心の空白期間10


アキヒロは、布団の上に正座をして、ノルが来るのを待っていた。
旅行に行ったときと同じような展開だが、することは違う。
今度はきっと、触れ合わせるだけでは終わらない。
ノルの望みは、もっと深く繋がることなのだと気付いていた。

やがて、扉が開き、ノルが入って来る。
アキヒロはとたんに緊張し、全身を強張らせた。
気の置けない相手のはずなのに、この先のことを考えると身を固くせずにはいられない。

ノルが目の前に座り、手を伸ばす。
頬が掌で包み込まれると、アキヒロは肩を震わせた。
そのまま身が近づき、唇が重なる。
本来なら安心するはずの行為だけれど、やはり緊張感が先行していた。
絡ませたいと言うように、舌がアキヒロの隙間をなぞる。
けれど、そこはしっかりと閉じられていて、ノルの侵入を阻んでいた。
諦めたのか、名残惜しそうに唇が離される。


「アキヒロさん、怖いですか」
「・・・大丈夫だ、少し緊張しているだけだから」
「強がりですね」
図星をつかれ、アキヒロは閉口する。
情けないことだけれど、やはり未知のことが怖かった。

「無理をしないで下さい。アキヒロさんが辛いことはしたくありません」
ここで頷けば、行為が最後まで進められることはない。
けれど、ノルの想いに応えたい気持ちは確かにある。
「ノルと、したいことは嘘じゃない。旅館にいたときも、嫌じゃなかったんだ・・・」
言葉を聞くと、ノルはゆっくりとアキヒロの肩を押す。
アキヒロは抵抗することなく、仰向けになった。

「怖くなったら押し退けてください、僕は大人しく退きます。。
けれど、それまでは、アキヒロさんに触れていたいです」
ただの愛撫なら、恐怖心を抱くこともなく受け入れられる。
ノルとの触れ合いを拒む理由は何もなかった。


「・・・わかった・・・好きしても、いい」
「ありがとうございます」
ノルは早速身を下げ、アキヒロの耳へ唇を寄せる。
ふっと吐息がかけられると肩がわずかに動くが、拒みはしない。
アキヒロの様子を見るように少し静止した後、ノルはそこへ慎重に舌を触れさせた。

「っ・・・」
湿っていて、柔らかい感触にアキヒロは唇を噛む。
その感触は、なだらかな動きで耳の形をなぞってゆく。
そこから、ぞくぞくとした、寒気にも似た感覚がアキヒロの背に走り。
何とか声を抑えている中、それは内側にまで這わされた。

「ぅ、ぁ・・・」
感じるものが強くなり、思わず口を開いてしまう。
か細い声が発されると、ノルは舌を進めて中を侵していった。
「あ・・・っ、や」
そこにしか触れられていなくても、アキヒロの吐息が熱を帯びる。
ノルが動くと液の音が直に聞こえ、余計に気が昂っていた。

「アキヒロさん、耳は気持ち良いですか」
「み、見たらわかるだろう・・・」
恥ずかしいことを堂々と聞かれ、視線を逸らす。

「僕は、アキヒロさんが反応する場所を知りたいです」
そう言って、ノルはアキヒロの手を取り、口元へ持って行く。
そして、何の躊躇いもなく人差し指を咥えた。
液を帯びた口内へ指が引き入れられ、手に力が入る。
そのまま指に舌が絡みついたが、耳を弄られたときほどの刺激はなかった。


少しほっとしたように力を抜くと、指が完全に含まれる。
まるで味わうように、付け根から切っ先へと舌が這わされても、アキヒロは声を出さなかった。
あまり反応しない様子を見て、ノルが指を離す。

「指は、あまり感じないのですか」
「そうだな・・・耳に比べればましだ。まあ、これは人による・・・」
ふいに、ノルの指が口元へ伸びてきて、アキヒロは言葉を止める。
そして、中へ誘ってほしいと言うように、指先が唇の隙間をなぞった。
アキヒロは多少躊躇ったが、好奇心を満たしてやりたいと思い、口を開く。
ノルはゆっくりと指を差し入れ、柔いものへ触れた。

