由にするというアスの言葉は、全て本当のことなのだと実感した。
アスなら、ジェンに電話をしないよう言えるはずだった。
けれど、そうはしなかったことが、ずっと相手を束縛しておくつもりではなかったのだと告げていた。


「アス、僕は・・・君達の元を離れるつもりなんてない」
たとえ、ジェンが帰って来たって、アス達と疎遠になることはない。
明日になれば、親しい友と別れなければならないなんて、考えられない。
そう思って言ったのだが、通じていなかったのか、アスは首を横に振った。

「気遣わなくていい。どうして、無理矢理犯した相手にそんなことが言える?。
僕等は、君に想いを告げてしまった。・・・もう、元には戻れないんだよ」
言葉を聞くだけでも、憂いが込められているのがわかる。
僕はアスを気遣っているわけじゃない、嫌悪しているわけでもない。
そう伝えたくて、一歩前に踏み出した。

「じゃあ、元に戻らなくていい。。
だけど・・・僕はシンと、ユウヤと、ジェンと・・・アスとも、一緒に居たいんだ」
「・・・どういう意味だい」
アスが、難解な問題にぶつかったように眉根を潜める。

「この前、シンの家に行った。何をされたか・・・アスなら、わかると思う」
直接的な言葉を使うのは躊躇われて、諭すように言う。
予想通り内容を理解したのか、アスの眼光が鋭くなった。

「それだけじゃない、その後はユウヤの家に行った。。
そのとき、アスを呼び出すことを交換条件に、僕はユウヤが望むことをしたんだ」
ユウヤが望んでいたこともわかっているのか、アスの表情は厳しいままだった。

「それなら、尚更僕等と縁を切りたいだろう。二人が無理を言って・・・」
「そうじゃない、聞いてくれ、アス。僕は・・・それでもいいと思ってるんだ」
アスの言葉を遮り、続けて訴える。

「皆と疎遠になるくらいなら・・・僕は、君達の想いを拒まない」
アスの目から鋭さが消え、代わりに驚愕の色が浮かぶ。
「君は・・・自分が何を言っているのか、わかっているのか。。
その身一つで、シンも、ユウヤも、僕も受け入れるっていうのか?」


「こんなことを言ったら、淫乱かと思われるかもしれない。。
けれど、皆を愛してるわけじゃない。受け入れてもいいくらい、親しいだけなんだ」
僕の答えは理解し難いものなのか、アスは再び眉根を寄せた。

自分自身、どうしてこんな結論が出たのか、はっきりとわかっていないから仕方がない。
愛情ではないけれど、限りなくそれに近しいもの。
恐らく、皆が抱いている想いと、僕の思いは別物だろう。
それでも僕は、あんなことをしたシンにも、ユウヤにも煩わしさを感じていなかった。

「馬鹿だな、君は・・・折角、僕等の狂愛から逃れられるって言うのに」
その言葉は、まるで自分を自嘲しているようだった。
「自分でも、そう思う。だけど、僕は・・・その狂愛を受け入れてでも、君達と一緒にいたいんだ」
僕はまた一歩を踏み出し、アスへと近付く。
手を伸ばせば、届く距離まで。
その射程距離に入ったとたん、アスの腕がさっと背にまわされて、体が引き寄せられた。

「僕の執着心を甘く見ない方がいい。今なら、まだ抑制できる」
最後の確認をするように、告げられる。
この期を逃せば、もう逃げられなくなるのだと。
それを悟っても、僕は身じろぎ一つしなかった。
少しの間があった後、アスは何かを決心したように僕と視線を合わせた。


「ルイ・・・座って」
肩を押され、言われた通りその場に座る。
そして、アスと視線が交わった瞬間、すぐに口を塞がれていた。
今まで抑えつけていたものをぶつけるように、深く重ねられる。
厭わしいとは思えない感触に、気付けば目を閉じていた。
相手を受け入れることを証明するように、僕は何も抵抗しなかった。

長い口付けの後、僕はわずかに口を開いて息をつく。
そうしたとたん、再びアスが覆い被さってきて。
開かれた隙間から、柔らかくとも唇とは違う感触のものが入ってくるのを感じた。

「ん・・・っ」
じっとしていると、とたんに舌がアスに絡め取られた。
身震いしたくなるような、強い感覚が背を走る。
それは、淫猥な音をたてながら口内を巡ってゆく。
こんなにも深い口付けをしたことがない僕にとって、それは十分な刺激になっていた。

それでも、やはり抵抗はしなかった。
長い触れ合いが終わり、解放された頃には、息があがっていた。
その様子を見て、アスはかすかに微笑む。
今から、相手を自由にできる。
アスは、そのことにたまらない高揚を覚えているようだった。

急いているのか、服のボタンが次々と外されてゆく。
前がはだけると、アスの指先が胸部をなぞっていった。
むずむずとするような、くすぐったいような感じがする。
その指先が胸のある一点に触れた瞬間、ぴくりと肩が震えた。


「綺麗な肌だ・・・前は、二人がいたから思うようにはできなかったけれど・・・。
今は、僕のものにできる」
アスは恍惚の表情のまま言い、身を下げる。
そして、触れていた胸部の起伏に唇が寄せられ、吐息を感じたかと思うと。
そこは、アスの口内に含まれていた。

「っ、ぁ・・・」
思わずか細い声を発してしまったとたん、舌先で、その箇所を愛撫される。
口内を蹂躙されていたときとは、また違う感覚に身震いした。
弄られるだけでではなく、甘噛みされると、さらにか細い声を出さずにはいられなくなる。
胸部に、こんなにも執拗に刺激を受けたことがなくて。
体は、だんだんと反応を示してしまっていた。

