限りなく危ない夢と妄想8


先日まで、放課後はユウヤにつきっきりだった。
家に帰るのは毎日陽が落ちてからで、夕飯を食べて、風呂に入ったら眠るパターンを繰り返していた。
そして、自分を描いてくれたことが嬉しくて浮かれていて、とても重要なことを忘れていた。

それを思いだしたとき、浮かれた気分は消え去り、さっと血の気が引いていた。
だから、僕は授業が終わった後、アスに頼みこんでいた。

「アス・・・頼む、ノートを見せてくれ」
忘れていたのは、テストのことだ。
この授業には特別に中間テストがあり、成績評価の半分を占める。
それなのにあまり勉強しておらず、とにかく焦っていた。

「僕があまり他人にノートを見せたがらないのは知ってるよね」
そう言われて、僕は押し黙る。
アスが博学なのは知られていて、そのノート目当てで近付いて来る生徒は少なくない。
自分で努力をしない相手をアスは嫌悪し、突き放していた。

だから、他の友人もこの申し出をすることはなかったが。
それでも、僕は今までにない危機感を覚えていて、情けなくも懇願していた。
そんな様子に同情したのか、アスが軽く溜息をつく。

「わかった。けど、ノートは自分にわかるようにしか取ってない。。
だから、マンツーマンで教えてあげるよ」
「ごめん・・・本当に助かる」
そのとき、僕は申し訳なさで俯きがちになっていたので気付かなかった。
アスが、いつかのように怪しい笑みを浮かべていた事に。




放課後、僕はアスの家を訪れていた。
大学でもよかったのだけれど、自宅の方が落ち着くと言われたので何も言わなかった。
アスの部屋に着くと、長椅子に座って早速自分のノートを取り出す。
一応、授業の内容は書いてあるけれど、ただ文章を写しただけで。
重要なところがどこかわからず、覚えるのに苦労しそうだと一目で分かる。

「・・・ついでに、ノートの取り方も教えた方がよさそうだな」
アスが取り出したノートを見ると、受けている授業は同じはずなのに、内容が全然違った。
3色ボールペンで重要な語句にマークがされており、適度な行間が空いていてとても見やすい。
それだけでなく、教科書のページや参考文献の情報なども書いてあって、いかにも勉強家のノートという印象がある。
ただ、ところどころに奇妙な記号が書いてあった。


「アス、この記号は?」
「これは、テストに出そうな部分のマークだよ。。
記号があると視線が行きやすくて、見返す度に頭に入ってくる」
テストに出る部分など、先生は教えてくれない。
その記号は予測でしかないはずだが、アスが言うととたんに重要なものに思えてきた。
それにしても、1冊のノートに様々な工夫が凝らされていることに、勉強への意識の違いを感じる。
まさしく、本気で一番良い判定を取るために受講している優等生だ。

僕はと言うと、とりあえず単位をもらえればいいとしか思っていないので。
テストで高得点を取る気はなく、とりあえず最低限度の勉強で済ませていた。
今回は、その最低限度もできていないから単位を落とす危険性が大いにあった。

「折角教えるんだから、今より1ランク上の成績になるよう努力するんだろうね」
「・・・ど、努力、するよ」
正直、自信はなかったけれど、こう答えるしかなかった。




それから、僕はアスにつきっきりで勉強を教えてもらった。
まずは重要な部分を整理して、ノートを取り直す。
そうして書くだけでも頭に入ってくるとのことなので、とにかく手を動かした。
文章が整然と整理されてゆき、見違えるほど見やすくなる。
アスがヤマを張った部分も教えてもらい、これなら今からでもなんとかなりそうだった。

「マークした部分だけじゃなくて、全体的に見直しておきなよ。100%当たるわけじゃない」
「わかってる。おかげで単位を落とさずに済みそうだよ」
意外と時間がかかり、いつの間にか陽の光は夕日に変わっていた。

「アス、今日は本当にありがとう。暗くなる前に帰るよ」
ノートを片付け、立ち上がろうとする。
だが、その前に肩に腕が回された。

「やっと二人きりになれたんだ、何もせずに帰すと思うかい?」
「ア、アス・・・」
肩に回された腕に力が込められ、引き寄せられる。
アスの家へ行くとき、何も覚悟していないわけではなかった。
友人は例外なく、触れ合うことを望んでいるのだ。
それでも、アスが目と鼻の先まで近付くとどぎまぎせずにはいられなくて、僕は反射的に目を閉じていた。