「ふ・・・」
指の腹で舌の表面をなぞられ、アキヒロはかすかに吐息を漏らす。
口内を探るように、ノルは舌の裏側や歯列も撫でていく。
その間、真っ直ぐに見下ろされていて、やたらと恥ずかしかった。
けれど、時たま漏れる音にいやらしさは感じるものの、さほど寒気はない。
まだ余裕があったので少し驚かせてやろうかと、アキヒロは自ら舌を動かし、ノルの指に触れた。

わずかに、ノルが目を細める。
そこに何か感じているものがあるのだと察し、アキヒロは口内の指をやんわりと弄る。
すると、その動きに合わせるようにノルも動き、お互いを絡め合わせた。
「ん・・・う・・・」
指が曲げられ、いつの間にかリードされる形になる。
何度も愛撫されると、流石に無反応ではいられない。
しなやかな肌の感触に動悸を覚えてきたところで、指が引き抜かれた。


「アキヒロさんは、指はあまり感じないと言いましたね」
「ま、まあな・・・」
「でも、僕は違いました。アキヒロさんが触れてくれたとき、動悸がしました」
「そ、そうか・・・」
恥ずかしいはずの台詞を真顔で言うものだから、聞いている方が照れる。
けれど、好かれているのだと改めて実感すると悪い気分にはならなかった。

「もっと触れてもいいですか」
「・・・ああ」
許可すると、ノルはアキヒロの寝具のボタンを外し、胸部を露わにする。
肌が外気にさらされると、緊張感がよみがえってきていた。
いつかと同じようにノルは胸部へ身を下ろし、起伏を舌先で撫でる。

「っ、あ・・・」
そこは耳以上に敏感で、わずかに触れられただけでも肩が強張った。
吐息がかけられるだけでも、刺激を感じていると勘違いしてしまう。
弄るだけでなく、ノルはさらに身を下げ、その個所を唇で食む。
とたんに声が裏返りそうになり、アキヒロは息を荒くし、ぎりぎりのところで堪えていた。


ノルの行動はまだ終わらず、小さな起伏を口内へ含む。
そして、舌でそっと押すように愛撫した後、全体を軽く吸い上げた。
「や、っ、ぁぁ・・・」
体が驚いたように跳ね、アキヒロは声を抑えきれなくなる。
やんわりと触られるよりも刺激が強くて、頬にかっと熱が上って行った。
頬だけでなく、下半身へも。
上ずった声に、ノルが一旦体を起こす。

「アキヒロさん、かわいらしいです」
「ば、ばか、何言ってるんだ・・・」
自分でも頬が紅潮しているのを自覚し、アキヒロはとっさに顔を背ける。
似つかわしくない言葉だと思うのに、今の一言に動揺していた。
愛玩動物と同じように見られているわけではなく、それ以上の感情が込められていると、そうわかっているから。

「僕は、もっとアキヒロさんが気持ち良くなる姿が見たいです」
「う・・・」
下肢の寝具に、ノルの手がかけられる。
寝具がずらされてゆくとき、抵抗はしなかったものの、アキヒロは息を飲んでいた。
楽な服を取り去るにはさほど時間もかからず、上半身だけでなく下半身も露わになる。
先の行為で下肢は反応しかけていて、解放されて少し楽になったものの、緊張感は倍増する。
そんなさなか、ノルの手が下がり、指先が最も下方にある窪みへ触れようとした。

「や・・・ノ、ノル、待ってくれ・・・」
アキヒロはとたんに焦り、とっさにノルを止めていた。
「できるだけ、痛まないようにします」
「そ、そうは言ってもな、そこは元々、物を受け入れるようにできていないんだ。
そんなところに、そんな・・・」
下肢を触れ合わせたことはあっても、それ以上のことはしたことがない。
なまじ人体の知識があるだけに、どうしても行為がすんなりできるとは思えなかった。


「では、これを使います」
ノルがポケットを探り、小瓶を取り出す。
それは、研究所へ行ったときに貰った筋弛緩剤だった。
「それは、まさか・・・」
ノルは蓋を開け、人差し指で薬をすくう。
そして、乳白色の液体をつけたままアキヒロの窪みを撫でた。