息遣いが不規則になってきたことに気付いたのか、アスが身を離す。
唇からわずかな液が伝っているのが見え、それがとても妖艶に思えて、とても直視できなかった。

「ルイ・・・感じてるんだね、僕の行為に。・・・シンにされるより、良くしてあげるよ」
アスは妖しく笑み、手が下肢へと伸ばされる。
露わにされるとわかっても、拒むつもりはなかった。
むしろ、わずかに腰を上げ、服を脱がすのを助長していた。

自分のそんな行動は意外なことだったけれど、本能はアスに続きをしてほしがっているのかもしれない。
上半身の服は完全には取られないまま、下肢は何も身につけていない状態になる。
中途半端で奇妙な格好だったが、そんなことを気にしている暇はなくなった。
とたんに、外気にさらされたものが、アスの口内に含まれる。

「っ、あぁ・・・!」
アスの舌に触れられ、あられもない声を上げてしまう。
誰かに聞こえてしまったらどうしようかと、必死で口元を押さえる。
けれど、アスはそんなことは構わないと言うように、含んでいるものを弄っていった。

「んんっ・・・ぁ、あ・・・っ」
徐々にアスの中へ導かれると、抑えようとしてもどうしても喘ぎが漏れてしまう。
アスのものは、とても丹念に這わされてゆく。
弄られていない箇所はあるだろうかと、そう思うほど。
どこかに触れられるだけでも肩が震え、息が熱くなる。
そして、全てがその口内に納められてしまったときには、僕は早々に限界を感じ始めていた。

「アス・・・っ、もう、いいから・・・離し・・・っ!」
この先どうなるのかわかっていないわけではないので、アスを引き離そうと呼びかける。
そのことを、アスも知っているはずだった。
けれど、這わされるものの動きは止まらない。
それどころか、より滑らかに動き始める。
まるで、この先のことを望んでいるかのように。

「駄目だ、アス・・・っ、あ、あ・・・」
息も絶え絶えに、最後の呼びかけをする。
離れてほしいと思っているのなら、無理にでも相手を退ければいいのに、そうすることができなかった。
やはり、本能では、望んでいるのかもしれない。
このまま、アスに触れ続けてほしいと。
そして、飲み込んでしまってほしいと。

声だけでいくら訴えても、アスが離れることはなくて。
むしろ早く達させたいと言うかのように、全体が含まれたまま、強く吸い上げられた。

「ぁあ・・・っ!・・・は、あ・・・!」
自分では抑えられないものが、せり上がってくる。
もう、欲を止められない。
ここが大学だと忘れ、高い声を発してしまったその瞬間。
僕の熱は、アスの口内へ注がれてしまっていた。


「は・・・」
溢れ出るものがおさまると、アスはやっと口を離した。
目だけをそこへ向けると、アスの喉が何かを飲み込んだように動いていた。
何が嚥下されたのか言われなくともわかり、とたんに羞恥で一杯になった僕はさっと視線を逸らす。

「ふふ・・・前はユウヤに譲ったけれど、今は、もう・・・」
目的は果たされたのか、アスはまた妖しく微笑んでいた。
余韻のせいで脱力したままぼんやりとしていると、ふいに体が抱き寄せられる。
そして、耳元で告げられた。

「愛してるよ・・・ルイ」
僕は何も答えられなかったが、アスの腕を振りほどくこともしなかった。





翌日、僕等は空港へジェンを出迎えに行った。
飛行機から、ぞろぞろと人が下りてくる。
そこに、両手に荷物を持ったジェンの姿があった。

「あ、来てくれたんだー!」
ジェンは満面の笑みを浮かべ、駆け寄ってくる。
「お帰り、ジェン」
最初は、アス達の言葉を信じ、無残なことになったと思っていた。
だから今、ジェンを目の前にして、僕は本当に安心していた。

「皆揃ってくれて、嬉しいなー。ちょうどいいし、お土産渡すよ」
ジェンが、袋から綺麗な瓶を取り出す。
香水にしては大きすぎるし、飲料にしてはけばけばしい色をしていた。


「これ、ルイにあげる。彼女できたんでしょ?それ使って、お風呂で楽しみなよ」
「え、あ・・・」
別れてしまったのだが、折角の好意を断るのは気が引けて、瓶を受け取る。
外国で買ったものなので、英文表記でいろいろと書いてある。
文章をじっくり眺めてみると、どうやら水をジェル状にする作用があるらしいとわかった。

「これ、お風呂でって・・・」
「そうそう、お湯がねとんねとんになって、いやらしくなるんだよー」
この液体がどういう効果をもたらすのかわかり、僕は少し焦る。

「あの・・・残念だけど、僕、彼女はもういないんだ」
「え?そうなの?じゃあ、ボクと一緒に使おうよー。面白そうじゃない?」
意外な言葉に、焦りは狼狽に変わる。
無邪気なジェンに、三人の視線が集まっていたから。



一時は、壊れてしまった関係。
けれど、今はまた五人揃って一緒にいられる。
友達、というよりは深まった間柄になったが。
これからも、この五人で日常を送っていけるのなら、それでよかった。
僕は、誰かのことを愛していると、胸を張って言うことはできないけれど。
それに限りなく近い感情を抱いているのは違いなかったから。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
一話で終わるはずの危ない妄想が、まさかここまで続くとは・・・。

本当はここで終わっていましたが、突発的に続きを思いついたので書いて行きます!。
この話は終わらせたくないので、しばらく続いたり停止したりします。
とにかく、妄想意欲が爆発した時に解消させる連載になりそうです。