唇に触れるかと思ったが、近付いてきたのは別の個所だった。
耳元に、吐息を感じる。
次の瞬間には、そこへアスの唇が触れていた。

「っ・・・」
耳は意外と敏感で、少し触れられただけなのに背筋に寒気が走る。
アスはただ口付けるだけでなく、耳朶を唇で食む。
僕は滅多に触れられない箇所への刺激に動揺して、口を半開きにさせてしまっていた。
そこへ、唇ではない柔らかなものが触れ始める。
湿り気を帯びたものに耳の形をなぞられると、思わず肩が震えた。

「こんな無防備な格好で来て・・・警戒心の欠片もないのかい?」
ボタンもファスナーもない、カジュアルでゆるい服装のことを言っているのだろうか。
ふいに、アスが服の下に手を滑り込ませ、腹部に触れた。
反射的に、アスの肩を掴む。


けれど、押し返せなかった。
無理を言って勉強を教えてもらった身で、アスを拒むのは身勝手な気がした。
抵抗しないでいると、アスの手は上がって来て胸部で止まる。
中心に掌が添えられ、心音を確かめられているようだった。

耳に触れられていたせいもあって、少し早いと自分でもわかる。
こうしているだけでも、次に何をされるのかという緊張で鼓動が増す。
そして、アスの手が移動し、胸部の起伏へ触れた。

「う・・・」
指先で弄ぶように触れ、小さな箇所が刺激される。
執拗に愛撫されると、自分の下肢がかすかに疼いた。
「ふふ・・・感じやすいんだな」
まるで相手の変化を読み取ったかのように、意地悪く言う。
アスは服から手を抜き、今度は疼いた下肢へ触れようとした。

「ア、アス、だ、誰か帰ってきたら・・・それに、汚れる・・・」
「両親が帰って来るのは遅いし、拭く物なんていくらでもある」
言い訳をさせぬよう言い、ズボンの中へ指先を滑り込ませる。
だが、中心部へ届く直前で動きが止まった。


「君が本気で嫌がるんなら、止める」
真っ直ぐに見詰められて、猶予を与えるように告げられる。
僕は、言葉に詰まってしまった。
動揺してはいるけれど、嫌悪感が湧いてこない。
そのまま黙っていると、指先は下着をかいくぐり、中のものへ触れた。

「っ、あ・・・」
耳のときよりも、胸部のときよりも感じる物が強く、吐息と共に声が漏れた。
指が、まだ反応しきっていないそれを、まんべんなく撫でてゆく。
あられもない声を発してしまうことに羞恥を覚え、何とか喉元で抑えつけるけれど。
とある場所をなぞられると、体が震えて反応してしまう。
すると、アスが口端を上げ、その箇所へ集中的に触れ始めた。

「あ、あ・・・っ、や・・・」
ひときわ敏感に刺激を感じ、上ずった声が発されてしまう。
アスの肩を掴む手に力が入り、体が快感に耐えようとするが。
息をする度に声が出てしまって、どんどん頬に熱が上っていった。

「君も厄介な奴を友達に持ったもんだね。。
僕だけでも、突き放しておけばよかったと思わないかい・・・?」
大それたことをしておきながら、アスが自虐的な台詞を言う。
それは、理性が薄れ、つい吐き出された本音のように聞こえる。
まるで、自制できない自分にいらつき、残酷な言葉を投げかけて欲しがっているようだ。
けれど、僕はアスの言葉を肯定できなかった。

「っ・・・そんなこと、ない。僕にとっては、アスも大切な仲間だ・・・」
ぴた、とアスの動きが止まる。
表情はいつものように平静だったが、胸の内では何かが渦巻いているように思えた。
「そんなことを言うから、僕はますます君に執着するんだよ」
自分を咎めているような、とても静かな声。
欲望を止められないことを情けなく感じている気がして、僕は即答した。


「・・・執着すればいい、アスは他の皆との関係を許してくれてる。。
僕がアスを突き放す理由なんて、ない」
離れたかったら、とっくに離れている。
授業で隣に座ったり、昼食を一緒に食べたりしない。
欲望が強いのは、僕も同じだ。
たとえ、大胆な事をされても、友人を一人たりとも失いたくなかった。