「ひっ、あ」
肩凝りの為だと思っていた弛緩剤が、秘部へ塗り付けられる。
とろみのついた液体が、窪みの周囲を徐々に弛緩させていく。
液を塗り終わると、ノルの指先が動きを止めた。

進めてもいいかと確認するように、少しの間静止する。
そうした気遣いを突き跳ねるのは心苦しくて、アキヒロは黙っていた。
暗黙の了解が通じたのか、あてがわれていた指が、窪みの中へ差し入れられた。
「ああ、っ・・・」
指先が侵入してきただけで、口を割ってしまう。
窪まった個所はそれほどものを感じやすくて、全身が震えた。
ひときわ強い刺激を受け、弛緩剤を使っているにも関わらず中が収縮する。


「痛いですか」
「・・・今のところは、平気だ」
さほど太くないものだけならば、まだ身を裂かれるような痛みは感じない。
拒否されていないとわかると、ノルは指を奥へと埋めて行った。

「う、あ、ぁ・・・」
自分の中にノルが入ってきているのだと、アキヒロははっきりと感じ取る。
傷つけないよう慎重に進んできたものは、根元まで差し入れられたところで止まった。
アキヒロはすでに肩で息をしていて、熱を少しでも発散させようとする。
けれど、中で指が曲げられると、吐息は熱くなるばかりだった。

「は・・・っ・・・ん・・・ん」
無理に解そうとはせず、中が収縮するとぴたりと止まり、緩んだところで少しずつ動かされていく。
ちら、とノルの下肢に目をやると、寝具がきつそうになっていた。
行為を進めたいはずなのに、時間をかけて鳴らしてくれている。
ここでも気遣われていると感じ、窪みが弛緩すると同時に肩の力も抜けて行った。


やがて、解されている個所は数本の指を受け入れられるようになる。
体が慣れてきたのか、アキヒロの息は規則的なものになってきていた。
「そろそろ、抜きますね」
「ん・・・」
慎重に指が抜かれると、異物感がなくなって息を吐く。
そこで、ノルは何かを考えるように静止していた。

「アキヒロさん、疑問に思っていたのですが、この指は一旦洗ってくるべきではないでしょうか」
「え・・・?」
「小説や漫画の描写では、そんな場面はありませんでした。ですが、これではアキヒロさんに触れられません」
確かに、綺麗ではない個所を解していたのだから、清潔であるはずはない。
こんなときでも冷静に物を見ているノルが、どこかおかしかった。

「気になるんなら・・・洗ってくればいい」
「わかりました。少し待っていて下さい」
ノルが部屋を出て行き、アキヒロは一人部屋に残される。
すると、さっきまでものを受け入れていた個所がだんだんと疼いてきていた。

体の奥底にある、わだかまりが募る。
高まり切った欲は解放されることを望んでいて、早く触れてほしいと、そんな思いを誘発させていた。
いっそ昂っているものを自分で触れてしまおうかと、恐る恐る手を伸ばす。
そこで扉が開いたので、アキヒロは慌てて腕を引いた。


「すみません、ムードのないことをしてしまって」
「い、いや、別に・・・」
見られてしまったかと思い、アキヒロは視線を逸らす。
視界の隅で、ノルが服を脱いでいるのが見える。
直視できないでいると、ノルが再びアキヒロの上に被さった。
たくましい胸襟が触れ、心音が共鳴する。
想いを共感できている気がして、アキヒロはノルの背にそっと腕を回していた。

軽く引き寄せると、自然と下肢が触れ合う。
それは、お互い同じ状態になっていて、完全に欲を覚えていた。
ノルが少し体を起こし、それをアキヒロの窪みへとあてがう。
指とは違うものの大きさに、体が強張った。

「ほ、ほんとに、入れるのか」
防衛本能が働き、そこは相手の侵入を阻もうと縮こまる。
そうして抵抗して、無理やり押し広げられる方が痛みは増すと思うけれど。
初めてのことに、力を抜くことができなかった。
ノルは無理に押し進める気はないのか、動きを止める。

「アキヒロさん、大丈夫です」
ノルは、そっとアキヒロの髪を撫でる。
ゆったりとした手つきがとても優しくて、アキヒロは目を細めていた。
大きな掌は、いつだって安心感を与えてくれる。
子供のようだと思われるかもしれないが、心地よさを感じるのは相手がノルだからに違いなかった。


「ノル・・・悪いな、こんな意気地がないやつで・・・」
「いえ、僕はアキヒロさんを大切にしたいです。少しでも、恩返しがしたいんです」
「・・・恩返し?」
「はい。アキヒロさんは、研究所では知り得なかったことを教えてくれました。
アキヒロさんがいなければ、こうして触れたいと思うこともできませんでした」

ノルは、アキヒロの頬へ手を移動させる。
紅潮している頬も、触れている掌も温かい。
以前は、指示されたことしかしないロボットのような人間だった。
けれど、今は自分の意思で行動でき、共感性を覚えることもできる。
そして、胸の内から湧き上がる感情も。

「あなたは僕のすべてです。感謝しています、アキヒロさん。」
「ノル・・・」
今だかつて、誰かがこんなにも想いを寄せてくれたことはあっただろうか。
胸の内が、充足感で溢れて行く。
そこで、自分は、応えられずに何をやっているんだと気付いた。

保身のあまり、怖じている場合ではない。
真っ直ぐな気持ちを受け入れたい。
アキヒロの体から、わずかに力が抜けた。


「・・・ノル、もう、気遣わなくてもいい、多少、無茶をしてもいい。
だから・・・お前の、好きなようにしてもいい」
「それでは、アキヒロさんの負担になります」
「これ以上の気遣いは野暮だ。それに・・・その方が、お互い・・・満足できるだろ」
それ以上、言葉は必要なかった。
アキヒロは、ノルの背に回した腕に力を込める。
それを合図にしたように、下肢にあてがわれていたものが、身を進めた。

「あ・・・っ、ぅ・・・!」
指とはとても違う圧迫感に、喘ぎを漏らさずにはいられない。
覚悟していたことだけれど、やはり痛みは伴う。
「アキヒロさん・・・」
すぐに、ノルが身を引こうとする。
その前に、アキヒロはノルの髪をゆっくりと撫でていた。
ノルの目が、わずかに見開かれる。
そして、腰を落とし、埋めていた先端を奥へと埋めて行った。

「あ、あ・・・!」
動揺させないよう、声を抑えようとしてもどうにもできない。
だが、その声は痛みゆえのものではなくなってきていた。
自分の中が、ノルに侵されていると思うだけで気が高揚する。
触れられていなくても、自身のものは脈動していた。

「アキヒロさん、苦しくないですか・・・」
「っ・・・は・・・平気、だ・・・」
息つく合間に、何とか返事を返す。
徐々に圧迫感が進んでくると、感じるものも強まっていく。
収縮してしまう反応を止められないでいると、ノルの息も荒くなりつつなっていた。


動きが止まると、アキヒロは深く息を吐く。
自分の奥深くにノルが留まっていて、全身に熱が巡る。
「っ・・・アキヒロさん、温かい、です」
「ああ・・・」
アキヒロは、返事とも感嘆とも取れるような声を漏らす。
繋がり合っている、今この状態に酔いしれていて、もはや痛みなんて感じられない。

やがて、ノルがゆったりと動き始める。
わずかに身を引かれるだけでも、その中は敏感に反応した。
「は、っ、ん・・・っ・・・」
そこは、まるでノルを引き留めるように収縮する。
ノルの吐息が熱っぽくなり、同じように感じているのだと実感できると、もっと共有したくなる。
一旦引いたものが再び進んでくると、脳が痺れるような感覚にとらわれた。

「あぁ・・・っ・・・」
悦楽に侵され、他の何物も考えている余裕がなくなっていく。
動作はゆったりとしたものでも、往復運動を繰り替えされると欲がこれ以上にないほど高まった。


「アキヒロ、さん・・・もっと、感じてください」
ノルはアキヒロの下肢に手を伸ばし、起ちきっているものを掴む。
「っ・・・あ、あ・・・」
前も後ろもノルに触れられて、体が震える。
少しでも擦られると体は早々に限界を感じ、切っ先から白濁を零していた。
淫猥な感触と共に愛撫され、全身が反応せずにはいられない。
何かを堪えるようにノルにしがみつき、中を侵しているものを締め付ける。