「僕はずるい奴だ。君が断れない状況を作って犯す、悪どい知能犯だ」
「そうかもしれない。・・・けど、不思議だけど、僕はアスに嫌悪感を覚えたことがない。。
それは、やっぱり、アスと離れたくないからだって・・・そう思ってるからなんだ」
面と面を向かって言うのは恥ずかしくて、俯きがちになり、声が細くなった。
すると、顎を取られ、顔を持ち上げられる。
再び正面を向いた瞬間、アスに口付けられていた。

無理矢理押し付けるのではなく、そっと重なり合う。
相手を慈しむような行為に、気付けば目を閉じていた。
じっと、触れ合っているこの時に安らぎを感じて、ほとんど無意識の内に、薄く唇を開く。
そこから、アスが自らを差し入れ、口内のものに触れていた。

「は・・・」
お互いがやんわりと絡まると、自然と吐息が漏れる。
それは、相手を昂らせるのではなく、信頼関係を確かめ合っているような、そんな行為だった。
長く、深い交わりに、僕は温かなものを確かに感じていた。


アスが離れ、僕は目を開く。
目の前にある表情は、穏やかなものだった。
ふいに、アスの手が、再び動き始める。
指先が、先に触れた弱い部分をなぞり、反応させようとした。

「あっ・・・う・・・」
強い感覚を覚え、僕はまた喘いでいた。
面と向かって声を上げていると羞恥心が湧き上がり、俯く。
けれど、さっきと同じように顎を取られて顔を上げられた。

「全部見たい。ルイの恥ずかしがっている顔も、感じている表情も、全部・・・」
顎を固定されたまま、下肢にあるアスの手が早くなる。
荒々しいものではなく、優しく全体が愛撫されてゆく。
手つきが緩やかでも、感じるものはどんどん昂っていった。
アスを見据えたまま息を吐く度に、上ずった声が出てしまう。
羞恥でしかなかったけれど、欲情を抑えることができない。
そして、一時も休むことなく刺激され続けたものが、強く脈打った。

「あぁ・・・っ、アス・・・!」
相手の名を呼ぶと同時に、全身に力が込められる。
アスの肩を強く掴んだ瞬間には、体が脈打ち、昂りが解放されていた。
溢れ出た液のほとんどは、アスの掌に受け止められる。
数滴は手から流れ、椅子の上に滴り落ちた。
そこで、顎にあった手がやっと離される。
すると、アスは掌に付いた白濁を自分の口元へ持って行き、躊躇うことなく舐め取った。


「な、何して・・・」
目の前で自分の液を舐められ、とたんに羞恥心がよみがえってくる。
独特の臭いが鼻に付き、決して美味しいものではないと思うのに。
アスは指先まで舌を這わせ、平然と液を嚥下していた。


「こんなことをして、変態だって思うかい」
「いや・・・」
「こうすると、気が落ち着くんだ。相手の何もかもを、自分のものにしている気分になる」
アスが液を弄っている間、ずっと視線を感じていた。
行為が終わったばかりだというのに、瞬間的に心音が強くなる。
剥き出しの独占欲を向けられ、アスから目を逸らせない。


捕らわれたがっているのだろうか。
この相手に束縛され、蹂躙されたいと。
そんな性癖を持ち合わせた覚えはないが、アスになら自由にされてもいいと、どこかで思っていた。
アスが液を舐め終わり、ハンカチで手を拭く。
そこで、僕ははっとして立ち上がった。

「も、もう暗くなるし帰るよ、勉強もしないといけないし」
僕は慌てて服を整え、鞄を持つ。
「ああ、これで単位を落としたら・・・覚悟しておくんだね」
「あ、ああ・・・」
脅すような声に寒気を覚えつつ、僕は家へ帰った。

帰路の途中で、考えていた。
単位を落としたくはないが、もしも、万が一落としたら。
一体どんなことをされてしまうのだろうかと、そんなことを想像してしまっていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
またもや発禁モノ・・・最近妄想活力が全開でやばいことこの上ないです。。
最後、ルイがドMになりそうになっていますが。
ただ変化を求めているだけ・・・と、いうことにしておいてください。