「っ、は・・・」
息を吐きながらも、ノルはアキヒロを擦り、自身の動きを止めないままでいる。
「あ、う・・・も、もう・・・っ・・・」
刺激を受け続けている体と高まり切った欲は、解放されることを望んでいる。
それを察したのか、ノルは愛撫の手を早め、自身の運動を繰り返す。
アキヒロは息を荒くしながらも、湧き上がる感覚に身を任せていた。

抑えきれないのはノルも同じなのか、身を引き、押し進める間隔が広くなる。
そうして奥を突かれる度に、アキヒロは声を上げずにはいられなくて。
最奥を突かれ、下腹部が触れ合った瞬間、喘ぎがひときわ高くなった。
「ひ、っ、あ・・・ノル・・・っ、ああ・・・!」
欲を抑えられなくなり、アキヒロの体がびくりと震える。
掌に包まれているものは強く脈打ち、白濁を散布させ。
相手を受け入れている個所はしきりに収縮し、中のものを圧迫した。

「アキヒロ、さん・・・っ・・・!」
ノルはわずかに呻き、とっさに身を引こうとする。
けれど、最後の最後で気遣われたくなくて、アキヒロは腕に力を込めてノルを引き留めていた。
同時に、自身の中へ粘液質なものが流れ込む。
アキヒロはかすかに身震いしたが、その脈動がおさまるまでノルを離さないでいた。




お互いの気が落ち着いてくると、ノルがゆっくりと身を引く。
アキヒロが強張るとすぐに動きが止まり、痛みを与えぬよう、緩んだときに少しずつ抜かれて行った。
中の圧迫感がなくなると、アキヒロは大きく息を吐く。
そこは、まだ余韻を感じているように疼いていた。
これで終わったかと思いきや、ノルは緩んだ個所へ指を差し入れる。

「や、あ・・・っ、もう、終わっただろ・・・っ」
「僕のを出してしまわないといけません」
達したばかりの体はだいぶ敏感になっていて、指の一本だけでも声が裏返った。
奥まで埋められ、絡め取るように曲げられるとまた収縮してしまう。
指が抜かれると、そこからわずかに液が伝い落ち、淫猥な感触を覚えずにはいられなかった。
一回で出し切ることはできなかったのか、ノルは再び指を進めようとする。

「っ・・・い、いいから、出さなくて、いい・・・」
「ですが、不快なはずです」
「・・・それほどでも、ない・・・から・・・」
とても恥ずかしいことを言っていると自覚し、自然と語尾が小さくなる。
これ以上弄られると、気がどうにかなってしまいそうだったし。
正直に言うと、ノルの精が自分の体内にあっても、嫌悪感は湧いてこなかった。


眠るときになっても、お互い寝具は身に着けていなかった。
相手の温かみを、何の隔たりもなく感じていたい。
もし、どちらかが反応してしまっても、それでも構わなかった。

「・・・明日は、どこか行きたい所はあるか?明後日から暫く、まともな休日なんてないだろうからな」
「アキヒロさんと一緒なら、どこへ行っても幸せです」
真顔で言われると、やはり気恥ずかしい。
けれど、それは確かな本心なのだと実感できて、胸の内が温かくなった。

アキヒロが身を寄せると、ノルはその体をしっかりと抱き留める。
何も言わずとも、こうして応えてくれることにたまらない幸福感を覚える。
長期休暇が終わり、また、多種多様な研究に追われる日々に戻るけれど、憂鬱にはならない。
それは、今抱き留めてくれているこの相手がいるからに違いなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
大人同士の恋愛、と、いうことで丁寧に書いたらだいぶ長くなってしまいました。
あまりがっつきはせず、穏やかな雰囲気で書く楽しさに目覚めました!

特に大きな事件もない、なだらか〜な小説になりましたが、書いていた当時の脳内がとても平和だったんです。
ではでは、長らくおつきあいいただき、ありがとうございました!